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作者: 紅杉林檎





紅杉林檎編

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弁当を食べ終え、カバンを抱きかかえて、教室に戻った。
 教室に戻ると、人数が少なくて空席が目立つようになっていた。
 そうか、今はお昼休みだ。みんな教室の外で遊んでるんだ。
 今ならめいいっぱい、君の事を考えられるかな。
 私は窓際の自分の席に腰を下ろし、『君観察ノート』を机に広げた。
 私のあられのない『初恋』という名の恋愛感情。この行く末が決まる日まで、残り二日しかない。この二日も、今日と、明日の卒業式を合わせた二日だ。
『君観察ノート』を書くのも、後二日。
 早いよ......早すぎるよ。
 高校を卒業したら、みんなとも離れ離れになる。当然、拓磨くんとも。

「でさーあいつ彼女にビンタされて別れたらしいぜー」
「ハハッだっせー! もうすぐ卒業ってのに、一足先にお別れかよ!」

 教室の扉が開いて、静かだった教室にどっと笑い声が差し込んだ。いつもの男子の下品な会話。いつもだったら流していた会話の中に、ある声が混ざっていた。
 拓磨くんだ。拓磨くんの甘いテノールボイスが私の鼓膜を優しく撫でてくれた。
 ああ、やっぱりかっこいいな拓磨くんは......
 スタイル抜群の体に優しい声。そして何よりかっこいいのが、誰に対しても優しく接してくれるところ。これが、私が拓磨くんに惹かれるようになった大きな要因だ。
 でも、そんな太陽みたいな拓磨くんのそばに立っていいのは私のような日陰者じゃなくて、私を保健室に連れてってくれた女の子達みたいな、明るくて、ノリが良い若者のお手本みたいな子。私では、拓磨くんの彼女には不釣り合いなの。
 そう何度も心の中で自分に言い聞かせても、必ずと言っていいほど、耳を塞ぐ自分が居た。

「なぁ」

「なぁ、気分は平気か?」

 拓磨くんの声が近くで聞こえる......どうやら気分を聞いているらしい。うん? でも待って? この教室にいる人で気分を他人に心配されていた人って____

「なぁ、西条。気分は平気か? もしまだ気分が悪かったら言ってくれよな。俺がそばにいてやるから」

 拓磨くんに今話しかけられてるのって、他でもない私!?
 嘘嘘!! こんな地味で引っ込み思案の妄想女の私に拓磨くんが話しかけてくれている!?
 あ〜ダメ、あまりの嬉しさに顔が熱くなってきた。多分、今私の顔を鏡で見たら酔っ払いのおっさんような真っ赤っかになってると思う。

「う、うん、だ、だいじょ......ぶだよ。っあぁ!」

 キョドりながらも拓磨くんの優しい問いに返事をした。だが初恋の人との久しぶりの一体一の会話をした動揺で、椅子から転げ落ち、教室の固い床に体を強く打った。朦朧とする意識の中で拓磨くんの声が聞こえた。

「おい西条大丈夫か!?」
「おい! 誰か先生呼んでこい! 西条が倒れた!」

 拓磨くんが私のために声を荒らげている......ああ......やっぱり......
 かっこいいなぁ、拓磨くん。

 次に目が覚めた頃には家のベットの中だった。お母さんが言うには、あの後拓磨くんが先生を呼びに行って、そのまま先生の車で家に送られたらしい。経緯を聞いて申し訳なくなった。だって、倒れた原因が好きな人に話しかけられた動揺なんだもん。恥ずかしくて死にそう。
 ベットの横に置かれていたカバンから『君観察ノート』を取り出し、保健室の時のようにベットの布団の中でぎゅっーと抱きしめた。
 明日は卒業式。私が初恋の人(拓磨くん)に告白する最後のチャンスであり、高校生活最終日。不安と寂しさでいっぱいいっぱいになった胸元を抑えながら、瞼を閉じて、眠りについた......





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