ナオヤくんは、加地くんも弓槻さんもぽかんとしているのも気付かず、語り続けた。
「その事故で、父親は他界。僕は……色々あって、今ここにいます。昔の尚也と僕が大きく違うのだと言うなら、やはりその事故が原因でしょうね」
炊きたてご飯みたいにほくほくだったリビングの空気は、しんと静まりかえってしまった。
「とはいえ、事故の後遺症などはどこにもないのでご心配なく。大きな事故後は、人が変わったようになるという症例もあります。僕に当てはまるのはそれでは?」
「ああ、そう……ですね。そうなんでしょうね。ごめんなさい、坊ちゃん、皆さん」
時田さんが笑顔を取り繕って、その場を離れた。
あとには、なんだか気まずい空気だけが残る。さっさとご飯を食べ終えたナオヤくん以外は、箸が止まっていた。
そんな様子を見たナオヤくんは、ぽつりと零した。隣にいる私にしか聞こえないくらいの、小さな囁き声で。
「こんな雰囲気を変えられない僕は、『尚也』ではない……」
確かに深海くんは、皆が沈んだ空気でいたら必ず明るくさせようとしていた。
だけど、それができる深海くんが凄かったのであって、できないからって落ち込む必要はないことだ。
気付かれないようにナオヤくんの横顔を見る。いつもの、抑揚のない表情だ。だけどいつもより、ほんの少しだけ違う気がした。
声を掛けようとして、できなかった。
皆を沈ませてしまった罪悪感を抱いているんだ。そして、私が思うよりもずっと、彼は『深海尚也』を背負っている。
皆のいる前で話せることが、なかった。だから、別のことを言った。
「あ、あの……帰る前にきっちりお掃除しようね。ものすっごく汚しちゃったから……ね?」
「あらあら、お掃除なんて私がやっておきますよ」
「いえいえ、後片付けくらいやらないと。急に泊めてもらっちゃったんですし」
私がそう言って、加地くんと弓槻さんも、おずおずと頷いていた。
「お、おう……そうだな」
「一宿一飯の恩てやつだね。本で読んだよ」
「……別にお気遣い頂かなくても結構ですよ。母ももてなせと言っていたんですし……」
そう言うナオヤくんの腕を、横から小さく小突いた。
「違うでしょ。深海くんなら、こう言う時なんて言う?」
そう、小声で問うと、ナオヤくんは瞬きと共に記憶を探っていた。そして……
「そうですね。立つ鳥跡を濁さず……きっちり綺麗にして帰りましょう」
ナオヤくんのそんな言葉に、全員が頷いて、決定した。
次の行動が決まれば、皆の動きは急にきびきびし始めた。加地くんも弓槻さんもぱくぱくと残りのご飯を平らげて、お皿をシンクへと運ぶ。言い出しっぺの私が一番遅れてしまった……。
「よーし、じゃあ始めるか。俺らこのへん片付けるから、深海とヒトミはあっちの部屋担当な」
テキパキと加地くんが役割分担していく。自分たちが一番汚した部屋は自分たちで担当し、着替えなんかに使わせてもらった一部屋を私たちに任せたのだった。そっちはほとんど掃除の必要はないのだけど……ちょうどいいと、思った。
「ナオヤくん、行こう」
「……はい」
私は掃除道具とナオヤくんを引っ張って、客室に向かった。