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鏡の奥の片翼人~ベターハーフ~ 2-②

ー/ー



 そして、場面は再び、明知屋へ。

 みんなの注文したものや、戸惑う佐和子さんの為にシェフに適当に見繕ってもらった料理がテーブルに並び。

(もちろん小早川クン待望のサンドイッチも)


「佐和子さん。この人達は、私の知り合いで、君のご主人と子供さんを探す協力を頼んだんだ。そこのハルくん……晴比古(ハルヒコ)くんは、偶然居合わせたわけだが、実はこの瑛比古くんの息子さんなんだ」
 テーブルが落ち着いたのを機に、唯一既知(きち)の丸田氏が、佐和子さんに事情を説明をする。

「息子?」

「いや、本当にたまたまで。あなたの様子を心配した丸田さんが、あなたを見守って欲しいと依頼されて、そうしたらコイツが現れるものだから……」


 多少のごまかしは混ぜながらも、瑛比古さん、ある程度正直に話す。


「いえ、その、お気遣いありがとうございます。……てっきり、お兄様かと思っていたので……驚いただけです」

「あ、よく言われます。コイツは長男でして、下に男二人と末の妹がいまして……」

「あー、エヘン!」


 話が脱線しかけ、丸田氏が咳払いする。


「あー、ハイハイ。佐和子さん。もう色々取り(つくろ)うのも今更なので、ストレートに聞きますけど」

「はい」


「……声が、聞こえるんですね? ある人の声が。あなたを責める声が」


 目を見開いて、瑛比古さんを見る佐和子さん。

「スミマセン。さっきの話を聞いてしまいました。申し訳ないけど、真相に辿り着くために、どうしても知る必要があったから」

 瑛比古さんは、深々と頭を下げる。

 実際は聞こえたわけではない。長年の経験で得たスキルの一つ、唇の動きだけで紡いだ言葉を読む、読唇術(どくしんじゅつ)の成果である。


「ただ、ハルは……晴比古は関係ないんです。コイツはただあなたを助けたい一心で。それを利用したのはこっちの、ズルい大人なんです」

「……私に、双子の妹がいる、ということは?」

「私達は、丸田さんから聞きました。でも、コイツには話していません……コイツは、自分でその存在に行き当たりました」

「どうやって……?」

「佐和子さん。これから話すことは、信じられないかもしれないが、信じてほしいんです。というか、信じてもらわないと、説明できないんです」

「……?」

「ハルは、あなたに向けられた、憎悪を見ました。それが、あなたの妹……希和子(きわこ)さんからのものだと、気付いたんです」

「何故……?」


「……見えたんです」

 ハルが、答えを引き継ぐ。



「ここではない、何処(どこ)かから、あなたに対する憎悪の念を送る人の姿が。その姿をよく見ようと思ったら焦点が合ってきて、見えるようになった。あなたそっくりの目鼻立ちで、でも佐和子さんではなくて。双子なんだ、と思った。佐和子さんに、酷い言葉を投げつけていて……きっと、その声は、佐和子さんにも聞こえていたのかもしれないけれど」

「原理とか、理屈は、正直解らないんです。ただ、ハルには、感情だとか思念だとかが、ほっとけば自分の心が壊れてしまうくらい、流れ込んできてしまう、特殊な感覚があるんです。制御できればいいんだけど、そう上手くいかないんで、全面的に感知しないように普段は暗示をかけている。でも、時々、それを解いて入り込んでくるものがある」

「憎悪……?」


「いいえ」


 佐和子さんの問いに、瑛比古さんは首を横に振る。


「叫びです。助けて欲しいという、魂の叫びが、ハルの心を揺らす。あなたも、きっと叫んでいたはずだ。助けてと。魂が悲鳴を上げていたから、ハルはあなたを助けたいと思った」




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 そして、場面は再び、明知屋へ。
 みんなの注文したものや、戸惑う佐和子さんの為にシェフに適当に見繕ってもらった料理がテーブルに並び。
(もちろん小早川クン待望のサンドイッチも)
「佐和子さん。この人達は、私の知り合いで、君のご主人と子供さんを探す協力を頼んだんだ。そこのハルくん……|晴比古《ハルヒコ》くんは、偶然居合わせたわけだが、実はこの瑛比古くんの息子さんなんだ」
 テーブルが落ち着いたのを機に、唯一|既知《きち》の丸田氏が、佐和子さんに事情を説明をする。
「息子?」
「いや、本当にたまたまで。あなたの様子を心配した丸田さんが、あなたを見守って欲しいと依頼されて、そうしたらコイツが現れるものだから……」
 多少のごまかしは混ぜながらも、瑛比古さん、ある程度正直に話す。
「いえ、その、お気遣いありがとうございます。……てっきり、お兄様かと思っていたので……驚いただけです」
「あ、よく言われます。コイツは長男でして、下に男二人と末の妹がいまして……」
「あー、エヘン!」
 話が脱線しかけ、丸田氏が咳払いする。
「あー、ハイハイ。佐和子さん。もう色々取り|繕《つくろ》うのも今更なので、ストレートに聞きますけど」
「はい」
「……声が、聞こえるんですね? ある人の声が。あなたを責める声が」
 目を見開いて、瑛比古さんを見る佐和子さん。
「スミマセン。さっきの話を聞いてしまいました。申し訳ないけど、真相に辿り着くために、どうしても知る必要があったから」
 瑛比古さんは、深々と頭を下げる。
 実際は聞こえたわけではない。長年の経験で得たスキルの一つ、唇の動きだけで紡いだ言葉を読む、|読唇術《どくしんじゅつ》の成果である。
「ただ、ハルは……晴比古は関係ないんです。コイツはただあなたを助けたい一心で。それを利用したのはこっちの、ズルい大人なんです」
「……私に、双子の妹がいる、ということは?」
「私達は、丸田さんから聞きました。でも、コイツには話していません……コイツは、自分でその存在に行き当たりました」
「どうやって……?」
「佐和子さん。これから話すことは、信じられないかもしれないが、信じてほしいんです。というか、信じてもらわないと、説明できないんです」
「……?」
「ハルは、あなたに向けられた、憎悪を見ました。それが、あなたの妹……|希和子《きわこ》さんからのものだと、気付いたんです」
「何故……?」
「……見えたんです」
 ハルが、答えを引き継ぐ。
「ここではない、|何処《どこ》かから、あなたに対する憎悪の念を送る人の姿が。その姿をよく見ようと思ったら焦点が合ってきて、見えるようになった。あなたそっくりの目鼻立ちで、でも佐和子さんではなくて。双子なんだ、と思った。佐和子さんに、酷い言葉を投げつけていて……きっと、その声は、佐和子さんにも聞こえていたのかもしれないけれど」
「原理とか、理屈は、正直解らないんです。ただ、ハルには、感情だとか思念だとかが、ほっとけば自分の心が壊れてしまうくらい、流れ込んできてしまう、特殊な感覚があるんです。制御できればいいんだけど、そう上手くいかないんで、全面的に感知しないように普段は暗示をかけている。でも、時々、それを解いて入り込んでくるものがある」
「憎悪……?」
「いいえ」
 佐和子さんの問いに、瑛比古さんは首を横に振る。
「叫びです。助けて欲しいという、魂の叫びが、ハルの心を揺らす。あなたも、きっと叫んでいたはずだ。助けてと。魂が悲鳴を上げていたから、ハルはあなたを助けたいと思った」