家のゲートのセンサーに手をかざすと、ピッと読み取り音が聞こえる。『天宮ヒトミ 帰宅』と表示されると同時に、ロックが解除され、ゲートが開いた。
ドアを開ける前に、小さく深呼吸をする。
さあ、中に入れば、今日はどんな声が聞こえるんだろう。
どっちで呼ばれるんだろう。毎日わからないのだから、毎日ギャンブルをしている気分だ。何も得られるもののない、虚しいギャンブルだ。
意を決して、ドアを開く。
すぐに足音が聞こえてくると思ったが、何も聞こえない。その代わり、誰かが待ち構えるように仁王立ちしていた。
「お、お父さん……おかえりなさい」
「ああ、ただいま。そしておかえり、ヒトミ」
父は、私と愛を間違えることはない。昔からそうだ。
今も愛と
ヒトミの区別が曖昧なお母さんの様子を心配しつつ、私との間を上手く取り計らおうとしてくれる。
だけど父は仕事が忙しくて、帰って来るのはいつも夜遅くだった。愛が亡くなって以降は、更に仕事に打ち込んでいて、顔を合わせる機会すら減っていた。
久しぶりの顔合わせになるからか、それとも帰る時間が遅くなったからか、久々に会うお父さんは何故だか少し、怖かった。
こんな風に待ち構えていて、私のことをまじまじと見て、あまつさえ睨みつけるなんてこと、今までなかった。
何か怒らせるようなことしたかな?……なんて考えても、何もわからない。視線を受け続けるにつれ、混乱が増すばかりだった。そんな時、ようやく足音が聞こえてきた。
「ああ、愛! おかえりなさい。ちょっと遅かったじゃないの」
「ただいま、お母さん。友達とちょっと寄り道するって、連絡したでしょ」
「ああ、パフェのお店? いいわね、今度私も連れてってね」
「う、うん……今度ね」
気のせいだろうか。お母さんがお店のことに触れた瞬間。お父さんの眉間に一筋しわが増えた。
寄り道が、いけなかったんだろうか。でも今までそんなこと言われたためしがなかったんだけど? ああ、でも顔を合わせてなかったからかもしれない。本当はダメだったのか……とか色々考えていると、お父さんはくるりと踵を返した。
ようやくあの視線から解放されるかと思えば……
「着替えたら、書斎に来なさい」
そう、言い放たれる。嫌だなんて言えるはずもない私は、黙って何度も頷いた。
一方でお母さんは、お父さんの態度に少し驚いているようだった。
「何かしらね。機嫌が悪そうだけど? テストの点数は……別に悪くなかったわよねぇ」
「そ、そうだね」
本当に、見当がつかない。だけどああ言われたからには、行かないわけにはいかない。私は、玄関前とはまた別のことに意を決して、自室のある二階に向かった。