
(恨むぞ姉貴ィ!!!)
相引セキ、心中での咆哮である。
いや、直接的な原因を作ったのは僕だし、怒るのはお門違いってことは重々承知なんだけどさ。流石に自分の住む町の土地神様が自分のせいで
ソッチに目覚めたとか考えると冷静ではいられないわ。
趣味嗜好は否定しないけど、心情的にね!!
「なんの話してんの、コレ? Too fast... ンー、早くてワカラン……」
幸い……と言っていいのかは分からないが、あまりにも早口なせいかサラには内容が伝わっていないらしい。
「――で、セキさん!」
「あっはい」
「こういった本は、どこにあるんかね!?」
あの、さっきまでの控えめな神様はどこに行ったんですか。口調も一瞬で砕けたし何がアナタを変え……。
……あ、もしかして仲間だと思われてる? そりゃあそうか。持ち込んだの僕だし。
キラキラとした瞳で見つめられて気圧されながら、絞り出すように口を開いた。
「わ……っからない、ですねえ……」
目を逸らしながらもなんとかそう口にした瞬間、神様は凄まじい勢いで詰め寄ってきた。
「な、なんで!? アンタが持ってきた物じゃろ!? 神に隠し事したら良い事ないよ!?」
「身体を光らせないでください怖いです! そもそもソレ預かり物で僕のではないんですよ!」
「じゃ、じゃあ他の本は!? この前いっぱい持っとったじゃろ!」
「あれは……すいません、元々捨てるように言われてたので、もう……」
「そ、そんな……」
既に捨てられていると知った神様は大変ショックを受けたようで、崩れ落ちて両膝をついた。
リアクションが古臭い。いやまあ神様だし、そういうものか。
しかしここまでショックを受けるとは。これは流石に責任を感じるな……。
「よく分からないケド、ちょっとカワイソだね」
「うーん、そうだなぁ……」
内容はともかくとして、せっかく『面白い!』と思えるものを見つけたのに、既に見つからないというのは何とも不憫だ。
この土地を護ってくださるお方に事故とはいえ興味を持たれたのに、『他にはないので帰ってください』は流石に可哀そうではある。
「う~ん……。あっ、じゃあ今度、元々その本持ってた人に訊いてみましょうか。僕は詳しくないけど、もしかしたら知ってるかも」
「ほ、本当!? ……ですか!?」
「あ、話しカタ戻った」
「はっ、す、すいません!」
「あーどっちでも大丈夫ですよ」
神様は冷静になられたようで、口調も態度も元の気弱な感じに戻っていた。気が弱いみたいだけど、気のいい人……いや、神様のようだ。
とりあえず帰ったら姉貴に連絡してみよう。事情を話せばわかってくれるはずだ。
「ただ、あの人忙しいからなかなか返信帰ってこないんですよね……」
「か、構いません。何か月、何年でも待てます」
「流石神様、スケールが違う」
「長生きなんだネ。あ、その本どうすンノ? 捨てる?」
「え゛」
サラの疑問に対して神様は絶望の表情で固まった。
回収はできればしたいけど……今更取り上げるのは申し訳ない。
「……捨てる予定だった物ですけど、それでも良いのなら」
「は、はい! ありがとうございます!」
「ナルホド、ホーノーってヤツだね!」
「すげえ罰当たりに聞こえる」
捨てる本を奉納、しかも中身が
アレ。
キミのお婆さんにぶん殴られないかな僕。
「あ、一応他の人には中身見せないでくださいね? ホントに」
「分かりました!」
うん、良い笑顔だ。人間、笑顔でいるのが一番だよね。美人ならなおさらだ。
人じゃなくて神様だけど。
(リーン……ゴーン……)
「「「あっ」」」
神様に念を押したところで、町内放送による音楽が鳴った。
もうそんな時間か。そういえば結構日も落ちてきてるな。
結局掃除はできなかったけど、土地神様と直接話せるなんて貴重な体験をしたわけだし……まあいいか。死にかけた点はよくないけど。
「そろそろ帰らないと。神様、また来ますね」
「あっ、はい」
「あ、最後に一つだけイイかナー?」
鞄を肩にかけて帰ろうとすると、サラが手を掲げた。
「カミサマって呼ぶのヒザクルシーし名前とかないノ?」
「膝苦し……?」
「『堅苦しい』ね。ていうか神様に直接名前とか訊くの不敬だったりしません?」
「だ、大丈夫ですよ。気にしてませんから」
サラの間違いはともかく、呼び名については僕としても気になるところだった。
この社は謎が多く、祀っているのが土地神様であることしか知られていない。管理しているアザミさんでさえ知らないのだから、本
人に訊けるのならちょうどいいや。
それにしたってサラはちょっと気軽すぎるような気がするけど……神様が気にしてないならいいか。
「じゃ、じゃあ、あらためて自己紹介ですね。私のことは『キリ』とでも御呼び下さい」
「ご存じかもしれませんが、相引セキです。宜しくお願いします、キリ様」
「榎園サラ! です! キリサマ、ヨロシク! コレでトモダチだネ!」
「と、友達……! あ、え、えっと、もっと砕けた呼び方でも……」
「じゃあキリ……さん、も気楽に接してください。慣れてきてからでもいいので」
「う、うん。ぜ、善処しま、する」
「キサマ、ヨロシク!」
「不敬すぎる」
とんでもない呼び方をしながらキリさんと握手を交わすサラの後頭部に思わず軽いチョップを入れた。砕けるどころじゃないってソレ。
「ふふっ、分かりまし……いや、分かった。また来んさいね」
そんな感じで今更な自己紹介をして、神様……キリさんとお別れした。
夕日に照らされる中、ぎこちないながらも嬉しそうに僕らを見送る彼女の笑顔はとても可愛らしく、綺麗だった。
余談だが、サラが握手しているのを見て僕も手を前に出したら避けられた。
帰り際、階段でサラに慰められました。
〇〇〇
「大体こんな感じで自己紹介して別れたね」
「面白い体験してんのなお前ら」
「まあ珍しくはあるかもね」
時と場所は変わって体育終わりの教室へと戻る最中の廊下。
僕はフキに昨日のできごとの続きを話しながら歩いていた。
「にしても和服のアルビノ美人かー。俺も見たいけど、話を聞く限り気弱な人みたいだし、怖がらせちまいそうだな」
「僕ですらダメだったからね。でもサラとは結構話せてたし、男性自体が苦手なのかも」
フキは顔は良いし話せば面白い奴ではあるが、背が高いこともあって初対面だと怖い印象を持つ人も少なくない。それを自覚しているのか少し残念そうな表情をしている。
「ま、そのうち紹介してくれや。なんかトラブルになったら助けてやれるし」
「本音は?」
「俺も美人に会いたい。あわよくば連絡先交換したい」
正直すぎる。そういうとこ嫌いじゃないよ。
問題があるとしたらおそらくキリさんは連絡手段を持っていない可能性が高いことくらいだな。
……一応、フキには相手が土地神様であることや僕が浮いたことなんかはぼかして説明した。
フキのことを信用していないからじゃない。フキが信じてくれるとは限らないからだ。
ていうか普通は信じないと思う。昨日あっさり信じられたのは自分自身が浮いたりキリさんが光ったりしているのを目の当たりにしたことが大きい。
勿論、多様性を重んじるのは嘘ではないけどね。話し手としてその辺の分別はついているさ。
「まあ機会があれば紹介するよ。あるかは知らないけど」
「ああ、頼むわ。なんなら今お前がその人の連絡先を教えてくれてもいいぞ」
「強請るなら自分で勝ち取って来いよ……おっと噂をすれば」
「女子の方が早く終わってたみたいだな」
二人でふざけ合いながら教室に戻ると、先に着いていたらしいイザとサラの姿が見えた。なにやら話している様子である。
気になって近づいてみると、
「えー……それ騙されてない……?」
「ホントーだって! 神様と知り合いになったんダッテ……あ、セッチャン!」
はい分別のついてないおバカさん発見。
いや口止めはしてなかったけどね?
「Heyセッチャン、昨日のことカンケツな説明ヨロです!」
「僕 サラ 社 土地神 アルビノ美少女 探す本 約束。以上だ」
「なんで検索履歴みたいに羅列した?」
「なるほど。お前ら二人が社に行ったらさっき話していたキリさんというアルビノ系美女と出会い、その人がここの土地神様でお前の落とした本の続きを探していた。そしてそれを手伝う約束をした、と」
「なんでアンタは翻訳できんのよ」
流石フキ、僕の意図を完璧に読み取ってくれた。理解ある親友を持てて嬉しいよ。
「い、いや絶対怪しいじゃんソレ。なんかヤバイ話の手口でしょ」
「まるで僕らが騙されやすいかのような言い分だな」
「シツレイだわヨ」
「そうとしか言ってないでしょバカどもが」
やだこの女辛辣。コレでいて容姿は美少女なのだから世の中のバランスとは絶妙なものである。
ちなみに僕らはバカではない。ちょっとピュアでお茶目なだけだ。
「まあ落ち着けって。この二人がボケ担当なのは今に始まったことじゃないだろ。もうちょい詳細聞こうぜ」
万年ボケ担当のフキに言われるのは誠に遺憾だが、その意見については賛成である。
というわけでサラと一緒に昨日の状況説明を再開したわけだけど……。
「エット、まずセッチャンがFly highしてサ」
「五点接地で地上に帰ってきました」
「なるほどな。何やら神様の不思議な力でセキは空を舞って五点接地でなんとか無事だったというわけか」
「うん。フキに教えてもらってて助かったよ」
「せめて常人が分かるように説明してくれない?」
僕らが常人ではないと申すのかね井櫻よ。
それから昨日出会った相手が土地神様であること、僕が浮き上がった体験、いかに神様が美人だったか等きちんと一から説明した。
彼女が拾った本の内容だけは伏せたけど。
その結果、昼休憩の時間をギリギリまで使う羽目になったわけだが――
「いやゴメン、分からんわ……」
「だろうね。ほとんどサラのノリに合わせたから僕自身も何言ったか分からないし」
――僕だけ軽く叩かれた。全くもって遺憾である。