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 四月某日。私たちは電車に乗って、片道一時間の場所にある海水浴場に来ていた。
 昔の電車と比べて、エンジンも電力供給も、何よりも管制システムも格段に向上したらしい。おかげで環境にも乗客にも優しく、しかも大昔の電車より何十倍も速いらしい。
 私たちのような未成年の学生でも、100km離れた場所まで週末に、日帰りで気軽に遊びに来られるのだ。
 それでも、こんなに遠出したのは初めてで、私はずっとドキドキしていたのだけど。
 駅から歩いて数分ほどで、その風景は見えてきた。
 透き通るような青と、抜けるような白が交差している。その頭上には、雲一つなく澄んだ碧。加地くんが天気情報と予約状況を確認して、最高の日取りと場所を選んでくれたらしい。
 知らなかった。これも、海なんだ。
「いつも見てる海とはだいぶ違うだろ?」
 この海水浴場を予約してくれた加地くんが、自慢げに言う。
 正確には、海はすぐ近くにある。だけどいつも行くあの海浜公園には砂浜はなくて、ヨットハーバーになっている。船の漕ぎ出す光景はたくさん見てきたけれど、こんなにも広々とした海辺は初めて見た。
 隣を見ると、同じ事を思ったらしい人が、もう一人。
「深海くんも、感動してる?」
 からかうように弓槻さんが言うと、ナオヤは素直に頷いていた。
「前に家族で来たことあってさ。絶対にまた来たいって思ってたんだ」
「うんうん。ここ、人気のビーチだよね。加地やん、よく予約とれたね」
「な? 週末なのに珍しく空いててさ。絶対行くしかないって思ってさ」
 砂浜へ向かうゲートには、各家庭と同じようにセンサーがついていた。加地くんはそこにIDを掲げている。
 それこそ大昔はこういった海水浴場は公共施設で、基本的に自由使用だったらしい。だけどその結果、砂浜の質の悪化やその他違法行為もあったり、とにかく管理が難しくなったため、50年ほど前に、そのほとんどを私営に切り替えたのだとか。
 使用が有料になってしまったのだけど、その分管理が行き届くようになり、安全に遊べるようになったとかで、概ね受け入れられている。
 何よりだだっ広く解放されているようでいて、ビーチは細かく区画管理されるようになり、実質プライベートビーチ化しているのだ。おかげで場所取りができないだとか、他の客とのもめ事だとかといった問題から解放されている……らしい。あくまで、聞いた話だけど。
 ついでに現在の仕組みを説明しますと……利用客が安全に楽しめるように、施設内で独自の天候管理までしてくれているらしい。人間では到底手の届かない上空にまでドーム状に空間が確保されていて、施設外とは違う天候で動いているのだ。
 だから夏だろうと冬だろうと、いつでも最適の気温と天候の下で海水浴を楽しめる。
 天候も色々設定されていて、波の穏やかな晴れの日を多めに設定していて、時々風を強めに吹かせて波を立たせる。バランスをとるためか、まれに雨の日も作っておく。
 ちょうど、今のように。
 私たちは、着いた途端に何故か大雨に見舞われたのだった……。
「加地やん……これはいったい……?」
 弓槻さんが怪訝な顔を加地くんに向ける。加地くんはその視線から必死に逃れながら、必死に公開されているこのビーチの天候情報を見ていた。
「あ、午前中は快晴だけど、昼から雨だった。夜までずっと」
 最初はまるで私たちを気遣うような霧雨だったのが、10分と経たないうちに豪雨に変わっていた。
 どうりで、空いていたわけだ。
「えーと……ごめん」
 加地くんは、深々と頭を下げる。そんな潔い態度をとられると、怒れない。私たちだって、加地くんに任せきりで確認していなかったんだし。
 とはいえ、困っていた。
 予定では到着してから、区画内にあるミニコテージで水着に着替えようとしていたのだけど、その前に降り出してしまった。私たち全員、私服のままびしょ濡れだった……。
「どうしよ。コテージに入っとく? でも服乾かさないとだしなぁ」
 利用マニュアルを見てみたけれど、さすがに乾燥機までは設置されていないらしい。
 科学技術が進歩しても、濡れた服を着たままだと人間が風邪を引くのは変わらない。
 どうしようか困っていると……そろっと、ナオヤくんが手を挙げた。
「では、僕の家に行きませんか」



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 四月某日。私たちは電車に乗って、片道一時間の場所にある海水浴場に来ていた。
 昔の電車と比べて、エンジンも電力供給も、何よりも管制システムも格段に向上したらしい。おかげで環境にも乗客にも優しく、しかも大昔の電車より何十倍も速いらしい。
 私たちのような未成年の学生でも、100km離れた場所まで週末に、日帰りで気軽に遊びに来られるのだ。
 それでも、こんなに遠出したのは初めてで、私はずっとドキドキしていたのだけど。
 駅から歩いて数分ほどで、その風景は見えてきた。
 透き通るような青と、抜けるような白が交差している。その頭上には、雲一つなく澄んだ碧。加地くんが天気情報と予約状況を確認して、最高の日取りと場所を選んでくれたらしい。
 知らなかった。これも、海なんだ。
「いつも見てる海とはだいぶ違うだろ?」
 この海水浴場を予約してくれた加地くんが、自慢げに言う。
 正確には、海はすぐ近くにある。だけどいつも行くあの海浜公園には砂浜はなくて、ヨットハーバーになっている。船の漕ぎ出す光景はたくさん見てきたけれど、こんなにも広々とした海辺は初めて見た。
 隣を見ると、同じ事を思ったらしい人が、もう一人。
「深海くんも、感動してる?」
 からかうように弓槻さんが言うと、ナオヤは素直に頷いていた。
「前に家族で来たことあってさ。絶対にまた来たいって思ってたんだ」
「うんうん。ここ、人気のビーチだよね。加地やん、よく予約とれたね」
「な? 週末なのに珍しく空いててさ。絶対行くしかないって思ってさ」
 砂浜へ向かうゲートには、各家庭と同じようにセンサーがついていた。加地くんはそこにIDを掲げている。
 それこそ大昔はこういった海水浴場は公共施設で、基本的に自由使用だったらしい。だけどその結果、砂浜の質の悪化やその他違法行為もあったり、とにかく管理が難しくなったため、50年ほど前に、そのほとんどを私営に切り替えたのだとか。
 使用が有料になってしまったのだけど、その分管理が行き届くようになり、安全に遊べるようになったとかで、概ね受け入れられている。
 何よりだだっ広く解放されているようでいて、ビーチは細かく区画管理されるようになり、実質プライベートビーチ化しているのだ。おかげで場所取りができないだとか、他の客とのもめ事だとかといった問題から解放されている……らしい。あくまで、聞いた話だけど。
 ついでに現在の仕組みを説明しますと……利用客が安全に楽しめるように、施設内で独自の天候管理までしてくれているらしい。人間では到底手の届かない上空にまでドーム状に空間が確保されていて、施設外とは違う天候で動いているのだ。
 だから夏だろうと冬だろうと、いつでも最適の気温と天候の下で海水浴を楽しめる。
 天候も色々設定されていて、波の穏やかな晴れの日を多めに設定していて、時々風を強めに吹かせて波を立たせる。バランスをとるためか、まれに雨の日も作っておく。
 ちょうど、今のように。
 私たちは、着いた途端に何故か大雨に見舞われたのだった……。
「加地やん……これはいったい……?」
 弓槻さんが怪訝な顔を加地くんに向ける。加地くんはその視線から必死に逃れながら、必死に公開されているこのビーチの天候情報を見ていた。
「あ、午前中は快晴だけど、昼から雨だった。夜までずっと」
 最初はまるで私たちを気遣うような霧雨だったのが、10分と経たないうちに豪雨に変わっていた。
 どうりで、空いていたわけだ。
「えーと……ごめん」
 加地くんは、深々と頭を下げる。そんな潔い態度をとられると、怒れない。私たちだって、加地くんに任せきりで確認していなかったんだし。
 とはいえ、困っていた。
 予定では到着してから、区画内にあるミニコテージで水着に着替えようとしていたのだけど、その前に降り出してしまった。私たち全員、私服のままびしょ濡れだった……。
「どうしよ。コテージに入っとく? でも服乾かさないとだしなぁ」
 利用マニュアルを見てみたけれど、さすがに乾燥機までは設置されていないらしい。
 科学技術が進歩しても、濡れた服を着たままだと人間が風邪を引くのは変わらない。
 どうしようか困っていると……そろっと、ナオヤくんが手を挙げた。
「では、僕の家に行きませんか」