鏡の奥の片翼人~ベターハーフ~ 1-①
ー/ー ……どうしようかなあ。
瑛比古さんは、思案の真っ最中であった。
早朝、家を出たハルの足取りを追って、公園にたどり着いたのが、今から4時間程前。
……まさか、こういう展開になるとは……。
「端から見ると、痴話喧嘩みたいっスね」
ボソッと言うのは、コバヤシ少年、ならぬ小早川【元】少年。
既に青年にも【元】を付ける必要がある年だが、瑛比古さんとは別の意味で若く、というか、幼く見える。
「うるさいよ、チャボ」
チャボは小早川くんの愛称である。
そのまんま【とっちゃんぼうや】から取っている。
「やめて下さいっス。鶏じゃないんっスから」
本人はあまり気に入っていない様子だが。
(コッコ、コッコうるさい所なんかソックリだよ)
一言どころでなく、余計な言葉が多いのが、彼の欠点である。
「ミヨちゃんにアシに入ってもらうんだった」
「何いってるんスか! 血の雨が降るっスよ。可愛いハルくんのラブシーンもどきなんて見せたら大変っスよ!」
確かに。
ハル大好きのミヨちゃんこと谷浜美代子事務員にとっては、看過できないかもしれない。
こんなラブシーン、朝のうちは予想してなかったよ。
話は朝に遡る。
休日はナミに朝ごはんをお任せして、朝寝坊を決め込む事が常の瑛比古さんだったが、今朝は違った。
何時でも出掛けられるように身支度して、ハルの部屋の様子を窺っていた。
案の定、休日は起こされるまで寝ているハルが、ガサゴソと出掛ける気配がした。
ハルが外に出たのを確認して、瑛比古さんは、ナミ達に気付かれないよう、忍び足で玄関に向かった、が。
「お父さん、時間かかるようなら、大兄とお昼済ませてきてね」
ナミがキッチンから声をかけた。
「留守番は誰が来てくれるの?」
「……谷浜さん」
「じゃあ、お昼、足りるね。小早川さんだと三人前は必要だから」
アイツは人んちでどんだけ食うんだ!?
じゃなくて。
「ナミ……ハルは、どこ行くって?」
「お父さんには黙ってて、って言われたから。っていうか、大体目星ついてるんでしょう? あーあ、お父さんにいいように転がされて、可哀想な大兄ちゃん」
確かに。
ハルは気も回るし、しっかり者だけど、根は素直で……単純で、扱いやすい。
一方、ナミは、一見物分かりが良さそうなイイコちゃんだけど、時々底知れない洞察力としたたかさを見せることがある。
「将来どうなることやら……」
ナミに持たされた、【ホットサンドになる予定だったもの】の入った紙袋を眺めつつ、一人ごちる。
気を取り直して。
「あ、チャボ? ハル行った?」
『来たっス。……今、通り過ぎて中学校方面に向かったっス』
携帯電話の向こうから、市立病院前で待機中の小早川クンの返事を聞き。
……分かっていたけど。
……そういう行動を取るって、予測していたけど!
「素直すぎるよ……ハル」
こちらの将来にも、頭が痛い瑛比古さんであった。
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