かつて、『グラブジャムン』というお菓子があったことをご存じだろうか。21世紀では、世界で一番甘いと言われてきた、アジア圏インドのお菓子らしい。
濃縮した牛乳と小麦粉を混ぜて油で揚げ、大量の砂糖とローズウォーター、カルダモンなどのスパイスで味付けされたシュガーシロップに漬けて作られると聞いたことがある。
食べたことはないけど、たぶん、甘すぎてびっくりするんだろうと思う。
それが今、ナオヤくんと加地くんと弓槻さんと私……四人掛けのテーブルの中央に置かれている。小さな果実のような、一口大のボールのような形のお菓子で、たっぷりとシロップに浸かって、全体的にしっとりしている。
香りからして、とんでもなく甘い。
「これが噂の……」
「ここで世界一甘いスイーツ食べられるって噂だったから、一回来てみたかったんだけど……」
「なんか、予想以上に甘そうだな」
「う、うん……」
四人分の楊枝が刺さっていて、いつでも手を伸ばしていい状態になっている。だけど、誰も手を伸ばそうとしない。いざとなって、怖じ気づいているらしい。私もだけど。
「ここは、レディーファーストで」
加地くんが、しれっと私たちに皿を差し出した。
「加地やん、それはズルいでしょ」
呆れたように言う弓槻さんに同調して、私もぶんぶん首を縦に振った。
「いや弓槻がノリノリで食べたそうだったし。甘いものは女の子の方が好きなこと多いだろ」
「尚也……僕は、甘いものも好んで食べていたようですが……」
ナオヤくんが加地くんに言ったことで、加地くんは劣勢になったのだった。
そういえば深海くんはよくアイスとかシュークリームとかの甘いお菓子を食べていた気がする。そうだ、だから愛がよくお菓子を作っていた。私も、よくそれに付き合わされたんだった。
「あの、譲り合いをしていても埒が明きません。今日は実験のために来たので、四人同時に食べるのが最適かと思いますが、どうですか?」
加地くんも弓槻さんも、そして私も、その一言に否を唱えられるはずもない。三人で目を見合わせて、三人同時に小さく頷いた。
そしてそれぞれが楊枝にグラブジャムンを一つずつ刺して、持ち上げる。さっきまで浸かっていたシロップがしたたり落ちそうになる。
小皿で受けたりしながら、互いに視線を交わし、ナオヤくんの合図を待った。
「では、いきます……3、2、1、0」
カウントがゼロになると同時に、私たちは、世界一甘いボールをぱくんと口に放り込んだ。
「……むぐ!?」
甘さが、口いっぱいに広がって、混乱する。加地くんも弓槻さんも、動揺して言葉をなくしている。
口の中は、とにかく甘みに支配されていた。