通りすがりの未知人~ストレンジャー~ 3-④
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「その後、一度だけ、訪ねてきたわ。実家から戻って、やっと落ち着いた頃、連絡もせず、突然」
日は既に天頂近くまで昇っていた。
じきに正午……女性は三時間以上も話を続けていることになる。
時々持っていたペットボトルのお茶を口にするものの、彼女の声もかすれはじめている。
ハルは、余計な口を挟まず、じっと耳を傾けている。
日差しを避けようと、屋根のある東屋へ場所を移すため、一度だけ話を中断した。
それでも、暑さは時間と共に増してきている。
そろそろ、まずいかな。
この暑さでは、熱中症を引き起こしかねない。
幸いサンドイッチを食べているし、少しずつお茶を飲んでいるから、急激な脱水はあまり心配ないだろうが、早めにもっと涼しい場所へ移動した方がいいだろう。
「写真を持ってきたのよ、って。そして、もう会わない方がいいって、私に言ったの――」
「……そして?」
急に押し黙ってしまい、促しつつ、様子を確認する。
「『私の存在が姉さんを不安にさせているようだから。私が何か気に障るようなことをしたに違いない。あまりそういう配慮が出来ない性格で。ごめんなさい』そう、言ったの」
ほとんど一息で、セリフを吐き出す。
声も枯れ、言い終わって少し咳き込んだ。
「私、何で疎ましいなんて思ったんだろう? たった一人の妹なのに。きっと、居心地の悪い思いをさせていたんだわ。無意識に」
「もう……喉が」
「本当の姉妹になれるかもって、思っていたのに。心のどこかで、妹をうらやむ気持ちがあったのかもしれない。……だから、罰が当たったのよ。たった一人の妹を思いやれないような私だから」
咳き込みながら、話をやめようとしない。
「今も聞こえるの……私を責める……あんなに後悔したのに……あの声で……私が全て悪いの……妹は悪くないのに……どうして妹の声が聞こえるの……だから、忘れたふりをするの。そうすると、本当に忘れるの。その場では、何も思い出せなくなるの。病院でも、図書館でも、公園でも……なのに! 今は、覚えている! 思い出せる! なんで?! また、あの声が聞こえてしまう!」
「もういい! やめるんだ」
「私が……私が……」
恐慌状態に陥り、息が粗く早くなってくる。
過呼吸……?
「わた……わ……」
粗い息の中、まだ話し続けようとし、ろれつが回らなくなってくる。
「やめてくれ!」
彼女の顔を自分の胸に埋めるよう、抱きすくめる。
いやいやと抗うのを、体全体で力を込めて、抱きしめる。
「あなたは悪くない! 悪くないんだ!」
抗い続ける彼女の耳元へ、何度も繰り返す。
「お願いだ。もうやめて……」
そして、禁断の呪文。
「サワコさん……」
通りすがりの、見知らぬ人ではなかったことを、教えるには十分だった。
あの影がつぶやいていた、彼女の名前。
憎しみを籠めて、『サワコ』、と。
「…………?」
こわばったように、動きが止まる。
ハルは、しばらく、抱きしめたまま、背中をさすり続ける。
やがて、徐々に力が抜け、そっと顔を離せば、息づかいは楽になっていた。
その眼が、問いかける。
無言で。
ハルは、静かに、微笑む。
眼を伏せて、再び、胸に顔を埋める、今度は、自主的に。
そして。
すすり泣き始めた、サワコさんの背中を、ハルは、優しく、抱き締めた。
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