「あの……どうぞ」
見ると、ナオヤくんが私にスプーンを差し出している。
「この項目を達成しましょう」
項目、と聞いてはたと思い出した。そういえば『はい、あーんをする』という目的のためにここに来たんだった。
おずおずとスプーンを受け取り、クリームとフルーツをすくう。そして、真正面に座る尚也くんに向けてずいっと突き出した。
「はい、どうぞ」
「もう少し前に出して頂けますか」
「……こう?」
「もう少し、もう少し……」
私がスプーンを押し出すと、ナオヤくんの顔が近づく。いつも無表情だけど、何故か今はそこに冷たい感情が見えてしまった。
深海くんが、私を邪魔だと思っていたんじゃないか。本当はこんな風に、いつでも私に冷めた視線を向けていたんじゃないか。深海くんも、愛も、そうだったんじゃないか。
ナオヤくんの静かな目を見ていると、心臓がきゅっと締め付けられるようだった。思わず息を忘れて、気がついたらスプーンを取り落としていた。
「……大丈夫ですか?」
「だいじょう……ぶ、と思う。でも……うっ」
息が詰まって、嗚咽になりかけた。咄嗟に口を塞ぐけれども、ナオヤくんは見逃さなかったらしい。私の顔を深く覗き込んでくる。
「僕は、また何か余計なことを言いましたか? 尚也のことでしょうか?」
「違う……私が、考えすぎなだけだから」
ナオヤくんが言ったのは、ただの事実。何も足してないし削ってもいない、起こったありのままのことを言っただけなんだ。
気付けば、ナオヤくんの瞬きが増えている。ああ、ほら、考え込んでしまってる。彼の思考は深海くんのために使うべきで、私のことなんかに使わなくていいのに。
それなのに、彼はハンカチを差し出してくれる。そして、ぽつりと呟いた。
「そうか……そう、だったんですね」
「何が?」
「あなたは……いえ、何でもありません」
「なに? 気になる」
「……」
ナオヤくんは黙り込んで、私のことをじっと見ている。時々視線を逸らし、ちょっとだけうなり声が聞こえる。また何か考えているらしい。それも言いにくいことを。
ウェイターロボットが落としたスプーンを拾って、替えのスプーンを置いてくれた。その時に、ようやくナオヤくんは意を決したように声を発した。
「僕にできることは、ないでしょうか?」
「で、できること?」
神妙に頷くナオヤくんは、いたって真剣そうだ。
「僕は……中身は尚也とは遠くかけ離れていますが、顔は同じです」
「だ、だから?」
「その……尚也にしてほしかったことなどがあれば僕が代わりに……」
徐々に声がすぼんでいく。ナオヤくんにしては珍しく、端切れが悪い。必死に考えてくれたんだろうとわかる。私の気持ちに、気付いてしまったからだろう。
「……ないよ。そんなの」