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 とんでもなく甘く作ったドーナツを、これ以上ないくらい甘く作ったシロップにつけ込んで、包み込んで、浸透させたもの。それが圧倒的甘さの正体……らしい。
 正確に言うと、甘みを作り出す調味料は気候の変動によって、天然素材のものは数が減ってしまい、今では化学調味料がほとんど。砂糖より甘い砂糖が主流……と言った方がいいだろうか。
 まぁ、つまりは……同じ材料で作っていても、昔より格段に、劇的に、ものすごく、甘みが増している。
 人類が、その限界に挑んだ甘さに耐えられるほど進化したかと言うと……現状の通り。
 4人中3人が悶え苦しむという結果に終わっている。
「な、何コレ……甘いなんてもんじゃないんだけど」
「水飲んだら、飲んだだけ砂糖水に変わってく感じがする」
「つ……疲れてる時なら、なんとか……いや無理」
 口々に感想を言う。心なしか、加地くんも弓槻さんも私も、顔色が悪くなっていた。甘いもので青ざめることがあるなんて、知らなかった。
 そんな中、顔色が一切変わっていない人がいた。言わずもがな、ナオヤくんだ。
「これが世界一甘いお菓子ですか。確かに、食べたことのない甘みですね」
 そう言って、ナオヤくん一人で四個目をつついていた。私たち三人は、一つ目をどうにかして飲み下そうと努力している最中だっていうのに……。そのことに、残り一つでようやく気付いたようだ。
「あ、すみません。一人で全部食べてしまうところでした」
「いいよ、もう……全部食っちまえ」 
「いいんですか?」
 今更ながら、同席者にものすごく気を遣っている。だけど私たちも、ナオヤくんがこのお菓子をものすごくお気に召したらしいとわかったこの状況で、彼から残り一つを奪う気にはなれない。というか、そんな気も起こらない。
 三人揃って「どうぞどうぞ」と勧めると、ナオヤくんはおずおずと最後の一個に楊枝を伸ばした。大皿に溜まったシロップにこれでもかというくらい絡めてすくいとる。甘い香りが、皿からナオヤくんの口元までふんわりと軌跡を描いていく。
 ナオヤくんの口が、待ち遠そうに小さなお菓子を受け入れようと開いていた。最後の一口、という時――その手は止まった。
「ナオヤ」
 そう、彼を呼ぶ声がしたから。



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 とんでもなく甘く作ったドーナツを、これ以上ないくらい甘く作ったシロップにつけ込んで、包み込んで、浸透させたもの。それが圧倒的甘さの正体……らしい。
 正確に言うと、甘みを作り出す調味料は気候の変動によって、天然素材のものは数が減ってしまい、今では化学調味料がほとんど。砂糖より甘い砂糖が主流……と言った方がいいだろうか。
 まぁ、つまりは……同じ材料で作っていても、昔より格段に、劇的に、ものすごく、甘みが増している。
 人類が、その限界に挑んだ甘さに耐えられるほど進化したかと言うと……現状の通り。
 4人中3人が悶え苦しむという結果に終わっている。
「な、何コレ……甘いなんてもんじゃないんだけど」
「水飲んだら、飲んだだけ砂糖水に変わってく感じがする」
「つ……疲れてる時なら、なんとか……いや無理」
 口々に感想を言う。心なしか、加地くんも弓槻さんも私も、顔色が悪くなっていた。甘いもので青ざめることがあるなんて、知らなかった。
 そんな中、顔色が一切変わっていない人がいた。言わずもがな、ナオヤくんだ。
「これが世界一甘いお菓子ですか。確かに、食べたことのない甘みですね」
 そう言って、ナオヤくん一人で四個目をつついていた。私たち三人は、一つ目をどうにかして飲み下そうと努力している最中だっていうのに……。そのことに、残り一つでようやく気付いたようだ。
「あ、すみません。一人で全部食べてしまうところでした」
「いいよ、もう……全部食っちまえ」 
「いいんですか?」
 今更ながら、同席者にものすごく気を遣っている。だけど私たちも、ナオヤくんがこのお菓子をものすごくお気に召したらしいとわかったこの状況で、彼から残り一つを奪う気にはなれない。というか、そんな気も起こらない。
 三人揃って「どうぞどうぞ」と勧めると、ナオヤくんはおずおずと最後の一個に楊枝を伸ばした。大皿に溜まったシロップにこれでもかというくらい絡めてすくいとる。甘い香りが、皿からナオヤくんの口元までふんわりと軌跡を描いていく。
 ナオヤくんの口が、待ち遠そうに小さなお菓子を受け入れようと開いていた。最後の一口、という時――その手は止まった。
「ナオヤ」
 そう、彼を呼ぶ声がしたから。