黒い影
ー/ー 忠告を受けた三人は、ヒーラーを治療してから、情報収集のために冒険者ギルドに向かった。案の定、中は大層慌ただしい。黒い影の対応に追われているのだろう。
「で、ギルドには、黒い影の目撃情報がたくさん、と」
「まず、素性が分からないですからね。被害報告もたくさん上がっているみたいです」
「この分だと、混乱してて何体いるかもよく分かってないかもな」
もしかしたら、この数日、街から出た途端に黒い影と対面することになるかもしれない。それだけは避けたかった。
「すみません、黒い影の情報、ありませんか?」
アインは、受付の女性に声をかけた。
「黒い影ですか? 情報が乏しいので、スケッチくらいしか提供できないのですが……」
「それでも助かります」
受付近くのテーブルに三人揃って座ると、すぐに受付の女性が数枚のスケッチを持って来てくれた。
そこには、黒い何かが描かれている。その横に、メモとして、先ほど男性から聞いたのと同じく「秋に出没する魔物」と書き込まれていた。どうやら四つ足の魔物で、四足歩行だけでなく二足歩行もできるらしい。前足に爪があって、それで被害を受ける人が多いのだという。
そして一枚、妙に精巧に描かれている黒い影に、アインは驚いた。立ち上がって、手を上げて威嚇する姿に見覚えがあった。
秋にしか現れない。山に生息している。立ち上がることができて、爪が鋭い。黒くて毛むくじゃら。
情報を集めて、アインはひとつの答えにたどり着いた。
「……これ、熊じゃないか?」
「クマ、ですか?」
「えっと、こっちだとラビットって言ってるから、ベアーでいいか。ラビットと同じで、動物型の魔物だよ。寒さに弱くて、冬眠する習性があるから、その手前の秋に行動が活発になるんだ」
「なるほど。それなら、有効な手段はありそうですね。寒さに弱いなら、ミーシャにも氷魔法をお願いして……あれ、ミーシャ?」
ふとミーシャに視線を向ければ、ミーシャはこくりこくりと船を漕いでいた。
「本当に珍しいな。ミーシャがここまで油断してるなんて」
「そうですね。いつもきりっとしてて、うたた寝なんて……あっ!」
「どうした?」
「アイン、それですよ。寝ているときに、黒い影を倒せるんじゃないですか!?」
「で、ギルドには、黒い影の目撃情報がたくさん、と」
「まず、素性が分からないですからね。被害報告もたくさん上がっているみたいです」
「この分だと、混乱してて何体いるかもよく分かってないかもな」
もしかしたら、この数日、街から出た途端に黒い影と対面することになるかもしれない。それだけは避けたかった。
「すみません、黒い影の情報、ありませんか?」
アインは、受付の女性に声をかけた。
「黒い影ですか? 情報が乏しいので、スケッチくらいしか提供できないのですが……」
「それでも助かります」
受付近くのテーブルに三人揃って座ると、すぐに受付の女性が数枚のスケッチを持って来てくれた。
そこには、黒い何かが描かれている。その横に、メモとして、先ほど男性から聞いたのと同じく「秋に出没する魔物」と書き込まれていた。どうやら四つ足の魔物で、四足歩行だけでなく二足歩行もできるらしい。前足に爪があって、それで被害を受ける人が多いのだという。
そして一枚、妙に精巧に描かれている黒い影に、アインは驚いた。立ち上がって、手を上げて威嚇する姿に見覚えがあった。
秋にしか現れない。山に生息している。立ち上がることができて、爪が鋭い。黒くて毛むくじゃら。
情報を集めて、アインはひとつの答えにたどり着いた。
「……これ、熊じゃないか?」
「クマ、ですか?」
「えっと、こっちだとラビットって言ってるから、ベアーでいいか。ラビットと同じで、動物型の魔物だよ。寒さに弱くて、冬眠する習性があるから、その手前の秋に行動が活発になるんだ」
「なるほど。それなら、有効な手段はありそうですね。寒さに弱いなら、ミーシャにも氷魔法をお願いして……あれ、ミーシャ?」
ふとミーシャに視線を向ければ、ミーシャはこくりこくりと船を漕いでいた。
「本当に珍しいな。ミーシャがここまで油断してるなんて」
「そうですね。いつもきりっとしてて、うたた寝なんて……あっ!」
「どうした?」
「アイン、それですよ。寝ているときに、黒い影を倒せるんじゃないですか!?」
「寝ているときって、黒い影が?」
「そうです。みんな、ラビットと同じような魔物だって知らないから、対処方法が分かっていなかっただけで……ミーシャ、起きてください。黒い影が倒せますよ」
ライラがゆらゆらとミーシャの肩を揺らして起こすと、朝と同じくぼんやりとした様子で、ミーシャは首を傾げた。
「……ん? たおせるの?」
「はい。そしたら、きっとラビットの毛皮も手に入るようになります。そしたら、上着も出回りますよ」
それを耳にした途端、ミーシャはぱっと目を見開いた。
「じゃあ、討伐する」
二人が乗り気であれば、勝機がある限り、アインも無碍にはできない。大人しく、討伐に賛成することにした。
「そうです。みんな、ラビットと同じような魔物だって知らないから、対処方法が分かっていなかっただけで……ミーシャ、起きてください。黒い影が倒せますよ」
ライラがゆらゆらとミーシャの肩を揺らして起こすと、朝と同じくぼんやりとした様子で、ミーシャは首を傾げた。
「……ん? たおせるの?」
「はい。そしたら、きっとラビットの毛皮も手に入るようになります。そしたら、上着も出回りますよ」
それを耳にした途端、ミーシャはぱっと目を見開いた。
「じゃあ、討伐する」
二人が乗り気であれば、勝機がある限り、アインも無碍にはできない。大人しく、討伐に賛成することにした。
夜、無事に街に一番近い山にたどり着いた三人は、黒い影を視認した。人間の三倍はありそうな黒い図体が、四本足でのそのそと歩いている。そしてアインはこの目で見て確信した。あれはどこからどう見ても、熊である。
「寝ていると思ったんですが、起きてますね……まだライラたちには気づいていないみたいです。見つかっていないうちに、奇襲をかけますか?」
「奇襲をかけるにしても、先に氷魔法ね。アインはライラのこと、よろしく」
「分かってる。……正直、ライラだとリーチが足りなさそうだけど、大丈夫か?」
「うう……あんなに大きいとちょっと自信がないです。ミーシャが黒い影の動きを止めてくれたらなんとかなるとは思いますけど、ライラが真っ正面から向かうのは難しいですね」
ライラは、得物である二対の短剣を取り出した。彼女はヒーラーである一方で、短剣の使い手、いわば攻撃役だった。
ミーシャが杖を構えたのを合図に、アインが黒い影の前に立ちはだかる。
アインの姿を捉えた黒い影は、素早く二本足で立ち上がると、腕を振り上げた。真っ正面から殴りかかってくるそれをどうにか盾で弾けば、爪と盾とが勢いよくぶつかる音がけたたましく鳴り響いた。
同時に、黒い影の肩に霜が降りる。ミーシャが氷魔法で凍らせようとしたようだが、それにしては威力が足りなさそうだ。
黒い影はその冷たさに驚いたのか一瞬だけ怯むものの、また腕を振り上げる。アインは再びそれを弾いた。アインが反撃を仕掛けるには、少々ベアーの動きが速すぎた。
裂くような痛みこそないが、重い一撃は盾からアインに振動を伝えて、腕に軽くしびれをもたらす。しかし、それは黒い影も同条件だ。むしろ、爪の根から先は生身当然だから、向こうの方が衝撃が強いはず。
――なのだが、氷魔法には怯むものの、盾の硬さには特に気にならないようで。
両手を振り上げるものだから、アインは慌てて距離を取った。空振りになった隙に、もう一度ミーシャが氷魔法を放つ。
魔法は無事に命中して、黒い影の全身を凍らせた。その途端に、ビッグベアーは身体を震わせる。水を振り払うかのように、氷をパラパラと地面に落としていった。動きを止めることこそできないものの、氷の冷たさに気を取られてしまうくらいには、有効な一手なようだ。
「凍らせるのは無理かも!」
「そしたら氷が残ってれば、もう少し怯んでくれるかも。……ミーシャ、ベアーの足元に魔法、撃てるか!?」
「足元ね!?」
ミーシャが魔法を勢いよく発動させた。黒い影の足元に、氷が出現する。足元に障害物が急に出てきた上に後ろ足が冷えるせいか、黒い影が吠えた。
「で、俺が……ベアーを氷ごとバリアで閉じ込める!」
「閉じ込めてどうするの!?」
「氷に過剰に反応するから、その冷気で動きを鈍らせる」
「なるほどね? ……それなら、ギリギリまで撃つわ!」
冷気で怯んでくれたら御の字だ。氷の塊の一つが足に当たり、黒い影がバランスを崩しかける。それを見計らって、ミーシャが一つ二つと氷を増やしていく。
攻撃する隙を生み出そうとしている二人と黒い影の様子をうかがっていたライラは、ふと口にした。
「もしかして、転んでくれるんじゃないですか?」
「そのもしかしてがあるといいな。……バリア!」
本来であれば、味方を守るためのバリアを、あえて黒い影にかける。その瞬間、黒い影は見えない壁に当たって、氷を踏み、それで足を滑らせた。
大きな図体が地面に倒れ、地面を揺らす。打ち所が悪かったのか、痛がって四本の足をひたすら暴れさせながら悲鳴を上げているが、起き上がる様子はなかった。それどころか、バリアの内側に霜が張り付くと同時に、だんだんと動きが鈍くなっていく。
アインがミーシャの様子をうかがえば、まだ魔法を発動しているのか、黒い影に向けて杖を構えたままだった。
「……ミーシャ、何かしてる?」
「局所的に吹雪を降らせる魔法」
まだ集中しているのか、ミーシャはそれだけを返した。いよいよ、黒い影は寒さの限界に達したのか、その四肢を地面に投げ出した。
「ライラ、いけるか!?」
「……いけます」
ライラの宣言と共に、アインはバリアを解除した。動かなくなった黒い影とどめを刺すために、ライラはゆっくりと近づいて、獲物の喉を掻き切った。
完全に動かなくなったのを確認して、三人は安心したとばかりに息を吐く。
「た、倒せた……!」
「ミーシャに一番負担がかかりましたね。ミーシャ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど、何体も相手をできるわけじゃないわね……」
「いいんじゃないか? 他にはいなさそうだし」
改めて、三人は黒い影の状態を確認した。倒してしまえば、黒い影は三人のものだ。
「そういえば、上着なら、この毛皮で作れるんじゃないか? 俺たちの世界では、ベアーも毛皮にして着てるよ」
「いいですね! この大きさなら三人でお揃いにできますし」
「え、私は嫌よ」
アインとライラが乗り気になるも、ミーシャはばっさりと切り捨てた。
「同じ毛皮なら白いラビットファーの方がいい」
「黒もかっこいいじゃないですか! ね?」
「ライラだって、本当は狐火の上着の方が好きでしょ?」
「うっ、それもそうですね……」
「でも、みんなが倒したことのない黒い影で作った上着なら、みんな注目するんじゃないか?」
自分たちで協力して、しかもミーシャが表立ってがんばったことにより狩ることのできた未知の魔物という存在は、きっと大きいに違いない。そう踏んでアインがたずねてみれば。
「……絶対に、来年はラビットファーの上着を手に入れる!」
負けたとばかりに、ミーシャが吠えた。つまりミーシャが何が言いたいのか。それを汲み取り、アインは笑ってみせた。
「今年はちゃんと着てくれるんだ」
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