表示設定
表示設定
目次 目次




2

ー/ー



「ご飯ですよって言ったらようやく大人しくテーブルにつくんですけどね、それ以外はまぁ全然落ち着きなくて……たまにしか来ないのに、近所のお子さん方の親分に収まってたり、学校でもスポーツマンで、よくリーダーシップをとってるって聞きましたねぇ。あ、でも、そちらは皆さんの方がよくご存じでしょ」 
 時田さんは笑って、加地くんから預かったお茶碗を持って、おかわりをよそいに行った。
 その間、加地くんと弓槻さんの視線はナオヤくんに釘付けだった。さすがに居心地悪く感じたのか、ナオヤくんが二人を見返す。
「……何ですか」
「さっきの話って……誰のこと?」
「『深海尚也』その人のことです」
「うそでしょ……」
 驚く二人には申し訳ないけれど、嘘ではなかったりする。
 ナオヤくんのオリジナル……深海尚也くんは、時田さんが言っていた通りの人物で、クラスの……いや学校のヒーローだった。成績も良かったし、スポーツは何でもできたし、人当たりも良くて、皆のリーダー役だった。
 今のナオヤくんは、ほぼ真逆だ。成績は深海くんより良いけど、スポーツはいつも見学しているし、私たち以外とは接しようとすらしない。言われたことは忠実にこなすけれど、自分が指揮を執ることはない。
 事情を知っている私ですら、同じ遺伝子でこうも変わるものなのかと驚いた。すぐに、自分だってそうだと気付いたけれど。
 だけど深海くんの情報は初耳の加地くんと弓槻さんにとっては、ぽかんとする以外できないらしい。
「あら坊ちゃん……学校ではそんなに大人しいんですか?」
 戻って来た時田さんが、目を丸くして尋ねた。
「大人しい……うん、大人しいな」
「物静かって言うか……大声出してるとか、走ってるとか、あんまり見ないよね」
「えぇ!? そうなんですか? 坊ちゃん、まさか足かどこか悪くなさったんですか?」
 時田さんはまた、心配そうにナオヤくんに駆け寄る。今度は腕とか足とかを見ている。
「完治なさったって聞いていましたけど、やっぱり何か後遺症が? 酷い事故でしたもの……」
「え」
「事故?」
「ええ……あら、もしかして……ご存じなかったんですか?」
 時田さんは、口をつぐんでしまった。咄嗟のこととはいえ、失言だったと気付いたらしく、黙って粛々と、私たちのお世話に徹しようと動き回る。
 だけど聞いてしまった以上、もどかしい空気が蔓延するのは避けられない。聞きたいけど、聞いてはいけない。そんなピリピリした雰囲気の中、お茶碗を空にしたナオヤくんが、ぽつりと零した。
「一年ほど前に、事故に遭ったんです。僕と父親の二人が」



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 3


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「ご飯ですよって言ったらようやく大人しくテーブルにつくんですけどね、それ以外はまぁ全然落ち着きなくて……たまにしか来ないのに、近所のお子さん方の親分に収まってたり、学校でもスポーツマンで、よくリーダーシップをとってるって聞きましたねぇ。あ、でも、そちらは皆さんの方がよくご存じでしょ」 
 時田さんは笑って、加地くんから預かったお茶碗を持って、おかわりをよそいに行った。
 その間、加地くんと弓槻さんの視線はナオヤくんに釘付けだった。さすがに居心地悪く感じたのか、ナオヤくんが二人を見返す。
「……何ですか」
「さっきの話って……誰のこと?」
「『深海尚也』その人のことです」
「うそでしょ……」
 驚く二人には申し訳ないけれど、嘘ではなかったりする。
 ナオヤくんのオリジナル……深海尚也くんは、時田さんが言っていた通りの人物で、クラスの……いや学校のヒーローだった。成績も良かったし、スポーツは何でもできたし、人当たりも良くて、皆のリーダー役だった。
 今のナオヤくんは、ほぼ真逆だ。成績は深海くんより良いけど、スポーツはいつも見学しているし、私たち以外とは接しようとすらしない。言われたことは忠実にこなすけれど、自分が指揮を執ることはない。
 事情を知っている私ですら、同じ遺伝子でこうも変わるものなのかと驚いた。すぐに、自分だってそうだと気付いたけれど。
 だけど深海くんの情報は初耳の加地くんと弓槻さんにとっては、ぽかんとする以外できないらしい。
「あら坊ちゃん……学校ではそんなに大人しいんですか?」
 戻って来た時田さんが、目を丸くして尋ねた。
「大人しい……うん、大人しいな」
「物静かって言うか……大声出してるとか、走ってるとか、あんまり見ないよね」
「えぇ!? そうなんですか? 坊ちゃん、まさか足かどこか悪くなさったんですか?」
 時田さんはまた、心配そうにナオヤくんに駆け寄る。今度は腕とか足とかを見ている。
「完治なさったって聞いていましたけど、やっぱり何か後遺症が? 酷い事故でしたもの……」
「え」
「事故?」
「ええ……あら、もしかして……ご存じなかったんですか?」
 時田さんは、口をつぐんでしまった。咄嗟のこととはいえ、失言だったと気付いたらしく、黙って粛々と、私たちのお世話に徹しようと動き回る。
 だけど聞いてしまった以上、もどかしい空気が蔓延するのは避けられない。聞きたいけど、聞いてはいけない。そんなピリピリした雰囲気の中、お茶碗を空にしたナオヤくんが、ぽつりと零した。
「一年ほど前に、事故に遭ったんです。僕と父親の二人が」