昨夜は全然、一秒たりとも眠れなかった。
何故って……あの人がおかしなことを言うからだ。
あの人って? それは……今、ダイニングテーブルで私の隣に座って素知らぬ顔で朝ご飯を食べている、この人……深海ナオヤだ。
昨日私に言ったことを忘れたかのように、黙々と食べ続けている。確かに、炊きたてご飯に卵焼きにお味噌汁に焼き魚のこの朝ご飯はとっても美味しいけど……。
朝早くだって言うのに、管理人さんが来てくれて作ってくれたのだ。昨日色々とわがままを聞いてもらったのに、管理人さんはニコニコしてお世話してくれる。
「坊ちゃんが来られるのは久しぶりですからねぇ。それもお友達を連れてくるなんて初めてだから、嬉しくてね」
そう嬉しそうに言う管理人さんは、50代くらいの穏やかな空気を纏う女性だった。時田さんていうらしい。もう20年以上、この別荘の管理人をやっているとか。
私たちにご飯をふるまってくれる様は、なんだか管理人というより『お母さん』だ。
「たくさん食べてくださいね。余っても、こんなおばさんじゃ食べきれないから、全部食べちゃってくださいよ」
「ありがとーございます!」
余る心配はなさそうだ。加地くんが破竹の勢いでご飯を平らげていく。それに比べて私たち三人は随分少食に見えた。加地くんと比べたら、の話ではあるけど。
ただ、それにしても深海くんは一番食が細かった。加地くんどころか、私や弓槻さんと比べても半分ほどしか食べてないんじゃないだろうか。
「あら坊ちゃん、どうしたんですか。あれだけたくさん食べてらしたのに。どこか具合でも悪いんですか?」
時田さんは慌てて体温計や薬を探し始めた。それを止めたのは、他ならぬナオヤくんだ。
「大丈夫、体調は良好です。以前より少食になっただけです」
「ええ、あの坊ちゃんが!?」
「『あの坊ちゃん』て……どんな坊ちゃんだったんですか?」
弓槻さんが興味津々で尋ねる。もちろん加地くんも、視線がキラキラしている。
ナオヤくん一人が、興味なさそうにぽつぽつと食べ続けている。止めないものだから、時田さんはどんどん話し続ける。
「どんなって……やんちゃで元気なお人でしたよ。どれだけ走り回らされたか……」
「……やんちゃ?」
「元気?」
加地くんと弓槻さんが、一斉にナオヤくんを見る。どちらも今のナオヤくんとは到底結びつかない言葉だから、仕方ない。