The warfire comes from hell
ー/ー-戦火はある日突然燃え上がる。
だがあるいはそれを予見していたものもいるのかもしれない-
だがあるいはそれを予見していたものもいるのかもしれない-
セトミらが謎の武装集団に拘束される十五分ほど前――――。
戦勝記念式典の会場では、ゴルダ執政長官による演説が行われていた。その内容は、いかにこの国が勇敢に領土を勝ち取ってきたか、だ。それをスピーカー越しでもつばが飛んできそうな勢いでゴルダは熱弁を振るっている。
――――どんな勇ましい言葉で取り繕っても、殻に隠れた亀が言ってるんじゃ、説得力など皆無だろうに。
ひときわ高い台にある、執政官席。そこは半球状のドームになっており、そのドームは先日、研究部が実用段階に漕ぎ着けたものの試作品だ。なんでも実弾銃はもちろん、通常の防弾ガラスでは焼き切ってしまう出力を持つガンマレイの射撃さえも通さない、『絶対的な壁』だそうだ。
今回の警備担当責任者であるタリアは、その席に着くことを丁重にお断りしたのだった。ミイラ男やファンタジーのオークみたいな豚と円陣組んで演説など、まさしく戦前の本で読んだ、魔王の悪巧みのシーンそのままだ。
タリアは、評議員席を覗き見ることができる塔の中程からスナイパーライフルと双眼鏡を持ち、周囲を警戒していた。
戦勝記念式典の会場では、ゴルダ執政長官による演説が行われていた。その内容は、いかにこの国が勇敢に領土を勝ち取ってきたか、だ。それをスピーカー越しでもつばが飛んできそうな勢いでゴルダは熱弁を振るっている。
――――どんな勇ましい言葉で取り繕っても、殻に隠れた亀が言ってるんじゃ、説得力など皆無だろうに。
ひときわ高い台にある、執政官席。そこは半球状のドームになっており、そのドームは先日、研究部が実用段階に漕ぎ着けたものの試作品だ。なんでも実弾銃はもちろん、通常の防弾ガラスでは焼き切ってしまう出力を持つガンマレイの射撃さえも通さない、『絶対的な壁』だそうだ。
今回の警備担当責任者であるタリアは、その席に着くことを丁重にお断りしたのだった。ミイラ男やファンタジーのオークみたいな豚と円陣組んで演説など、まさしく戦前の本で読んだ、魔王の悪巧みのシーンそのままだ。
タリアは、評議員席を覗き見ることができる塔の中程からスナイパーライフルと双眼鏡を持ち、周囲を警戒していた。
戦前は球技かなにかのスポーツ施設だったのか、楕円状の敷地は、いわばスタジアムであった。今はスタジアムというよりは、ぼろぼろに朽ち果てて、古代のコロシアムのような様相を呈してはいるが。
タリアはスタジアムであった頃の名残だろうか、マイクや何かしらの機材のあった部屋から辺りを警戒していた。おそらく実況するための場所であったであろうここは、ゴルダが演説を行っている場所を見通すには最適な場所だった。
「やれやれ。おっさん豚の顔を遠くから眺めるだけの吐き気と戦うミッションになりそうだけど……」
だが、そう一人で皮肉っぽく呟くタリアの胸には、ひとつ、ぬぐい去れない染みがあった。
幼なじみ――――シルバの、嫌な予感がするという言葉だ。彼は、根拠のないことを発言するような人間ではない。むしろ、相手にも言葉の根拠の正確さを尋ねるくらいの、現実主義者だ。その彼がはっきりとした根拠も無く『予感』だけで発した言葉は、逆に奇妙な信憑性をもって、彼女の中に残っていた。
タリアはスタジアムであった頃の名残だろうか、マイクや何かしらの機材のあった部屋から辺りを警戒していた。おそらく実況するための場所であったであろうここは、ゴルダが演説を行っている場所を見通すには最適な場所だった。
「やれやれ。おっさん豚の顔を遠くから眺めるだけの吐き気と戦うミッションになりそうだけど……」
だが、そう一人で皮肉っぽく呟くタリアの胸には、ひとつ、ぬぐい去れない染みがあった。
幼なじみ――――シルバの、嫌な予感がするという言葉だ。彼は、根拠のないことを発言するような人間ではない。むしろ、相手にも言葉の根拠の正確さを尋ねるくらいの、現実主義者だ。その彼がはっきりとした根拠も無く『予感』だけで発した言葉は、逆に奇妙な信憑性をもって、彼女の中に残っていた。
「――――ん?」
不意に、タリアの装着していたヘッドセットのイヤホンから、ざわついたノイズが走った。いや――――、これは、ノイズではない。叫び声だ。マイクに近いことと、本人のダミ声が伴ってノイズに聞こえているに過ぎない。
タリアが音を拾うようヘッドセットに設定していた場所は、無論――――ゴルダが演説を行う、評議員席だった。
「――――まさか、いくらなんでも、そんな……」
思わずライフルのスコープで評議員席を、見た。
「シュナイゼルッ! これはいったいなんの真似だッ!」
一方の評議員席では、警戒するタリアや兵士も未だ気づけぬ参上が広がりつつあった。席についていた執政官は、みなことごとく頭や胸を撃たれ、倒れている。それを行ったのは包帯の男――――シュナイゼルにほかならなかった。
未だわずかに熱をもつ、その手のガンマレイに腰を抜かしたゴルダがじりじりと後ずさる。
「なんの真似? はて、おかしなことをおっしゃいますな、陛下。私は陛下の演説にいたく感銘を受けましてな。『強いものこそが支配者足り得るべきである』というところにね。……それを、今から実践していこうと思い立っただけです」
「き、気でも狂ったか!? 今すぐにでも、貴様は蜂の巣に……」
狼狽しながらも言い返すゴルダに、シュナイゼルは不気味にその細い目と唇を歪ませた。
「陛下こそお忘れですか? この絶対たる壁を、誰が今、操作しているのか」
その言葉に、ゴルダの顔からさっと血の気が引き、代わりに球のような汗がその顔中を覆い隠した。次の瞬間には震える手で腰のそれを手探りで探しだす。その重さでなおのこと震える手でそれ――――『ジュリエット』の照準をつけると、引き金を引いた。
「ぶほぉっ!」
その銃のあまりの衝撃に、ゴルダはもんどりうって倒れる。もうもうと舞い上がった砂埃が目に入り、前を見ることができない。必死で目をこする彼の耳に届いたのは、もはや聞くのも恐ろしい、その声。
「おやおや陛下、いけませんな……。強いものであることを自負するのならば、不意打ちはよろしくないのではないかと」
それは、傷一つついていない、半球状の『絶対的な壁』をその周囲にまとったシュナイゼルの姿だった。
不意に、タリアの装着していたヘッドセットのイヤホンから、ざわついたノイズが走った。いや――――、これは、ノイズではない。叫び声だ。マイクに近いことと、本人のダミ声が伴ってノイズに聞こえているに過ぎない。
タリアが音を拾うようヘッドセットに設定していた場所は、無論――――ゴルダが演説を行う、評議員席だった。
「――――まさか、いくらなんでも、そんな……」
思わずライフルのスコープで評議員席を、見た。
「シュナイゼルッ! これはいったいなんの真似だッ!」
一方の評議員席では、警戒するタリアや兵士も未だ気づけぬ参上が広がりつつあった。席についていた執政官は、みなことごとく頭や胸を撃たれ、倒れている。それを行ったのは包帯の男――――シュナイゼルにほかならなかった。
未だわずかに熱をもつ、その手のガンマレイに腰を抜かしたゴルダがじりじりと後ずさる。
「なんの真似? はて、おかしなことをおっしゃいますな、陛下。私は陛下の演説にいたく感銘を受けましてな。『強いものこそが支配者足り得るべきである』というところにね。……それを、今から実践していこうと思い立っただけです」
「き、気でも狂ったか!? 今すぐにでも、貴様は蜂の巣に……」
狼狽しながらも言い返すゴルダに、シュナイゼルは不気味にその細い目と唇を歪ませた。
「陛下こそお忘れですか? この絶対たる壁を、誰が今、操作しているのか」
その言葉に、ゴルダの顔からさっと血の気が引き、代わりに球のような汗がその顔中を覆い隠した。次の瞬間には震える手で腰のそれを手探りで探しだす。その重さでなおのこと震える手でそれ――――『ジュリエット』の照準をつけると、引き金を引いた。
「ぶほぉっ!」
その銃のあまりの衝撃に、ゴルダはもんどりうって倒れる。もうもうと舞い上がった砂埃が目に入り、前を見ることができない。必死で目をこする彼の耳に届いたのは、もはや聞くのも恐ろしい、その声。
「おやおや陛下、いけませんな……。強いものであることを自負するのならば、不意打ちはよろしくないのではないかと」
それは、傷一つついていない、半球状の『絶対的な壁』をその周囲にまとったシュナイゼルの姿だった。
「ひ……ひいいッ!」
這うようにして少しでも包帯の男から逃れようとするその様は、誰の目から見ても、死の直前に必死でもがく虫けらそのものだった。
その先回りをするように、シュナイゼルはゆっくりとゴルダの正面へと歩く、両腕をやれやれとでも言いたげに広げるその様は、さながら怪人を演じる舞台役者のごとくだった。いや、実際、彼からしてみればスタジアム内の兵たちは聴衆にしか過ぎなかったのかもしれない。その身を守る壁は、何よりも強固であることは明白だったのだから。
やがて彼は息も絶え絶えのゴルダの前に跪くと、その手の黄金の銃――――彼が『ジュリエット』と呼ぶ44口径マグナムを、危ないおもちゃを手にした幼子から取り上げるように、いとも簡単に奪い取った。
「ま、待てっ! 待ってくれっ! な、何が望みだ。な、なんでもお前に譲るぞ。ちょ、長官の地位だってお前が望むなら明け渡す! だ、だから命だけは……ッ!」
「何が望みか……か」
這うようにして少しでも包帯の男から逃れようとするその様は、誰の目から見ても、死の直前に必死でもがく虫けらそのものだった。
その先回りをするように、シュナイゼルはゆっくりとゴルダの正面へと歩く、両腕をやれやれとでも言いたげに広げるその様は、さながら怪人を演じる舞台役者のごとくだった。いや、実際、彼からしてみればスタジアム内の兵たちは聴衆にしか過ぎなかったのかもしれない。その身を守る壁は、何よりも強固であることは明白だったのだから。
やがて彼は息も絶え絶えのゴルダの前に跪くと、その手の黄金の銃――――彼が『ジュリエット』と呼ぶ44口径マグナムを、危ないおもちゃを手にした幼子から取り上げるように、いとも簡単に奪い取った。
「ま、待てっ! 待ってくれっ! な、何が望みだ。な、なんでもお前に譲るぞ。ちょ、長官の地位だってお前が望むなら明け渡す! だ、だから命だけは……ッ!」
「何が望みか……か」
かすかに微笑むように表情を歪ませ、少しの間思案するように逡巡するシュナイゼルに、少々落ち着きを取り戻したゴルダがすがりつく。
「そ、そうだ。ウロボロスの完成した後はエデンを攻略し、帝国を築こう。そこでお前――――いや、あなた様を皇帝と称えようではありませんか!」
「……私の望み。それは……」
表情の消えたシュナイゼルに恐々としながらも、命乞いが通じたかというゴルダの願いは。
「……貴様のいない世界だ」
シュナイゼルの放った言葉と弾丸に、彼の頭と同じように、熟れたざくろのごとく飛び散った。
「そ、そうだ。ウロボロスの完成した後はエデンを攻略し、帝国を築こう。そこでお前――――いや、あなた様を皇帝と称えようではありませんか!」
「……私の望み。それは……」
表情の消えたシュナイゼルに恐々としながらも、命乞いが通じたかというゴルダの願いは。
「……貴様のいない世界だ」
シュナイゼルの放った言葉と弾丸に、彼の頭と同じように、熟れたざくろのごとく飛び散った。
「陛下、感謝してください。あなたの愛しいジュリエットで殺してさしあげたのですから。もっとも、降りた幕はシェイクスピアの悲劇ではなく、三文芝居の喜劇だったようですがね」
さして感慨もなさげに言うと、シュナイゼルは先程までゴルダが熱弁を振るっていたマイクに向かう。
「――――さて、君たちにはつまらぬ芝居を見せてしまった。ここからは、もっと胸の踊る第二幕といこうじゃないか」
包帯の上からでもわかる、壮絶に笑んだシュナイゼルの表情に、兵士たちは銃を持ちながらも呆然とするしかない。
「まず、これはつまらぬ裏切りなどではない。この国を真の姿へ導く革命だ。オートマトンを我らのもとへ統合し、エデンを掌握する。その上でシャドウのロストテクノロジーを手中に収めれば、我々は世界の王となれる。そうは思わんかね?」
呆然とする兵たちの反応を楽しむように見渡し、シュナイゼルは続ける。
さして感慨もなさげに言うと、シュナイゼルは先程までゴルダが熱弁を振るっていたマイクに向かう。
「――――さて、君たちにはつまらぬ芝居を見せてしまった。ここからは、もっと胸の踊る第二幕といこうじゃないか」
包帯の上からでもわかる、壮絶に笑んだシュナイゼルの表情に、兵士たちは銃を持ちながらも呆然とするしかない。
「まず、これはつまらぬ裏切りなどではない。この国を真の姿へ導く革命だ。オートマトンを我らのもとへ統合し、エデンを掌握する。その上でシャドウのロストテクノロジーを手中に収めれば、我々は世界の王となれる。そうは思わんかね?」
呆然とする兵たちの反応を楽しむように見渡し、シュナイゼルは続ける。
「だがそれには、強欲な豚が指導者では無理だ。目の前の餌に釣られて走り出した先で、罠に捕らわれるだけだ。だから、私はやつらを排除した」
「ふざけるなっ!」
だがそこに一人、突如としてスタジアムに舞い降りた影があった。それは、油断なくスナイパーライフルを構えたままのタリアの姿だった。
「貴殿、神にでもなったつもりかッ! 民の犠牲も顧みず、このような場所でクーデターを企て、なにが世界の王だ! 貴様はただの賊軍にすぎんッ!」
普段と全く違う、凛とした声のタリアに、しかしシュナイゼルは笑みを崩さない。
「これはこれはタリア少将、勇ましいことですな。しかし、賊軍……はて、それは我らの方かね? すでに中央管理局は我が研究部の兵が抑えた。最新式のガンマレイ、武装はすべて元より我らのもの。基地も、力も失った貴殿らが官軍であると?」
「ふざけるなっ!」
だがそこに一人、突如としてスタジアムに舞い降りた影があった。それは、油断なくスナイパーライフルを構えたままのタリアの姿だった。
「貴殿、神にでもなったつもりかッ! 民の犠牲も顧みず、このような場所でクーデターを企て、なにが世界の王だ! 貴様はただの賊軍にすぎんッ!」
普段と全く違う、凛とした声のタリアに、しかしシュナイゼルは笑みを崩さない。
「これはこれはタリア少将、勇ましいことですな。しかし、賊軍……はて、それは我らの方かね? すでに中央管理局は我が研究部の兵が抑えた。最新式のガンマレイ、武装はすべて元より我らのもの。基地も、力も失った貴殿らが官軍であると?」
「なにッ!?」
その強い意志を秘めたタリアの青い瞳が、驚愕に揺れる。
「そこにいる方々にも、人質という形でご協力いただいた。そうそう――――報告では、その中に君の父君もおられるそうだ。――――タリア、シラミネ少将」
「……………っ!」
シュナイゼルの発した言葉に、ライフルを構える腕が膠着する。歯をきしませながら、タリアは照準をシュナイゼルから外す。
「では、我々の要求を伝えておこう。まず、ソドム軍に属するものは武装放棄の上、我らの指揮下に入る事。もうひとつ。スクラップド・ギアを不法占拠するオートマトンは速やかに投降し、我らの尖兵となるべく再プログラムを受けること。以上だ。これが36時間以内に遂行されない場合、システム・ウロボロスを起動させ、両軍ともに排除する」
その強い意志を秘めたタリアの青い瞳が、驚愕に揺れる。
「そこにいる方々にも、人質という形でご協力いただいた。そうそう――――報告では、その中に君の父君もおられるそうだ。――――タリア、シラミネ少将」
「……………っ!」
シュナイゼルの発した言葉に、ライフルを構える腕が膠着する。歯をきしませながら、タリアは照準をシュナイゼルから外す。
「では、我々の要求を伝えておこう。まず、ソドム軍に属するものは武装放棄の上、我らの指揮下に入る事。もうひとつ。スクラップド・ギアを不法占拠するオートマトンは速やかに投降し、我らの尖兵となるべく再プログラムを受けること。以上だ。これが36時間以内に遂行されない場合、システム・ウロボロスを起動させ、両軍ともに排除する」
「――――そんな馬鹿な要求を……!」
歯噛みしながらシュナイゼルを睨むタリア。だがその後の句を次ぐ事ができない様子を見、包帯の男は笑う。
「飲まない、とは言えまい? 飲めないなら、システムを起動させるだけのこと。もはや執政官は君と私、そして囚われたシラミネ殿のみ。君がNOというなら、それをそちらの総意と受け取る」
断腸の思いで言葉を飲み込むタリアに、シュナイゼルは芝居がかった口調で嘲笑を向けた。
「そうそう、ひとつ言い忘れていた。この場ではまだ旧軍の制服を着ている者たちも、いまこちらにつくならば、喜んで同士として迎えよう。さて……君の隣の者は、どうするだろうね?」
「なっ……!」
驚愕するタリアを尻目に、シュナイゼルはゆっくりとした歩調で壇上から降りていく。
歯噛みしながらシュナイゼルを睨むタリア。だがその後の句を次ぐ事ができない様子を見、包帯の男は笑う。
「飲まない、とは言えまい? 飲めないなら、システムを起動させるだけのこと。もはや執政官は君と私、そして囚われたシラミネ殿のみ。君がNOというなら、それをそちらの総意と受け取る」
断腸の思いで言葉を飲み込むタリアに、シュナイゼルは芝居がかった口調で嘲笑を向けた。
「そうそう、ひとつ言い忘れていた。この場ではまだ旧軍の制服を着ている者たちも、いまこちらにつくならば、喜んで同士として迎えよう。さて……君の隣の者は、どうするだろうね?」
「なっ……!」
驚愕するタリアを尻目に、シュナイゼルはゆっくりとした歩調で壇上から降りていく。
一瞬にして、その場は混乱のるつぼとなった。シュナイゼルにつこうと後を追うものと、それを止めようとする者の間で起こったそれが、先ほどまで味方同士だったものたちでの戦闘に発展するまで、そう時間はかからなかった。
「くそっ……我らの軍につくものは私に続け! この場は撤退! 撤退する! 一度、体勢を立て直す! 撤退せよ!」
叫びながら兵たちを率い、駆けるタリアであったが、彼女自身、この国の中心部、そして圧倒的な力を奪われたこの状況で、なにをもって体勢を立て直すことができるかなど、思いもよらないことだった。
同時刻、中央管理局。
突如として現れた防護服の男たちに拘束されたセトミとリリアは、研究室らしきオフィスのモニターで式典会場の様子を見せられていた。どうやら元はなにかしらの競技場だったらしいその場所は、どうやら当時の残留物である監視カメラによって映されたようだった。
「さて、この様子を見てもらえればわかると思うが、君たちには人質としてここにとどまっていただこう。安心しろ、反抗さえしなければ、手荒な真似はしない」
男たちのうちの一人が、防護マスク越しに言う。
――――その大戦前のホラーフィルムみたいな恰好で言ったって説得力ゼロだっての。鏡でも見てきなよ。
心の中で舌を出しながら、セトミは思わず嘆息する。
しかし、彼女の意に反して、男たちは確かに二人に手荒な真似はこれまでのところ、していなかった。銃を向けられてはいるものの、手や足を縛るでもなく、身体検査をするわけでもない。
「さて、では早速で悪いが、君たちには研究所の一室にいてもらう。ことが終わるまでな。すべて方がついたら、君たちを解放することを約束しよう」
言いながら、男がセトミらの背後にいた男に目くばせする。
「さあ歩け。妙な真似はするなよ」
男たちに銃口でつつかれるようにして、セトミらは部屋を出る。男たちは背後に二人、左右に一人ずつ。いずれもライフルタイプのガンマレイを装備している。
その男たちの一人、セトミの左側について歩いていた男が、通路にあるドアを示して見せた。
「その部屋に入れ」
どうやらそこが用意された部屋らしい。所狭しとなにやら機械が置かれたその場所の壁際には、近代的なシステムを持った部屋には少々似つかわしくない、鉄格子のはめられた一角があった。
その内部に向けてなにやら正体不明の機械が向けられていることからして、ここではなにか生物学的な研究が行われていたのだろうか。
「少々、獣臭くて申し訳ないが、その牢に入っていてもらう。安心しろ、君たちのことは丁重に扱うよう、シュナイゼル様から厳命を受けている。おとなしくしていれば、危害を加えることはない」
男がいう隣で、別の男が鍵束を取り出し、牢の鍵をかけた。てっきり見張りがつくものと考えていたが、男たちはそれだけ行うと、部屋から出ていく。ただ、部屋の入り口のドアはしっかりと施錠されたようだったが。
「……やれやれね。まさかこんなタイミングでこんなことになるなんて、はた迷惑なミイラ男だこと」
苦い顔で舌を出すセトミに、リリアが小首を傾げながら、とつとつと話しかける。
「しかし、妙ですね。いくら私たちが要人を装っているとはいえ、身体を拘束することもなく、ボディチェックすら行わないというのは、制圧の手際の良さと比べて、ずいぶん甘く感じられます」
「……確かにね。アンセムもデヴァイスも取り上げられなかったのはラッキーだったけど……お嬢様とただのメイドと思って、なめてかかってんのかしらね」
そう嘆息するセトミではあったが、その表情は自分の言葉にいまいち納得していないのは、一目瞭然だった。
「まあ、そこは考えてもしょうがないでしょ。とりあえず動きましょ。ここでじっとしているわけにもいかないし」
セトミのその言葉に、リリアが不思議そうに視線を向ける。
「くそっ……我らの軍につくものは私に続け! この場は撤退! 撤退する! 一度、体勢を立て直す! 撤退せよ!」
叫びながら兵たちを率い、駆けるタリアであったが、彼女自身、この国の中心部、そして圧倒的な力を奪われたこの状況で、なにをもって体勢を立て直すことができるかなど、思いもよらないことだった。
同時刻、中央管理局。
突如として現れた防護服の男たちに拘束されたセトミとリリアは、研究室らしきオフィスのモニターで式典会場の様子を見せられていた。どうやら元はなにかしらの競技場だったらしいその場所は、どうやら当時の残留物である監視カメラによって映されたようだった。
「さて、この様子を見てもらえればわかると思うが、君たちには人質としてここにとどまっていただこう。安心しろ、反抗さえしなければ、手荒な真似はしない」
男たちのうちの一人が、防護マスク越しに言う。
――――その大戦前のホラーフィルムみたいな恰好で言ったって説得力ゼロだっての。鏡でも見てきなよ。
心の中で舌を出しながら、セトミは思わず嘆息する。
しかし、彼女の意に反して、男たちは確かに二人に手荒な真似はこれまでのところ、していなかった。銃を向けられてはいるものの、手や足を縛るでもなく、身体検査をするわけでもない。
「さて、では早速で悪いが、君たちには研究所の一室にいてもらう。ことが終わるまでな。すべて方がついたら、君たちを解放することを約束しよう」
言いながら、男がセトミらの背後にいた男に目くばせする。
「さあ歩け。妙な真似はするなよ」
男たちに銃口でつつかれるようにして、セトミらは部屋を出る。男たちは背後に二人、左右に一人ずつ。いずれもライフルタイプのガンマレイを装備している。
その男たちの一人、セトミの左側について歩いていた男が、通路にあるドアを示して見せた。
「その部屋に入れ」
どうやらそこが用意された部屋らしい。所狭しとなにやら機械が置かれたその場所の壁際には、近代的なシステムを持った部屋には少々似つかわしくない、鉄格子のはめられた一角があった。
その内部に向けてなにやら正体不明の機械が向けられていることからして、ここではなにか生物学的な研究が行われていたのだろうか。
「少々、獣臭くて申し訳ないが、その牢に入っていてもらう。安心しろ、君たちのことは丁重に扱うよう、シュナイゼル様から厳命を受けている。おとなしくしていれば、危害を加えることはない」
男がいう隣で、別の男が鍵束を取り出し、牢の鍵をかけた。てっきり見張りがつくものと考えていたが、男たちはそれだけ行うと、部屋から出ていく。ただ、部屋の入り口のドアはしっかりと施錠されたようだったが。
「……やれやれね。まさかこんなタイミングでこんなことになるなんて、はた迷惑なミイラ男だこと」
苦い顔で舌を出すセトミに、リリアが小首を傾げながら、とつとつと話しかける。
「しかし、妙ですね。いくら私たちが要人を装っているとはいえ、身体を拘束することもなく、ボディチェックすら行わないというのは、制圧の手際の良さと比べて、ずいぶん甘く感じられます」
「……確かにね。アンセムもデヴァイスも取り上げられなかったのはラッキーだったけど……お嬢様とただのメイドと思って、なめてかかってんのかしらね」
そう嘆息するセトミではあったが、その表情は自分の言葉にいまいち納得していないのは、一目瞭然だった。
「まあ、そこは考えてもしょうがないでしょ。とりあえず動きましょ。ここでじっとしているわけにもいかないし」
セトミのその言葉に、リリアが不思議そうに視線を向ける。
「しかし、牢のロックは……。電子ロックならば私が開錠できますが、これは……」
そのリリアのセリフに、セトミはにやりといたずらを思いついた猫のように笑う。その手には、シラミネに渡されたヘアピン入りの箱があった。
「これよ、これ。アナログな鍵はセトミちゃんにお任せあれ。多分、元々そういうつもりで渡してきたのね、おじさま。なかなか抜け目ないじゃない」
その言葉と同時に、セトミは数本のヘアピンをくわえると、器用に両手で鉄格子の向こうの鍵穴にヘアピンをねじこむ。
「おっけーおっけー、シリンダーの数はそう多くないね。これなら目つぶってても行けるわ。所詮、獣用の檻ってことね」
「チェイサーキャットと二つ名を持つあなたがそれを破るというのも皮肉なものですね」
珍しく少し笑っていうリリアに、セトミの表情が一気に渋くなる。
そのリリアのセリフに、セトミはにやりといたずらを思いついた猫のように笑う。その手には、シラミネに渡されたヘアピン入りの箱があった。
「これよ、これ。アナログな鍵はセトミちゃんにお任せあれ。多分、元々そういうつもりで渡してきたのね、おじさま。なかなか抜け目ないじゃない」
その言葉と同時に、セトミは数本のヘアピンをくわえると、器用に両手で鉄格子の向こうの鍵穴にヘアピンをねじこむ。
「おっけーおっけー、シリンダーの数はそう多くないね。これなら目つぶってても行けるわ。所詮、獣用の檻ってことね」
「チェイサーキャットと二つ名を持つあなたがそれを破るというのも皮肉なものですね」
珍しく少し笑っていうリリアに、セトミの表情が一気に渋くなる。
「ぶー。言うねえリリアちゃん。……おっ、これで……」
セトミの表情に再び笑みが戻ったと同時に、小気味よい金属音とともに、鉄格子が開いた。
「よし、次!」
部屋の入り口の扉も、鉄格子よりは手間取ったものの、やがて扉は開いた。
「さて、こっから先は変装しようがしてまいが、問答無用だろうね。だったら、この格好でも仕方ない、か」
セトミが優美なドレスと帽子を振り払うようにばっと脱ぎ捨てると、その下から普段の彼女の姿が現れる。どこに隠し持っていたのか、帽子も魔女のようなとんがり帽子にかぶりなおした。
「これでよし。あー、あのかっこ、落ち着かなかった。動きにくいし、アンセム抜くにも邪魔だし、髪はうざったいし」
セトミの表情に再び笑みが戻ったと同時に、小気味よい金属音とともに、鉄格子が開いた。
「よし、次!」
部屋の入り口の扉も、鉄格子よりは手間取ったものの、やがて扉は開いた。
「さて、こっから先は変装しようがしてまいが、問答無用だろうね。だったら、この格好でも仕方ない、か」
セトミが優美なドレスと帽子を振り払うようにばっと脱ぎ捨てると、その下から普段の彼女の姿が現れる。どこに隠し持っていたのか、帽子も魔女のようなとんがり帽子にかぶりなおした。
「これでよし。あー、あのかっこ、落ち着かなかった。動きにくいし、アンセム抜くにも邪魔だし、髪はうざったいし」
本当にドレス姿が窮屈だったらしく、大きく伸びとあくびをしてから、セトミはリリアを振り返った。
「……さて、そんじゃまずは、おじさまを助けに行かないとね。リリア、レーダーは使える?」
「……………」
だが、問われたリリアは意外そうにセトミを見、返事がない。
「脱出するのでは、ないのですか?」
「へ? だっておじさまが捕まったままにしておくわけにはいかないでしょ?」
今度はセトミが何を言ってるんだとばかりに腰に手を当て、言う。
「いえ……もちろん私はシラミネ様の救出に向かいますが。あなた方のエマさんを取り戻すという目的は達成されたはず。このまま、撤収されるのかと……」
「……さて、そんじゃまずは、おじさまを助けに行かないとね。リリア、レーダーは使える?」
「……………」
だが、問われたリリアは意外そうにセトミを見、返事がない。
「脱出するのでは、ないのですか?」
「へ? だっておじさまが捕まったままにしておくわけにはいかないでしょ?」
今度はセトミが何を言ってるんだとばかりに腰に手を当て、言う。
「いえ……もちろん私はシラミネ様の救出に向かいますが。あなた方のエマさんを取り戻すという目的は達成されたはず。このまま、撤収されるのかと……」
ぼうとした瞳で言うリリアに、セトミはまたもにやりと笑う。
「なーに言ってんのよ。ここまで首突っ込んじゃったんだから、最後までつきあうっての。ねー、駄犬、ミナ、聞いてる?」
こちらもいつも通りに左腕に付け替えたデヴァイスにいつから通信を始めていたのか、セトミが問いかけた。
「コラ、誰が駄犬だ? ……ったく、お前ならそういうと思ってたぜ」
「ミナ、リリアおねえちゃんたちの気持ち、ちょっとだけわかる。ミナ、お手伝い、する」
デヴァイスを見せつけるようにしてリリアの前に突き出し、セトミが親指を立てて見せた。
「なーに言ってんのよ。ここまで首突っ込んじゃったんだから、最後までつきあうっての。ねー、駄犬、ミナ、聞いてる?」
こちらもいつも通りに左腕に付け替えたデヴァイスにいつから通信を始めていたのか、セトミが問いかけた。
「コラ、誰が駄犬だ? ……ったく、お前ならそういうと思ってたぜ」
「ミナ、リリアおねえちゃんたちの気持ち、ちょっとだけわかる。ミナ、お手伝い、する」
デヴァイスを見せつけるようにしてリリアの前に突き出し、セトミが親指を立てて見せた。
「そーいうこと。あ、勘違いしないでよね。別にあんたたちのためにやるってわけじゃないのよ。私は、私のやりたいようにやるし、生きたいように生きるってだけだから」
そう言ってセトミは、立てた親指をひっこめるとちっちっち、と人差し指を振って見せた。
「それに……このチェイサーキャット様をここまでコケにしてくれたお礼を、あのミイラ男にしてやらないとね。ふっふっふーん」
おどけて、しゃーっと威嚇する猫のような声を出しながら、セトミは両手を爪を出した猫のごとく構える。
「あなたは……本当にフリーダムですね」
呆れたような顔で、しかし少し微笑みながら、リリアがうなずく。
「なによそれ。そういうあんただって、名前そのままのアイアンメイデン(鋼鉄の乙女)でしょ」
本人には不服な言い回しだったのか、口を尖らせてセトミは言い返した。
「まあいいわ。そんじゃあ、猫とロボ子チーム、おじさまの救出に向かいますか!」
同時刻、中央管理局、執政官室。
シュナイゼルは式典会場から、自室へと戻っていた。街は戦いに包まれつつあったが、実弾銃を防ぐ防壁システムさえあれば、恐れることはなかった。
「さて……計画を、次の段階へと移すこととしよう……」
机と椅子に着き、額を包帯の上から押さえながら、シュナイゼルがうっそりとつぶやく。その目は、自室の入り口を映す監視カメラのモニターへと注がれていた。
いや、正確には、そこに映る、一人の人影に。
「……入りたまえ、ヘヴンリー軍曹」
その声に、入り口のドアがノックもなく開く。軍曹ほどの階級の者が執政官室に入る際には、通常ならば必ず、ノック、敬礼をすることが義務付けられているが、その人物はそれらを完全に無視して入室した。
だが、そのことにシュナイゼルは言及しようとはしない。それはつまり、入ってきた人物は特別であることを言葉もなく示唆していた。
「……私の出番か? 新執政長官殿? ……いや待て、いわば今は無政府状態なのだから、執政官でもないわけか?」
どこか不遜な色を含んだ物言いで笑うその女性――――シュナイゼルの言うヘヴンリー軍曹は、特異な外見を持つ女性だった。荒々しくレイヤーを効かせた髪は燃えるように赤く、同様にその瞳も赤い。将校用の軍服も、上から下まで赤で統一されており、全身が真っ赤であるといえた。
そのカラーが彼女の性格を示しているかのように、その瞳や顔つきは鋭く、刺すような剣呑さを帯びていた。
「まあ、どうでもいいか。私を呼んだってことは、暴れて来いってことだろう? 場所は?」
上官に対するものとは到底思えない横柄な態度にも、シュナイゼルの表情は変わらない。いや、むしろその横柄さを楽しんでいるようですらある。
「……スクラップド・ギアだ。彼らに再プログラムを受けることを要求する声明は出したが、彼らは従うまい。武力をもってこれを制圧、彼らをここへ連行しろ」
淡々と言うシュナイゼルに、ヘヴンリーは酷薄に笑う。
「……へえ。制圧しちゃっていいのかい? 私がそんなつもりでやったら、力加減を間違ええて、『ついうっかり』壊滅くらいさせちゃうかも知れないぞ?」
胡乱げな調子で相変わらず笑うヘヴンリーに対し、不意にシュナイゼルのまとう空気が奇妙に変わる。かすかにゆがめたその瞳は、どこかに怒気をはらんでいるようにも見える。
「それだけは許可できん。あくまで彼らは捕えるのだ。殲滅しては意味がない。……お前に、それをする権利がないのはわかっているはずだ」
その空気の微妙な変化に、ヘヴンリーの表情も変わる。シュナイゼルの視線に正面から睨み返すような剣呑な目に。だがそれもほんの一瞬で、彼女は小さく舌打ちすると、シュナイゼルから視線を外した。
「……ちっ、わかったよ、上官殿」
「それでいい。軍のトラックに兵たちを乗せて出発しろ。トラックにスクラップドギアのオートマトンたちを収容し、ここに連れ帰れ。繰り返すが、故障者は出すな。一人も、だ」
念を押すように重い声で言うシュナイゼルに、ヘヴンリーは苦い表情で頭をかいた。
「はいはい、サー・イエス・サー。何度も言わなくてもわかるさ。言われたとおりにいたしますよ」
皮肉気に、かつ吐き捨てるように言うと、ヘヴンリーは大げさに肩をすくめて見せながら、部屋を出ていく。
その背が出ていった空間をシュナイゼルは色のない瞳で見つめながら、その包帯の下で小さく息を吐いた。
「……できることならば、あれも、最後には……」
だが、その言葉はその呼吸が散るのと同時に、祈りの言葉のように霧散した。
「……いや……それはおそらく、かなわぬか……」
その頃、セトミとリリアは基地内の一階へと到達していた。シラミネと別れたのは地上階――――おそらく監禁されているのもその付近と判断したためだ。
「お気を付けください、セトミさん。事件が起こる前よりも、多数の背板反応があります。同位置にガンマレイのエネルギー反応が確認できることから、恐らくはシュナイゼルの兵かと」
「みたいね。どうにも怪しいにおいがそこら中からぷんぷんするわ」
リリアの警告に、セトミがふんふんと鼻を鳴らして答える。
「幸いにも、ここからさほど離れてはいないようです。どうやら、彼自身の執政官室に軟禁されている模様です」
その言葉に、セトミはあごに手をやり、考えるそぶりを見せる。
「監禁するのに自室? ずいぶんVIPな待遇じゃない?」
「シラミネ様は手足が不自由です。あまり強固な拘束は必要ないと判断したのかもしれません」
確かに、車椅子の老人をがっちりと拘束しなくてはいけない理由もない。それよりも、彼への待遇を優先したということか。それならば、彼らにとっても人質は有用性のあるものなのかも知れない。
「まあ、こっちにとっちゃ好都合ね。このままおじさまを救出するわよ」
セトミの言葉にリリアがうなずくのを確認すると、二人は静かに歩き出す。幸い、リリアのレーダーも、デヴァイスのレーダーも生きており、敵兵の動きを把握して突破することができた。
が、さすがにシラミネが監禁されていると思われる、彼の自室前には二人ほどの見張りがついていた。
「いかがいたしますか?」
ささやくリリアに、セトミは歯を見せて笑う。
「リリア、奥の一人はさっきのあれでお願い。もう一人は私がなんとかする」
「……了解いたしました」
リリアが左手のガンマレイを作動させ、奥の兵士に狙いをつける。発射されるのは、先ほどと同じ、気づかれずに相手を気絶させることをガンマレイだ。
「……ファイア」
その声とともに、リリアの左手から明るさの少ないガンマレイが発射される。
「ぐっ!?」
それが頭部に命中した敵兵は意識を失ってその場にくずおれた。
「なんだ!? どうした!?」
もう一人の兵がこちらに背を向け、倒れた兵のほうへ駆けだしたのを確認し、セトミが物陰から飛び出す。
獲物に駆け寄る猫のごとく、足音もなくその背後まで忍び寄ると、倒れた兵を調べるためにしゃがみ込んだもう一人の兵の後頭部めがけ、アンセムの銃底を振り下ろした。
「がはっ!」
鈍い音とともに悲鳴を上げると、敵兵は気絶している兵に折り重なるようにして倒れる。兵士が動かないのを確認し、セトミは背後のリリアに親指を立てて見せた。
「お見事な手際です」
「そっちこそね。んじゃ、中に入らせてもらいましょっか」
ドアは内鍵がついているタイプのものらしく、鍵はかけられていなかった。セトミは静かに中に滑り込むと、リリアが入ったのを確認し、後ろ手に鍵をかける。
部屋の中はカーテンが閉め切られたうえ、電気も消され、現在の時刻が夕方にさしかかろうという時間帯にも関わらず、薄暗かった。その暗い中で、机の椅子に縛り付けられているらしい人影が見えた。
「……誰だ」
暗闇の中で、その声がうめく。間違いなく、それはシラミネの声だった。
「おじさま、大丈夫でございますこと?」
少々おどけながらセトミが返すと、人影が驚いたように顔を上げた。
「なんと……! セトミ君か!? うまく抜け出すとは思っていたが、まさかもうこんなところまでたどり着くとは……」
「まあまあ、お褒めの言葉は後でいいからさ。とにかく今はここを脱出しよ。すぐ縄をほどいてあげる」
セトミがシラミネの縛り付けられている椅子に近づき、その縄に手を伸ばす。
――――しかし。
「待った!」
シラミネ自身が、それを止めた。
驚いたセトミが、呆けたような表情で彼を見る。
「なんでよ? 縄をほどかなきゃ、脱出なんてできないでしょ?」
「いや――――私は、ここに残る。脱出は、君たち二人だけでしたまえ」
そう言ってセトミは、立てた親指をひっこめるとちっちっち、と人差し指を振って見せた。
「それに……このチェイサーキャット様をここまでコケにしてくれたお礼を、あのミイラ男にしてやらないとね。ふっふっふーん」
おどけて、しゃーっと威嚇する猫のような声を出しながら、セトミは両手を爪を出した猫のごとく構える。
「あなたは……本当にフリーダムですね」
呆れたような顔で、しかし少し微笑みながら、リリアがうなずく。
「なによそれ。そういうあんただって、名前そのままのアイアンメイデン(鋼鉄の乙女)でしょ」
本人には不服な言い回しだったのか、口を尖らせてセトミは言い返した。
「まあいいわ。そんじゃあ、猫とロボ子チーム、おじさまの救出に向かいますか!」
同時刻、中央管理局、執政官室。
シュナイゼルは式典会場から、自室へと戻っていた。街は戦いに包まれつつあったが、実弾銃を防ぐ防壁システムさえあれば、恐れることはなかった。
「さて……計画を、次の段階へと移すこととしよう……」
机と椅子に着き、額を包帯の上から押さえながら、シュナイゼルがうっそりとつぶやく。その目は、自室の入り口を映す監視カメラのモニターへと注がれていた。
いや、正確には、そこに映る、一人の人影に。
「……入りたまえ、ヘヴンリー軍曹」
その声に、入り口のドアがノックもなく開く。軍曹ほどの階級の者が執政官室に入る際には、通常ならば必ず、ノック、敬礼をすることが義務付けられているが、その人物はそれらを完全に無視して入室した。
だが、そのことにシュナイゼルは言及しようとはしない。それはつまり、入ってきた人物は特別であることを言葉もなく示唆していた。
「……私の出番か? 新執政長官殿? ……いや待て、いわば今は無政府状態なのだから、執政官でもないわけか?」
どこか不遜な色を含んだ物言いで笑うその女性――――シュナイゼルの言うヘヴンリー軍曹は、特異な外見を持つ女性だった。荒々しくレイヤーを効かせた髪は燃えるように赤く、同様にその瞳も赤い。将校用の軍服も、上から下まで赤で統一されており、全身が真っ赤であるといえた。
そのカラーが彼女の性格を示しているかのように、その瞳や顔つきは鋭く、刺すような剣呑さを帯びていた。
「まあ、どうでもいいか。私を呼んだってことは、暴れて来いってことだろう? 場所は?」
上官に対するものとは到底思えない横柄な態度にも、シュナイゼルの表情は変わらない。いや、むしろその横柄さを楽しんでいるようですらある。
「……スクラップド・ギアだ。彼らに再プログラムを受けることを要求する声明は出したが、彼らは従うまい。武力をもってこれを制圧、彼らをここへ連行しろ」
淡々と言うシュナイゼルに、ヘヴンリーは酷薄に笑う。
「……へえ。制圧しちゃっていいのかい? 私がそんなつもりでやったら、力加減を間違ええて、『ついうっかり』壊滅くらいさせちゃうかも知れないぞ?」
胡乱げな調子で相変わらず笑うヘヴンリーに対し、不意にシュナイゼルのまとう空気が奇妙に変わる。かすかにゆがめたその瞳は、どこかに怒気をはらんでいるようにも見える。
「それだけは許可できん。あくまで彼らは捕えるのだ。殲滅しては意味がない。……お前に、それをする権利がないのはわかっているはずだ」
その空気の微妙な変化に、ヘヴンリーの表情も変わる。シュナイゼルの視線に正面から睨み返すような剣呑な目に。だがそれもほんの一瞬で、彼女は小さく舌打ちすると、シュナイゼルから視線を外した。
「……ちっ、わかったよ、上官殿」
「それでいい。軍のトラックに兵たちを乗せて出発しろ。トラックにスクラップドギアのオートマトンたちを収容し、ここに連れ帰れ。繰り返すが、故障者は出すな。一人も、だ」
念を押すように重い声で言うシュナイゼルに、ヘヴンリーは苦い表情で頭をかいた。
「はいはい、サー・イエス・サー。何度も言わなくてもわかるさ。言われたとおりにいたしますよ」
皮肉気に、かつ吐き捨てるように言うと、ヘヴンリーは大げさに肩をすくめて見せながら、部屋を出ていく。
その背が出ていった空間をシュナイゼルは色のない瞳で見つめながら、その包帯の下で小さく息を吐いた。
「……できることならば、あれも、最後には……」
だが、その言葉はその呼吸が散るのと同時に、祈りの言葉のように霧散した。
「……いや……それはおそらく、かなわぬか……」
その頃、セトミとリリアは基地内の一階へと到達していた。シラミネと別れたのは地上階――――おそらく監禁されているのもその付近と判断したためだ。
「お気を付けください、セトミさん。事件が起こる前よりも、多数の背板反応があります。同位置にガンマレイのエネルギー反応が確認できることから、恐らくはシュナイゼルの兵かと」
「みたいね。どうにも怪しいにおいがそこら中からぷんぷんするわ」
リリアの警告に、セトミがふんふんと鼻を鳴らして答える。
「幸いにも、ここからさほど離れてはいないようです。どうやら、彼自身の執政官室に軟禁されている模様です」
その言葉に、セトミはあごに手をやり、考えるそぶりを見せる。
「監禁するのに自室? ずいぶんVIPな待遇じゃない?」
「シラミネ様は手足が不自由です。あまり強固な拘束は必要ないと判断したのかもしれません」
確かに、車椅子の老人をがっちりと拘束しなくてはいけない理由もない。それよりも、彼への待遇を優先したということか。それならば、彼らにとっても人質は有用性のあるものなのかも知れない。
「まあ、こっちにとっちゃ好都合ね。このままおじさまを救出するわよ」
セトミの言葉にリリアがうなずくのを確認すると、二人は静かに歩き出す。幸い、リリアのレーダーも、デヴァイスのレーダーも生きており、敵兵の動きを把握して突破することができた。
が、さすがにシラミネが監禁されていると思われる、彼の自室前には二人ほどの見張りがついていた。
「いかがいたしますか?」
ささやくリリアに、セトミは歯を見せて笑う。
「リリア、奥の一人はさっきのあれでお願い。もう一人は私がなんとかする」
「……了解いたしました」
リリアが左手のガンマレイを作動させ、奥の兵士に狙いをつける。発射されるのは、先ほどと同じ、気づかれずに相手を気絶させることをガンマレイだ。
「……ファイア」
その声とともに、リリアの左手から明るさの少ないガンマレイが発射される。
「ぐっ!?」
それが頭部に命中した敵兵は意識を失ってその場にくずおれた。
「なんだ!? どうした!?」
もう一人の兵がこちらに背を向け、倒れた兵のほうへ駆けだしたのを確認し、セトミが物陰から飛び出す。
獲物に駆け寄る猫のごとく、足音もなくその背後まで忍び寄ると、倒れた兵を調べるためにしゃがみ込んだもう一人の兵の後頭部めがけ、アンセムの銃底を振り下ろした。
「がはっ!」
鈍い音とともに悲鳴を上げると、敵兵は気絶している兵に折り重なるようにして倒れる。兵士が動かないのを確認し、セトミは背後のリリアに親指を立てて見せた。
「お見事な手際です」
「そっちこそね。んじゃ、中に入らせてもらいましょっか」
ドアは内鍵がついているタイプのものらしく、鍵はかけられていなかった。セトミは静かに中に滑り込むと、リリアが入ったのを確認し、後ろ手に鍵をかける。
部屋の中はカーテンが閉め切られたうえ、電気も消され、現在の時刻が夕方にさしかかろうという時間帯にも関わらず、薄暗かった。その暗い中で、机の椅子に縛り付けられているらしい人影が見えた。
「……誰だ」
暗闇の中で、その声がうめく。間違いなく、それはシラミネの声だった。
「おじさま、大丈夫でございますこと?」
少々おどけながらセトミが返すと、人影が驚いたように顔を上げた。
「なんと……! セトミ君か!? うまく抜け出すとは思っていたが、まさかもうこんなところまでたどり着くとは……」
「まあまあ、お褒めの言葉は後でいいからさ。とにかく今はここを脱出しよ。すぐ縄をほどいてあげる」
セトミがシラミネの縛り付けられている椅子に近づき、その縄に手を伸ばす。
――――しかし。
「待った!」
シラミネ自身が、それを止めた。
驚いたセトミが、呆けたような表情で彼を見る。
「なんでよ? 縄をほどかなきゃ、脱出なんてできないでしょ?」
「いや――――私は、ここに残る。脱出は、君たち二人だけでしたまえ」
その言葉に、セトミだけでなく、リリアでさえも驚きに目を開いた。
「はあ!? 何言ってんの、おじさま! こんなところにいたら、奴らに何されるか、わかったもんじゃないのよ!」
詰め寄るセトミに、しかしシラミネは首を横に振る。
「何をされるかわからない――――か。確かにな。だがそれは、私がここを脱出した場合も同じだ。シュナイゼルが先ほど私のところに現れて言ったのだ。人質は、私たち三人だけであると。そしてソドムに対しもっとも重要な切り札が、この私なのだ」
「それは、どういう意味でしょう?」
驚きはしながらも、あくまでリリアが冷静に聞く。
「今、ソドム側で生き残っている執政官――――要するに、今現実としてトップにいるのは、タリア=シラミネ少将……つまり、私の実の娘だ」
「はあ!? 何言ってんの、おじさま! こんなところにいたら、奴らに何されるか、わかったもんじゃないのよ!」
詰め寄るセトミに、しかしシラミネは首を横に振る。
「何をされるかわからない――――か。確かにな。だがそれは、私がここを脱出した場合も同じだ。シュナイゼルが先ほど私のところに現れて言ったのだ。人質は、私たち三人だけであると。そしてソドムに対しもっとも重要な切り札が、この私なのだ」
「それは、どういう意味でしょう?」
驚きはしながらも、あくまでリリアが冷静に聞く。
「今、ソドム側で生き残っている執政官――――要するに、今現実としてトップにいるのは、タリア=シラミネ少将……つまり、私の実の娘だ」
「なっ――――」
驚くセトミを横目に、シラミネは続ける。
「奴らとしては、現在のトップの父を人質として手に入れた形になる。これ以上の交渉材料はあるまい。その私が脱出したとなれば……」
「それこそ、切り札を失った彼らが何をするかわからない、と。そういうことですね」
リリアの言葉に、シラミネが重々しくうなずく。
「そうだ。だが、それだけではない。奴らはスクラップド・ギアは奴らの要求に従うまいと踏んで、兵を差し向けた。それも、奴のお抱えの部下の中では最悪の奴だ」
顔を伏せ、シラミネが歯噛みしながらうめく。
驚くセトミを横目に、シラミネは続ける。
「奴らとしては、現在のトップの父を人質として手に入れた形になる。これ以上の交渉材料はあるまい。その私が脱出したとなれば……」
「それこそ、切り札を失った彼らが何をするかわからない、と。そういうことですね」
リリアの言葉に、シラミネが重々しくうなずく。
「そうだ。だが、それだけではない。奴らはスクラップド・ギアは奴らの要求に従うまいと踏んで、兵を差し向けた。それも、奴のお抱えの部下の中では最悪の奴だ」
顔を伏せ、シラミネが歯噛みしながらうめく。
「ヘヴンリー軍曹……いくつもの侵略作戦に参加し、何十もの町や村を侵略……いや、破壊してきた女だ。その戦闘能力は軍内でも屈指と言われながら、侵略するべき対象への過剰すぎる破壊行為と、命令無視を繰り返すために軍曹の階級にとどまっている。本人が前線から離れるのを嫌って、わざと昇進しないようにしているという噂もあるくらいだ」
「……とんでもない奴」
珍しく、リリアが表情に嫌悪感をにじませてシラミネを見た。
「ああ、その通りだ。そのとんでもない奴が、スクラップド・ギアへすでに向かっていると聞いた。私はこの通り、手足が不自由だ。私を連れていては間に合わない。君たち二人だけで脱出し、君らの街の破壊を止めるんだ」
「……でも、その間、おじさまは……」
心配顔のセトミに、シラミネは不意に野性的に笑ってみせる。
「……とんでもない奴」
珍しく、リリアが表情に嫌悪感をにじませてシラミネを見た。
「ああ、その通りだ。そのとんでもない奴が、スクラップド・ギアへすでに向かっていると聞いた。私はこの通り、手足が不自由だ。私を連れていては間に合わない。君たち二人だけで脱出し、君らの街の破壊を止めるんだ」
「……でも、その間、おじさまは……」
心配顔のセトミに、シラミネは不意に野性的に笑ってみせる。
「あなどるなよ。これでも手足を失うまでは、私も軍人だった。それに、それからは舌先三寸で副長官までなったのだぞ。奴らに何をされようと、うまくごまかしてみせるさ。……それよりも、もう行け。執政官室のあるエリアの奥には、緊急時に執政官が脱出できるよう、専用のガレージがある。電子ロックがかかっているが、そこのコードなら知っている。1589だ。忘れるなよ」
セトミがなにか言いたげに再びシラミネを見るが、彼は二人を急かすようにあごでドアを示して見せた。
「……絶対、助けに来るから」
セトミのその言葉を残し、二人はシラミネの部屋を出る。同時に、駆けだしながらセトミはデヴァイスの向こうのショウに向かってどなる。
「ドッグ、聞いてた!? なんだかヤバそうななんちゃら軍曹ってのが、そちらをわざわざお迎えに行ってくれるんだってさ。送迎サービスも気が利きすぎてるのも考えもんね」
セトミがなにか言いたげに再びシラミネを見るが、彼は二人を急かすようにあごでドアを示して見せた。
「……絶対、助けに来るから」
セトミのその言葉を残し、二人はシラミネの部屋を出る。同時に、駆けだしながらセトミはデヴァイスの向こうのショウに向かってどなる。
「ドッグ、聞いてた!? なんだかヤバそうななんちゃら軍曹ってのが、そちらをわざわざお迎えに行ってくれるんだってさ。送迎サービスも気が利きすぎてるのも考えもんね」
「あいよ、聞いてた。今、シェイができる限り人を集めてるが……場合によっちゃ、俺もそっちに行かなきゃなんなくなるかもしれん。無茶を言うようで悪いが、できるだけ早く戻ってきてくれ」
「了解!」
いったん通信を切ると、ガレージへのドアはすぐそこにあった。セトミが駆け寄り、先ほどシラミネに教わったコードを入力すると、扉はあっさりと開く。
中はそう広いガレージではなく、脱出用というためか、あまり武装の施されていないバギーやバイクが何台か置かれている。
セトミが手近なバイクのキーを調べるが、やはりロックされている。彼女は再びヘアピンを取り出すと、鍵穴をにらんだ。
「鍵を探してる暇はない……こうするしかないか!」
だが、その開錠にとりかかった、その時。
「了解!」
いったん通信を切ると、ガレージへのドアはすぐそこにあった。セトミが駆け寄り、先ほどシラミネに教わったコードを入力すると、扉はあっさりと開く。
中はそう広いガレージではなく、脱出用というためか、あまり武装の施されていないバギーやバイクが何台か置かれている。
セトミが手近なバイクのキーを調べるが、やはりロックされている。彼女は再びヘアピンを取り出すと、鍵穴をにらんだ。
「鍵を探してる暇はない……こうするしかないか!」
だが、その開錠にとりかかった、その時。
「貴様ら、そこでなにをしている!」
鋭い声が背後から浴びせかけられた。そこにいたのは、青い軍服に日本刀を携えた青年――――事件前に一度顔を合わせた、シルバ少佐だった。
当たり前だが、あの時とは違い、その鋭い視線ははちきれんばかりの敵意を帯びている。
「まさか、貴様らもシュナイゼルの手の者だったのか!?」
「違う……って言っても、信じられる状況じゃないよねぇ、こりゃ」
思わずセトミが渋い顔で頭をかく。やっかいな時にやっかいな人物が現れたものだ。
「信じられるはずがないだろう!」
鋭い声が背後から浴びせかけられた。そこにいたのは、青い軍服に日本刀を携えた青年――――事件前に一度顔を合わせた、シルバ少佐だった。
当たり前だが、あの時とは違い、その鋭い視線ははちきれんばかりの敵意を帯びている。
「まさか、貴様らもシュナイゼルの手の者だったのか!?」
「違う……って言っても、信じられる状況じゃないよねぇ、こりゃ」
思わずセトミが渋い顔で頭をかく。やっかいな時にやっかいな人物が現れたものだ。
「信じられるはずがないだろう!」
怒号とともに、シルバが身構える。
それに対し、反射的にカタナを抜こうとするセトミを、リリアが片手で制した。
「……セトミさん、ここは私が。あなたはバイクのキー解除をお願いいたします」
「わかった。でも怪我したりしないでよね。さすがにあんた抱えてバイク運転はきつそうだし。……それと」
セトミはリリアに釘を刺すように、人差し指を立てて見せる。
「あいつの目には、気を付けて」
「……了解しました」
その意を理解したか、リリアが警戒するようにその瞳の深さを増した。
それに対し、反射的にカタナを抜こうとするセトミを、リリアが片手で制した。
「……セトミさん、ここは私が。あなたはバイクのキー解除をお願いいたします」
「わかった。でも怪我したりしないでよね。さすがにあんた抱えてバイク運転はきつそうだし。……それと」
セトミはリリアに釘を刺すように、人差し指を立てて見せる。
「あいつの目には、気を付けて」
「……了解しました」
その意を理解したか、リリアが警戒するようにその瞳の深さを増した。
「なにを話しているのか知らんが、貴様らの好きにはさせんぞ! 俺は軍の守護部隊隊長だ! 俺が守るべきもののために、これ以上の暴挙は許さん!」
ぎりっ、と歯を軋ませ、シルバが立ちはだかるリリアをにらむ。その言葉に対し、リリアもかすかにその表情を鋭く変えた。
「……守るべきもののために……ですか」
静かに呟くリリアの掌のガンマレイ発生レンズが、甲高い機械音とともに刃を形成していく。それは大きく、長く伸びていき、やがて一本の輝く槍の形を形成した。近距離戦での彼女の主力兵装――――『メイデン・トゥルーパー』だ。
「ならば……私も同じです」
肩幅よりもわずかに広く足を開き、両手で槍を構えると、リリアは迎撃態勢をとるように、両足にぐっと力を込めた。セトミのアドバイスが的を射たものであるなら、恐らく――――速さでは向こうに分がある。
ぎりっ、と歯を軋ませ、シルバが立ちはだかるリリアをにらむ。その言葉に対し、リリアもかすかにその表情を鋭く変えた。
「……守るべきもののために……ですか」
静かに呟くリリアの掌のガンマレイ発生レンズが、甲高い機械音とともに刃を形成していく。それは大きく、長く伸びていき、やがて一本の輝く槍の形を形成した。近距離戦での彼女の主力兵装――――『メイデン・トゥルーパー』だ。
「ならば……私も同じです」
肩幅よりもわずかに広く足を開き、両手で槍を構えると、リリアは迎撃態勢をとるように、両足にぐっと力を込めた。セトミのアドバイスが的を射たものであるなら、恐らく――――速さでは向こうに分がある。
「行くぞッ!」
気合の言葉とともに、カタナを鞘に納めたまま、シルバが駆ける。半ば予想はしていたものの、そのスピードはやはり通常の人間のそれをはるかに超えている。
リリアの瞳が、駆け寄るシルバの瞳を、その心根を見透かそうとするかのように射抜く。やがて目の前に迫った彼の瞳は突如、紅く染まり――――リリアの脇腹付近へ視線を送った。
次の瞬間――――不可視の速さで抜かれたシルバの剣戟が、リリアの槍とぶつかり合い、甲高い悲鳴を上げた。
「……よく止めたな。俺の初太刀を見切った奴は久しぶりだ」
「そちらこそ、私の予測を超えた抜刀の速さです。事前に視線で狙いに気づかなければ、危険でした。……さすがは、人の身体能力を超える力を持つ、ヴィクティム・ハーフです」
ぎりぎりとつばぜり合いを演じながらも、両者が互いの力を探り合うようににらみ合う。そして、シルバのその瞳はリリアの言葉を肯定するかのように、普段の黒から赤へと変貌していた。
気合の言葉とともに、カタナを鞘に納めたまま、シルバが駆ける。半ば予想はしていたものの、そのスピードはやはり通常の人間のそれをはるかに超えている。
リリアの瞳が、駆け寄るシルバの瞳を、その心根を見透かそうとするかのように射抜く。やがて目の前に迫った彼の瞳は突如、紅く染まり――――リリアの脇腹付近へ視線を送った。
次の瞬間――――不可視の速さで抜かれたシルバの剣戟が、リリアの槍とぶつかり合い、甲高い悲鳴を上げた。
「……よく止めたな。俺の初太刀を見切った奴は久しぶりだ」
「そちらこそ、私の予測を超えた抜刀の速さです。事前に視線で狙いに気づかなければ、危険でした。……さすがは、人の身体能力を超える力を持つ、ヴィクティム・ハーフです」
ぎりぎりとつばぜり合いを演じながらも、両者が互いの力を探り合うようににらみ合う。そして、シルバのその瞳はリリアの言葉を肯定するかのように、普段の黒から赤へと変貌していた。
らちが明かないと判断したか、シルバがカタナを引き、距離をとる。そして再び、そのカタナを鞘へと戻した。
「……俺の目は、居合のその一瞬、集中力を爆発的に向上させる、ハーフの力だ。それにより、瞬発力、攻撃力をその一瞬、強化する。近距離戦に持ち込めば、その長い槍では対応しにくかろう」
「……確かにこの戦い、私にとって相性がいいとは決して言えません。しかし……」
分はこちらにある、言外に示すシルバの言葉に、しかしリリアはますます鋭さを増すその瞳をもって、その答えを返す。
「だからと言って――――こちらも引くわけには参りません」
「……俺の目は、居合のその一瞬、集中力を爆発的に向上させる、ハーフの力だ。それにより、瞬発力、攻撃力をその一瞬、強化する。近距離戦に持ち込めば、その長い槍では対応しにくかろう」
「……確かにこの戦い、私にとって相性がいいとは決して言えません。しかし……」
分はこちらにある、言外に示すシルバの言葉に、しかしリリアはますます鋭さを増すその瞳をもって、その答えを返す。
「だからと言って――――こちらも引くわけには参りません」
「ならばお望み通り――――我が剣の冴え、その身をもって知るがいい!」
シルバが、カタナを鞘に納めたまま、先ほどよりも深く腰を落とし、攻撃の構えを取った。
おそらく、先ほどの一撃はほんのあいさつ代わりに過ぎない。止められた際も眉ひとつ動かさなかった彼の表情が、そして先ほどとは違う、『一撃必殺』の気を発する彼の構えが、そのことを顕著に語っていた。
ならばこちらは、それを受けるまで――――。
リリアは、両手で構えていた槍を右手一本に持ち直し、腰を落として構える。
両者の間に、触れれば切れるような鋭い闘気が立ち込める。瞬きすることすらためらわれるような張りつめた空気の中――――やはり、シルバが先に動いた。
「せェッ!」
シルバが、カタナを鞘に納めたまま、先ほどよりも深く腰を落とし、攻撃の構えを取った。
おそらく、先ほどの一撃はほんのあいさつ代わりに過ぎない。止められた際も眉ひとつ動かさなかった彼の表情が、そして先ほどとは違う、『一撃必殺』の気を発する彼の構えが、そのことを顕著に語っていた。
ならばこちらは、それを受けるまで――――。
リリアは、両手で構えていた槍を右手一本に持ち直し、腰を落として構える。
両者の間に、触れれば切れるような鋭い闘気が立ち込める。瞬きすることすらためらわれるような張りつめた空気の中――――やはり、シルバが先に動いた。
「せェッ!」
瞬間的にリリアに肉薄したシルバは一閃の気合とともに、居合を放つ。それは前の一撃よりもかすかに速く、そして前の一撃よりもかすかに鋭かった。
それは勝利の確信か、シルバの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
――――しかし。
「左腕システム・ガンマレイ、ガーディアンフィールド展開」
リリアの酷薄な言葉が、彼の笑みを掻き消した。と同時に、リリアの左手から発現した光の盾が、シルバのカタナを阻んだ。
「――――なッ!?」
「その威力では、私の防御フィールドを突破するのに6.54%、圧力が不足しています」
普段通りの冷静な口調のリリアだが、双方が手にするカタナと盾は力が均衡していることを示すかのように、ぎりぎりとせめぎあっている。しかし、今度のつばぜり合いの結末は、先ほどのものとは違っていた。
それは勝利の確信か、シルバの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
――――しかし。
「左腕システム・ガンマレイ、ガーディアンフィールド展開」
リリアの酷薄な言葉が、彼の笑みを掻き消した。と同時に、リリアの左手から発現した光の盾が、シルバのカタナを阻んだ。
「――――なッ!?」
「その威力では、私の防御フィールドを突破するのに6.54%、圧力が不足しています」
普段通りの冷静な口調のリリアだが、双方が手にするカタナと盾は力が均衡していることを示すかのように、ぎりぎりとせめぎあっている。しかし、今度のつばぜり合いの結末は、先ほどのものとは違っていた。
「……くっ、くそッ!」
再びカタナを引こうとしたシルバが後ろへと重心をかけた、その刹那――――。
リリアが、大きく踏み込んだ。相手の一番の得意技は居合――――それを二度も防がれては、一旦引いて、体勢を立て直すしかない――――その考えを読み、その瞬間を待っていたのだ。
大きく踏み込みながら、彼女は左手の盾を薙ぐ。重心の傾いたシルバの体勢ではその勢いを殺しきれず、結果として、彼のカタナが大きく上方へと弾かれる形となった。
だがシルバはここにおいても、まだ平静を保っていた。間合いは、長物である槍よりも、自分のカタナに圧倒的有利。崩れた体勢からでも素早く立て直せば――――。
そこまで計算した彼の思考が、次の瞬間、停止した。
再びカタナを引こうとしたシルバが後ろへと重心をかけた、その刹那――――。
リリアが、大きく踏み込んだ。相手の一番の得意技は居合――――それを二度も防がれては、一旦引いて、体勢を立て直すしかない――――その考えを読み、その瞬間を待っていたのだ。
大きく踏み込みながら、彼女は左手の盾を薙ぐ。重心の傾いたシルバの体勢ではその勢いを殺しきれず、結果として、彼のカタナが大きく上方へと弾かれる形となった。
だがシルバはここにおいても、まだ平静を保っていた。間合いは、長物である槍よりも、自分のカタナに圧倒的有利。崩れた体勢からでも素早く立て直せば――――。
そこまで計算した彼の思考が、次の瞬間、停止した。
目の前にいたのは、槍を持った少女ではなく――――同じく、青い光をたたえる剣を持った少女だった。
「右腕兵装『メイデン・トゥルーパー』停止。次いで右腕兵装『レイザーブレイド・サイ発動』」
いや、正確には――――リリアは、ガンマレイの槍を一瞬にして停止――――その上でもう一つの兵装――――ガンマレイ出力の光の剣『レイザーブレイド・サイ』を発動していたのだ。
「――――斬撃(スラッシュ)」
そこまでシルバの思考がいたった時には、リリアの手にした青い光の剣が、彼の体を捉えていた。
「ぐあああああああッ!」
悲鳴とともに、シルバががくり、と膝を落とす。
「右腕兵装『メイデン・トゥルーパー』停止。次いで右腕兵装『レイザーブレイド・サイ発動』」
いや、正確には――――リリアは、ガンマレイの槍を一瞬にして停止――――その上でもう一つの兵装――――ガンマレイ出力の光の剣『レイザーブレイド・サイ』を発動していたのだ。
「――――斬撃(スラッシュ)」
そこまでシルバの思考がいたった時には、リリアの手にした青い光の剣が、彼の体を捉えていた。
「ぐあああああああッ!」
悲鳴とともに、シルバががくり、と膝を落とす。
「――――ご安心ください。さる方より、あなたはできる限り傷つけないでほしいと言われております。命にかかわるような出力での攻撃ではありません。ですが、しばらくは安静になさっていたほうがよいかと思われます」
「……………っ。なに……」
確かに致命傷には見えないが、打たれた胸を押さえ、息の荒い様子からすると、しばらくの間、動けるようにはない。
「リリア! 準備完了! やっとこ言うこと聞いたわ、このじゃじゃ馬!」
不意に響いたセトミの声に、リリアがそちらへと向かう。
「……待てっ!」
思わず声をかけたシルバに、リリアが振り返る。
「さる方とは……? それに、お前たちはクーデター軍ではないのか……?」
「シュナイゼルに与するものではありません、とだけ言っておきます。それと、僭越ながら言わせていただければ、あなたの守りたいものを守るためには、刃を向ける相手を違えておいでかと」
意味深な彼女の言葉に、シルバは困惑する。
「……失礼します」
動き出したバイクの方へ歩いていくリリアの背中に、シルバは答えを求めるように手を伸ばすも、彼女がそれ以上言葉を発することも、己が言葉を紡ぐことなく、行く手を失ったその右手は、悔し紛れに床に叩きつけられるだけだった。
同時刻、スクラップド・ギア、シェイの工場。
「……くそ、なんだかきなくせえことになってきやがったな」
作戦司令室では、ショウがぼりぼりと頭をかきむしっていた。傍らにはオートマトンの青年、シェイの姿もある。
「……すまない、君たちをここまで巻き込むことになってしまって……。君たちの目的はもう達成されているのに」
肩をすくめて見せるその姿は、リリアと同じく、言われてもオートマトンだとはわからないほど、人間と相違ない。ただ、顔の包帯や、片手の後からのぞく配線類を別にすれば、だが。
「謝んなよ、どうせこんなことになっちゃあ、ここから動けやしねえからな。それでも心苦しいってんなら、後でメシでもおごってもらおうか」
軽く笑みながら、ショウはタバコの火を着ける。そのショウの言葉を聞き、シェイは一瞬、呆けたように目を開いてから、同じように微笑んだ。
「さて、それより、こっちはこっちの問題を何とかしなきゃな。自警団の連中は集められたのか?」
「ああ、全員ね。普段は参加してないオートマトンたちもいくらか。と言っても、戦闘プログラムを搭載してる者はほんの一握りだけど……」
ふーっ、と大きく紫煙を吐き出しながら、ショウがあごをなでる。その表情は、わずかに苦い。
「それに対し、向こうは軍の侵略部隊、か……。一つの軍が分裂した奴らとはいえ、士気はともかく、統率は取れてるだろうからな。ちっと分が悪いのは否定できねえ」
「それに……向こうには、ヘヴンリー軍曹がいる」
ショウのセリフを補足するように、シェイがぽつりとつぶやく。
「……………っ。なに……」
確かに致命傷には見えないが、打たれた胸を押さえ、息の荒い様子からすると、しばらくの間、動けるようにはない。
「リリア! 準備完了! やっとこ言うこと聞いたわ、このじゃじゃ馬!」
不意に響いたセトミの声に、リリアがそちらへと向かう。
「……待てっ!」
思わず声をかけたシルバに、リリアが振り返る。
「さる方とは……? それに、お前たちはクーデター軍ではないのか……?」
「シュナイゼルに与するものではありません、とだけ言っておきます。それと、僭越ながら言わせていただければ、あなたの守りたいものを守るためには、刃を向ける相手を違えておいでかと」
意味深な彼女の言葉に、シルバは困惑する。
「……失礼します」
動き出したバイクの方へ歩いていくリリアの背中に、シルバは答えを求めるように手を伸ばすも、彼女がそれ以上言葉を発することも、己が言葉を紡ぐことなく、行く手を失ったその右手は、悔し紛れに床に叩きつけられるだけだった。
同時刻、スクラップド・ギア、シェイの工場。
「……くそ、なんだかきなくせえことになってきやがったな」
作戦司令室では、ショウがぼりぼりと頭をかきむしっていた。傍らにはオートマトンの青年、シェイの姿もある。
「……すまない、君たちをここまで巻き込むことになってしまって……。君たちの目的はもう達成されているのに」
肩をすくめて見せるその姿は、リリアと同じく、言われてもオートマトンだとはわからないほど、人間と相違ない。ただ、顔の包帯や、片手の後からのぞく配線類を別にすれば、だが。
「謝んなよ、どうせこんなことになっちゃあ、ここから動けやしねえからな。それでも心苦しいってんなら、後でメシでもおごってもらおうか」
軽く笑みながら、ショウはタバコの火を着ける。そのショウの言葉を聞き、シェイは一瞬、呆けたように目を開いてから、同じように微笑んだ。
「さて、それより、こっちはこっちの問題を何とかしなきゃな。自警団の連中は集められたのか?」
「ああ、全員ね。普段は参加してないオートマトンたちもいくらか。と言っても、戦闘プログラムを搭載してる者はほんの一握りだけど……」
ふーっ、と大きく紫煙を吐き出しながら、ショウがあごをなでる。その表情は、わずかに苦い。
「それに対し、向こうは軍の侵略部隊、か……。一つの軍が分裂した奴らとはいえ、士気はともかく、統率は取れてるだろうからな。ちっと分が悪いのは否定できねえ」
「それに……向こうには、ヘヴンリー軍曹がいる」
ショウのセリフを補足するように、シェイがぽつりとつぶやく。
「シラミネのとっつあんが言ってた奴か……。いまいちつかめねえんだが、そんなにヤバい奴なのか? そいつは」
いぶかしげな表情で頭をかくショウに、シェイは神妙な表情でうなずく。
「僕も噂でしか聞いたことはないけどね。主にガンマレイ出力の武器を得意とし、特に接近戦では、武器としては使いにくいはずの大鎌を自在に操り、人と言わず建物と言わず破壊する。侵略し、搾取するべき対象すら壊滅させる。その足元にはそうして破壊された者たちしか残らないことから、『塵を塵へ返す者』――――ダスト・トゥ・ダストと呼ばれている」
「……聖書の一説か。俺らが出くわすのはそんなんばっかりかよ、ったく……。まるで怪獣でもこっちに向かってきてるみてえな気分だぜ」
ぼやきながらショウがタバコの火を消そうと、灰皿の方に向き直ったその時――――部屋の入り口がバタンとしまったのが見えた。それと同時に遠ざかっていく、小さな足音。
そして、その寸前、この部屋の中をのぞき込んでいた小さな影――――それは。
いぶかしげな表情で頭をかくショウに、シェイは神妙な表情でうなずく。
「僕も噂でしか聞いたことはないけどね。主にガンマレイ出力の武器を得意とし、特に接近戦では、武器としては使いにくいはずの大鎌を自在に操り、人と言わず建物と言わず破壊する。侵略し、搾取するべき対象すら壊滅させる。その足元にはそうして破壊された者たちしか残らないことから、『塵を塵へ返す者』――――ダスト・トゥ・ダストと呼ばれている」
「……聖書の一説か。俺らが出くわすのはそんなんばっかりかよ、ったく……。まるで怪獣でもこっちに向かってきてるみてえな気分だぜ」
ぼやきながらショウがタバコの火を消そうと、灰皿の方に向き直ったその時――――部屋の入り口がバタンとしまったのが見えた。それと同時に遠ざかっていく、小さな足音。
そして、その寸前、この部屋の中をのぞき込んでいた小さな影――――それは。
「……ミナ!」
「えっ?」
突然のことに呆とした瞳を向けるシェイに、ショウは唾を飛ばしながら叫ぶ。
「今の話、ミナが聞いてやがった! もしかしたらあいつ、軍の奴らと戦いに行くつもりかもしれねえ!」
「あの子が!? まさか……」
「いや、十分ありうる。あいつは……ファースト・ワンだ。そしてあんたらと同じように、兵器として使われそうになったことがある。さっきもリリアに言ってたろ、気持ちは少しわかる、って」
ショウの言葉に、シェイがハッと息を飲むのが分かった。
「えっ?」
突然のことに呆とした瞳を向けるシェイに、ショウは唾を飛ばしながら叫ぶ。
「今の話、ミナが聞いてやがった! もしかしたらあいつ、軍の奴らと戦いに行くつもりかもしれねえ!」
「あの子が!? まさか……」
「いや、十分ありうる。あいつは……ファースト・ワンだ。そしてあんたらと同じように、兵器として使われそうになったことがある。さっきもリリアに言ってたろ、気持ちは少しわかる、って」
ショウの言葉に、シェイがハッと息を飲むのが分かった。
その時だった。不意に、先ほど閉められた扉が、再び勢いよくバタンと開いた。
「シェイ! 来た、奴らだ! 奴らはもうゲートの側まで迫ってる!」
息せき切って部屋に駆け込んできたのは、自警団のうちの一体のオートマトンだった。
「くそっ! なんてタイミングだ! おいシェイ、実弾型のライフルかショットガンか――――なんでもいい。ちっとばかり貸してくれ」
「ど、どうするつもりだい?」
リリアと違い、シェイはこういう事態に慣れてはいないのか、少々表情が強張っている。
「ミナを追って合流、奴らを迎え撃つ。お前らも来てくれ。ここにいても、結局は戦う羽目になるんだ」
ショウの緊迫した言葉に、シェイの強張った表情が不意に揺らいだ。
「シェイ! 来た、奴らだ! 奴らはもうゲートの側まで迫ってる!」
息せき切って部屋に駆け込んできたのは、自警団のうちの一体のオートマトンだった。
「くそっ! なんてタイミングだ! おいシェイ、実弾型のライフルかショットガンか――――なんでもいい。ちっとばかり貸してくれ」
「ど、どうするつもりだい?」
リリアと違い、シェイはこういう事態に慣れてはいないのか、少々表情が強張っている。
「ミナを追って合流、奴らを迎え撃つ。お前らも来てくれ。ここにいても、結局は戦う羽目になるんだ」
ショウの緊迫した言葉に、シェイの強張った表情が不意に揺らいだ。
「……わかった。小さな女の子が僕らに共感してくれて前線に飛び出していったってのに、僕らがここで震えてたらオートマトンの存在意義に関わる。僕らも行く。武器のロッカーのカギを渡しておくよ。そこにあるものは好きに使ってくれ」
「よし、俺は自分の装備が整い次第、ミナを追う。お前らは自警団をまとめた後、戦闘プログラム持ちを先頭に、隊を組んで合流してくれ。指揮は、お前が出すんだ。いいな」
重い声でシェイの手を握るショウに、シェイがまだわずかに表情に不安を残しながらも、強い瞳で頷く。
「んじゃ、俺は行く。後のことは任せたぜ!」
そっけなく片手だけのあいさつをし、ショウは部屋を飛び出す。小さな工場だ、すぐさま武器ロッカーまでたどり着くと、がしゃがしゃと乱暴に中身を引っ掻き回す。
「ちくしょ、やっぱガンマレイ出力の銃が多いか……」
「よし、俺は自分の装備が整い次第、ミナを追う。お前らは自警団をまとめた後、戦闘プログラム持ちを先頭に、隊を組んで合流してくれ。指揮は、お前が出すんだ。いいな」
重い声でシェイの手を握るショウに、シェイがまだわずかに表情に不安を残しながらも、強い瞳で頷く。
「んじゃ、俺は行く。後のことは任せたぜ!」
そっけなく片手だけのあいさつをし、ショウは部屋を飛び出す。小さな工場だ、すぐさま武器ロッカーまでたどり着くと、がしゃがしゃと乱暴に中身を引っ掻き回す。
「ちくしょ、やっぱガンマレイ出力の銃が多いか……」
非常時であっても実弾系の銃を求めるのは、使い勝手の違いが顕著であるからだ。
実弾銃はそれぞれ弾丸の種類が違うがガンマレイは共通してエネルギーパックであること、火薬の炸裂によって弾頭を飛ばす実弾銃は反動が強いが、ガンマレイは反動がほぼないことなどが挙げられるが、一番の違いはメンテナンスの仕方だ。
実弾銃には実弾銃の、ガンマレイにはガンマレイのメンテナンス専用知識がいる。要するに、普段実弾銃に慣れたものがガンマレイを使っても、使い勝手の違いや緊急時のメンテナンスの知識の違いで、実力を発揮できなくなってしまうのだ。
武器の選択は命の命運を分けることを、ショウはこれまで生きてきた中で嫌というほど見てきた。だからこそ、自分と、ミナの命がかかったこの事態では武器は慎重に選ばなければならないのだ。
「……おっ、こいつは……」
ショウの目に留まったのは、大型のハンティングライフルだった。ご丁寧なことに、遠距離スコープまで着いている。
実弾銃はそれぞれ弾丸の種類が違うがガンマレイは共通してエネルギーパックであること、火薬の炸裂によって弾頭を飛ばす実弾銃は反動が強いが、ガンマレイは反動がほぼないことなどが挙げられるが、一番の違いはメンテナンスの仕方だ。
実弾銃には実弾銃の、ガンマレイにはガンマレイのメンテナンス専用知識がいる。要するに、普段実弾銃に慣れたものがガンマレイを使っても、使い勝手の違いや緊急時のメンテナンスの知識の違いで、実力を発揮できなくなってしまうのだ。
武器の選択は命の命運を分けることを、ショウはこれまで生きてきた中で嫌というほど見てきた。だからこそ、自分と、ミナの命がかかったこの事態では武器は慎重に選ばなければならないのだ。
「……おっ、こいつは……」
ショウの目に留まったのは、大型のハンティングライフルだった。ご丁寧なことに、遠距離スコープまで着いている。
「……これなら、中距離以上の間合いにゃ対応できるな。近づかれたら……いつも通り、こいつに命を預けるしかねえか」
その存在を思い出した時の癖で、ショウは腰の大型リボルヴァーのグリップを確かめるように握った。
それと同時に再び駆けだしながら、ショウは通信機のスイッチを入れる。
「おい、セトミ! 聞こえるか!」
「なによ、ドッグ。デヴァイスから話しかけりゃいいでしょ。なにかと思ったわ」
デヴァイスからでなく通信機からの連絡に、すでに嫌な予感がしているのか、セトミの声はそのセリフとは裏腹に、緊張感が垣間見える。
その存在を思い出した時の癖で、ショウは腰の大型リボルヴァーのグリップを確かめるように握った。
それと同時に再び駆けだしながら、ショウは通信機のスイッチを入れる。
「おい、セトミ! 聞こえるか!」
「なによ、ドッグ。デヴァイスから話しかけりゃいいでしょ。なにかと思ったわ」
デヴァイスからでなく通信機からの連絡に、すでに嫌な予感がしているのか、セトミの声はそのセリフとは裏腹に、緊張感が垣間見える。
「すまねえ。緊急事態だ。クーデター軍の一隊がこっちに向かってることを知ったミナが、そいつらに向かって行っちまった。今から俺が――――」
次の瞬間、状況を説明しようとするショウの耳をセトミの絶叫が遮った。
「はぁ―――――――――!?」
通信機からの大音量にしばらく悶絶するショウの耳を、再びセトミの大声が襲う。
「こんのバカドッグ! なにやってんのよ! 子守くらいちゃんとできないんじゃ、番犬にもならないじゃない! だから駄犬だっての!」
しばらくその大声に悶絶していたショウだったが、さすがに今のセリフは頭に来たらしく、負けないくらいの大声で通信機に向かってどなり返した。
「うるせぇ―――――――!! お前の子守もしながらミナの世話までできるかバカ猫! 文句があんだったら、ドクターなしで依頼こなしてみやがれ、ボケ猫女!」
次の瞬間、状況を説明しようとするショウの耳をセトミの絶叫が遮った。
「はぁ―――――――――!?」
通信機からの大音量にしばらく悶絶するショウの耳を、再びセトミの大声が襲う。
「こんのバカドッグ! なにやってんのよ! 子守くらいちゃんとできないんじゃ、番犬にもならないじゃない! だから駄犬だっての!」
しばらくその大声に悶絶していたショウだったが、さすがに今のセリフは頭に来たらしく、負けないくらいの大声で通信機に向かってどなり返した。
「うるせぇ―――――――!! お前の子守もしながらミナの世話までできるかバカ猫! 文句があんだったら、ドクターなしで依頼こなしてみやがれ、ボケ猫女!」
「ぼ、ボケ猫だと―――!?」
通信機の向こうでぎゃあぎゃあと猫のケンカのような声が聞こえたが、これ以上言い争っていても仕方ない。それをむりやり遮り、ショウは状況を説明する。
「いいから聞け! 俺はこれから、急いでミナの元へ向かう。恐らく、奴らと鉢合わせるだろう。シェイたちにも体勢が整い次第、こちらへ向かってもらう。お前らもとにかく、こっちへ急いでくれ。それまでは――――俺がなんとかする」
「うわ、出た。その『なんとかする』。こないだそれ言った時、死ぬ気で言ったくせにしぶとく帰ってきたんだから、今度もなんとかしなさいよね。できなかったら、ドッグの尻を猫の爪でひっかいてやるんだから」
その物言いに、ショウは思わず舌を出しながら嘆息する。
「バカ猫にンなことしてもらう趣味はねえよ。とにかく、そっちも現場へ急いでくれ。わかったな」
通信機の向こうでぎゃあぎゃあと猫のケンカのような声が聞こえたが、これ以上言い争っていても仕方ない。それをむりやり遮り、ショウは状況を説明する。
「いいから聞け! 俺はこれから、急いでミナの元へ向かう。恐らく、奴らと鉢合わせるだろう。シェイたちにも体勢が整い次第、こちらへ向かってもらう。お前らもとにかく、こっちへ急いでくれ。それまでは――――俺がなんとかする」
「うわ、出た。その『なんとかする』。こないだそれ言った時、死ぬ気で言ったくせにしぶとく帰ってきたんだから、今度もなんとかしなさいよね。できなかったら、ドッグの尻を猫の爪でひっかいてやるんだから」
その物言いに、ショウは思わず舌を出しながら嘆息する。
「バカ猫にンなことしてもらう趣味はねえよ。とにかく、そっちも現場へ急いでくれ。わかったな」
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
-戦火はある日突然燃え上がる。
だがあるいはそれを予見していたものもいるのかもしれない-
だがあるいはそれを予見していたものもいるのかもしれない-
セトミらが謎の武装集団に拘束される十五分ほど前――――。
戦勝記念式典の会場では、ゴルダ執政長官による演説が行われていた。その内容は、いかにこの国が勇敢に領土を勝ち取ってきたか、だ。それをスピーカー越しでもつばが飛んできそうな勢いでゴルダは熱弁を振るっている。
――――どんな勇ましい言葉で取り繕っても、殻に隠れた亀が言ってるんじゃ、説得力など皆無だろうに。
ひときわ高い台にある、執政官席。そこは半球状のドームになっており、そのドームは先日、研究部が実用段階に漕ぎ着けたものの試作品だ。なんでも実弾銃はもちろん、通常の防弾ガラスでは焼き切ってしまう出力を持つガンマレイの射撃さえも通さない、『絶対的な壁』だそうだ。
今回の警備担当責任者であるタリアは、その席に着くことを丁重にお断りしたのだった。ミイラ男やファンタジーのオークみたいな豚と円陣組んで演説など、まさしく戦前の本で読んだ、魔王の悪巧みのシーンそのままだ。
タリアは、評議員席を覗き見ることができる塔の中程からスナイパーライフルと双眼鏡を持ち、周囲を警戒していた。
戦前は球技かなにかのスポーツ施設だったのか、楕円状の敷地は、いわばスタジアムであった。今はスタジアムというよりは、ぼろぼろに朽ち果てて、古代のコロシアムのような様相を呈してはいるが。
タリアはスタジアムであった頃の名残だろうか、マイクや何かしらの機材のあった部屋から辺りを警戒していた。おそらく実況するための場所であったであろうここは、ゴルダが演説を行っている場所を見通すには最適な場所だった。
「やれやれ。おっさん豚の顔を遠くから眺めるだけの吐き気と戦うミッションになりそうだけど……」
だが、そう一人で皮肉っぽく呟くタリアの胸には、ひとつ、ぬぐい去れない染みがあった。
幼なじみ――――シルバの、嫌な予感がするという言葉だ。彼は、根拠のないことを発言するような人間ではない。むしろ、相手にも言葉の根拠の正確さを尋ねるくらいの、現実主義者だ。その彼がはっきりとした根拠も無く『予感』だけで発した言葉は、逆に奇妙な信憑性をもって、彼女の中に残っていた。
「――――ん?」
不意に、タリアの装着していたヘッドセットのイヤホンから、ざわついたノイズが走った。いや――――、これは、ノイズではない。叫び声だ。マイクに近いことと、本人のダミ声が伴ってノイズに聞こえているに過ぎない。
タリアが音を拾うようヘッドセットに設定していた場所は、無論――――ゴルダが演説を行う、評議員席だった。
「――――まさか、いくらなんでも、そんな……」
思わずライフルのスコープで評議員席を、見た。
「シュナイゼルッ! これはいったいなんの真似だッ!」
一方の評議員席では、警戒するタリアや兵士も未だ気づけぬ参上が広がりつつあった。席についていた執政官は、みなことごとく頭や胸を撃たれ、倒れている。それを行ったのは包帯の男――――シュナイゼルにほかならなかった。
未だわずかに熱をもつ、その手のガンマレイに腰を抜かしたゴルダがじりじりと後ずさる。
「なんの真似? はて、おかしなことをおっしゃいますな、陛下。私は陛下の演説にいたく感銘を受けましてな。『強いものこそが支配者足り得るべきである』というところにね。……それを、今から実践していこうと思い立っただけです」
「き、気でも狂ったか!? 今すぐにでも、貴様は蜂の巣に……」
狼狽しながらも言い返すゴルダに、シュナイゼルは不気味にその細い目と唇を歪ませた。
「陛下こそお忘れですか? この絶対たる壁を、誰が今、操作しているのか」
その言葉に、ゴルダの顔からさっと血の気が引き、代わりに球のような汗がその顔中を覆い隠した。次の瞬間には震える手で腰のそれを手探りで探しだす。その重さでなおのこと震える手でそれ――――『ジュリエット』の照準をつけると、引き金を引いた。
その言葉に、ゴルダの顔からさっと血の気が引き、代わりに球のような汗がその顔中を覆い隠した。次の瞬間には震える手で腰のそれを手探りで探しだす。その重さでなおのこと震える手でそれ――――『ジュリエット』の照準をつけると、引き金を引いた。
「ぶほぉっ!」
その銃のあまりの衝撃に、ゴルダはもんどりうって倒れる。もうもうと舞い上がった砂埃が目に入り、前を見ることができない。必死で目をこする彼の耳に届いたのは、もはや聞くのも恐ろしい、その声。
「おやおや陛下、いけませんな……。強いものであることを自負するのならば、不意打ちはよろしくないのではないかと」
それは、傷一つついていない、半球状の『絶対的な壁』をその周囲にまとったシュナイゼルの姿だった。
「ひ……ひいいッ!」
這うようにして少しでも包帯の男から逃れようとするその様は、誰の目から見ても、死の直前に必死でもがく虫けらそのものだった。
その先回りをするように、シュナイゼルはゆっくりとゴルダの正面へと歩く、両腕をやれやれとでも言いたげに広げるその様は、さながら怪人を演じる舞台役者のごとくだった。いや、実際、彼からしてみればスタジアム内の兵たちは聴衆にしか過ぎなかったのかもしれない。その身を守る壁は、何よりも強固であることは明白だったのだから。
やがて彼は息も絶え絶えのゴルダの前に跪くと、その手の黄金の銃――――彼が『ジュリエット』と呼ぶ44口径マグナムを、危ないおもちゃを手にした幼子から取り上げるように、いとも簡単に奪い取った。
「ま、待てっ! 待ってくれっ! な、何が望みだ。な、なんでもお前に譲るぞ。ちょ、長官の地位だってお前が望むなら明け渡す! だ、だから命だけは……ッ!」
「何が望みか……か」
かすかに微笑むように表情を歪ませ、少しの間思案するように逡巡するシュナイゼルに、少々落ち着きを取り戻したゴルダがすがりつく。
「そ、そうだ。ウロボロスの完成した後はエデンを攻略し、帝国を築こう。そこでお前――――いや、あなた様を皇帝と称えようではありませんか!」
「……私の望み。それは……」
表情の消えたシュナイゼルに恐々としながらも、命乞いが通じたかというゴルダの願いは。
「……貴様のいない世界だ」
シュナイゼルの放った言葉と弾丸に、彼の頭と同じように、熟れたざくろのごとく飛び散った。
「陛下、感謝してください。あなたの愛しいジュリエットで殺してさしあげたのですから。もっとも、降りた幕はシェイクスピアの悲劇ではなく、三文芝居の喜劇だったようですがね」
さして感慨もなさげに言うと、シュナイゼルは先程までゴルダが熱弁を振るっていたマイクに向かう。
「――――さて、君たちにはつまらぬ芝居を見せてしまった。ここからは、もっと胸の踊る第二幕といこうじゃないか」
包帯の上からでもわかる、壮絶に笑んだシュナイゼルの表情に、兵士たちは銃を持ちながらも呆然とするしかない。
「まず、これはつまらぬ裏切りなどではない。この国を真の姿へ導く革命だ。オートマトンを我らのもとへ統合し、エデンを掌握する。その上でシャドウのロストテクノロジーを手中に収めれば、我々は世界の王となれる。そうは思わんかね?」
呆然とする兵たちの反応を楽しむように見渡し、シュナイゼルは続ける。
「だがそれには、強欲な豚が指導者では無理だ。目の前の餌に釣られて走り出した先で、罠に捕らわれるだけだ。だから、私はやつらを排除した」
「ふざけるなっ!」
だがそこに一人、突如としてスタジアムに舞い降りた影があった。それは、油断なくスナイパーライフルを構えたままのタリアの姿だった。
「貴殿、神にでもなったつもりかッ! 民の犠牲も顧みず、このような場所でクーデターを企て、なにが世界の王だ! 貴様はただの賊軍にすぎんッ!」
普段と全く違う、凛とした声のタリアに、しかしシュナイゼルは笑みを崩さない。
「これはこれはタリア少将、勇ましいことですな。しかし、賊軍……はて、それは我らの方かね? すでに中央管理局は我が研究部の兵が抑えた。最新式のガンマレイ、武装はすべて元より我らのもの。基地も、力も失った貴殿らが官軍であると?」
「なにッ!?」
その強い意志を秘めたタリアの青い瞳が、驚愕に揺れる。
「そこにいる方々にも、人質という形でご協力いただいた。そうそう――――報告では、その中に君の父君もおられるそうだ。――――タリア、シラミネ少将」
「……………っ!」
シュナイゼルの発した言葉に、ライフルを構える腕が膠着する。歯をきしませながら、タリアは照準をシュナイゼルから外す。
「では、我々の要求を伝えておこう。まず、ソドム軍に属するものは武装放棄の上、我らの指揮下に入る事。もうひとつ。スクラップド・ギアを不法占拠するオートマトンは速やかに投降し、我らの尖兵となるべく再プログラムを受けること。以上だ。これが36時間以内に遂行されない場合、システム・ウロボロスを起動させ、両軍ともに排除する」
「――――そんな馬鹿な要求を……!」
歯噛みしながらシュナイゼルを睨むタリア。だがその後の句を次ぐ事ができない様子を見、包帯の男は笑う。
「飲まない、とは言えまい? 飲めないなら、システムを起動させるだけのこと。もはや執政官は君と私、そして囚われたシラミネ殿のみ。君がNOというなら、それをそちらの総意と受け取る」
断腸の思いで言葉を飲み込むタリアに、シュナイゼルは芝居がかった口調で嘲笑を向けた。
「そうそう、ひとつ言い忘れていた。この場ではまだ旧軍の制服を着ている者たちも、いまこちらにつくならば、喜んで同士として迎えよう。さて……君の隣の者は、どうするだろうね?」
「なっ……!」
驚愕するタリアを尻目に、シュナイゼルはゆっくりとした歩調で壇上から降りていく。
一瞬にして、その場は混乱のるつぼとなった。シュナイゼルにつこうと後を追うものと、それを止めようとする者の間で起こったそれが、先ほどまで味方同士だったものたちでの戦闘に発展するまで、そう時間はかからなかった。
「くそっ……我らの軍につくものは私に続け! この場は撤退! 撤退する! 一度、体勢を立て直す! 撤退せよ!」
叫びながら兵たちを率い、駆けるタリアであったが、彼女自身、この国の中心部、そして圧倒的な力を奪われたこの状況で、なにをもって体勢を立て直すことができるかなど、思いもよらないことだった。
同時刻、中央管理局。
突如として現れた防護服の男たちに拘束されたセトミとリリアは、研究室らしきオフィスのモニターで式典会場の様子を見せられていた。どうやら元はなにかしらの競技場だったらしいその場所は、どうやら当時の残留物である監視カメラによって映されたようだった。
「さて、この様子を見てもらえればわかると思うが、君たちには人質としてここにとどまっていただこう。安心しろ、反抗さえしなければ、手荒な真似はしない」
男たちのうちの一人が、防護マスク越しに言う。
――――その大戦前のホラーフィルムみたいな恰好で言ったって説得力ゼロだっての。鏡でも見てきなよ。
心の中で舌を出しながら、セトミは思わず嘆息する。
しかし、彼女の意に反して、男たちは確かに二人に手荒な真似はこれまでのところ、していなかった。銃を向けられてはいるものの、手や足を縛るでもなく、身体検査をするわけでもない。
「さて、では早速で悪いが、君たちには研究所の一室にいてもらう。ことが終わるまでな。すべて方がついたら、君たちを解放することを約束しよう」
「さて、では早速で悪いが、君たちには研究所の一室にいてもらう。ことが終わるまでな。すべて方がついたら、君たちを解放することを約束しよう」
言いながら、男がセトミらの背後にいた男に目くばせする。
「さあ歩け。妙な真似はするなよ」
男たちに銃口でつつかれるようにして、セトミらは部屋を出る。男たちは背後に二人、左右に一人ずつ。いずれもライフルタイプのガンマレイを装備している。
その男たちの一人、セトミの左側について歩いていた男が、通路にあるドアを示して見せた。
「その部屋に入れ」
どうやらそこが用意された部屋らしい。所狭しとなにやら機械が置かれたその場所の壁際には、近代的なシステムを持った部屋には少々似つかわしくない、鉄格子のはめられた一角があった。
どうやらそこが用意された部屋らしい。所狭しとなにやら機械が置かれたその場所の壁際には、近代的なシステムを持った部屋には少々似つかわしくない、鉄格子のはめられた一角があった。
その内部に向けてなにやら正体不明の機械が向けられていることからして、ここではなにか生物学的な研究が行われていたのだろうか。
「少々、獣臭くて申し訳ないが、その牢に入っていてもらう。安心しろ、君たちのことは丁重に扱うよう、シュナイゼル様から厳命を受けている。おとなしくしていれば、危害を加えることはない」
男がいう隣で、別の男が鍵束を取り出し、牢の鍵をかけた。てっきり見張りがつくものと考えていたが、男たちはそれだけ行うと、部屋から出ていく。ただ、部屋の入り口のドアはしっかりと施錠されたようだったが。
「……やれやれね。まさかこんなタイミングでこんなことになるなんて、はた迷惑なミイラ男だこと」
苦い顔で舌を出すセトミに、リリアが小首を傾げながら、とつとつと話しかける。
「しかし、妙ですね。いくら私たちが要人を装っているとはいえ、身体を拘束することもなく、ボディチェックすら行わないというのは、制圧の手際の良さと比べて、ずいぶん甘く感じられます」
「しかし、妙ですね。いくら私たちが要人を装っているとはいえ、身体を拘束することもなく、ボディチェックすら行わないというのは、制圧の手際の良さと比べて、ずいぶん甘く感じられます」
「……確かにね。アンセムもデヴァイスも取り上げられなかったのはラッキーだったけど……お嬢様とただのメイドと思って、なめてかかってんのかしらね」
そう嘆息するセトミではあったが、その表情は自分の言葉にいまいち納得していないのは、一目瞭然だった。
「まあ、そこは考えてもしょうがないでしょ。とりあえず動きましょ。ここでじっとしているわけにもいかないし」
セトミのその言葉に、リリアが不思議そうに視線を向ける。
「しかし、牢のロックは……。電子ロックならば私が開錠できますが、これは……」
そのリリアのセリフに、セトミはにやりといたずらを思いついた猫のように笑う。その手には、シラミネに渡されたヘアピン入りの箱があった。
「これよ、これ。アナログな鍵はセトミちゃんにお任せあれ。多分、元々そういうつもりで渡してきたのね、おじさま。なかなか抜け目ないじゃない」
その言葉と同時に、セトミは数本のヘアピンをくわえると、器用に両手で鉄格子の向こうの鍵穴にヘアピンをねじこむ。
「おっけーおっけー、シリンダーの数はそう多くないね。これなら目つぶってても行けるわ。所詮、獣用の檻ってことね」
「チェイサーキャットと二つ名を持つあなたがそれを破るというのも皮肉なものですね」
珍しく少し笑っていうリリアに、セトミの表情が一気に渋くなる。
「ぶー。言うねえリリアちゃん。……おっ、これで……」
セトミの表情に再び笑みが戻ったと同時に、小気味よい金属音とともに、鉄格子が開いた。
「よし、次!」
部屋の入り口の扉も、鉄格子よりは手間取ったものの、やがて扉は開いた。
「さて、こっから先は変装しようがしてまいが、問答無用だろうね。だったら、この格好でも仕方ない、か」
セトミが優美なドレスと帽子を振り払うようにばっと脱ぎ捨てると、その下から普段の彼女の姿が現れる。どこに隠し持っていたのか、帽子も魔女のようなとんがり帽子にかぶりなおした。
「これでよし。あー、あのかっこ、落ち着かなかった。動きにくいし、アンセム抜くにも邪魔だし、髪はうざったいし」
本当にドレス姿が窮屈だったらしく、大きく伸びとあくびをしてから、セトミはリリアを振り返った。
「……さて、そんじゃまずは、おじさまを助けに行かないとね。リリア、レーダーは使える?」
「……………」
だが、問われたリリアは意外そうにセトミを見、返事がない。
「脱出するのでは、ないのですか?」
「へ? だっておじさまが捕まったままにしておくわけにはいかないでしょ?」
今度はセトミが何を言ってるんだとばかりに腰に手を当て、言う。
「いえ……もちろん私はシラミネ様の救出に向かいますが。あなた方のエマさんを取り戻すという目的は達成されたはず。このまま、撤収されるのかと……」
ぼうとした瞳で言うリリアに、セトミはまたもにやりと笑う。
「なーに言ってんのよ。ここまで首突っ込んじゃったんだから、最後までつきあうっての。ねー、駄犬、ミナ、聞いてる?」
こちらもいつも通りに左腕に付け替えたデヴァイスにいつから通信を始めていたのか、セトミが問いかけた。
「コラ、誰が駄犬だ? ……ったく、お前ならそういうと思ってたぜ」
「ミナ、リリアおねえちゃんたちの気持ち、ちょっとだけわかる。ミナ、お手伝い、する」
デヴァイスを見せつけるようにしてリリアの前に突き出し、セトミが親指を立てて見せた。
「そーいうこと。あ、勘違いしないでよね。別にあんたたちのためにやるってわけじゃないのよ。私は、私のやりたいようにやるし、生きたいように生きるってだけだから」
そう言ってセトミは、立てた親指をひっこめるとちっちっち、と人差し指を振って見せた。
「それに……このチェイサーキャット様をここまでコケにしてくれたお礼を、あのミイラ男にしてやらないとね。ふっふっふーん」
おどけて、しゃーっと威嚇する猫のような声を出しながら、セトミは両手を爪を出した猫のごとく構える。
「あなたは……本当にフリーダムですね」
呆れたような顔で、しかし少し微笑みながら、リリアがうなずく。
「なによそれ。そういうあんただって、名前そのままのアイアンメイデン(鋼鉄の乙女)でしょ」
本人には不服な言い回しだったのか、口を尖らせてセトミは言い返した。
「まあいいわ。そんじゃあ、猫とロボ子チーム、おじさまの救出に向かいますか!」
同時刻、中央管理局、執政官室。
シュナイゼルは式典会場から、自室へと戻っていた。街は戦いに包まれつつあったが、実弾銃を防ぐ防壁システムさえあれば、恐れることはなかった。
「さて……計画を、次の段階へと移すこととしよう……」
机と椅子に着き、額を包帯の上から押さえながら、シュナイゼルがうっそりとつぶやく。その目は、自室の入り口を映す監視カメラのモニターへと注がれていた。
いや、正確には、そこに映る、一人の人影に。
「……入りたまえ、ヘヴンリー軍曹」
その声に、入り口のドアがノックもなく開く。軍曹ほどの階級の者が執政官室に入る際には、通常ならば必ず、ノック、敬礼をすることが義務付けられているが、その人物はそれらを完全に無視して入室した。
だが、そのことにシュナイゼルは言及しようとはしない。それはつまり、入ってきた人物は特別であることを言葉もなく示唆していた。
だが、そのことにシュナイゼルは言及しようとはしない。それはつまり、入ってきた人物は特別であることを言葉もなく示唆していた。
「……私の出番か? 新執政長官殿? ……いや待て、いわば今は無政府状態なのだから、執政官でもないわけか?」
どこか不遜な色を含んだ物言いで笑うその女性――――シュナイゼルの言うヘヴンリー軍曹は、特異な外見を持つ女性だった。荒々しくレイヤーを効かせた髪は燃えるように赤く、同様にその瞳も赤い。将校用の軍服も、上から下まで赤で統一されており、全身が真っ赤であるといえた。
そのカラーが彼女の性格を示しているかのように、その瞳や顔つきは鋭く、刺すような剣呑さを帯びていた。
「まあ、どうでもいいか。私を呼んだってことは、暴れて来いってことだろう? 場所は?」
上官に対するものとは到底思えない横柄な態度にも、シュナイゼルの表情は変わらない。いや、むしろその横柄さを楽しんでいるようですらある。
上官に対するものとは到底思えない横柄な態度にも、シュナイゼルの表情は変わらない。いや、むしろその横柄さを楽しんでいるようですらある。
「……スクラップド・ギアだ。彼らに再プログラムを受けることを要求する声明は出したが、彼らは従うまい。武力をもってこれを制圧、彼らをここへ連行しろ」
淡々と言うシュナイゼルに、ヘヴンリーは酷薄に笑う。
「……へえ。制圧しちゃっていいのかい? 私がそんなつもりでやったら、力加減を間違ええて、『ついうっかり』壊滅くらいさせちゃうかも知れないぞ?」
胡乱げな調子で相変わらず笑うヘヴンリーに対し、不意にシュナイゼルのまとう空気が奇妙に変わる。かすかにゆがめたその瞳は、どこかに怒気をはらんでいるようにも見える。
「それだけは許可できん。あくまで彼らは捕えるのだ。殲滅しては意味がない。……お前に、それをする権利がないのはわかっているはずだ」
その空気の微妙な変化に、ヘヴンリーの表情も変わる。シュナイゼルの視線に正面から睨み返すような剣呑な目に。だがそれもほんの一瞬で、彼女は小さく舌打ちすると、シュナイゼルから視線を外した。
その空気の微妙な変化に、ヘヴンリーの表情も変わる。シュナイゼルの視線に正面から睨み返すような剣呑な目に。だがそれもほんの一瞬で、彼女は小さく舌打ちすると、シュナイゼルから視線を外した。
「……ちっ、わかったよ、上官殿」
「それでいい。軍のトラックに兵たちを乗せて出発しろ。トラックにスクラップドギアのオートマトンたちを収容し、ここに連れ帰れ。繰り返すが、故障者は出すな。一人も、だ」
念を押すように重い声で言うシュナイゼルに、ヘヴンリーは苦い表情で頭をかいた。
「はいはい、サー・イエス・サー。何度も言わなくてもわかるさ。言われたとおりにいたしますよ」
皮肉気に、かつ吐き捨てるように言うと、ヘヴンリーは大げさに肩をすくめて見せながら、部屋を出ていく。
その背が出ていった空間をシュナイゼルは色のない瞳で見つめながら、その包帯の下で小さく息を吐いた。
その背が出ていった空間をシュナイゼルは色のない瞳で見つめながら、その包帯の下で小さく息を吐いた。
「……できることならば、あれも、最後には……」
だが、その言葉はその呼吸が散るのと同時に、祈りの言葉のように霧散した。
「……いや……それはおそらく、かなわぬか……」
その頃、セトミとリリアは基地内の一階へと到達していた。シラミネと別れたのは地上階――――おそらく監禁されているのもその付近と判断したためだ。
「お気を付けください、セトミさん。事件が起こる前よりも、多数の背板反応があります。同位置にガンマレイのエネルギー反応が確認できることから、恐らくはシュナイゼルの兵かと」
「みたいね。どうにも怪しいにおいがそこら中からぷんぷんするわ」
リリアの警告に、セトミがふんふんと鼻を鳴らして答える。
「幸いにも、ここからさほど離れてはいないようです。どうやら、彼自身の執政官室に軟禁されている模様です」
その言葉に、セトミはあごに手をやり、考えるそぶりを見せる。
「監禁するのに自室? ずいぶんVIPな待遇じゃない?」
「シラミネ様は手足が不自由です。あまり強固な拘束は必要ないと判断したのかもしれません」
「シラミネ様は手足が不自由です。あまり強固な拘束は必要ないと判断したのかもしれません」
確かに、車椅子の老人をがっちりと拘束しなくてはいけない理由もない。それよりも、彼への待遇を優先したということか。それならば、彼らにとっても人質は有用性のあるものなのかも知れない。
「まあ、こっちにとっちゃ好都合ね。このままおじさまを救出するわよ」
セトミの言葉にリリアがうなずくのを確認すると、二人は静かに歩き出す。幸い、リリアのレーダーも、デヴァイスのレーダーも生きており、敵兵の動きを把握して突破することができた。
が、さすがにシラミネが監禁されていると思われる、彼の自室前には二人ほどの見張りがついていた。
「いかがいたしますか?」
ささやくリリアに、セトミは歯を見せて笑う。
ささやくリリアに、セトミは歯を見せて笑う。
「リリア、奥の一人はさっきのあれでお願い。もう一人は私がなんとかする」
「……了解いたしました」
リリアが左手のガンマレイを作動させ、奥の兵士に狙いをつける。発射されるのは、先ほどと同じ、気づかれずに相手を気絶させることをガンマレイだ。
「……ファイア」
その声とともに、リリアの左手から明るさの少ないガンマレイが発射される。
「ぐっ!?」
それが頭部に命中した敵兵は意識を失ってその場にくずおれた。
「なんだ!? どうした!?」
「なんだ!? どうした!?」
もう一人の兵がこちらに背を向け、倒れた兵のほうへ駆けだしたのを確認し、セトミが物陰から飛び出す。
獲物に駆け寄る猫のごとく、足音もなくその背後まで忍び寄ると、倒れた兵を調べるためにしゃがみ込んだもう一人の兵の後頭部めがけ、アンセムの銃底を振り下ろした。
「がはっ!」
鈍い音とともに悲鳴を上げると、敵兵は気絶している兵に折り重なるようにして倒れる。兵士が動かないのを確認し、セトミは背後のリリアに親指を立てて見せた。
「お見事な手際です」
「そっちこそね。んじゃ、中に入らせてもらいましょっか」
ドアは内鍵がついているタイプのものらしく、鍵はかけられていなかった。セトミは静かに中に滑り込むと、リリアが入ったのを確認し、後ろ手に鍵をかける。
ドアは内鍵がついているタイプのものらしく、鍵はかけられていなかった。セトミは静かに中に滑り込むと、リリアが入ったのを確認し、後ろ手に鍵をかける。
部屋の中はカーテンが閉め切られたうえ、電気も消され、現在の時刻が夕方にさしかかろうという時間帯にも関わらず、薄暗かった。その暗い中で、机の椅子に縛り付けられているらしい人影が見えた。
「……誰だ」
暗闇の中で、その声がうめく。間違いなく、それはシラミネの声だった。
「おじさま、大丈夫でございますこと?」
少々おどけながらセトミが返すと、人影が驚いたように顔を上げた。
「なんと……! セトミ君か!? うまく抜け出すとは思っていたが、まさかもうこんなところまでたどり着くとは……」
「まあまあ、お褒めの言葉は後でいいからさ。とにかく今はここを脱出しよ。すぐ縄をほどいてあげる」
「まあまあ、お褒めの言葉は後でいいからさ。とにかく今はここを脱出しよ。すぐ縄をほどいてあげる」
セトミがシラミネの縛り付けられている椅子に近づき、その縄に手を伸ばす。
――――しかし。
「待った!」
シラミネ自身が、それを止めた。
驚いたセトミが、呆けたような表情で彼を見る。
「なんでよ? 縄をほどかなきゃ、脱出なんてできないでしょ?」
「いや――――私は、ここに残る。脱出は、君たち二人だけでしたまえ」
その言葉に、セトミだけでなく、リリアでさえも驚きに目を開いた。
「はあ!? 何言ってんの、おじさま! こんなところにいたら、奴らに何されるか、わかったもんじゃないのよ!」
詰め寄るセトミに、しかしシラミネは首を横に振る。
「何をされるかわからない――――か。確かにな。だがそれは、私がここを脱出した場合も同じだ。シュナイゼルが先ほど私のところに現れて言ったのだ。人質は、私たち三人だけであると。そしてソドムに対しもっとも重要な切り札が、この私なのだ」
「それは、どういう意味でしょう?」
驚きはしながらも、あくまでリリアが冷静に聞く。
「今、ソドム側で生き残っている執政官――――要するに、今現実としてトップにいるのは、タリア=シラミネ少将……つまり、私の実の娘だ」
「なっ――――」
驚くセトミを横目に、シラミネは続ける。
「奴らとしては、現在のトップの父を人質として手に入れた形になる。これ以上の交渉材料はあるまい。その私が脱出したとなれば……」
「それこそ、切り札を失った彼らが何をするかわからない、と。そういうことですね」
リリアの言葉に、シラミネが重々しくうなずく。
「そうだ。だが、それだけではない。奴らはスクラップド・ギアは奴らの要求に従うまいと踏んで、兵を差し向けた。それも、奴のお抱えの部下の中では最悪の奴だ」
顔を伏せ、シラミネが歯噛みしながらうめく。
「ヘヴンリー軍曹……いくつもの侵略作戦に参加し、何十もの町や村を侵略……いや、破壊してきた女だ。その戦闘能力は軍内でも屈指と言われながら、侵略するべき対象への過剰すぎる破壊行為と、命令無視を繰り返すために軍曹の階級にとどまっている。本人が前線から離れるのを嫌って、わざと昇進しないようにしているという噂もあるくらいだ」
「……とんでもない奴」
珍しく、リリアが表情に嫌悪感をにじませてシラミネを見た。
「ああ、その通りだ。そのとんでもない奴が、スクラップド・ギアへすでに向かっていると聞いた。私はこの通り、手足が不自由だ。私を連れていては間に合わない。君たち二人だけで脱出し、君らの街の破壊を止めるんだ」
「……でも、その間、おじさまは……」
心配顔のセトミに、シラミネは不意に野性的に笑ってみせる。
「あなどるなよ。これでも手足を失うまでは、私も軍人だった。それに、それからは舌先三寸で副長官までなったのだぞ。奴らに何をされようと、うまくごまかしてみせるさ。……それよりも、もう行け。執政官室のあるエリアの奥には、緊急時に執政官が脱出できるよう、専用のガレージがある。電子ロックがかかっているが、そこのコードなら知っている。1589だ。忘れるなよ」
セトミがなにか言いたげに再びシラミネを見るが、彼は二人を急かすようにあごでドアを示して見せた。
「……絶対、助けに来るから」
セトミのその言葉を残し、二人はシラミネの部屋を出る。同時に、駆けだしながらセトミはデヴァイスの向こうのショウに向かってどなる。
「ドッグ、聞いてた!? なんだかヤバそうななんちゃら軍曹ってのが、そちらをわざわざお迎えに行ってくれるんだってさ。送迎サービスも気が利きすぎてるのも考えもんね」
「あいよ、聞いてた。今、シェイができる限り人を集めてるが……場合によっちゃ、俺もそっちに行かなきゃなんなくなるかもしれん。無茶を言うようで悪いが、できるだけ早く戻ってきてくれ」
「了解!」
いったん通信を切ると、ガレージへのドアはすぐそこにあった。セトミが駆け寄り、先ほどシラミネに教わったコードを入力すると、扉はあっさりと開く。
中はそう広いガレージではなく、脱出用というためか、あまり武装の施されていないバギーやバイクが何台か置かれている。
セトミが手近なバイクのキーを調べるが、やはりロックされている。彼女は再びヘアピンを取り出すと、鍵穴をにらんだ。
「鍵を探してる暇はない……こうするしかないか!」
だが、その開錠にとりかかった、その時。
「貴様ら、そこでなにをしている!」
鋭い声が背後から浴びせかけられた。そこにいたのは、青い軍服に日本刀を携えた青年――――事件前に一度顔を合わせた、シルバ少佐だった。
当たり前だが、あの時とは違い、その鋭い視線ははちきれんばかりの敵意を帯びている。
「まさか、貴様らもシュナイゼルの手の者だったのか!?」
「違う……って言っても、信じられる状況じゃないよねぇ、こりゃ」
思わずセトミが渋い顔で頭をかく。やっかいな時にやっかいな人物が現れたものだ。
「信じられるはずがないだろう!」
怒号とともに、シルバが身構える。
それに対し、反射的にカタナを抜こうとするセトミを、リリアが片手で制した。
「……セトミさん、ここは私が。あなたはバイクのキー解除をお願いいたします」
「わかった。でも怪我したりしないでよね。さすがにあんた抱えてバイク運転はきつそうだし。……それと」
セトミはリリアに釘を刺すように、人差し指を立てて見せる。
「あいつの目には、気を付けて」
「……了解しました」
その意を理解したか、リリアが警戒するようにその瞳の深さを増した。
「なにを話しているのか知らんが、貴様らの好きにはさせんぞ! 俺は軍の守護部隊隊長だ! 俺が守るべきもののために、これ以上の暴挙は許さん!」
ぎりっ、と歯を軋ませ、シルバが立ちはだかるリリアをにらむ。その言葉に対し、リリアもかすかにその表情を鋭く変えた。
「……守るべきもののために……ですか」
静かに呟くリリアの掌のガンマレイ発生レンズが、甲高い機械音とともに刃を形成していく。それは大きく、長く伸びていき、やがて一本の輝く槍の形を形成した。近距離戦での彼女の主力兵装――――『メイデン・トゥルーパー』だ。
「ならば……私も同じです」
肩幅よりもわずかに広く足を開き、両手で槍を構えると、リリアは迎撃態勢をとるように、両足にぐっと力を込めた。セトミのアドバイスが的を射たものであるなら、恐らく――――速さでは向こうに分がある。
「行くぞッ!」
気合の言葉とともに、カタナを鞘に納めたまま、シルバが駆ける。半ば予想はしていたものの、そのスピードはやはり通常の人間のそれをはるかに超えている。
リリアの瞳が、駆け寄るシルバの瞳を、その心根を見透かそうとするかのように射抜く。やがて目の前に迫った彼の瞳は突如、紅く染まり――――リリアの脇腹付近へ視線を送った。
次の瞬間――――不可視の速さで抜かれたシルバの剣戟が、リリアの槍とぶつかり合い、甲高い悲鳴を上げた。
「……よく止めたな。俺の初太刀を見切った奴は久しぶりだ」
「そちらこそ、私の予測を超えた抜刀の速さです。事前に視線で狙いに気づかなければ、危険でした。……さすがは、人の身体能力を超える力を持つ、ヴィクティム・ハーフです」
ぎりぎりとつばぜり合いを演じながらも、両者が互いの力を探り合うようににらみ合う。そして、シルバのその瞳はリリアの言葉を肯定するかのように、普段の黒から赤へと変貌していた。
らちが明かないと判断したか、シルバがカタナを引き、距離をとる。そして再び、そのカタナを鞘へと戻した。
「……俺の目は、居合のその一瞬、集中力を爆発的に向上させる、ハーフの力だ。それにより、瞬発力、攻撃力をその一瞬、強化する。近距離戦に持ち込めば、その長い槍では対応しにくかろう」
「……確かにこの戦い、私にとって相性がいいとは決して言えません。しかし……」
分はこちらにある、言外に示すシルバの言葉に、しかしリリアはますます鋭さを増すその瞳をもって、その答えを返す。
「だからと言って――――こちらも引くわけには参りません」
「ならばお望み通り――――我が剣の冴え、その身をもって知るがいい!」
シルバが、カタナを鞘に納めたまま、先ほどよりも深く腰を落とし、攻撃の構えを取った。
おそらく、先ほどの一撃はほんのあいさつ代わりに過ぎない。止められた際も眉ひとつ動かさなかった彼の表情が、そして先ほどとは違う、『一撃必殺』の気を発する彼の構えが、そのことを顕著に語っていた。
ならばこちらは、それを受けるまで――――。
リリアは、両手で構えていた槍を右手一本に持ち直し、腰を落として構える。
両者の間に、触れれば切れるような鋭い闘気が立ち込める。瞬きすることすらためらわれるような張りつめた空気の中――――やはり、シルバが先に動いた。
「せェッ!」
瞬間的にリリアに肉薄したシルバは一閃の気合とともに、居合を放つ。それは前の一撃よりもかすかに速く、そして前の一撃よりもかすかに鋭かった。
それは勝利の確信か、シルバの口元にわずかに笑みが浮かんだ。
――――しかし。
「左腕システム・ガンマレイ、ガーディアンフィールド展開」
リリアの酷薄な言葉が、彼の笑みを掻き消した。と同時に、リリアの左手から発現した光の盾が、シルバのカタナを阻んだ。
「――――なッ!?」
「その威力では、私の防御フィールドを突破するのに6.54%、圧力が不足しています」
普段通りの冷静な口調のリリアだが、双方が手にするカタナと盾は力が均衡していることを示すかのように、ぎりぎりとせめぎあっている。しかし、今度のつばぜり合いの結末は、先ほどのものとは違っていた。
「……くっ、くそッ!」
再びカタナを引こうとしたシルバが後ろへと重心をかけた、その刹那――――。
リリアが、大きく踏み込んだ。相手の一番の得意技は居合――――それを二度も防がれては、一旦引いて、体勢を立て直すしかない――――その考えを読み、その瞬間を待っていたのだ。
大きく踏み込みながら、彼女は左手の盾を薙ぐ。重心の傾いたシルバの体勢ではその勢いを殺しきれず、結果として、彼のカタナが大きく上方へと弾かれる形となった。
だがシルバはここにおいても、まだ平静を保っていた。間合いは、長物である槍よりも、自分のカタナに圧倒的有利。崩れた体勢からでも素早く立て直せば――――。
そこまで計算した彼の思考が、次の瞬間、停止した。
目の前にいたのは、槍を持った少女ではなく――――同じく、青い光をたたえる剣を持った少女だった。
「右腕兵装『メイデン・トゥルーパー』停止。次いで右腕兵装『レイザーブレイド・サイ発動』」
いや、正確には――――リリアは、ガンマレイの槍を一瞬にして停止――――その上でもう一つの兵装――――ガンマレイ出力の光の剣『レイザーブレイド・サイ』を発動していたのだ。
「――――斬撃(スラッシュ)」
そこまでシルバの思考がいたった時には、リリアの手にした青い光の剣が、彼の体を捉えていた。
「ぐあああああああッ!」
悲鳴とともに、シルバががくり、と膝を落とす。
「――――ご安心ください。さる方より、あなたはできる限り傷つけないでほしいと言われております。命にかかわるような出力での攻撃ではありません。ですが、しばらくは安静になさっていたほうがよいかと思われます」
「……………っ。なに……」
確かに致命傷には見えないが、打たれた胸を押さえ、息の荒い様子からすると、しばらくの間、動けるようにはない。
「リリア! 準備完了! やっとこ言うこと聞いたわ、このじゃじゃ馬!」
不意に響いたセトミの声に、リリアがそちらへと向かう。
「……待てっ!」
思わず声をかけたシルバに、リリアが振り返る。
「さる方とは……? それに、お前たちはクーデター軍ではないのか……?」
「シュナイゼルに与するものではありません、とだけ言っておきます。それと、僭越ながら言わせていただければ、あなたの守りたいものを守るためには、刃を向ける相手を違えておいでかと」
意味深な彼女の言葉に、シルバは困惑する。
「……失礼します」
動き出したバイクの方へ歩いていくリリアの背中に、シルバは答えを求めるように手を伸ばすも、彼女がそれ以上言葉を発することも、己が言葉を紡ぐことなく、行く手を失ったその右手は、悔し紛れに床に叩きつけられるだけだった。
同時刻、スクラップド・ギア、シェイの工場。
同時刻、スクラップド・ギア、シェイの工場。
「……くそ、なんだかきなくせえことになってきやがったな」
作戦司令室では、ショウがぼりぼりと頭をかきむしっていた。傍らにはオートマトンの青年、シェイの姿もある。
「……すまない、君たちをここまで巻き込むことになってしまって……。君たちの目的はもう達成されているのに」
肩をすくめて見せるその姿は、リリアと同じく、言われてもオートマトンだとはわからないほど、人間と相違ない。ただ、顔の包帯や、片手の後からのぞく配線類を別にすれば、だが。
「謝んなよ、どうせこんなことになっちゃあ、ここから動けやしねえからな。それでも心苦しいってんなら、後でメシでもおごってもらおうか」
軽く笑みながら、ショウはタバコの火を着ける。そのショウの言葉を聞き、シェイは一瞬、呆けたように目を開いてから、同じように微笑んだ。
軽く笑みながら、ショウはタバコの火を着ける。そのショウの言葉を聞き、シェイは一瞬、呆けたように目を開いてから、同じように微笑んだ。
「さて、それより、こっちはこっちの問題を何とかしなきゃな。自警団の連中は集められたのか?」
「ああ、全員ね。普段は参加してないオートマトンたちもいくらか。と言っても、戦闘プログラムを搭載してる者はほんの一握りだけど……」
ふーっ、と大きく紫煙を吐き出しながら、ショウがあごをなでる。その表情は、わずかに苦い。
「それに対し、向こうは軍の侵略部隊、か……。一つの軍が分裂した奴らとはいえ、士気はともかく、統率は取れてるだろうからな。ちっと分が悪いのは否定できねえ」
「それに……向こうには、ヘヴンリー軍曹がいる」
ショウのセリフを補足するように、シェイがぽつりとつぶやく。
「シラミネのとっつあんが言ってた奴か……。いまいちつかめねえんだが、そんなにヤバい奴なのか? そいつは」
いぶかしげな表情で頭をかくショウに、シェイは神妙な表情でうなずく。
「僕も噂でしか聞いたことはないけどね。主にガンマレイ出力の武器を得意とし、特に接近戦では、武器としては使いにくいはずの大鎌を自在に操り、人と言わず建物と言わず破壊する。侵略し、搾取するべき対象すら壊滅させる。その足元にはそうして破壊された者たちしか残らないことから、『塵を塵へ返す者』――――ダスト・トゥ・ダストと呼ばれている」
「……聖書の一説か。俺らが出くわすのはそんなんばっかりかよ、ったく……。まるで怪獣でもこっちに向かってきてるみてえな気分だぜ」
ぼやきながらショウがタバコの火を消そうと、灰皿の方に向き直ったその時――――部屋の入り口がバタンとしまったのが見えた。それと同時に遠ざかっていく、小さな足音。
そして、その寸前、この部屋の中をのぞき込んでいた小さな影――――それは。
「……ミナ!」
「えっ?」
突然のことに呆とした瞳を向けるシェイに、ショウは唾を飛ばしながら叫ぶ。
「今の話、ミナが聞いてやがった! もしかしたらあいつ、軍の奴らと戦いに行くつもりかもしれねえ!」
「あの子が!? まさか……」
「いや、十分ありうる。あいつは……ファースト・ワンだ。そしてあんたらと同じように、兵器として使われそうになったことがある。さっきもリリアに言ってたろ、気持ちは少しわかる、って」
ショウの言葉に、シェイがハッと息を飲むのが分かった。
その時だった。不意に、先ほど閉められた扉が、再び勢いよくバタンと開いた。
「シェイ! 来た、奴らだ! 奴らはもうゲートの側まで迫ってる!」
息せき切って部屋に駆け込んできたのは、自警団のうちの一体のオートマトンだった。
「くそっ! なんてタイミングだ! おいシェイ、実弾型のライフルかショットガンか――――なんでもいい。ちっとばかり貸してくれ」
「ど、どうするつもりだい?」
リリアと違い、シェイはこういう事態に慣れてはいないのか、少々表情が強張っている。
「ミナを追って合流、奴らを迎え撃つ。お前らも来てくれ。ここにいても、結局は戦う羽目になるんだ」
ショウの緊迫した言葉に、シェイの強張った表情が不意に揺らいだ。
「……わかった。小さな女の子が僕らに共感してくれて前線に飛び出していったってのに、僕らがここで震えてたらオートマトンの存在意義に関わる。僕らも行く。武器のロッカーのカギを渡しておくよ。そこにあるものは好きに使ってくれ」
「よし、俺は自分の装備が整い次第、ミナを追う。お前らは自警団をまとめた後、戦闘プログラム持ちを先頭に、隊を組んで合流してくれ。指揮は、お前が出すんだ。いいな」
重い声でシェイの手を握るショウに、シェイがまだわずかに表情に不安を残しながらも、強い瞳で頷く。
「んじゃ、俺は行く。後のことは任せたぜ!」
そっけなく片手だけのあいさつをし、ショウは部屋を飛び出す。小さな工場だ、すぐさま武器ロッカーまでたどり着くと、がしゃがしゃと乱暴に中身を引っ掻き回す。
「ちくしょ、やっぱガンマレイ出力の銃が多いか……」
非常時であっても実弾系の銃を求めるのは、使い勝手の違いが顕著であるからだ。
実弾銃はそれぞれ弾丸の種類が違うがガンマレイは共通してエネルギーパックであること、火薬の炸裂によって弾頭を飛ばす実弾銃は反動が強いが、ガンマレイは反動がほぼないことなどが挙げられるが、一番の違いはメンテナンスの仕方だ。
実弾銃には実弾銃の、ガンマレイにはガンマレイのメンテナンス専用知識がいる。要するに、普段実弾銃に慣れたものがガンマレイを使っても、使い勝手の違いや緊急時のメンテナンスの知識の違いで、実力を発揮できなくなってしまうのだ。
武器の選択は命の命運を分けることを、ショウはこれまで生きてきた中で嫌というほど見てきた。だからこそ、自分と、ミナの命がかかったこの事態では武器は慎重に選ばなければならないのだ。
「……おっ、こいつは……」
ショウの目に留まったのは、大型のハンティングライフルだった。ご丁寧なことに、遠距離スコープまで着いている。
「……これなら、中距離以上の間合いにゃ対応できるな。近づかれたら……いつも通り、こいつに命を預けるしかねえか」
その存在を思い出した時の癖で、ショウは腰の大型リボルヴァーのグリップを確かめるように握った。
それと同時に再び駆けだしながら、ショウは通信機のスイッチを入れる。
「おい、セトミ! 聞こえるか!」
「なによ、ドッグ。デヴァイスから話しかけりゃいいでしょ。なにかと思ったわ」
デヴァイスからでなく通信機からの連絡に、すでに嫌な予感がしているのか、セトミの声はそのセリフとは裏腹に、緊張感が垣間見える。
「すまねえ。緊急事態だ。クーデター軍の一隊がこっちに向かってることを知ったミナが、そいつらに向かって行っちまった。今から俺が――――」
次の瞬間、状況を説明しようとするショウの耳をセトミの絶叫が遮った。
「はぁ―――――――――!?」
通信機からの大音量にしばらく悶絶するショウの耳を、再びセトミの大声が襲う。
「こんのバカドッグ! なにやってんのよ! 子守くらいちゃんとできないんじゃ、番犬にもならないじゃない! だから駄犬だっての!」
しばらくその大声に悶絶していたショウだったが、さすがに今のセリフは頭に来たらしく、負けないくらいの大声で通信機に向かってどなり返した。
「うるせぇ―――――――!! お前の子守もしながらミナの世話までできるかバカ猫! 文句があんだったら、ドクターなしで依頼こなしてみやがれ、ボケ猫女!」
「ぼ、ボケ猫だと―――!?」
通信機の向こうでぎゃあぎゃあと猫のケンカのような声が聞こえたが、これ以上言い争っていても仕方ない。それをむりやり遮り、ショウは状況を説明する。
「いいから聞け! 俺はこれから、急いでミナの元へ向かう。恐らく、奴らと鉢合わせるだろう。シェイたちにも体勢が整い次第、こちらへ向かってもらう。お前らもとにかく、こっちへ急いでくれ。それまでは――――俺がなんとかする」
「うわ、出た。その『なんとかする』。こないだそれ言った時、死ぬ気で言ったくせにしぶとく帰ってきたんだから、今度もなんとかしなさいよね。できなかったら、ドッグの尻を猫の爪でひっかいてやるんだから」
その物言いに、ショウは思わず舌を出しながら嘆息する。
「バカ猫にンなことしてもらう趣味はねえよ。とにかく、そっちも現場へ急いでくれ。わかったな」