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寵姫になるために 2話

ー/ー



 アナベルとエルヴィスの正面のソファに座り、背もたれに身を預けるようにして、ダヴィドは長い足を組んだ。

 面白いものを見たかのように、口角を上げる。

「それで? きみは本当にエルヴィスの寵姫(ちょうき)になるつもりなのか?」

 目元を細めて(たず)ねる彼に、アナベルは本能的に試されている、と感じた。

 自分の意図を見抜くために、鋭い眼光を向けられている――と。

 だからこそ、アナベルは不敵に笑う。

「ええ、もちろん。あたしは王妃サマに用があるからね」

 寵姫として迎えられたら、王妃であるイレインとも不自然ではなく接触できる。

 言外にそのことを伝える彼女に、ダヴィドは真摯(しんし)な表情を浮かべた。

「なるほど。確かにかなり度胸のある女性のようだ。……だが、きみは知っているのか? エルヴィス(現国王)の寵姫が――」
「謎の死を()げていることは、陛下の口からきいたわ」

 ダヴィドの言葉をさえぎるように、自身が覚悟を持ってここにきていることを示すと、彼はその覚悟を受け取り、アナベルを見つめる。

「……ふむ。きみにも王妃に対するなにかがある、ということか」
「ええ」

 にっこり、と満面の笑みを浮かべるアナベルに、エルヴィスはそっと彼女の手と自分の手を重ねた。

 アナベルは顔をエルヴィスに向けると、彼は彼女を安心させるように微笑む。

「ダヴィド、彼女を貴族に見せても大丈夫なように、徹底的に仕込みたい。教育係を用意してもらえないか?」
「ほんっとうに彼女を寵姫(ちょうき)にするつもりなのか……。徹底的にやったとしても、彼女は平民だろう? いずれボロが出るんじゃないか? それとも、そちらのほうが良いのか?」

 考えるようにダヴィドは目を伏せて、顎に手をかける。

 そして、ちらりと二人を見て、「ふむ」とつぶやく。

「一応、伝手(つて)はあるが……。そもそも、彼女をどこで見つけたんだ? 王妃に対して負の感情を持っている平民なんて、珍しくないか?」

 彼の問いに、エルヴィスはアナベルの手をぎゅっと握る。にっと口角を上げて、こう紹介した。

「彼女は旅芸人の踊り子だ。剣舞は見事なものだったぞ」
「えっ、陛下、あたしの剣舞を見ていたの?」

 目を丸くするアナベルに、エルヴィスは肯定のうなずきを返す。

 すると、ぱぁっとダヴィドの表情が明るくなった。

「旅芸人!? そりゃあいい! 近日パーティーをする予定だから、余興として芸を披露してもらおうか」

 両腕を大きく広げ、目をキラキラと輝かせるダヴィドに、アナベルは「あたしでよければ……」と胸元に手を置く。

「エルヴィス、お前は踊り終えた彼女に、『寵姫(ちょうき)になってほしい』と大勢の前で伝えるんだ」

 ダヴィドは興奮したように立ち上がり、拳を握って力説した。

「劇的なシンデレラストーリーは、王妃の耳にも届くだろう。こちらからの宣戦布告にもなる」

 アナベルはそっとエルヴィスの手を外して、ダヴィドと同じように立ち上がる。

「それはとても良い案だわ!」

 そう断言した彼女に、二人は驚いたように目を見開き、それからふっと表情を綻ばせた。

「ならば、そのときは堂々たる剣舞を見られることを楽しみにしている。本気で私を惚れされるくらいの剣舞を願おう」
「あら、陛下。あなたとあたしは運命共同体。覚悟なさい、このあたしを手に入れることが、どんなことなのか!」

 ぐっと腰を曲げてエルヴィスの胸元に人差し指をくっつけ、アナベルはパチンとウインクをした。それを見たダヴィドがぷはっと()き出す。

「驚いた、きみみたいなタイプが寵姫になるのは初めてだ」
「あら、そうなの?」
「そうだよ。今までのタイプはどちらかといえば弱気な子が多かったから。というか、勝手に宮殿に送られていたんだっけ?」
「……家族に捨てられたような女性ばかりだったからな。帰る場所がないと泣きつかれて……な」
「……なるほどね、変える場所がなければ、勝手に朽ちろってことかい……」

 貴族の考え方を想像して、背筋が寒くなり自分を抱きしめるように二の腕を掴む。

 一歩遅かったら、自分もそのような扱いを受けていたのかもしれない。

 そう考えると、あのとき魔物と遭遇し、崖から落ちたことは不幸中の幸いだったのかもしれないとしみじみ感じる。エルヴィスが彼女の不安を緩めるように、そっと抱きしめた。

「……陛下?」
「いや、今までたくさん苦労してきただろう。イレインを廃妃にしたあとは――……」
「それを言うのはまだ早いわ。敵をしっかりと、根本から取り除いてからじゃないと」

 未来のことよりも、今、できることを。

 王妃イレインを廃妃にしたあとのことより、どうやって彼女を廃妃にするかを考えなければならない。

「――本当、良い女性を見つけたな、エルヴィス」
「そうだろう? ……では、私が留守のあいだのことを聞かせてもらえるか?」

 アナベルとダヴィドを見て、ソファに座るようにうながす。

 ダヴィドは執事にお茶を用意するように頼み、執事はすぐにお茶とお茶菓子を用意して戻ってきた。

 紅茶とマカロンがローテーブルの上に置かれると、執事は一礼して部屋の外に出ていく。

 どうやらダヴィドとエルヴィスの視線を受け、自分がこの場にいるべきではないと判断したようだ。

「……相変わらず、王妃の宮殿で自由に過ごしているぜ」
「そうか」
「お前が魔物討伐に向かってから数ヶ月。そのあいだに亡くなったのはメイドが三人ほど、だな」
「メイド……?」
「ああ。確か子爵家の令嬢で、意気揚々と『王妃陛下に仕えられるなんて幸せです』って目を輝かせていた子たちだ。もちろん、王妃よりも若い少女だった」



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 アナベルとエルヴィスの正面のソファに座り、背もたれに身を預けるようにして、ダヴィドは長い足を組んだ。
 面白いものを見たかのように、口角を上げる。
「それで? きみは本当にエルヴィスの|寵姫《ちょうき》になるつもりなのか?」
 目元を細めて|尋《たず》ねる彼に、アナベルは本能的に試されている、と感じた。
 自分の意図を見抜くために、鋭い眼光を向けられている――と。
 だからこそ、アナベルは不敵に笑う。
「ええ、もちろん。あたしは王妃サマに用があるからね」
 寵姫として迎えられたら、王妃であるイレインとも不自然ではなく接触できる。
 言外にそのことを伝える彼女に、ダヴィドは|真摯《しんし》な表情を浮かべた。
「なるほど。確かにかなり度胸のある女性のようだ。……だが、きみは知っているのか? |エルヴィス《現国王》の寵姫が――」
「謎の死を|遂《と》げていることは、陛下の口からきいたわ」
 ダヴィドの言葉をさえぎるように、自身が覚悟を持ってここにきていることを示すと、彼はその覚悟を受け取り、アナベルを見つめる。
「……ふむ。きみにも王妃に対するなにかがある、ということか」
「ええ」
 にっこり、と満面の笑みを浮かべるアナベルに、エルヴィスはそっと彼女の手と自分の手を重ねた。
 アナベルは顔をエルヴィスに向けると、彼は彼女を安心させるように微笑む。
「ダヴィド、彼女を貴族に見せても大丈夫なように、徹底的に仕込みたい。教育係を用意してもらえないか?」
「ほんっとうに彼女を|寵姫《ちょうき》にするつもりなのか……。徹底的にやったとしても、彼女は平民だろう? いずれボロが出るんじゃないか? それとも、そちらのほうが良いのか?」
 考えるようにダヴィドは目を伏せて、顎に手をかける。
 そして、ちらりと二人を見て、「ふむ」とつぶやく。
「一応、|伝手《つて》はあるが……。そもそも、彼女をどこで見つけたんだ? 王妃に対して負の感情を持っている平民なんて、珍しくないか?」
 彼の問いに、エルヴィスはアナベルの手をぎゅっと握る。にっと口角を上げて、こう紹介した。
「彼女は旅芸人の踊り子だ。剣舞は見事なものだったぞ」
「えっ、陛下、あたしの剣舞を見ていたの?」
 目を丸くするアナベルに、エルヴィスは肯定のうなずきを返す。
 すると、ぱぁっとダヴィドの表情が明るくなった。
「旅芸人!? そりゃあいい! 近日パーティーをする予定だから、余興として芸を披露してもらおうか」
 両腕を大きく広げ、目をキラキラと輝かせるダヴィドに、アナベルは「あたしでよければ……」と胸元に手を置く。
「エルヴィス、お前は踊り終えた彼女に、『|寵姫《ちょうき》になってほしい』と大勢の前で伝えるんだ」
 ダヴィドは興奮したように立ち上がり、拳を握って力説した。
「劇的なシンデレラストーリーは、王妃の耳にも届くだろう。こちらからの宣戦布告にもなる」
 アナベルはそっとエルヴィスの手を外して、ダヴィドと同じように立ち上がる。
「それはとても良い案だわ!」
 そう断言した彼女に、二人は驚いたように目を見開き、それからふっと表情を綻ばせた。
「ならば、そのときは堂々たる剣舞を見られることを楽しみにしている。本気で私を惚れされるくらいの剣舞を願おう」
「あら、陛下。あなたとあたしは運命共同体。覚悟なさい、このあたしを手に入れることが、どんなことなのか!」
 ぐっと腰を曲げてエルヴィスの胸元に人差し指をくっつけ、アナベルはパチンとウインクをした。それを見たダヴィドがぷはっと|噴《ふ》き出す。
「驚いた、きみみたいなタイプが寵姫になるのは初めてだ」
「あら、そうなの?」
「そうだよ。今までのタイプはどちらかといえば弱気な子が多かったから。というか、勝手に宮殿に送られていたんだっけ?」
「……家族に捨てられたような女性ばかりだったからな。帰る場所がないと泣きつかれて……な」
「……なるほどね、変える場所がなければ、勝手に朽ちろってことかい……」
 貴族の考え方を想像して、背筋が寒くなり自分を抱きしめるように二の腕を掴む。
 一歩遅かったら、自分もそのような扱いを受けていたのかもしれない。
 そう考えると、あのとき魔物と遭遇し、崖から落ちたことは不幸中の幸いだったのかもしれないとしみじみ感じる。エルヴィスが彼女の不安を緩めるように、そっと抱きしめた。
「……陛下?」
「いや、今までたくさん苦労してきただろう。イレインを廃妃にしたあとは――……」
「それを言うのはまだ早いわ。敵をしっかりと、根本から取り除いてからじゃないと」
 未来のことよりも、今、できることを。
 王妃イレインを廃妃にしたあとのことより、どうやって彼女を廃妃にするかを考えなければならない。
「――本当、良い女性を見つけたな、エルヴィス」
「そうだろう? ……では、私が留守のあいだのことを聞かせてもらえるか?」
 アナベルとダヴィドを見て、ソファに座るようにうながす。
 ダヴィドは執事にお茶を用意するように頼み、執事はすぐにお茶とお茶菓子を用意して戻ってきた。
 紅茶とマカロンがローテーブルの上に置かれると、執事は一礼して部屋の外に出ていく。
 どうやらダヴィドとエルヴィスの視線を受け、自分がこの場にいるべきではないと判断したようだ。
「……相変わらず、王妃の宮殿で自由に過ごしているぜ」
「そうか」
「お前が魔物討伐に向かってから数ヶ月。そのあいだに亡くなったのはメイドが三人ほど、だな」
「メイド……?」
「ああ。確か子爵家の令嬢で、意気揚々と『王妃陛下に仕えられるなんて幸せです』って目を輝かせていた子たちだ。もちろん、王妃よりも若い少女だった」