「神様、お願い!
オレ、今日が初めてのデートなんだ!!」
年の頃、十代半ばの少年ー竹本直哉が、何でも願いが叶うという菊陣《キクジン》神社の本殿で、デート内容を拝みながら、長々と説明して頭を下げた。
すると、どうだろう……
辺りが急に暗くなったではないか!
「えっ?
何が起こっているんだ!?」
“遅刻したら大変なのに……”と、慌てふためく直哉。
しかし、彼の困惑する言葉に、答える者は当然いない。
倉皇しているうちに、まるで朝日が差すように、ゆっくりとしたスピードで、再び辺りが明るくなった。
そして、そこには年齢不詳の真っ青なシャツを身に付けた見知らぬお爺さんが、ほぼ無表情のままで立っていた。
「また、お前か!」
「また?」
“何処かでお会いしましたっけ?”と、直哉
はますます混乱しながらも、そう訊ねてみる。
「わしは、菊陣《キクジン》の神である。
おぬしの願いは、両手が塞がる程聞いておるぞ!」
強い口調で掻い摘まんで説明する神様。
しかし、無表情な為に怒っているのか良く分からない。
「あのぅ……
何故そんなに怒っているのでしょうか?」
直哉は“理由が良く分からない”という表情を浮かべ、黙っている神様に恐る恐る訊ねた。
「おぬしに依頼された願いは、わしが自ら作った特殊ルートを使って、家の前のみならず裏庭にも広げ、全て山積みにしておいたぞ」
「やま……ずみ……」
「そうじゃ!
帰ってから良く確かめるがよい!!」
「いや、ちょっと!」
僕にそんな事を言われても……
それよりも今日のデートを成功させたくて、お願いしに来たのですが?」
直哉は“過去の願いなどどうでもいいです”と言わんばかりに、そう主張してみる。
「それなら……」
“ああ、うるさいのぅ”と、いう心の声を表情に出し、勿体ぶる態度で神様はそういいながら、ある方向を指差した。
そこは、直哉の実家《イエ》の方向である。
何故そんな場所を指差したのかは定かではないが、神様の行動は不信になるを得なかった。
“取り敢えず無視だ無視”と、直哉が心に決めた時である。
「悪い事は言わんから、今すぐ実家《イエ》に帰って、赤く小さな箱を受け取るがよい」
“そこに答えが入っておるぞ”と、告げたと思った神様は、音もなく姿を消してしまう。
「無責任だな……」
直哉がムスッとした表情を浮かべて呟いたその刹那。
気が付くと、彼は菊陣《キクジン》神社の参道に立っていた。
(本殿の前に立っていたはずなのに?)
“歩きながら神様と話していたのか?”と、驚いた様子を見せる直哉。
その途端、怒りがふつふつと湧いてきた。
「なんだよ!
真剣に悩んで、参拝しに来たのに!!」
“悩んでいたのが馬鹿みたいだ……”と、直哉は誰もいない参道に怒りを吐き捨てて、彼女が待っているであろうデートの待ち合わせ場所へと足を向ける。
この後、彼の願いが叶ったかどうかは、分からない。
また、彼の気が変わり、神様の言う通りに赤い箱を開けていたら、どうなっていたかも不明だ。
いずれにしても“あの時神様の言う赤い箱を探して開けておけば……”という後悔は、今の段階で起きない事だけは確かである。
彼に“自分は最初から幸せだったのだ”と、気付いてほしかったのだが……
“全ては神のみぞ知る”とは、よく言ったものである。
お仕舞い