ナオヤくんは一日休んだだけで、次の日には学校に来た。顔色は少し青白いけれど、無表情で静かな声音なのは、一昨日までと変わらなかった。
「おはよう」
「おはようございます、天宮さん」
折り目正しいご挨拶。私もぺこりと体を折るように、深く頭を下げる。
そんなクラスメイトと呼ぶにはあまりにも堅苦しいやりとりをしていると、とっても軽い調子の声が近づいて来た。
「おはよ、深海! 元気か?」
「加地くん、おはようございます。体調は良好です」
「深海くん、おはよう。あの後、大丈夫だった?」
「おはようございます、弓槻さん。あの後とは?」
「ほら、一昨日の……」
「ああ、母のことですか。問題ありません。少し過保護で……気分を害されたのなら、申し訳ありません」
そう言って、ナオヤくんはまたペコリと頭を下げる。本当に、何でもなさそうな言い方だ。
一瞬だけ、三人で目を見合わせるけれど、ナオヤくんが顔を上げたので向き直った。
「ところで……昨日確認していたら、リストが何やら更新されていたのですが?」
『実験リスト』を作ったのはナオヤくんだから、当然、あの場にいなくても開くことができる。私たちが線を引いた状態を確認したらしい。
「あのね、昨日話してて、加地くんと弓槻さんもこの『実験』を一緒にしてくれるんだって。だから……」
「ああ、なるほど。ファイルを共有したんですね。了解しました。それで『部活動をする』と『友達をつくる』が、塗りつぶされていましたが……?」
昨日の私と同じように首を傾げていたので、加地くんも弓槻さんも昨日と同じくニヤリと笑っていた。
「何ですか?」
ナオヤくんは、その意味がわからなかったようだ。まだきょとんとしているナオヤくんを、加地くんと弓槻さんが囲い込む。
「鈍いなぁ。一緒に放課後にスイーツ食って笑い合った仲じゃねえか」
「……笑っていましたか? 皆さん、苦しんでいたように思いますが」
「悶え苦しむのも良い思い出なの。それを共有した仲を、世間では何て言うかわかる?」
「僕は一人で『美味しい』と言っていて、苦しみは共有していませんが……」
「細かいことはいいんだって! とにかく、これからは『実験』はこの四人。何故なら俺らは『友達』だから。OK?」
ナオヤくんは目を瞬かせ、加地くんや弓槻さんの言った言葉を反芻していた。おそらく、彼曰くの脳の処理が追いついていないのだろう。
「……これから取り組む予定だったのでまだ情報が不十分なのですが、友達とは何をすればいいんでしょうか?」
「何で深海も天宮さんも、そう難しく考えるかねぇ。一昨日みたいに、一緒にどっか行ったり遊んだりすればいいんだよ」
「そうなのですか」
「そうなの」
昨日の私よりも困惑しているみたいだ。表情は変わらないけれど、瞬きが多く、そして口数が極端に減っている。
戸惑ってはいるけれど、たぶん、嫌がっているんじゃない……と思う。だから、今かける言葉は、これしかないと思った。
「ナオヤくん、今日は何をしようか?」
彼の目の前に『実験リスト』を広げて見せる。
「では……」
ナオヤくんはおずおずと、上から一つずつ、リストの項目をなぞっていくのだった。