通りすがりの未知人~ストレンジャー~ 3-①
ー/ー 私が、大好きな両親と血の繋がりがないことを知ったのは、高校に入学したすぐあとだった。
それまで、自分が養子だったなんて、まったく気づかなかったし、誰も口にしなかったから。
ごく普通の家族だったし、口数の少ない父が時々、「まったくお前は母さん似だな」ってぽつりと呟くのを、「えー、似てないよ」なんて減らず口叩きながら、こそばゆい嬉しさを感じていたし。
一緒には住んでいなかったけど、時々遊びに行く父方の祖父母は、とてもかわいがってくれた。
両親が結婚してから、だいぶ遅くに生まれた子だったので、物心ついた頃には母方の祖父母はすでに他界していたけど、うっすらと、かわいがってもらった記憶があった。
戸籍なんて確認しようとも思わなかったし、特別養子とか言うらしく、戸籍にも養子なんて書いてなかったから、きっと見ても、気付かなかったと思う。
他の家の戸籍とでも見比べなければ、法律なんかに無知な女子高校生に、分かるはずなかった。
そのままなら。
通学中の電車の中で、見知らぬ女の子に、私ではない名前を呼ばれた。
「あれ? いつ私服に着替えたの? 家も反対方向じゃない?」
私の家からは距離があるが、お嬢様学校として人気のある私立高校の制服を着ていた。
人違いだと言って離れたけれど、気になって、その高校に進学した中学校の同級生に連絡をとった。
『そうなのよ! ホントによく似てるの! 名前の語感も似てるし。でも、名字は違うから……。生き別れの姉妹とかいるんじゃないの?』
彼女は、そのお嬢様学校を挟んで丁度反対側の辺りに住んでいるらしかった。
直線距離で、六十キロメートルは離れている。
同じ県内とはいえ、出会う確率はあまり高くはなかった。
その同級生に誘われるまま、私は興味本位で学祭に遊びに行った。
そこで出会った、半身に。
「私ね、養子なの」
そう言って見せてくれた戸籍謄本には、『養子』の文字と実親の名前と、二女という記載が記されていた。
「私、会ってみたい」
「でも、違うよ。うちの親の名前じゃない」
証拠を見せてと言われて、私は、こっそりと、生まれて初めて市役所に手続きに行った。そして、初めて手にした戸籍謄本を持って、再び彼女に会いに行った。
養子なんて、書いてない。
他人のそら似なんだ、と、物語の主人公になり損ねたような、残念な気持ちで、少しホッとして、カバンの上から戸籍謄本の入った封筒を撫でて。
それが、間違いの始まりだった。
「ほら、ここ。これが養子縁組したってことなの」
持っていった私の戸籍謄本の内容をじっくり検分したあと、指差しして説明する。
「特別養子って言ってね。良く見ないとわからないようになってるんですって。制度を使うには、子供が幼いことが条件のひとつなんだけど。私が二歳だから、同じ頃かしら」
「さあ」
「きっとそうよ。私、調べたの。もう亡くなったんですって。私達の実の両親。私達が産まれてすぐ、死亡届けがでていたの」
「どうやって調べたの?」
「この人達の戸籍謄本見たの。一応実子だから、わりと簡単に取れたわ」
なら、私に戸籍謄本を持って来させる必要はなかったんじゃないの?
あなたに見せたりしなければ、私が養子だという事実を知らされることはなかった……そう思いながらも、口には出来なかった。
両親が実の親ではなかった事を知ってショックだったこともある。
確かに、彼女の法律の知識には感心もしたが、さも手柄のように知識を披露する様に、何だか寒々しさを覚えた。
出会えて嬉しいと言うが、本当は自分だけが養子でなかったことが嬉しいんじゃないか、と勘ぐりたくなるようで。
事実、彼女は、言った。
裕福な家庭で、一人娘としてとても大切にしてもらっている、とか。
将来は従兄と結婚して、県都の一等地にあるお屋敷と会社を継ぐんだ、とか。
その従兄は、とても素敵な青年で、幼いころから好きだったから嬉しい、とか。
それに比べて、あなたは幸せなの?
本当に愛されているの?
同じ親から生まれて、この差はないでしょ?
本当の親のこと、知りたくないの? と。
確かに私の家は、貧しくはないけれど、裕福でもない、ごく普通の庶民的な家庭だ。
会社もなければ、大きなお屋敷もない。年の離れた従兄姉はいても、素敵な婚約者もいない。
でも、今まで実の親だと疑うことがなかったくらい、仲良く、楽しい家庭なんだから。
そう、思い至って。
ああ、私は、大好きな両親と、血の繋がり以上の絆があるんだ、そう悟った。
ただ事実を知っただけなら、ショックで立ち直れなかったかもしれない。
その点では、彼女に感謝してもいい。
けれど。
私が両親に何も訊く気が無いことを知ると、疑問を投げかけてきた。
「本当のことを知りたくないの?」
正直、実の両親が死んでしまい、今の両親に引き取られたことだって、知らないで済めばその方がよかった。
まして、それ以上のことなんか知りたくもなかった。
何より、今まで大切に育ててくれたことを肌身で実感している。
わざわざ言って悲しませることはしたくなかった。
「意気地がないのね」
せせら笑って、もう会う必要はないわね、お幸せに、と彼女は言った。
双子の妹に会えなくなる悲しみは、なかった、全く。
ただ、血を分けた半身とも言える存在が、あまり好きになれない人間だったことが、悲しかった。
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