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彼女の愛した不為人~マリオネット~ 1-①

ー/ー



 夫が希和子さんと一緒にいると知らされ。



「どうして……」

 パニックに陥る佐和子さん。

 震える手を、ハルが握りしめる。


「それは、事実? それとも、親父の……」

 声は震えるが、腹にぐっと力をこめて、ハルは問う。


「最初は、丸さんから借りた写真で、確認した。少なくとも、生きてはいる、ってことは、ね。で、希和子さんの存在に気が付いて、所在を確認してもらった。そうしたら、なんと、すぐそこにいたんだよ。山を越えた、すぐ向こうにね」

 瑛比古さんは、窓の外に指で示す。

 その先には、地域の名峰である冠山があり、その先は……隣県だ。


 県境にあるこの市は、県中央部に行くより、県境を越えて隣県に行く方が、実は近い。

 が、警察は県単位で管轄が決まっているため、県境を越えると捜査の手が及びにくい。

 そこをうまく突かれて、存在を隠されていたのである。


 佐和子さんのご主人貴弘さんと六歳の弘夢(ひろむ)くんが、無事生存確認されたのは、今朝のこと。


 丸田氏提供の写真から、希和子の存在に気が付いた瑛比古さんは、その所在を丸田氏に調べてもらった。

 佐和子さんが養子であることは確認済みだったが、改めて両親に確認、了解を得て、警察経由で戸籍を確認し、その存在が分かった。

 三年前は、行方不明になった貴弘さんの縁戚関係は深く調べたものの、佐和子さんについては聞き取りだけで、ほぼノータッチだったという。

 現住所も判明したが、現在は家族の看病のため、県外にホテル住まいだという。

 毎日足しげく通っているという、その入院先もすぐ判明した。


 そして。

 瑛比古さんの読み通り、その病院に、貴弘さんらしき人物が長期入院していた。

 私立のその病院の出資者は須藤(スドウ)義正(ヨシマサ)氏……著名な実業家であり、須藤希和子――佐和子さんの実の妹の、養父であった、というところまで、公園で覗き中、もとい待機中、丸田氏から連絡を受けていた。
 

「今、あちらに担当者送って事実確認している。待機はしていたんだが、確証がつかめないと公に動くこともできなくてな。しかも、やたら所轄をまたぐと、いらん騒ぎが起きる。まあ、正直、瑛比古くんやハルくんの力で、というのも、証拠能力はないんだが。何とか状況証拠の裏付けが取れれば、立件できるかもしれんが」

 元、とはいえ平の警察官だった丸田氏だが、組織の上層部にはかつて部下としてしごいた……もとい、面倒をみた出世頭もいて、まだまだ顔が効く。

 県外は管轄違いでやりにくさはあるが、たまたま知り合いがあちらの所轄にいたので、そのコネも総動員した。


「ただ、今回は、逮捕は難しいかもしれん。相手が大物でな。貴弘さんと弘夢くんの安全を優先して、善意の保護をしてくれていた、という形になるかもしれんな。それで勘弁してほしい」

「でも、佐和子さんのご主人の……貴弘さん? の証言があれば……?」

「ハル」

 申し訳なさそうな丸さんの言葉にハルが食い下がるが、それを制して瑛比古さんは首を左右に振る。

「それが、難しいみたいなんだよ。その入院している男性は、意識障害の状態……有体に言えば、精神障害、記憶喪失の状態らしい」

「……!」


「……希和子の仕業、なんですね? 記憶喪失になるなんて、ハルくんの話の内容が本当なら、……それ以上に酷いこと、されたんじゃ……」

 ポツリとつぶやく佐和子さんに、今度はハルが首を左右に振って。

「……いや、希和子さん、あの男性に、何も感じていない。少なくとも、佐和子さん以上には」

「それは、希和子が私を憎んでいるから……」

「ううん、憎いとか、愛とか、そういう、一切の感情を、彼には向いていない。まだ、子供さん、あの子に対する思いの方がまだはっきり感じ取れた。彼には……貴弘さんに対しては、まるで、人形みたいに、役をあてがって遊ぶみたいな、モノ扱いしている感じがした」





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 夫が希和子さんと一緒にいると知らされ。
「どうして……」
 パニックに陥る佐和子さん。
 震える手を、ハルが握りしめる。
「それは、事実? それとも、親父の……」
 声は震えるが、腹にぐっと力をこめて、ハルは問う。
「最初は、丸さんから借りた写真で、確認した。少なくとも、生きてはいる、ってことは、ね。で、希和子さんの存在に気が付いて、所在を確認してもらった。そうしたら、なんと、すぐそこにいたんだよ。山を越えた、すぐ向こうにね」
 瑛比古さんは、窓の外に指で示す。
 その先には、地域の名峰である冠山があり、その先は……隣県だ。
 県境にあるこの市は、県中央部に行くより、県境を越えて隣県に行く方が、実は近い。
 が、警察は県単位で管轄が決まっているため、県境を越えると捜査の手が及びにくい。
 そこをうまく突かれて、存在を隠されていたのである。
 佐和子さんのご主人貴弘さんと六歳の|弘夢《ひろむ》くんが、無事生存確認されたのは、今朝のこと。
 丸田氏提供の写真から、希和子の存在に気が付いた瑛比古さんは、その所在を丸田氏に調べてもらった。
 佐和子さんが養子であることは確認済みだったが、改めて両親に確認、了解を得て、警察経由で戸籍を確認し、その存在が分かった。
 三年前は、行方不明になった貴弘さんの縁戚関係は深く調べたものの、佐和子さんについては聞き取りだけで、ほぼノータッチだったという。
 現住所も判明したが、現在は家族の看病のため、県外にホテル住まいだという。
 毎日足しげく通っているという、その入院先もすぐ判明した。
 そして。
 瑛比古さんの読み通り、その病院に、貴弘さんらしき人物が長期入院していた。
 私立のその病院の出資者は|須藤《スドウ》|義正《ヨシマサ》氏……著名な実業家であり、須藤希和子――佐和子さんの実の妹の、養父であった、というところまで、公園で覗き中、もとい待機中、丸田氏から連絡を受けていた。
「今、あちらに担当者送って事実確認している。待機はしていたんだが、確証がつかめないと公に動くこともできなくてな。しかも、やたら所轄をまたぐと、いらん騒ぎが起きる。まあ、正直、瑛比古くんやハルくんの力で、というのも、証拠能力はないんだが。何とか状況証拠の裏付けが取れれば、立件できるかもしれんが」
 元、とはいえ平の警察官だった丸田氏だが、組織の上層部にはかつて部下としてしごいた……もとい、面倒をみた出世頭もいて、まだまだ顔が効く。
 県外は管轄違いでやりにくさはあるが、たまたま知り合いがあちらの所轄にいたので、そのコネも総動員した。
「ただ、今回は、逮捕は難しいかもしれん。相手が大物でな。貴弘さんと弘夢くんの安全を優先して、善意の保護をしてくれていた、という形になるかもしれんな。それで勘弁してほしい」
「でも、佐和子さんのご主人の……貴弘さん? の証言があれば……?」
「ハル」
 申し訳なさそうな丸さんの言葉にハルが食い下がるが、それを制して瑛比古さんは首を左右に振る。
「それが、難しいみたいなんだよ。その入院している男性は、意識障害の状態……有体に言えば、精神障害、記憶喪失の状態らしい」
「……!」
「……希和子の仕業、なんですね? 記憶喪失になるなんて、ハルくんの話の内容が本当なら、……それ以上に酷いこと、されたんじゃ……」
 ポツリとつぶやく佐和子さんに、今度はハルが首を左右に振って。
「……いや、希和子さん、あの男性に、何も感じていない。少なくとも、佐和子さん以上には」
「それは、希和子が私を憎んでいるから……」
「ううん、憎いとか、愛とか、そういう、一切の感情を、彼には向いていない。まだ、子供さん、あの子に対する思いの方がまだはっきり感じ取れた。彼には……貴弘さんに対しては、まるで、人形みたいに、役をあてがって遊ぶみたいな、モノ扱いしている感じがした」