ナオヤくんが『僕の家』と言ったのは、正確には別荘だった。
学校では話していなかったけれど、ナオヤくんの両親はホテルや外食チェーンを営む大手企業の社長なのだ。あっさりクローンを生成し、一年で成長促進させるなんて無茶をさせられるんだから、相当な規模なんだろう。
ビーチから歩いて十数分ほどで到着し、ナオヤくんの認証でゲートは開いた。
「どうぞ。今日は誰もいないので、もてなしはできませんが……」
普段は週に何度か人が来てハウスキーピングをしてくれているらしい。1年ほど来ていないと言っていたのに、家の中は掃除が行き届いてピカピカだった。
私たちをリビングに案内すると、ナオヤくんはどこかへ消えた。そしてすぐにタオルを持って戻って来た。
「どうぞ。あと、管理人に連絡を入れました。全員の着替えを持ってきてくれるそうです。ここにはそういった用意がないので」
「ありがとうな。その……家の人には、言ったのか?」
加地くんは、あのお母さんのことを想像したらしい。電話越しでも怒られると思ったのか、ビクビクしている。
だけど、予想に反してナオヤくんはサラッと答えた。
「もちろん。そのままゆっくりもてなすようにと言われました。管理人に連絡を入れてくれたのも母です」
「そ、そう……なんだ」
「はい。とりあえず、何か飲み物を入れてきます」
「私、手伝うよ」
私がタオルを置いてそう言うと、ナオヤくんは少し悩んだ末に、「お願いします」と言った。
ナオヤくんについてキッチンに入ると、それはそれは大きな冷蔵庫とパントリーが目に入った。一年以上来ていないというのに、中身はぎっしり詰まっている。きっと、いつ来てもいいようにとしっかり管理されているんだろう。
だけど棚を眺めて、そこで止まってしまった。
「コーヒーがいいんでしょうか。紅茶がいいんでしょうか。それとも緑茶? いやホットミルク……」
「聞いてくるよ」
「ではまず、コーヒーを淹れておきます」
そう言って棚からコーヒーとマシンを引っ張り出したのを見て、私はリビングに戻った。二人は、まだタオルで体をゴシゴシしていた。もの凄い雨量だったから、拭いても拭いても足りないんだろう。
早く温かいものを飲んだ方がいいと思って、声をかけようとしたその時、二人の会話が、耳に入った。
「なぁ、天宮さんについて、何か知ってる?」
加地くんが、弓槻さんにそう尋ねている。弓槻さん方は首を傾げていた。
「何かって……何?」
「いや、ごめん。何でもない」
二人は私に背を向ける形でソファに座っている。私が近くにいるとは気付いていないみたいだ。だけど、加地くんの声音は、なんだか神妙で、重かった。
「なになに? コイバナ? もしかして加地やんて、天宮さんのこと……」
弓槻さんの声が、ふわふわ軽やかで、ニヤついているのがわかる。だけど加地くんの方は、到底同じ雰囲気とは言えない。
「まぁ……気にはなってる」
そんな重い空気を察したのか、弓槻さんはため息で答えていた。
「何? なんかひっかかってることでもあるの?」
「ひっかかってるって、いうか……その……」
加地くんが、珍しく口ごもっている。何だろう。私、そんなに困らせるようなことをしていたんだろうか。
少し苛立っている風の弓槻さんと違い、自分が何をしたのかっていう心配を抱えて、加地くんの言葉を待っていた。
たっぷり呼吸をしてから、加地くんはおずおずと、話した
「あの子、さ……クローンだよな?」