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寵姫になるために 3話

ー/ー



 アナベルは眉をぴくりと動かした。そして、腕を組んでゆっくりと息を吐く。

「王妃サマは、少女しかメイドにしないの?」
「ああ。イレインは年齢の割に肌に艶があり、憧れる人が多いんだ。王妃宮でのことは外部に漏らさないように、徹底的でもある」

 ダヴィドが両肩を上げて、やれやれとばかりに髪をかき上げた。

「自分の傍に置くのは、イレインよりも老けているように見えるメイドだけどね。あと、わいけれど容姿はあまり良くない子。……どう考えても引き立て役だろうね」

 その状況を想像して、アナベルはうわぁ、と眉根を寄せる。

 自分よりも美しい人を、徹底的に排除しているのかもしれない。

「きみも狙われるよ、きっとね。王妃はきみのように美しい容姿を、自由にはさせないだろう」

 くつくつと喉を鳴らして笑うダヴィドに、エルヴィスが目元を細めた。

 そっとアナベルの手を取り、きゅっと握る。

 彼女の中の不安を払拭(ふっしょく)させるかのように。

 彼と手を繋ぐことで、不安は消えていく。そのことを伝えるように、アナベルはエルヴィスに熱のこもった視線を送った。

(――大丈夫。あたしには、彼がいる)

 そう思うだけで、強くなれそうだと思い、彼女は(あで)やかに口角を上げる。

「……受けて立とうじゃない。あたしだって、ただで転んだりしないわ」

 勝気に笑うアナベルに、ダヴィドが「うん、良い心意気だね」と力強い言葉を発した。

「とりあえず、現在はそのくらいかな。寵姫(ちょうき)たち全員を()きものにしたあとだから、おとなしめって感じ」

 メイドが三人亡くなったのが、おとなしめと聞いて、アナベルはわかりやすく、いやそうに表情を歪める。

「……そうか。政は、どうなっていた?」
「それはもちろん、お前の右腕がなんとかしていたよ。どこで見つけたんだ、あんな有能なヤツ」
「王家の血筋を辿りに辿って孤児院に送りつけられていたのを見つけた。確か、祖父の子どものはずだ」
「……それって、寵姫の子、だったってこと?」

 肯定するように首を縦に振る二人。

 アナベルはエルヴィスをじっと見つめて、小首をかしげた。

(寵姫の子を、どうして探したのかしら?)

 アナベルが考え込むように口をきゅっと(つぐ)むと、エルヴィスはダヴィドと視線を()わす。

「私よりも年上だが、事情を説明したらついてきてくれた。どうやら、彼も絶対的な味方がほしかったようだ」
「絶対的な、味方……」

 それはおそらく、アナベルにとってのクレマンたちのような存在だろう。

「そう。ダヴィドも私の絶対的な味方だ」
「俺は王妃が大っ嫌いだからね」

 にっこり。

 ダヴィドの笑みにアナベルは目を(またた)かせた。

 言葉は確かにイレインへの憎しみを感じるような声色だったから、彼の言葉に嘘偽(うそいつわ)りはないと感じて、アナベルは口を開く。

「……どうして、と聞いても良いのかしら?」

 (うかが)うようにダヴィドを見つめるアナベルに、彼は首を縦に動かした。

「――俺の婚約者が、王妃に殺された」

 ダヴィドはつらそうに顔をうつむかせ、アナベルにとって衝撃的な言葉を紡ぐ。

「……殺された?」
「そうだ。彼女はアレルギーを持っていたのだが、お茶会で……」

 すべて聞かなくても理解できた。アレルゲン物質が入ったものを口にしたのだろう。

「……俺が傍にいないときにやられた。視察に出たときを狙っていたんだろう。王妃に誘われて、参加しないわけにもいかなったからだろうな」

 きっと、婚約者のことを心から愛していたのだろう。

 当時を思い出したのか、ぎゅっと手を組んで忌々しそうに息を吐く。

「きみがエルヴィスに協力するというのなら、俺も協力する。あの王妃は、国を滅ぼすための存在にしか思えない」

 その声は震えていた。おそらく、婚約者を亡くして自分を責め続けていたのだろうと考え、彼の心情を思いアナベルは唇を結んだ。

 ローテーブルに手を置いて身を乗り出し、微笑みを浮かべる。

「――必ず、王妃サマに復讐しましょう」
「……本当、良い()をしている。それじゃあ、まずは近日のパーティーの手筈から、話し合おうか」

 ダヴィドは顔を上げてアナベルを見て、その瞳に宿る復讐の炎を感じ取ると、ふっと微笑んでからパンッ! と両手を叩いた。

 エルヴィスが「そうだな」と答えて、旅芸人の一座がこの王都にきていることを伝えると、彼は目を大きく見開く。

「え、クレマン? あいつらがこっち来てるの? この王都に?」

 あまりにも意外そうに言われて、アナベルは怪訝そうに彼を見た。

「うちの座長を知っているのかい?」

 国王陛下であるエルヴィスとも面識があり、公爵であるダヴィドとも面識があるとなると、一座の座長、クレマンの正体が気になってしまう。

「クレマンはもともと、騎士団に所属していたんだよ」

 エルヴィスが穏やかな声で教えてくれた。

(――え?)

 だが、考えてみれば納得できる。

 剣を振るうところを見たことがあるが、確かに強かった、と思う。

 一度だけしか見たことがないから、遠い記憶を手繰り寄せてアナベルは目を閉じた。

「……騎士団にいたクレマンが、なぜ旅芸人に……?」
「ミシェルの一件が原因だろうな」

 ミシェルの名を聞いて、目をカッと見開くアナベルに、エルヴィスはなぜクレマンが旅芸人になったかを、簡単に話す。

 その理由を知り、アナベルはわなわなと肩を震わせた。

「王妃サマには、人の心がないの?」
「ないから、できるんじゃないか?」
「……教えてくれてありがとう。これは、ミシェルさんの復讐にもなるかしらね……」

 ぐっと拳を握って、心の奥底にくすぶらせていた復讐心を表に出すアナベルに、二人は大きくうなずく。

「……さて、まずはパーティーの準備だ。クレマンたちも呼んで、盛大にしようじゃないか」

 ニヤリと口角を上げるダヴィドに、アナベルとエルヴィスは顔を見合わせて、にっと口角を上げた。



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 アナベルは眉をぴくりと動かした。そして、腕を組んでゆっくりと息を吐く。
「王妃サマは、少女しかメイドにしないの?」
「ああ。イレインは年齢の割に肌に艶があり、憧れる人が多いんだ。王妃宮でのことは外部に漏らさないように、徹底的でもある」
 ダヴィドが両肩を上げて、やれやれとばかりに髪をかき上げた。
「自分の傍に置くのは、イレインよりも老けているように見えるメイドだけどね。あと、わいけれど容姿はあまり良くない子。……どう考えても引き立て役だろうね」
 その状況を想像して、アナベルはうわぁ、と眉根を寄せる。
 自分よりも美しい人を、徹底的に排除しているのかもしれない。
「きみも狙われるよ、きっとね。王妃はきみのように美しい容姿を、自由にはさせないだろう」
 くつくつと喉を鳴らして笑うダヴィドに、エルヴィスが目元を細めた。
 そっとアナベルの手を取り、きゅっと握る。
 彼女の中の不安を|払拭《ふっしょく》させるかのように。
 彼と手を繋ぐことで、不安は消えていく。そのことを伝えるように、アナベルはエルヴィスに熱のこもった視線を送った。
(――大丈夫。あたしには、彼がいる)
 そう思うだけで、強くなれそうだと思い、彼女は|艶《あで》やかに口角を上げる。
「……受けて立とうじゃない。あたしだって、ただで転んだりしないわ」
 勝気に笑うアナベルに、ダヴィドが「うん、良い心意気だね」と力強い言葉を発した。
「とりあえず、現在はそのくらいかな。|寵姫《ちょうき》たち全員を|亡《な》きものにしたあとだから、おとなしめって感じ」
 メイドが三人亡くなったのが、おとなしめと聞いて、アナベルはわかりやすく、いやそうに表情を歪める。
「……そうか。政は、どうなっていた?」
「それはもちろん、お前の右腕がなんとかしていたよ。どこで見つけたんだ、あんな有能なヤツ」
「王家の血筋を辿りに辿って孤児院に送りつけられていたのを見つけた。確か、祖父の子どものはずだ」
「……それって、寵姫の子、だったってこと?」
 肯定するように首を縦に振る二人。
 アナベルはエルヴィスをじっと見つめて、小首をかしげた。
(寵姫の子を、どうして探したのかしら?)
 アナベルが考え込むように口をきゅっと|噤《つぐ》むと、エルヴィスはダヴィドと視線を|交《か》わす。
「私よりも年上だが、事情を説明したらついてきてくれた。どうやら、彼も絶対的な味方がほしかったようだ」
「絶対的な、味方……」
 それはおそらく、アナベルにとってのクレマンたちのような存在だろう。
「そう。ダヴィドも私の絶対的な味方だ」
「俺は王妃が大っ嫌いだからね」
 にっこり。
 ダヴィドの笑みにアナベルは目を|瞬《またた》かせた。
 言葉は確かにイレインへの憎しみを感じるような声色だったから、彼の言葉に|嘘偽《うそいつわ》りはないと感じて、アナベルは口を開く。
「……どうして、と聞いても良いのかしら?」
 |窺《うかが》うようにダヴィドを見つめるアナベルに、彼は首を縦に動かした。
「――俺の婚約者が、王妃に殺された」
 ダヴィドはつらそうに顔をうつむかせ、アナベルにとって衝撃的な言葉を紡ぐ。
「……殺された?」
「そうだ。彼女はアレルギーを持っていたのだが、お茶会で……」
 すべて聞かなくても理解できた。アレルゲン物質が入ったものを口にしたのだろう。
「……俺が傍にいないときにやられた。視察に出たときを狙っていたんだろう。王妃に誘われて、参加しないわけにもいかなったからだろうな」
 きっと、婚約者のことを心から愛していたのだろう。
 当時を思い出したのか、ぎゅっと手を組んで忌々しそうに息を吐く。
「きみがエルヴィスに協力するというのなら、俺も協力する。あの王妃は、国を滅ぼすための存在にしか思えない」
 その声は震えていた。おそらく、婚約者を亡くして自分を責め続けていたのだろうと考え、彼の心情を思いアナベルは唇を結んだ。
 ローテーブルに手を置いて身を乗り出し、微笑みを浮かべる。
「――必ず、王妃サマに復讐しましょう」
「……本当、良い|瞳《め》をしている。それじゃあ、まずは近日のパーティーの手筈から、話し合おうか」
 ダヴィドは顔を上げてアナベルを見て、その瞳に宿る復讐の炎を感じ取ると、ふっと微笑んでからパンッ! と両手を叩いた。
 エルヴィスが「そうだな」と答えて、旅芸人の一座がこの王都にきていることを伝えると、彼は目を大きく見開く。
「え、クレマン? あいつらがこっち来てるの? この王都に?」
 あまりにも意外そうに言われて、アナベルは怪訝そうに彼を見た。
「うちの座長を知っているのかい?」
 国王陛下であるエルヴィスとも面識があり、公爵であるダヴィドとも面識があるとなると、一座の座長、クレマンの正体が気になってしまう。
「クレマンはもともと、騎士団に所属していたんだよ」
 エルヴィスが穏やかな声で教えてくれた。
(――え?)
 だが、考えてみれば納得できる。
 剣を振るうところを見たことがあるが、確かに強かった、と思う。
 一度だけしか見たことがないから、遠い記憶を手繰り寄せてアナベルは目を閉じた。
「……騎士団にいたクレマンが、なぜ旅芸人に……?」
「ミシェルの一件が原因だろうな」
 ミシェルの名を聞いて、目をカッと見開くアナベルに、エルヴィスはなぜクレマンが旅芸人になったかを、簡単に話す。
 その理由を知り、アナベルはわなわなと肩を震わせた。
「王妃サマには、人の心がないの?」
「ないから、できるんじゃないか?」
「……教えてくれてありがとう。これは、ミシェルさんの復讐にもなるかしらね……」
 ぐっと拳を握って、心の奥底にくすぶらせていた復讐心を表に出すアナベルに、二人は大きくうなずく。
「……さて、まずはパーティーの準備だ。クレマンたちも呼んで、盛大にしようじゃないか」
 ニヤリと口角を上げるダヴィドに、アナベルとエルヴィスは顔を見合わせて、にっと口角を上げた。