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安心していいんだよ
さあさあ 種を蒔こうじゃないか
あなたという土壌に
経験という名の肥料を与え
笑顔という名の日差しが 燦々とさす日もあれば
哀しみという名の雨水が 降り注ぐ日もあるだろう
種は色んな養分を吸い取って育ち
どんな花を咲かせ どんな実を結ぶんだろう
私は それらを共に楽しみたいのだ
※※※※※
「こんなのがヒント? わかるわけねぇっつぅの」
俺は液晶画面いっぱいに映し出された文字を眺め、深いため息を吐いた。
※※※※※
警視庁の特殊部隊に属する、特殊検知課。
俺、佐々仁は、三人しかいないこの課で一番の下っ端だ。
ちなみに特殊検知課ってのは、特殊な検知器が扱える奴が所属してるんじゃなくて、己自身が特殊な検知器なんだ。
例えば俺の場合。
表の顔は優等生だけど裏では危ないモノを作ってる奴がいたとする。
危ないモノってのは、火炎瓶とか時限爆弾とかそういったモノのことね。
俺の検知範囲である半径五メートル以内にこの優等生君が侵入した時点で、俺の鼻がむずむずし始める。
いわゆるアレルギー反応ってやつだ。
もちろんこの反応は、俺と優等生君が近づくごとに強く出る。
くしゃみ、鼻水から始まって、蕁麻疹、頭痛吐き気に発熱、腹痛まで。
ちなみに隠している内容がヤバければヤバいほど、症状が重くなるんだ。
なんて迷惑な体質なんだろうか。
「かつてこの日本にも、くらぁあい時代があったんだよ。今じゃ想像もつかんだろうがな」
と、なにが面白いのか俺の上司がニヤニヤ笑いながら言った。
なにせ特殊検知課は俺を含めて三人しかいないから、上司のデスクがすぐ真横にあるんだ。
「そんなこと知ってますよ、学生時代に近代史で習いましたからね」
上司は、俺が『タイムマシンで巡る素敵な旅〜過去も未来も行き放題プラン〜』のパンフレットを眺めているから、そんなことを言ってくるのだ。
上司は四十五歳の妻子持ち。
顔の彫りが深く、肌の色が少し赤銅色がかっているのは、ルートジモラシカ共和国人と日本人とのハーフだからだ。
「暗い時代って、世界の技術躍進の波に乗り切れなかったことが原因だったヤツでしょ? 今じゃ雲丹の優秀な研究と技術のお陰で、すっかり追いついてトップ争いに食い込んでるじゃないですか」
「そう。お前は気にならないか? なぜ、そうなったのかって」
いや、別に興味ないです、と言いかけた俺のデスクに、上司が一枚の写真をバンッと置いた。
見ればその写真には、どこかの大学の門と立て看板が写っている。
「なんですか、これ……むぎほし大学入学式?」
「私の両親が出会ったのも、その大学なんだよ」
そんなもん、ますます興味ねぇよ……
「タイムマシン旅行かぁ……いいよねぇ、独身貴族はさぁ……稼いだお金、自由に使えるんだもんねぇ、ぜぇえんぶ!」
「はあ……」
「お前さ、ちょっとそこ行って、何が起きたのか直接確かめてこいよ」
そこ、って……この大学の入学式に⁉
「嫌ですよ! せっかくのタイムマシン旅行をこんなくだらないことに使うなんて!」
「くだらないだと? この入学式は、くらぁかった日本が生まれ変わったきっかけなんだぞ! うちの親に何度自慢されたことか……あの入学式は最高だった、ってさ! そんなの、見てみたいに決まってんだろうが!」
「それなら自分で行きゃあいいでしょうが!」
「残念だが、私には高級タイムマシン旅行を楽しむ金も時間もないんだ」
まあ……課長ん家は小遣い制だから……俺は結婚しても小遣い制は嫌だな……
「わかった、そこまで拒否するなら、仕事ってことにしよう。今、任命書を作るから待ってろ」
「えっ……ちょっと、そこまでします⁉」
「若いくせに、なんだか毎日つまらなさそうにしてるお前には、この入学式が必要なんだ。ほれ、行ってこい!」
俺は目の前に突き出された、出力したての任命書を手にした。
「ああ……調査ですね……ってことは、報告書出さなきゃいけないってことか……せっかくの旅行なのにぃい!」
俺の高級タイムマシン旅行へのワクワク感ゲージが半分以下に下がったのは、言うまでもない。
※※※※※
俺は今、むぎほし大学の校舎内を歩いている。
例の入学式本番前夜の、深夜一時。
万が一誰かと出くわした時に言い訳ができるように、警備員のようにみえる格好で、だ。
あらかじめ上司からもらっていたヒントは、校長が新入生に送ったメッセージだけ。だけど、それだけじゃさっぱりわからない。
「あと怪しいのは、唐栗とかいう教授だったっけ? 入学式にいったい何をしようっていうん……」
突然、ざわりと体の奥底からあの感覚が湧き上がる。
「……嘘だろ……こんなとこで……誰もいないのに」
懐中電灯のライトに浮かぶのは、学長室と書かれたプレートだ。
間違いない。
ここには、絶対になにかがある……
でも……なんだろう……
いつもと感覚が違うような気がする……
「嫌な感じがしない……いや、むしろちょっとワクワクしてくるような……え? なんで?」
俺はそっと扉を開け、中を確認してみる。
応接セットにデスク、ウサギの絵画にウサギのレリーフ……
ウサギのレリーフを見た瞬間、口の中に唾液が溢れ、脳内にピンク色のでかいウサギが現れた。
「な、な、なんだこれは!」
このままではまずい、口からよだれがこぼれ落ちてしまう!
俺は慌てて学長室から飛び出し、後ろ手に扉を閉めた。
「これは……やはり明日の入学式に侵入するしかないな……」
学長が入学式になにをするつもりなのか……それをこの目で確かめたい!
俺は緩んでくる顔を片手で隠し、必死にツバを飲み込み続けながらよろよろと歩き始めた。
さて、明日はどんな格好をしようかな?
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