鏡の奥の片翼人~ベターハーフ~ 2-①
ー/ー「つまり、ずっと見張っていたわけだ。朝から」
レストラン明知屋の片隅。
ちょっとした個室空間になるように、衝立で仕切られた奥まったそのテーブルに着き。
不機嫌な顔で、瑛比古さんを睨み付けるハル。
「いや、ずっとじゃないよ、途中から……」
「そうっスよ、ハルくん」
懸命に弁解する瑛比古さんと小早川クン。
ハルの気持ちは分からないでもないが、あのまま公園に放置もできず、やや強引に介入し、場を移させてもらった。
もっともハルの不機嫌さは、単なる怒りより、行動が筒抜けだったことの気恥ずかしさが勝っている気がする。
「まあ、機嫌直して。好きなもの頼めや、私がごちそうするから。君達も」
笑顔で丸田氏がメニューを示す。
「いえ、あの……スミマセン」
丸田氏にそう言われては、ハルも、引き下がらずおえない。
「僕、サタデースペシャルランチと、サンドイッチも頼んでいいっスか?」
「バカ! 遠慮しろ! 丸田さんに悪いだろ!」
「ハハハ、いいよ、頼みなさい」
「丸田さん、優しーっス! 土岐田さんなんか、ナミくんのサンドイッチ独り占めなんスから。ハルくんは仲良く分けてたのに」
「バカ! チャボ!」
「やっぱり最初から見てたんじゃないか!」
小早川クンを怒鳴る瑛比古さん、それをさらに怒鳴り付けるハル。
苦笑して見ている丸田氏、そして。
一人、身の置き所がない様子で小さくなっている、サワコさん――佐和子さん。
「あ、ゴメンなさい。知らない人ばかりで、気まずいですよね?」
我に返って佐和子さんを気にかけるハルを見て、瑛比古さんはミチ姐の言葉を思い出す。
『ハルくんって、って年上受けするのよ。正直受け持ちがなかなか決まらなかったのって、大部屋で争奪戦が激しくて。すっぴん、寝不足の顔なんか見せたくない、だったら受け持ちしてもらうくらいのメリットがなくちゃイヤ、って。誰を選んでも血の雨が降りそうで。スタッフの間では密かにマダムキラーって呼ばれているのよ』
『マダムキラー』と言われても、単に母性本能刺激するだけだろう、うちのハルは優しいから、と本気で聞いていなかった瑛比古さんだったが。
甲斐甲斐しく佐和子さんを気遣うハルを見て、ちょっと本気で心配になってくる。
おーい、相手は人妻だよ。
十歳は年上なんだよー。
と、心の中で訴える。
瑛比古さん相手では力は発揮されないのか、ハルは気づく様子もない。
すっかり佐和子さんに参っている様子だ。
しかし、さすがミチ姐だなぁ。
直接見たわけでもないのに、ハルが初対面の佐和子さんに抱いた好意を的確に察している。
もっとも、それはまだ、明確な想いにまでは育っていなかったはずなのだが。
公園で小早川クンが『痴話喧嘩みたい』と言ったのもうなづけるほど、今は熱っぽい眼差しで見つめてる。
それに応えるように、佐和子さんもハルに心を許しているのが分かる。
ハルが過呼吸に陥った佐和子さんを迷わず抱きすくめたのは、処置として間違っていない。
いわゆる過呼吸、過換気症候群は、緊張やパニックなど早く浅い呼吸を繰り返すことが主な原因なので、まずは気持ちを落ち着かせたり、ゆっくり腹式呼吸させたり、過剰に息を吸わないようにタオルなどを口に当てたり、と言うのが一般的であり、とっさの対応としてはよくやった、さすが看護師の卵、と言いたいところ、だが。
(ちなみに明知探偵事務所の所員は、社命で救急講習も修了している。瑛比古さんは、プラスアルファで、ハルの机の上にある教科書を読書代わりに読んだりもしているので、やたら詳しくなってしまった)
衝動的に抱き締めたんじゃないだろうな?
なんて、邪推してしまいたくなる、そんな情熱的な抱擁だった……ハルは、ただただ必死だった、というのが本当のところだろうけど。
そして。
佐和子さんが泣き止んだ頃を見計らったかのように、丸田氏から連絡が入った。
内容を確認し。
意を決して声をかけ。
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