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2話 土地神様の扉が開かれた その二

ー/ー





 ――五点接地、というものをご存じだろうか。


 それは着地の衝撃を体の各部位に分散させる技術である。
 足裏からふくらはぎ、太腿、尻、背中や肩といった順に接地させることで衝撃を逃がし、被害を最小限に抑えるものだ。
 高所からの落下時に行うものであり、パラシュートでの降下訓練などが最たる例である。


 なぜそんな説明をしたのかって?

 さっき実演してみせたからさ……。


「ハァ……ハァ……、死ぬかと思った。マジで死ぬかと思った……」


 横倒れのままうわごとのように呟いた。
 柊崎……フキが所属しているボルダリング部。その体験入部の時に教わっておいてよかった。
 あの頃はほとんど成功しなかったけど、人間死ぬ気でやればできるモンだな……。


(※高所からの五点接地転回法は大変危険です。絶対に真似しないで下さい)


「セッチャンすっごいねェ。どうなってんノ? 大丈夫?」
「こっちが訊きたい……あだだ」

 呑気に拍手しているサラを尻目になんとか立ち上がる。
 衝撃は完全には受け流せなかったらしく、身体の節々が痛い。
 ただ、怪我らしい怪我は多少のかすり傷程度のもので大したことはなさそうだ。すげえな僕。

「ご、ごごごごめ、ごめんなさいいぃぃ!!」

 サラと一緒に砂埃を掃っていると、白髪の女性が物凄い勢いで頭を下げてきた。

「Oh, Sorry in Japanese... DOGEZAだね!!」
「え、ちょ、なんで!?」



「――落ち着きました?」
「は、はい。すみません、はい」

 なんとか土下座体勢から顔を上げてもらい、社の裏手の倉庫にあった長椅子を引っ張り出して座らせた。あのままだと話もできないからね。
 とにかく、この人には色々と訊ねたいことがあるわけだが、さっきからどうしても気になる点がまず一つあった。

「えーっと、色々とお訊きしたいことはありますが」
「は、はい」
「「なんで光ってんの?」」

 僕が空中から降りて(落ちて)からというもの、彼女の身体はなんだかぼんやりと薄く淡い光を放っていた。
 最初はぶつけたショックで幻覚でも見ているのかと思ったけど、サラにも見えているようなのでどうやら幻の類ではないらしい。
 蛍光塗料とかそういったものにも見えないし、どうなってるんだ。

「こ、これはその、体質? というか……って、む、無理がありますよね。ごめんなさ」

「え、スゴッ。電気点けなくても夜過ごせるジャン」
「節電効果半端ないな。家計が助かる体質だ」
「え、あれ? 思っとった反応と違うんじゃけど……」

 最近は電気代の高騰も馬鹿にできないからな。光量も程よく眩しくないし、コントロールができるなら便利かもしれない。

「あ、あの……何か、お、おかしいとか思わないんですか?」
「「え? 何が?」」
「いやあの、そんな体質ありえないーとか……」
「思わなくはナイケドー」
「アメリカ人と日本人のハーフで社の管理者の家系っていう人間もいるからな。そういう体質の人もいるでしょ」
「いやそれ方向性だいぶ違わんか?」
「世の中っていうのはあらゆることに寛容的なんですよ」

『ありえない』と一蹴して受け入れないよりもまずは受け入れて考える。柔軟性が求められる現代社会においてここまで即座に受け入れる僕らは現代人の鑑と言っていいだろう。

「じ、時代は変わるもんじゃね……」
「アレ? なんか話しカタ変わった?」
「え、あ、すすすすいません!」
「謝らなくてもイイケド……」

 この話し方、もしかして別の県から来たのだろうか。
 広島とか山口とかこんな方言だった気がする。方言女子ってやつかな?

「まあいいや。じゃあ次ですけど、さっき僕が浮いてたのってなんなのか分かってたりします?」
「そういえばさっき『降ろします』とか言ってたヨネ」
「ええと、それはそのぅ」

 彼女は言っていいのか分からない、といった風にあちこちに目線を泳がせまくった。それはもう回遊魚の如く動いている。
 僕とサラがその様子をじーっと見つめ続けていると、彼女は観念したように声を絞り出した。


「わ、私……その……、この社に祀られてる、ような。……神というか。そんな感じなんです……けど……」


 小さな声だが、たしかに聞こえた。
 自分は神様で、今僕らの目の前にあるこの社に祀られている存在だ、と。
 不安そうな表情の後、怒られるのを待つ子どものように目を瞑る彼女に対して、僕らは――

「なるほど、神様か。そりゃあ浮くわけだわ」
「ホンモノ初めて見た! サイン貰ってイイ?」
「えっ」


 ――普通に納得して、はしゃいでいた。


「ここに祀られてるってことは土地神様なんですよね?」
「えっ、あ、えっと……まあ、はい……」
「じゃあいつもこの辺り守ってくれてるテコト?」
「ま、まあ……そんな感じ……ですね。えへへ……」

「「いつもお世話になってます!!」」


「あ、はい。………………いや反応おかしくない!?」


 二人揃って腰を曲げて頭を下げると、なんかツッコミを入れられた。
 どうやら神様にとっては思っていたリアクションと違ったらしい。

「え、いや……。普通、こう……もっと驚くとか、信じないとか」
「エー、驚いてるヨ? でもサー」
「あらゆる個性に対して寛容的な世の中ですので……」
「なんかもう今の世が怖くなってきたんじゃけど」

 現代の風潮について再度説明すると、神様は感心したように呟いて頭を抱えられた。
 感心っていうかむしろ引いてる気がするけどきっと気のせいだろう。

「その、それで……さっきセキさんが浮いちゃったのは……」
「カミサマPower?」
「あ、はい。神通力っていうんですけど、ちょっとだけ物を動かしたりする念動力とか、思考を読んだりする天眼通とかいろいろできて……。さっきはその、驚いて使ってしまって……」
「なるほど。つまり僕が怖くなってうっかり上にやっちゃったと」
「本当に申し訳ありません……」

 ふむ。まあ怖がらせたのは僕だし、むしろ謝るのは僕の方なんだけど……。
 神様の様子を見るに、その辺を指摘すると堂々巡りになって話が進まなさそうだ。口を噤んでおこう。

「ア、じゃあカラダが光るタイツ?「体質ね」……ってユーのは」
「あ、はい。嘘です。すいません。力を使ったらあんな感じになるん……です」
「無理に敬語じゃなくてもいいですよ? 神様なんですし」
「いいいいえ! セキさんにもサラさんにもご迷惑をおかけした分際ですので、はい!」
「ええー……?」

 僕はともかく、サラにはなんにもしてない気がするけどなぁ。
 それになんというか、こうやってへりくだられると上下関係が分からなくなってくる。神様にとしてはそういうのはあまり重視していないんだろうか。
 ……ていうか自己紹介したっけ? さっきから僕らの名前……って、ああそうか。これも神通力か。
 まあそれはさておき、次の質問だ。

「あの、神様はどうして姿を現したんですか? 今まで僕、見たことなかったんですけど」
「ワタシも」
「はっ! そうじゃっ……でした!」

 もう口調については取り繕わなくていいんじゃないかな。
 そんなことを言いそうになってこらえたところで、目の前で神様が取り出したるは僕が浮く前に渡されたはずの綺麗な包装の薄い本待て待て待て待て。

「お預かりします」
「あー! ……って、元はセキさんのじゃっ……したね」

 さっき浮かされた時に落としてたのか。完全に忘れてた……。
 僕のではありませんけどね。
 あとやっぱり無理に敬語じゃなくていいんじゃ……。

「その話しカタやめていいんじゃナイすか?」
「あ、いや……えっと……努力します、はい」

 預か(うば)った本を鞄に入れていると、サラにも同じことを突っ込まれて控えめに首を縦に振っていた。
 あれ? サラの言うことはすんなり従うの?
 一応自分の社の管理をしてる氏子(うじこ)の血筋だし対応も少し甘いのかもしれない。

「……で、この本がなんでしょう」
「あ、えっと、それが社のそばに落ちとって」
「誠に申し訳ありませんでした!!!」

 今度はこちらが地に頭を伏せた。
 そうだ。冷静に考えたら(考えなくても)なんてものを神前に落としてるんだ僕は……!
 不敬と言われても仕方がない自分の所業を悔いるが、時すでに遅しというやつだ。

「Wow, 流れるようなDOGEZA。写真撮ってイイ?」
「あ、それはやめて」
「ン、分かった」
「よし。……甘んじて罰をお受けしますのでどうか……」
「なんでその体勢のまま平然と会話できるん!? じゃなくて、ええっと……あ、頭を上げてください! 怒っとらんから!」
「え、あ、はい」

 うん? 怒ってるわけじゃないの?
 困惑しながら立ち上がった途端、横に置いていた僕の鞄から例の本が独りでに宙を舞って神様の手元にすっぽりと収まった。

 いや、ちょっ……神通力は反則でしょ。

「え、えっと……その……こ、これ!」

 本をあっさりと奪い返されたことについて口を挟む暇もなく、彼女は告げた。



「こ、こういう薄い本ってどこで手に入るんかね……?」



 白髪の美少女姿をした土地神様の爆弾発言に、僕は混乱してしばらく固まってしまった。
 照れたように本で赤くなった顔を隠しながら、僕の言葉を待つ可愛らしい姿にときめく………なんて余裕もなく、その手元にある可愛らしくない中身を内に隠した綺麗な包装の本を凝視した。

 え……手に入……え? ……えっ?


 ………………………………まさか。


 いやいやそんな。
 いやいやいやいやそんなまさか。

 脳裏に浮かんだ可能性を頭の中で全力否定する。
 いやしかし、しかしだ。あの表情からしてそれしか考えつかな――否。
 まだだ、まだ決まったわけではない!
 動揺しつつも、なんとか口を開き、訊いた。

「ええっと……その、なぜそのようなご質問を……?」

「無論、もっと読みたいから! いやあまさか――



 ――衆道いうもんが、ここまで面白いとは思わんかった!!」



 ………間違っていてほしい、という僕の願いは儚く散った。

 いやしかし、流石にこれは予想できないだろう。



 忘れ物がきっかけで、土地神様の新しい扉を開いてしまうなんて……。





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 ――五点接地、というものをご存じだろうか。
 それは着地の衝撃を体の各部位に分散させる技術である。
 足裏からふくらはぎ、太腿、尻、背中や肩といった順に接地させることで衝撃を逃がし、被害を最小限に抑えるものだ。
 高所からの落下時に行うものであり、パラシュートでの降下訓練などが最たる例である。
 なぜそんな説明をしたのかって?
 さっき実演してみせたからさ……。
「ハァ……ハァ……、死ぬかと思った。マジで死ぬかと思った……」
 横倒れのままうわごとのように呟いた。
 柊崎……フキが所属しているボルダリング部。その体験入部の時に教わっておいてよかった。
 あの頃はほとんど成功しなかったけど、人間死ぬ気でやればできるモンだな……。
(※高所からの五点接地転回法は大変危険です。絶対に真似しないで下さい)
「セッチャンすっごいねェ。どうなってんノ? 大丈夫?」
「こっちが訊きたい……あだだ」
 呑気に拍手しているサラを尻目になんとか立ち上がる。
 衝撃は完全には受け流せなかったらしく、身体の節々が痛い。
 ただ、怪我らしい怪我は多少のかすり傷程度のもので大したことはなさそうだ。すげえな僕。
「ご、ごごごごめ、ごめんなさいいぃぃ!!」
 サラと一緒に砂埃を掃っていると、白髪の女性が物凄い勢いで頭を下げてきた。
「Oh, Sorry in Japanese... DOGEZAだね!!」
「え、ちょ、なんで!?」
「――落ち着きました?」
「は、はい。すみません、はい」
 なんとか土下座体勢から顔を上げてもらい、社の裏手の倉庫にあった長椅子を引っ張り出して座らせた。あのままだと話もできないからね。
 とにかく、この人には色々と訊ねたいことがあるわけだが、さっきからどうしても気になる点がまず一つあった。
「えーっと、色々とお訊きしたいことはありますが」
「は、はい」
「「なんで光ってんの?」」
 僕が空中から|降りて《落ちて》からというもの、彼女の身体はなんだかぼんやりと薄く淡い光を放っていた。
 最初はぶつけたショックで幻覚でも見ているのかと思ったけど、サラにも見えているようなのでどうやら幻の類ではないらしい。
 蛍光塗料とかそういったものにも見えないし、どうなってるんだ。
「こ、これはその、体質? というか……って、む、無理がありますよね。ごめんなさ」
「え、スゴッ。電気点けなくても夜過ごせるジャン」
「節電効果半端ないな。家計が助かる体質だ」
「え、あれ? 思っとった反応と違うんじゃけど……」
 最近は電気代の高騰も馬鹿にできないからな。光量も程よく眩しくないし、コントロールができるなら便利かもしれない。
「あ、あの……何か、お、おかしいとか思わないんですか?」
「「え? 何が?」」
「いやあの、そんな体質ありえないーとか……」
「思わなくはナイケドー」
「アメリカ人と日本人のハーフで社の管理者の家系っていう人間もいるからな。そういう体質の人もいるでしょ」
「いやそれ方向性だいぶ違わんか?」
「世の中っていうのはあらゆることに寛容的なんですよ」
『ありえない』と一蹴して受け入れないよりもまずは受け入れて考える。柔軟性が求められる現代社会においてここまで即座に受け入れる僕らは現代人の鑑と言っていいだろう。
「じ、時代は変わるもんじゃね……」
「アレ? なんか話しカタ変わった?」
「え、あ、すすすすいません!」
「謝らなくてもイイケド……」
 この話し方、もしかして別の県から来たのだろうか。
 広島とか山口とかこんな方言だった気がする。方言女子ってやつかな?
「まあいいや。じゃあ次ですけど、さっき僕が浮いてたのってなんなのか分かってたりします?」
「そういえばさっき『降ろします』とか言ってたヨネ」
「ええと、それはそのぅ」
 彼女は言っていいのか分からない、といった風にあちこちに目線を泳がせまくった。それはもう回遊魚の如く動いている。
 僕とサラがその様子をじーっと見つめ続けていると、彼女は観念したように声を絞り出した。
「わ、私……その……、この社に祀られてる、ような。……神というか。そんな感じなんです……けど……」
 小さな声だが、たしかに聞こえた。
 自分は神様で、今僕らの目の前にあるこの社に祀られている存在だ、と。
 不安そうな表情の後、怒られるのを待つ子どものように目を瞑る彼女に対して、僕らは――
「なるほど、神様か。そりゃあ浮くわけだわ」
「ホンモノ初めて見た! サイン貰ってイイ?」
「えっ」
 ――普通に納得して、はしゃいでいた。
「ここに祀られてるってことは土地神様なんですよね?」
「えっ、あ、えっと……まあ、はい……」
「じゃあいつもこの辺り守ってくれてるテコト?」
「ま、まあ……そんな感じ……ですね。えへへ……」
「「いつもお世話になってます!!」」
「あ、はい。………………いや反応おかしくない!?」
 二人揃って腰を曲げて頭を下げると、なんかツッコミを入れられた。
 どうやら神様にとっては思っていたリアクションと違ったらしい。
「え、いや……。普通、こう……もっと驚くとか、信じないとか」
「エー、驚いてるヨ? でもサー」
「あらゆる個性に対して寛容的な世の中ですので……」
「なんかもう今の世が怖くなってきたんじゃけど」
 現代の風潮について再度説明すると、神様は感心したように呟いて頭を抱えられた。
 感心っていうかむしろ引いてる気がするけどきっと気のせいだろう。
「その、それで……さっきセキさんが浮いちゃったのは……」
「カミサマPower?」
「あ、はい。神通力っていうんですけど、ちょっとだけ物を動かしたりする念動力とか、思考を読んだりする天眼通とかいろいろできて……。さっきはその、驚いて使ってしまって……」
「なるほど。つまり僕が怖くなってうっかり上にやっちゃったと」
「本当に申し訳ありません……」
 ふむ。まあ怖がらせたのは僕だし、むしろ謝るのは僕の方なんだけど……。
 神様の様子を見るに、その辺を指摘すると堂々巡りになって話が進まなさそうだ。口を噤んでおこう。
「ア、じゃあカラダが光るタイツ?「体質ね」……ってユーのは」
「あ、はい。嘘です。すいません。力を使ったらあんな感じになるん……です」
「無理に敬語じゃなくてもいいですよ? 神様なんですし」
「いいいいえ! セキさんにもサラさんにもご迷惑をおかけした分際ですので、はい!」
「ええー……?」
 僕はともかく、サラにはなんにもしてない気がするけどなぁ。
 それになんというか、こうやってへりくだられると上下関係が分からなくなってくる。神様にとしてはそういうのはあまり重視していないんだろうか。
 ……ていうか自己紹介したっけ? さっきから僕らの名前……って、ああそうか。これも神通力か。
 まあそれはさておき、次の質問だ。
「あの、神様はどうして姿を現したんですか? 今まで僕、見たことなかったんですけど」
「ワタシも」
「はっ! そうじゃっ……でした!」
 もう口調については取り繕わなくていいんじゃないかな。
 そんなことを言いそうになってこらえたところで、目の前で神様が取り出したるは僕が浮く前に渡されたはずの綺麗な包装の薄い本待て待て待て待て。
「お預かりします」
「あー! ……って、元はセキさんのじゃっ……したね」
 さっき浮かされた時に落としてたのか。完全に忘れてた……。
 僕のではありませんけどね。
 あとやっぱり無理に敬語じゃなくていいんじゃ……。
「その話しカタやめていいんじゃナイすか?」
「あ、いや……えっと……努力します、はい」
 |預か《うば》った本を鞄に入れていると、サラにも同じことを突っ込まれて控えめに首を縦に振っていた。
 あれ? サラの言うことはすんなり従うの?
 一応自分の社の管理をしてる|氏子《うじこ》の血筋だし対応も少し甘いのかもしれない。
「……で、この本がなんでしょう」
「あ、えっと、それが社のそばに落ちとって」
「誠に申し訳ありませんでした!!!」
 今度はこちらが地に頭を伏せた。
 そうだ。冷静に考えたら(考えなくても)なんてものを神前に落としてるんだ僕は……!
 不敬と言われても仕方がない自分の所業を悔いるが、時すでに遅しというやつだ。
「Wow, 流れるようなDOGEZA。写真撮ってイイ?」
「あ、それはやめて」
「ン、分かった」
「よし。……甘んじて罰をお受けしますのでどうか……」
「なんでその体勢のまま平然と会話できるん!? じゃなくて、ええっと……あ、頭を上げてください! 怒っとらんから!」
「え、あ、はい」
 うん? 怒ってるわけじゃないの?
 困惑しながら立ち上がった途端、横に置いていた僕の鞄から例の本が独りでに宙を舞って神様の手元にすっぽりと収まった。
 いや、ちょっ……神通力は反則でしょ。
「え、えっと……その……こ、これ!」
 本をあっさりと奪い返されたことについて口を挟む暇もなく、彼女は告げた。
「こ、こういう薄い本ってどこで手に入るんかね……?」
 白髪の美少女姿をした土地神様の爆弾発言に、僕は混乱してしばらく固まってしまった。
 照れたように本で赤くなった顔を隠しながら、僕の言葉を待つ可愛らしい姿にときめく………なんて余裕もなく、その手元にある可愛らしくない中身を内に隠した綺麗な包装の本を凝視した。
 え……手に入……え? ……えっ?
 ………………………………まさか。
 いやいやそんな。
 いやいやいやいやそんなまさか。
 脳裏に浮かんだ可能性を頭の中で全力否定する。
 いやしかし、しかしだ。あの表情からしてそれしか考えつかな――否。
 まだだ、まだ決まったわけではない!
 動揺しつつも、なんとか口を開き、訊いた。
「ええっと……その、なぜそのようなご質問を……?」
「無論、もっと読みたいから! いやあまさか――
 ――衆道いうもんが、ここまで面白いとは思わんかった!!」
 ………間違っていてほしい、という僕の願いは儚く散った。
 いやしかし、流石にこれは予想できないだろう。
 忘れ物がきっかけで、土地神様の新しい扉を開いてしまうなんて……。