踊り子 アナベル 16話
ー/ー アナベルが戸惑っているうちに、エルヴィスたちは魔物をすべて倒していた。
あっという間の出来事で、本当に魔物に襲撃されたのかと思うくらい、被害もなく全員無事だった。
「冬が近付いてきているから、少しでも蓄えようとしていたのかもねぇ……」
アドリーヌの言葉に、バッと彼女を見るアナベル。
彼女は「あら」と口元を隠し、目元を三日月のように細くして笑った。
「ほら、アナベルの愛しい人が怪我をしていないか、確認しにいきなさいな」
「……う、うん……」
アドリーヌに背中を押されたアナベルは、エルヴィスまで駆けていく。
足音に気付いたエルヴィスがアナベルを見て、ふわりと微笑んだ。
「怪我はなかったか?」
「ええ。陛下たちが守ってくれたから……。陛下たちは? 怪我、してない? 大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。傷一つもない」
「そうですよ、陛下は氷の魔法を使えるようになってから、すっごく強くなりましたからね!」
「そうなの?」
「はい、そりゃあもう。今まで陛下のことを嘲笑っていた大臣たちが恐れるほどに」
「おい、それを今、言うか?」
「そりゃあ言いますよ。寵姫になるアナベルさんには、すべてを知る権利があるんですから」
護衛たちの会話を聞いて、アナベルは彼らを意外そうに眺める。
国王と護衛の関係上、こんなにぽんぽんと会話を……まるで友人と話すかのような気軽さは良いのだろうか、と。
アナベルの疑問を感じ取ったのか、エルヴィスは両肩を上げた。
「確かに知る権利はあるが……すべては、ティオールについてからだ。まずはデュナン公爵のタウンハウスに向かう」
デュナン公爵――……レアルテキ王国に住んでいる者なら、一度は耳にしたことがある人物。
現国王、エルヴィスの従兄。社交性があり、交渉術も豊かで、彼がいなければまとまらなかった外交が多くあるとも言われている。
「……なぜ?」
キョトンとした表情を浮かべて尋ねるアナベルに、エルヴィスはそっと彼女の肩に手を置いた。
「寵姫になる前に、会ってほしいんだ」
「……デュナン公爵に?」
「そうだ。大事なことだからな」
「……よく、わからないのだけど……。きっと、陛下が言うなら、大事なことなのね」
自分がなぜ先にデュナン公爵に会う必要があるのかと不思議に思いつつも、エルヴィスの真剣なようにアナベルはこくりとうなずく。
「ティオールまであと少しだ。この場所は魔物が現れたから、もう少し進んで休もう」
エルヴィスの言葉に、休憩の準備を始めようとしていた人たちは荷物をまとめて、野宿先を探そうと歩き出した。
寵姫になることを受け入れたからか、エルヴィスの近くを歩くアナベル。
彼の傍には、護衛たちも歩いていた。
相変わらず踊り子たちにちょっかいを受けているようで、困った顔をしながらも満更ではないようだ。
「……旅は楽しかったか?」
「え? ……まぁ、楽しかった、かな。最初のほうは覚えることがいっぱいで大変だったけれど、ね」
ミシェルの教えは厳しかった。それでも改善できるところや、良くできたところは常に声をかけてくれたから、ついていくことができた。
ミシェルが亡くなってからは、一時期塞ぎ込んだりもしたが、一番つらかったであろうクレマンが気丈に振る舞っていたことを知っていたし、旅芸人の仲間がアナベルの心に寄り添い、支えてくれた。何度感謝しても、感謝しきれないくらいだと、アナベルは話す。
「――あたしの血の繋がった家族は亡くなったけれど、この一座もあたしの家族なの。だから、がんばれた……と思う。旅自体も嫌いじゃなかったしねぇ。小さな村で育ったからかな? 見るものすべてが新鮮だった」
旅をしてきて見てきた景色を思い出し、柔らかく目元を細める。それでも、幼い頃からずっと復讐心を温めてきた自分に息を吐く。
――やっと叶いそうだと、アナベルは恍惚の笑みを浮かべた。
数時間歩き、魔物の気配がない場所で野宿の準備を始める。
あと少しで王都ティオールにつく。
そのあとどうなるのかは、わからない。
それでも、アナベルは期待と不安を混ぜ合わせたような感情に、自分の胸元に手を置いた。
「不安か?」
「……そりゃあ、ね。でも、これから起きることを思うと、楽しみでもあるわ。……ねえ、一つ、お願いあるのだけど」
「お願い?」
「あたしに、剣術を教えてくれる人を紹介してほしいの」
アナベルの真剣な表情と硬い声に、エルヴィスは目を瞠る。
「それは、なぜ?」
「剣を使える人に習ってはいたけれど、自分がどのくらいの実力なのかはわからないのよね。自分の実力を知るため……と、万が一のときを考えて、習っておいたほうが良いと思って」
エルヴィスは考えるように顎に手を置き、それから「なるほど」と小さくつぶやく。
「確かに対抗手段は多いほうが良いだろう。……では、一度アナベルの実力を教えてもらおうか」
え? と目を丸くアナベルの手を取って、旅芸人の一座から少し遠ざかる。そして、「少し待っていてくれ」と彼女を残して戻るエルヴィスを視線で追った。
戻ってきたエルヴィスは、護衛たちを連れてきた。
「ほ、本当にやるんですか、俺が?」
「アナベルの実力を見るには、一番これが手っ取り早いだろう」
「……はぁ。もう、どんな結果になっても怒らないでくださいね」
肩を落とした護衛の一人がアナベルに剣を差し出す。
彼女はそれを受け取り、彼らと剣を交互に見た。
あっという間の出来事で、本当に魔物に襲撃されたのかと思うくらい、被害もなく全員無事だった。
「冬が近付いてきているから、少しでも蓄えようとしていたのかもねぇ……」
アドリーヌの言葉に、バッと彼女を見るアナベル。
彼女は「あら」と口元を隠し、目元を三日月のように細くして笑った。
「ほら、アナベルの愛しい人が怪我をしていないか、確認しにいきなさいな」
「……う、うん……」
アドリーヌに背中を押されたアナベルは、エルヴィスまで駆けていく。
足音に気付いたエルヴィスがアナベルを見て、ふわりと微笑んだ。
「怪我はなかったか?」
「ええ。陛下たちが守ってくれたから……。陛下たちは? 怪我、してない? 大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。傷一つもない」
「そうですよ、陛下は氷の魔法を使えるようになってから、すっごく強くなりましたからね!」
「そうなの?」
「はい、そりゃあもう。今まで陛下のことを嘲笑っていた大臣たちが恐れるほどに」
「おい、それを今、言うか?」
「そりゃあ言いますよ。寵姫になるアナベルさんには、すべてを知る権利があるんですから」
護衛たちの会話を聞いて、アナベルは彼らを意外そうに眺める。
国王と護衛の関係上、こんなにぽんぽんと会話を……まるで友人と話すかのような気軽さは良いのだろうか、と。
アナベルの疑問を感じ取ったのか、エルヴィスは両肩を上げた。
「確かに知る権利はあるが……すべては、ティオールについてからだ。まずはデュナン公爵のタウンハウスに向かう」
デュナン公爵――……レアルテキ王国に住んでいる者なら、一度は耳にしたことがある人物。
現国王、エルヴィスの従兄。社交性があり、交渉術も豊かで、彼がいなければまとまらなかった外交が多くあるとも言われている。
「……なぜ?」
キョトンとした表情を浮かべて尋ねるアナベルに、エルヴィスはそっと彼女の肩に手を置いた。
「寵姫になる前に、会ってほしいんだ」
「……デュナン公爵に?」
「そうだ。大事なことだからな」
「……よく、わからないのだけど……。きっと、陛下が言うなら、大事なことなのね」
自分がなぜ先にデュナン公爵に会う必要があるのかと不思議に思いつつも、エルヴィスの真剣なようにアナベルはこくりとうなずく。
「ティオールまであと少しだ。この場所は魔物が現れたから、もう少し進んで休もう」
エルヴィスの言葉に、休憩の準備を始めようとしていた人たちは荷物をまとめて、野宿先を探そうと歩き出した。
寵姫になることを受け入れたからか、エルヴィスの近くを歩くアナベル。
彼の傍には、護衛たちも歩いていた。
相変わらず踊り子たちにちょっかいを受けているようで、困った顔をしながらも満更ではないようだ。
「……旅は楽しかったか?」
「え? ……まぁ、楽しかった、かな。最初のほうは覚えることがいっぱいで大変だったけれど、ね」
ミシェルの教えは厳しかった。それでも改善できるところや、良くできたところは常に声をかけてくれたから、ついていくことができた。
ミシェルが亡くなってからは、一時期塞ぎ込んだりもしたが、一番つらかったであろうクレマンが気丈に振る舞っていたことを知っていたし、旅芸人の仲間がアナベルの心に寄り添い、支えてくれた。何度感謝しても、感謝しきれないくらいだと、アナベルは話す。
「――あたしの血の繋がった家族は亡くなったけれど、この一座もあたしの家族なの。だから、がんばれた……と思う。旅自体も嫌いじゃなかったしねぇ。小さな村で育ったからかな? 見るものすべてが新鮮だった」
旅をしてきて見てきた景色を思い出し、柔らかく目元を細める。それでも、幼い頃からずっと復讐心を温めてきた自分に息を吐く。
――やっと叶いそうだと、アナベルは恍惚の笑みを浮かべた。
数時間歩き、魔物の気配がない場所で野宿の準備を始める。
あと少しで王都ティオールにつく。
そのあとどうなるのかは、わからない。
それでも、アナベルは期待と不安を混ぜ合わせたような感情に、自分の胸元に手を置いた。
「不安か?」
「……そりゃあ、ね。でも、これから起きることを思うと、楽しみでもあるわ。……ねえ、一つ、お願いあるのだけど」
「お願い?」
「あたしに、剣術を教えてくれる人を紹介してほしいの」
アナベルの真剣な表情と硬い声に、エルヴィスは目を瞠る。
「それは、なぜ?」
「剣を使える人に習ってはいたけれど、自分がどのくらいの実力なのかはわからないのよね。自分の実力を知るため……と、万が一のときを考えて、習っておいたほうが良いと思って」
エルヴィスは考えるように顎に手を置き、それから「なるほど」と小さくつぶやく。
「確かに対抗手段は多いほうが良いだろう。……では、一度アナベルの実力を教えてもらおうか」
え? と目を丸くアナベルの手を取って、旅芸人の一座から少し遠ざかる。そして、「少し待っていてくれ」と彼女を残して戻るエルヴィスを視線で追った。
戻ってきたエルヴィスは、護衛たちを連れてきた。
「ほ、本当にやるんですか、俺が?」
「アナベルの実力を見るには、一番これが手っ取り早いだろう」
「……はぁ。もう、どんな結果になっても怒らないでくださいね」
肩を落とした護衛の一人がアナベルに剣を差し出す。
彼女はそれを受け取り、彼らと剣を交互に見た。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
アナベルが戸惑っているうちに、エルヴィスたちは魔物をすべて倒していた。
あっという間の出来事で、本当に魔物に襲撃されたのかと思うくらい、被害もなく全員無事だった。
「冬が近付いてきているから、少しでも蓄えようとしていたのかもねぇ……」
アドリーヌの言葉に、バッと彼女を見るアナベル。
彼女は「あら」と口元を隠し、目元を三日月のように細くして笑った。
「ほら、アナベルの愛しい人が怪我をしていないか、確認しにいきなさいな」
「……う、うん……」
「……う、うん……」
アドリーヌに背中を押されたアナベルは、エルヴィスまで駆けていく。
足音に気付いたエルヴィスがアナベルを見て、ふわりと微笑んだ。
「怪我はなかったか?」
「ええ。陛下たちが守ってくれたから……。陛下たちは? 怪我、してない? 大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。傷一つもない」
「そうですよ、陛下は氷の魔法を使えるようになってから、すっごく強くなりましたからね!」
「そうなの?」
「はい、そりゃあもう。今まで陛下のことを嘲笑っていた大臣たちが恐れるほどに」
「おい、それを今、言うか?」
「そりゃあ言いますよ。|寵姫《ちょうき》になるアナベルさんには、すべてを知る権利があるんですから」
「ええ。陛下たちが守ってくれたから……。陛下たちは? 怪我、してない? 大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。傷一つもない」
「そうですよ、陛下は氷の魔法を使えるようになってから、すっごく強くなりましたからね!」
「そうなの?」
「はい、そりゃあもう。今まで陛下のことを嘲笑っていた大臣たちが恐れるほどに」
「おい、それを今、言うか?」
「そりゃあ言いますよ。|寵姫《ちょうき》になるアナベルさんには、すべてを知る権利があるんですから」
護衛たちの会話を聞いて、アナベルは彼らを意外そうに眺める。
国王と護衛の関係上、こんなにぽんぽんと会話を……まるで友人と話すかのような気軽さは良いのだろうか、と。
アナベルの疑問を感じ取ったのか、エルヴィスは両肩を上げた。
「確かに知る権利はあるが……すべては、ティオールについてからだ。まずはデュナン公爵のタウンハウスに向かう」
デュナン公爵――……レアルテキ王国に住んでいる者なら、一度は耳にしたことがある人物。
現国王、エルヴィスの従兄。社交性があり、交渉術も豊かで、彼がいなければまとまらなかった外交が多くあるとも言われている。
「……なぜ?」
キョトンとした表情を浮かべて|尋《たず》ねるアナベルに、エルヴィスはそっと彼女の肩に手を置いた。
「|寵姫《ちょうき》になる前に、会ってほしいんだ」
「……デュナン公爵に?」
「そうだ。大事なことだからな」
「……よく、わからないのだけど……。きっと、陛下が言うなら、大事なことなのね」
「……デュナン公爵に?」
「そうだ。大事なことだからな」
「……よく、わからないのだけど……。きっと、陛下が言うなら、大事なことなのね」
自分がなぜ先にデュナン公爵に会う必要があるのかと不思議に思いつつも、エルヴィスの真剣なようにアナベルはこくりとうなずく。
「ティオールまであと少しだ。この場所は魔物が現れたから、もう少し進んで休もう」
エルヴィスの言葉に、休憩の準備を始めようとしていた人たちは荷物をまとめて、野宿先を探そうと歩き出した。
|寵姫《ちょうき》になることを受け入れたからか、エルヴィスの近くを歩くアナベル。
彼の|傍《そば》には、護衛たちも歩いていた。
相変わらず踊り子たちにちょっかいを受けているようで、困った顔をしながらも満更ではないようだ。
「……旅は楽しかったか?」
「え? ……まぁ、楽しかった、かな。最初のほうは覚えることがいっぱいで大変だったけれど、ね」
「え? ……まぁ、楽しかった、かな。最初のほうは覚えることがいっぱいで大変だったけれど、ね」
ミシェルの教えは厳しかった。それでも改善できるところや、良くできたところは常に声をかけてくれたから、ついていくことができた。
ミシェルが亡くなってからは、一時期塞ぎ込んだりもしたが、一番つらかったであろうクレマンが気丈に振る舞っていたことを知っていたし、旅芸人の仲間がアナベルの心に寄り添い、支えてくれた。何度感謝しても、感謝しきれないくらいだと、アナベルは話す。
「――あたしの血の繋がった家族は亡くなったけれど、この一座もあたしの家族なの。だから、がんばれた……と思う。旅自体も嫌いじゃなかったしねぇ。小さな村で育ったからかな? 見るものすべてが新鮮だった」
旅をしてきて見てきた景色を思い出し、柔らかく目元を細める。それでも、幼い頃からずっと復讐心を温めてきた自分に息を吐く。
――やっと叶いそうだと、アナベルは恍惚の笑みを浮かべた。
数時間歩き、魔物の気配がない場所で野宿の準備を始める。
あと少しで王都ティオールにつく。
そのあとどうなるのかは、わからない。
それでも、アナベルは期待と不安を混ぜ合わせたような感情に、自分の胸元に手を置いた。
「不安か?」
「……そりゃあ、ね。でも、これから起きることを思うと、楽しみでもあるわ。……ねえ、一つ、お願いあるのだけど」
「お願い?」
「あたしに、剣術を教えてくれる人を紹介してほしいの」
「……そりゃあ、ね。でも、これから起きることを思うと、楽しみでもあるわ。……ねえ、一つ、お願いあるのだけど」
「お願い?」
「あたしに、剣術を教えてくれる人を紹介してほしいの」
アナベルの真剣な表情と硬い声に、エルヴィスは目を|瞠《みは》る。
「それは、なぜ?」
「剣を使える人に習ってはいたけれど、自分がどのくらいの実力なのかはわからないのよね。自分の実力を知るため……と、万が一のときを考えて、習っておいたほうが良いと思って」
「剣を使える人に習ってはいたけれど、自分がどのくらいの実力なのかはわからないのよね。自分の実力を知るため……と、万が一のときを考えて、習っておいたほうが良いと思って」
エルヴィスは考えるように顎に手を置き、それから「なるほど」と小さくつぶやく。
「確かに対抗手段は多いほうが良いだろう。……では、一度アナベルの実力を教えてもらおうか」
え? と目を丸くアナベルの手を取って、旅芸人の一座から少し遠ざかる。そして、「少し待っていてくれ」と彼女を残して戻るエルヴィスを視線で追った。
戻ってきたエルヴィスは、護衛たちを連れてきた。
「ほ、本当にやるんですか、俺が?」
「アナベルの実力を見るには、一番これが手っ取り早いだろう」
「……はぁ。もう、どんな結果になっても怒らないでくださいね」
「アナベルの実力を見るには、一番これが手っ取り早いだろう」
「……はぁ。もう、どんな結果になっても怒らないでくださいね」
肩を落とした護衛の一人がアナベルに剣を差し出す。
彼女はそれを受け取り、彼らと剣を交互に見た。