『ピッ、ピッ――』
ここは埼玉県利根越市内にある病院の一室。室内には、心拍を計測する機械音が淡々と響いている。俺は今、その発信源たる男の横顔を眺めている最中だ。
「......」
男は言葉を発することもなく、ただ静かに眠り続けている。俺が苦悩する元凶だったとは到底思えない。
......おっと、物思いに耽りすぎていたようだ。男の名は入間肇、入間ホールディングス会長であり、俺の父でもある。親父といっても、父親らしい振る舞いはほとんど記憶にない。
親父は若い頃から金遣いが荒く、加えて女癖も非常に悪かったらしい。俺の記憶にある限りでも、親父は幾度となく離婚と再婚を繰り返していた。
親父は熱しやすく冷めやすい性格で、愛情がなくなればいとも簡単に配偶者へ離婚を突き付けていた。そのため、俺の母たる人物は幾度となく替わっていた。
そのような傍若無人な振る舞いから、入間一族の間で親父は腫物扱いされていた。実際に、俺の叔父である入間継雄は毎回親父の苦言を呈していた。そんな男が入間グループを掌握していたのだから、親族もたまったものではない。
俺自身も、親父の理不尽な振る舞いに苦悩してきた。今となっては記憶も曖昧だが、親父の言うことを聞かないという理由で半ば強制的に剣道場へ通わされた。親父の言い分は『不良息子の人格矯正』だったらしいが、本当のところは俺を服従させたかっただけのように思う。
俺はそんな親父に反発して、事あるごとに非行を繰り返していた。ここでは口にできない内容ばかりだが、人殺し以外は一通り実践したとだけ言っておこう。
俺の反発に業を煮やした親父は、中学卒業を機に勘当も同然で鹿児島の親族へ預けるという暴挙に出る。こればかりは俺も予想だにしなかった。まぁ、今思えばその経験も俺の生きる糧となったのだが。
そして、これを機に親父の夫婦仲は悪化。詳細は分かりかねるが、どうやらとんでもなく泥沼の離婚劇が展開されていたらしい。ただ、当時の養母は俺を大切にしてくれた人物であったから、離縁したことが悔やまれる。この時ばかりは親父を心底恨んだものだ。
だが、そんな親父も今は昏睡状態。たとえ傍らで俺が罵詈雑言を吐こうとも、親父は聞き入れもしないだろう。
「おっと、もうこんな時間か......」
長居するつもりはなかったのだが、気付くと面会の終了時刻が迫っていた。さて、そろそろここを出ようか。叔父さんからの呼び出しも受けているし、今日の俺は過密スケジュールだ。
さて、叔父さんのいう話ってのは何だろうな......?