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接客

ー/ー



シロクマは朝目覚めると、いつもと同じように仕事場へと向かった。働いている場所はCDのレンタルショップ。ニンゲンの町の片隅でひっそりと運営されている小さな年季の入った店舗だった。

(今日もお客さん来ないなぁ......)

 そこで雇われ店長をしているシロクマは心の中で小さくぼやく。店の名前がロゴされた青いエプロンをして、レジの前でただ突っ立っている。シロクマは一つ生欠伸をした。

――ここはいつか潰れるんじゃないかなぁ?――

 そんな心配がよぎりながらも、暇つぶしに店に並ぶ商品を眺める。デビューしたばかりの新人バンドマンの楽曲から、既に引退した演歌歌手の歌謡曲まで、ニンゲン社会の様々なCDが商品棚に並べられている。

 けれどシロクマにはどれも全く同じに見えた。何しろシロクマはニンゲンの町に引っ越してきて、それほど時間が経っていなかったからだ。苦労してこの店の面接に受かったのも、たった数ヶ月前の出来事である。シロクマはとてもニンゲン社会に疎かったのだった。

 そんな様子でシロクマが暇を持て余し、今日も客など来ないだろうと時間潰しのやり方を考えていた所、店の扉がふいに開いた。

(あっ!)

 思わずシロクマは小さな声を漏らす。そこに現れたのは、昨日の夜森でピアノを弾いていた少女だった。少女は静やかな足取りで店の中へと入っていく。

 けれどその様相は昨日の少女のものとは随分と違っていた。飾り気のない真っ白だったドレス姿ではなく、ギラギラとした派手な制服を着ていた。目元には星のシールが貼られており、腕にはピンク色のブレスレット。チェック柄のスカートの丈も短いものだった。真っ直ぐに下ろされていた艶やかな黒い髪も、今ではツインテールに結われている。

(随分と森で見た時と印象が違うなぁ)

 シロクマは目を(しばたた)かせて少女を観察する。少女は無言のままで、シロクマがいるレジの前まで来た。

「『KAーRUCK』のCDありますか?」

 少女は開口一番シロクマに尋ねる。シロクマは少女の問いかけに何とか記憶の糸を手繰り寄せた。確か『KAーRUCK』はデビューしたばかりの新人バンドマンのユニット名だ。

「は、はい、本日入荷いたしました。『KAーRUCK』のCDのご購入をご希望ですか?」

 必要以上にかしこまったシロクマは、しどろもどろに少女に応対する。派手な格好とは裏腹に無表情な少女は、続けてシロクマに問いかける。

「どこに置いてありますか?」

「あっ、え~っとそっちの突き当りまで進んでから、更に下に向かって3番目の棚を右に曲がって、えっ~と、それからぁ――」

 シロクマは詰まり詰まりに説明を続ける中、少女はふいに口を開く。

「わかりにくい」

「えっ?」

 そしてぴしゃりとシロクマに言い放った。

「わからないから、そこまで連れて行って」

「あっ、はい。ご案内します」

 シロクマは慌ててレジ前のコーナーから出て、少女を案内した。やがて二人は目的のCDの前に到着する。少女は『KA―RUCK』のCDを手に取り、まじまじとケースの中のジャケットを見つめた。

「お好きなんですか?」

 シロクマはじっと動かない少女のことが気にかかり、遠慮がちに問いかける。

「わからない」

「えっ?」

「初めて見たバンドだから。曲も聴いたことがない。好きかどうかはまだわからない」

 少女の答えにシロクマは戸惑う。全く知らないバンドの楽曲を、どうして買おうとしてるのだろうか?

「あの、ご試聴なされます?」

 シロクマは控えめに提案すると、少女はしばらく沈黙した。

「......うん」

 そう彼女が返事すると、またシロクマは少女を試聴コーナーへと案内した。二人が到着すると、少女は慣れた手付きでヘッドホンを頭につけ、『KA―RUCK』の曲が収録されているナンバーに曲目を合わせる。目を半分閉じて黙りこくり、無表情に楽曲を聞き続けた。

「いかがですか?」

 しばらく時間が経ってから、シロクマはそっと少女に尋ねる。

「......あんまり、良くないね」

 少女はそう答えてヘッドホンを外した。その表情はやはり代わり映えがなく、活気を感じさせないものだった。

「あ、あの、でしたら購入は止めますか?」

 シロクマはまた遠慮がちに少女に尋ねる。

「ううん、買う。これ、いくらですか?」

 けれど少女はシロクマの予想とは裏腹な答えを出したのだった。


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次のエピソードへ進む 『好き』の問い


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シロクマは朝目覚めると、いつもと同じように仕事場へと向かった。働いている場所はCDのレンタルショップ。ニンゲンの町の片隅でひっそりと運営されている小さな年季の入った店舗だった。
(今日もお客さん来ないなぁ......)
 そこで雇われ店長をしているシロクマは心の中で小さくぼやく。店の名前がロゴされた青いエプロンをして、レジの前でただ突っ立っている。シロクマは一つ生欠伸をした。
――ここはいつか潰れるんじゃないかなぁ?――
 そんな心配がよぎりながらも、暇つぶしに店に並ぶ商品を眺める。デビューしたばかりの新人バンドマンの楽曲から、既に引退した演歌歌手の歌謡曲まで、ニンゲン社会の様々なCDが商品棚に並べられている。
 けれどシロクマにはどれも全く同じに見えた。何しろシロクマはニンゲンの町に引っ越してきて、それほど時間が経っていなかったからだ。苦労してこの店の面接に受かったのも、たった数ヶ月前の出来事である。シロクマはとてもニンゲン社会に疎かったのだった。
 そんな様子でシロクマが暇を持て余し、今日も客など来ないだろうと時間潰しのやり方を考えていた所、店の扉がふいに開いた。
(あっ!)
 思わずシロクマは小さな声を漏らす。そこに現れたのは、昨日の夜森でピアノを弾いていた少女だった。少女は静やかな足取りで店の中へと入っていく。
 けれどその様相は昨日の少女のものとは随分と違っていた。飾り気のない真っ白だったドレス姿ではなく、ギラギラとした派手な制服を着ていた。目元には星のシールが貼られており、腕にはピンク色のブレスレット。チェック柄のスカートの丈も短いものだった。真っ直ぐに下ろされていた艶やかな黒い髪も、今ではツインテールに結われている。
(随分と森で見た時と印象が違うなぁ)
 シロクマは目を瞬《しばたた》かせて少女を観察する。少女は無言のままで、シロクマがいるレジの前まで来た。
「『KAーRUCK』のCDありますか?」
 少女は開口一番シロクマに尋ねる。シロクマは少女の問いかけに何とか記憶の糸を手繰り寄せた。確か『KAーRUCK』はデビューしたばかりの新人バンドマンのユニット名だ。
「は、はい、本日入荷いたしました。『KAーRUCK』のCDのご購入をご希望ですか?」
 必要以上にかしこまったシロクマは、しどろもどろに少女に応対する。派手な格好とは裏腹に無表情な少女は、続けてシロクマに問いかける。
「どこに置いてありますか?」
「あっ、え~っとそっちの突き当りまで進んでから、更に下に向かって3番目の棚を右に曲がって、えっ~と、それからぁ――」
 シロクマは詰まり詰まりに説明を続ける中、少女はふいに口を開く。
「わかりにくい」
「えっ?」
 そしてぴしゃりとシロクマに言い放った。
「わからないから、そこまで連れて行って」
「あっ、はい。ご案内します」
 シロクマは慌ててレジ前のコーナーから出て、少女を案内した。やがて二人は目的のCDの前に到着する。少女は『KA―RUCK』のCDを手に取り、まじまじとケースの中のジャケットを見つめた。
「お好きなんですか?」
 シロクマはじっと動かない少女のことが気にかかり、遠慮がちに問いかける。
「わからない」
「えっ?」
「初めて見たバンドだから。曲も聴いたことがない。好きかどうかはまだわからない」
 少女の答えにシロクマは戸惑う。全く知らないバンドの楽曲を、どうして買おうとしてるのだろうか?
「あの、ご試聴なされます?」
 シロクマは控えめに提案すると、少女はしばらく沈黙した。
「......うん」
 そう彼女が返事すると、またシロクマは少女を試聴コーナーへと案内した。二人が到着すると、少女は慣れた手付きでヘッドホンを頭につけ、『KA―RUCK』の曲が収録されているナンバーに曲目を合わせる。目を半分閉じて黙りこくり、無表情に楽曲を聞き続けた。
「いかがですか?」
 しばらく時間が経ってから、シロクマはそっと少女に尋ねる。
「......あんまり、良くないね」
 少女はそう答えてヘッドホンを外した。その表情はやはり代わり映えがなく、活気を感じさせないものだった。
「あ、あの、でしたら購入は止めますか?」
 シロクマはまた遠慮がちに少女に尋ねる。
「ううん、買う。これ、いくらですか?」
 けれど少女はシロクマの予想とは裏腹な答えを出したのだった。