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衝突

ー/ー



その後、シロクマは相変わらず誰も客が来ないレンタルショップで働いていた。いつものように生あくびをかき、ぼんやりとレジのコーナーの後ろに立っている。あれから少女は森の奥でピアノを演奏しに訪れることがなくなっていた。

(あの子はどうしたんだろう?)

 少女の顔を思いやり、シロクマは色々と心配がよぎる。何か彼女の元に事件でもあったのだろうかとさえ思えてくる。けれどシロクマの懸念は杞憂に終わった。彼女がレンタルショップへと入ってきたからである。そしてシロクマはその姿を見て、目を(みは)った。

 その日の少女は、髪を茶色に染めていた。髪にはウェーブがかかっており、腰まで垂れ下がっていた髪がすっかり肩の辺りでカットされている。それはニンゲン社会に疎いシロクマでもわかる。今人気絶頂中のアイドルの格好を真似したものだ。

(随分と変わっちゃったなぁ)

 シロクマは少女を眺め、なんとなく残念な気持ちになる。正直にいうと染めた髪は彼女には似合わなかった。派手めな化粧もあどけなさが残る彼女の顔立ちとは不釣り合いで、無理に背伸びをしているように見えたのだった。

「いらっしゃいませ」

 シロクマは自分の考えをおくびにも出さまいとし、店員の振る舞いで少女に接する。

「『マニョ★マニョ★サンバ』ありますか?」

 派手な装いの少女の問いに、シロクマは何とか記憶の糸を手繰り寄せる。

「はい、え~っと先日入荷しました。置いてる場所はまず店の扉まで戻ってそこから左に曲がって4番目の棚で更に右に曲がって、えっ~と――」

「......連れて行って」

 そして二人は(くだん)のCDがある場所まで移動した。少女は『マニョ★マニョ★サンバ』のCDを手に取り、興味なさそうな瞳でそれを見つめる。そしてすぐさま「これ、ください」とシロクマに差し出した。

「ご試聴はなされなくても構いませんか?」

「うん、しなくていい。私が好きだろうと嫌いだろうと、どうせ好きにならないといけないから」

 少女はどこか棘を含んだような口調でシロクマに告げる。そしてその瞳はどこか冷めていた。今持っている『マニョ★マニョ★サンバ』のことなど、まるで目に入っていないかのようだった。

「あの、本当にこのCDを買いたいの? 君は本当にこのアイドルのことが好きなの?」

「私の『好き』は関係ない。これは友達の『好き』なものだから私も『好き』にならないといけないの」

 シロクマの問いかけに、少女はどこか苛立ったような調子で返答した。ズイとCDを突きつけ、シロクマの胸元に無理矢理押し付ける。

「あの、自分が好きなものじゃないなら無理に買わなくていいんじゃないの? 友達に無理して合わせる必要ないと思うよ? そういう風に友達の顔色ばっかり(うかが)わなきゃいけないって、本当に友達って呼べるのかな?」

「うるさいなっ! あなたには関係ないでしょ!? 私の友達関係に口出ししないでよっ!!」

 そう叫ぶと、少女はお金をシロクマに押し付けて、CDをシロクマの手からひったくった。そしてそのまま商品をレジにも通さず店から出ていってしまった。シロクマはCDの料金の倍以上もの金額を手に握らされ、ポツンと店に独り残される。

(余計なこと、言っちゃったかなぁ?)

 そしてシロクマは頭を掻きながらレジに戻る。パソコンを操作して『マニョ★マニョ★サンバ』の仕入れ値を調節した。


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その後、シロクマは相変わらず誰も客が来ないレンタルショップで働いていた。いつものように生あくびをかき、ぼんやりとレジのコーナーの後ろに立っている。あれから少女は森の奥でピアノを演奏しに訪れることがなくなっていた。
(あの子はどうしたんだろう?)
 少女の顔を思いやり、シロクマは色々と心配がよぎる。何か彼女の元に事件でもあったのだろうかとさえ思えてくる。けれどシロクマの懸念は杞憂に終わった。彼女がレンタルショップへと入ってきたからである。そしてシロクマはその姿を見て、目を瞠《みは》った。
 その日の少女は、髪を茶色に染めていた。髪にはウェーブがかかっており、腰まで垂れ下がっていた髪がすっかり肩の辺りでカットされている。それはニンゲン社会に疎いシロクマでもわかる。今人気絶頂中のアイドルの格好を真似したものだ。
(随分と変わっちゃったなぁ)
 シロクマは少女を眺め、なんとなく残念な気持ちになる。正直にいうと染めた髪は彼女には似合わなかった。派手めな化粧もあどけなさが残る彼女の顔立ちとは不釣り合いで、無理に背伸びをしているように見えたのだった。
「いらっしゃいませ」
 シロクマは自分の考えをおくびにも出さまいとし、店員の振る舞いで少女に接する。
「『マニョ★マニョ★サンバ』ありますか?」
 派手な装いの少女の問いに、シロクマは何とか記憶の糸を手繰り寄せる。
「はい、え~っと先日入荷しました。置いてる場所はまず店の扉まで戻ってそこから左に曲がって4番目の棚で更に右に曲がって、えっ~と――」
「......連れて行って」
 そして二人は件《くだん》のCDがある場所まで移動した。少女は『マニョ★マニョ★サンバ』のCDを手に取り、興味なさそうな瞳でそれを見つめる。そしてすぐさま「これ、ください」とシロクマに差し出した。
「ご試聴はなされなくても構いませんか?」
「うん、しなくていい。私が好きだろうと嫌いだろうと、どうせ好きにならないといけないから」
 少女はどこか棘を含んだような口調でシロクマに告げる。そしてその瞳はどこか冷めていた。今持っている『マニョ★マニョ★サンバ』のことなど、まるで目に入っていないかのようだった。
「あの、本当にこのCDを買いたいの? 君は本当にこのアイドルのことが好きなの?」
「私の『好き』は関係ない。これは友達の『好き』なものだから私も『好き』にならないといけないの」
 シロクマの問いかけに、少女はどこか苛立ったような調子で返答した。ズイとCDを突きつけ、シロクマの胸元に無理矢理押し付ける。
「あの、自分が好きなものじゃないなら無理に買わなくていいんじゃないの? 友達に無理して合わせる必要ないと思うよ? そういう風に友達の顔色ばっかり窺《うかが》わなきゃいけないって、本当に友達って呼べるのかな?」
「うるさいなっ! あなたには関係ないでしょ!? 私の友達関係に口出ししないでよっ!!」
 そう叫ぶと、少女はお金をシロクマに押し付けて、CDをシロクマの手からひったくった。そしてそのまま商品をレジにも通さず店から出ていってしまった。シロクマはCDの料金の倍以上もの金額を手に握らされ、ポツンと店に独り残される。
(余計なこと、言っちゃったかなぁ?)
 そしてシロクマは頭を掻きながらレジに戻る。パソコンを操作して『マニョ★マニョ★サンバ』の仕入れ値を調節した。