「えーと……やっぱり簡単そうなやつから達成していくと、続けやすいよな。これなんか、いいんじゃないか?」
いつの間に選定係になっていたのか、加地くんはモニターのリストを一つ指さしていた。そこに書かれていた項目は……
・激甘スイーツを食べる
「昨日は激辛で、今日は激甘……振れ幅が大きすぎない?」
「でもこれ簡単じゃん。天宮さん、辛いのはダメでも甘いのは好きとかねえの?」
「甘いものも辛いものも好きだよ。あくまで常識の範囲内で……」
「ああ、昨日の深海は規格外だったな」
「何がですか?」
きょとんとするナオヤくんを前に、私と加地くんはちょっとだけ頭痛を覚えていた。加地くんも、あのメニューを頼んだ大半のお客さんは汗だくで顔を真っ赤にして帰って行くし、そうさせるために作っていると言っていた。まさか汗ひとつかかず嬉々として頬張る人間がいるとは思わなかったらしい。神妙な顔でそっと聞いてくる。
「甘いものでも規格外だったらどうする?」
「私に聞かれても……」
昨日の麻婆豆腐を何かしらの激甘メニューに置き換えて想像して……ちょっとゾッとしてしまった。ああでも、昨日と同じ状況になる可能性があるから、私がついていないと……そう、思った。
「なになに? 何の話? 激甘スイーツ?」
ふんわりとした声が、近づいて来た。昨日、席をひとつ空けてくれた女子……『
弓槻 紗菜』さんだ。
あまり話したことがなくて思わず萎縮してしまったけれど、加地くんがさらっと会話を続けてくれた。
「天宮さんと深海がさ、『青春の実験』やってんだって」
加地くんは、昨日私が話した内容をほぼそのまま説明してくれた。最初は怪訝な顔をしていた弓槻さんが、徐々に顔を綻ばせていく。まるで蕾が花びらを広げていく過程のようだった。
「すごい! 何ソレ、面白そう! 応援したい! ていうか、私もやりたい!」
立候補すると言わんばかりに、弓槻さんが挙手をする。それに倣って、加地くんまで挙手した。
「俺も俺も。実験やってみたい」
「僕はかまいませんが……」
ナオヤくんはそう言って、私に視線を送ってくる。私こそ、二人が加入してもいいのか聞きたいんだけど……。
そもそも『青春の実験』なんかじゃないし。自分探しのためなんかじゃなく、自分じゃないもう一人になるための実験で、完全に趣旨が真逆だ。
それなのに、ナオヤくんは何でもないように二人からの質問に答えている。主な活動内容、加入条件など……部活動みたいな扱いだ。
「ナ……深海くんがいいなら、私もいいけど……」
「では、決まりですね。第二回目の実験は本日の放課後に決行予定です」
「了解!」
「了解です、隊長!」
部活どころか軍隊になりつつある……。
「それで何だっけ? 激甘スイーツ? なら、行く場所は決まりだね」
弓槻さんがそう言って、不敵な笑みを浮かべる。自信あり、といった様子だ。
「任せて。悲鳴上げるくらい甘いのを出してくれるお店、知ってるから」
悲鳴が上がるくらい辛いものを昨日食べたばかりだっていうのに。行動の振れ幅が大きすぎて、ついていけるか不安だ……そう思っていると、弓槻さんが首を傾げて、尋ねた。
「ところで……なんで実験で激甘?」
その問いに答えられる人間は、その場にはいなかった……。