老婆は太々しい態度で着席。年寄りは
労わるものと亡くなった婆さんから教わったが、横柄な態度の高齢者を見るとげんなりしてしまう。そういえば、レジ脇に商品が陳列されていたな。危うく忘れるところだった。
俺は会計前にレジ脇の商品を確認する。本須賀牧場が近いためか、直送の乳製品が所狭しと陳列している。生乳にバター、ソフトクリームなどの目移りする商品ばかりだ。さて、お目当てのチーズはというと......あったあった!
一言で本須賀チーズと言っても、その種類は様々。ナチュラルにハード、白カビチーズ......素人の俺にはどうも違いが判らない。
「お客さん、どんなチーズをご所望かな?」
店主の目がきらりと光る。ここでも彼の腕が鳴ると言わんばかりだ。
「小学生の娘さんかぁ。それなら、癖のないフレッシュチーズ系がお勧めだ!」
俺の希望を聞いた店主はいくつかチーズを選定した。ゆなはトマトとチーズを挟んだアレが好きなんだよな。えぇっと、何だったけか?
「そりゃあカプレーゼだなぁ。モッツァレラがいいだろう」
俺の言葉の鱗片から店主は、すかさずモッツァレラを手に取った。店主曰く、餅のようにもっちりとした食感が特徴なんだとか。
「娘さん、喜んでくれるといいなぁ!」
ゆなの顔を見知ったわけではないけれど、話を聞いた店主は嬉々としている。この男、余程世話焼きなのだろう。
俺はゆなの笑顔を想像しながら会計を済ます。傍から見れば、年甲斐もなくにやける親父に見えたことだろう。実をいうと、俺も今からゆなの笑顔が楽しみで仕方ない。
「時間だ。注文をしよう」
俺の会計が済んだことを見計らって、婆さんが店主を呼びつける。どう考えても3分以上経っていたと思うが、意外と俺を気遣っていたのかもな。そんなことを思いながら、俺は店を後にした。
「うぅ、外はやっぱり冷えるなぁ......」
店内が暖炉で温かかったものだから、外の寒風が身に染みる。さて、雲原スキー場までもうひと歩きしようか。たとえ道は長くても、口笛を吹いていればそのうち辿り着くだろう。
『ゴォーーーッ』
そんな矢先、俺の眼前を1台のバスが横切った。これは何という偶然だろうか。いや待て、呑気に口笛なんて吹いている場合じゃないぞ!!
「おぉーい! 待ってくれぇっ!!!」
1日に僅か数本の便、逃してなるものか!! 俺は最寄りのバス停まで全速力で走った。
広大な山々に囲まれ、人々は畏敬の念を抱き暮らしている。雪深い中で人の温もりを見つけた町、その名は栃木県本須賀町。