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踊り子 アナベル 12話

ー/ー



「ん~……それはまた、なんとも言えないわねぇ……」

 頬に手を添えて、首をこてんとかしげる女性――アナベルと仲の良い、少し年上のアドリーヌがつぶやく。

「え?」
「だぁって、それはアナベルが決めることだもの。恋なのか、そうじゃないのか……。でも、そうね。アナベルが初めて『素敵』って思える人に出逢えたことには感謝しなきゃね?」

 くすり、と妖艶(ようえん)に微笑むアドリーヌに、アナベルは唇を尖らせてわかりやすく()ねた。

 そんな様子を見て、アドリーヌが「それじゃあ、一言だけ助言」と人差し指を口元に添えてパチンと片目を閉じる。

 アナベルがぱっと表情を明るくすると、アドリーヌは彼女の耳元でこうささやいた。

「自分の直感を信じること」

 アドリーヌの言葉に、アナベルは目をパチパチと(またた)かせて、そっと自分の胸に手を当てる。

(……自分の、直感……?)

 不思議そうな表情を浮かべるアナベルを見て、ぽんぽんと優しく彼女の背中を叩き、ぎゅっと抱きしめた。

「アナベルが考えて、信じたことを、あたしたちは応援するわ」
「……ありがとう、アドリーヌさん」

 自分には、旅芸人一座という味方がいる。

 そのことが、アナベルにはとても嬉しかった。

 血の繋がった『家族』はもういないけれど、こうして新たな『家族』ができ、その家族が自分の背中を押してくれる。

 アナベルはアドリーヌの背に手を回した。

「あたしたちのことなら、心配しなくても平気だよ。むしろ――……」

 時期がきたってことだからねぇ。

 ぽつりとささやかれた言葉の意味を、アナベルは知らなかった。

 ◆◆◆

 しばらく歩き続けて、今日はここで休もう、とクレマンが旅芸人たちに声をかける。それぞれ手慣れたようにテントを設営したり、野宿の準備を始めたりと仕事を見つけて自分ができることをやっていた。

 その中には、エルヴィスの姿もある。

 アナベルたちも食事の準備を始めた。

 野菜たっぷりのスープと、パン。他にもお肉を焼いたり果物を用意したりと、エルヴィスたちがいるからか野宿でも豪華な食事が並ぶ。

 エルヴィスの周りには護衛の騎士たちがいたが、その人たちは踊り子たちに囲まれて顔を赤らめていた。

初心(うぶ)な人たちねぇ……)

 どこか感心したようにその様子を眺めながら、アナベルはスープを飲む。

 まだ野宿ができるくらいの気候だから良いが、もう少し先の季節になれば野宿をするのも厳しくなるだろう。

 そして、その時期になれば暑いスープがあっという間に冷めてしまう。

 だが、アナベルはそんな季節のことも好きだった。

 村で過ごしていたときは、その時期をどうやって乗り越えようかと村人たちが知恵を出し合って、互いに手を取り乗り越えていた。

 村人たちが少なかったから、それでもなんとかなったことを思い出し、アナベルは懐かしむように目元を細める。

「そういえば、王都に行ったことはなかったね……」

 各地を回っていたが、この十五年、王都には寄ったことがない。

 王都に近いところまでは行ったことがあるが、王都に寄るのはまた今度、と言っていた。まだ、ミシェルが生きていた頃の話だ。

(あのときはなにも考えなかったけれど……、理由があったのかもしれない)

 王都の方角を見つめるミシェルの表情が、どこか暗かったことがアナベルの記憶に刻まれている。

 王都でなにがあったのだろうかと考え、アナベルは小さく息を吐いた。

「……どうした、食べないのか?」
「へ、陛下っ?」

 アナベルはビクッと肩を跳ねさせた。いつの間に近くまで来ていたのか、と辺りを見渡すアナベルに、エルヴィスはふっと表情を綻ばせて彼女の隣に座る。

 そして持ってきていたスープに口を付けた。

「うん、美味しいな」
「……陛下は、もっと良いものを食べているのでは?」
「こういう場所で、このように大勢で食べるほうが、よりおいしく感じるだろう?」

 アナベルは目をぱちくりと(またた)かせる。

 わいわい、がやがやと騒がしくもあるこの場所で食べるほうがおいしいと言ったエルヴィスに、今までどのような場所で食べていたのだろうかと首をかしげる彼女を見て、彼は淡々とした口調で自分がどのような環境で育ったのかを話し始めた。

「食事は一人で、周りにずらりと執事やメイドが並び、まるで監視されているかのようだった。政務を行うにも大人の許可が必要で、まだ成人を迎えていなかった私は無力を感じていたものだ」
「……陛下……」
「私に宿っている魔力が目覚め、冬の寒さが厳しいときは魔物を討伐することに集中するようになった」

 アナベルは昔、母が話してくれたことを思い出す。



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「ん~……それはまた、なんとも言えないわねぇ……」
 頬に手を添えて、首をこてんとかしげる女性――アナベルと仲の良い、少し年上のアドリーヌがつぶやく。
「え?」
「だぁって、それはアナベルが決めることだもの。恋なのか、そうじゃないのか……。でも、そうね。アナベルが初めて『素敵』って思える人に出逢えたことには感謝しなきゃね?」
 くすり、と|妖艶《ようえん》に微笑むアドリーヌに、アナベルは唇を尖らせてわかりやすく|拗《す》ねた。
 そんな様子を見て、アドリーヌが「それじゃあ、一言だけ助言」と人差し指を口元に添えてパチンと片目を閉じる。
 アナベルがぱっと表情を明るくすると、アドリーヌは彼女の耳元でこうささやいた。
「自分の直感を信じること」
 アドリーヌの言葉に、アナベルは目をパチパチと|瞬《またた》かせて、そっと自分の胸に手を当てる。
(……自分の、直感……?)
 不思議そうな表情を浮かべるアナベルを見て、ぽんぽんと優しく彼女の背中を叩き、ぎゅっと抱きしめた。
「アナベルが考えて、信じたことを、あたしたちは応援するわ」
「……ありがとう、アドリーヌさん」
 自分には、旅芸人一座という味方がいる。
 そのことが、アナベルにはとても嬉しかった。
 血の繋がった『家族』はもういないけれど、こうして新たな『家族』ができ、その家族が自分の背中を押してくれる。
 アナベルはアドリーヌの背に手を回した。
「あたしたちのことなら、心配しなくても平気だよ。むしろ――……」
 時期がきたってことだからねぇ。
 ぽつりとささやかれた言葉の意味を、アナベルは知らなかった。
 ◆◆◆
 しばらく歩き続けて、今日はここで休もう、とクレマンが旅芸人たちに声をかける。それぞれ手慣れたようにテントを設営したり、野宿の準備を始めたりと仕事を見つけて自分ができることをやっていた。
 その中には、エルヴィスの姿もある。
 アナベルたちも食事の準備を始めた。
 野菜たっぷりのスープと、パン。他にもお肉を焼いたり果物を用意したりと、エルヴィスたちがいるからか野宿でも豪華な食事が並ぶ。
 エルヴィスの周りには護衛の騎士たちがいたが、その人たちは踊り子たちに囲まれて顔を赤らめていた。
(|初心《うぶ》な人たちねぇ……)
 どこか感心したようにその様子を眺めながら、アナベルはスープを飲む。
 まだ野宿ができるくらいの気候だから良いが、もう少し先の季節になれば野宿をするのも厳しくなるだろう。
 そして、その時期になれば暑いスープがあっという間に冷めてしまう。
 だが、アナベルはそんな季節のことも好きだった。
 村で過ごしていたときは、その時期をどうやって乗り越えようかと村人たちが知恵を出し合って、互いに手を取り乗り越えていた。
 村人たちが少なかったから、それでもなんとかなったことを思い出し、アナベルは懐かしむように目元を細める。
「そういえば、王都に行ったことはなかったね……」
 各地を回っていたが、この十五年、王都には寄ったことがない。
 王都に近いところまでは行ったことがあるが、王都に寄るのはまた今度、と言っていた。まだ、ミシェルが生きていた頃の話だ。
(あのときはなにも考えなかったけれど……、理由があったのかもしれない)
 王都の方角を見つめるミシェルの表情が、どこか暗かったことがアナベルの記憶に刻まれている。
 王都でなにがあったのだろうかと考え、アナベルは小さく息を吐いた。
「……どうした、食べないのか?」
「へ、陛下っ?」
 アナベルはビクッと肩を跳ねさせた。いつの間に近くまで来ていたのか、と辺りを見渡すアナベルに、エルヴィスはふっと表情を綻ばせて彼女の隣に座る。
 そして持ってきていたスープに口を付けた。
「うん、美味しいな」
「……陛下は、もっと良いものを食べているのでは?」
「こういう場所で、このように大勢で食べるほうが、よりおいしく感じるだろう?」
 アナベルは目をぱちくりと|瞬《またた》かせる。
 わいわい、がやがやと騒がしくもあるこの場所で食べるほうがおいしいと言ったエルヴィスに、今までどのような場所で食べていたのだろうかと首をかしげる彼女を見て、彼は淡々とした口調で自分がどのような環境で育ったのかを話し始めた。
「食事は一人で、周りにずらりと執事やメイドが並び、まるで監視されているかのようだった。政務を行うにも大人の許可が必要で、まだ成人を迎えていなかった私は無力を感じていたものだ」
「……陛下……」
「私に宿っている魔力が目覚め、冬の寒さが厳しいときは魔物を討伐することに集中するようになった」
 アナベルは昔、母が話してくれたことを思い出す。