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第95話 糾える縄の如し

ー/ー



「このログハウスは、いわば兄さんの形見……」
 兄を懐古し、文恵の目頭は思わず熱くなる。これが、島長一家のログハウスに隠された真相だ。
「......」
 しかしながら、その話はあまりにも冗長。そのため、のりこはいつの間にかうたた寝してしまった。
「おおっと!」
 のりこの頭が、傍のりょうた傾いて来た。文恵の長話は、校長先生のそれに似ている。
「我が家に、そんな過去があったなんて......」
 文恵の話に、京子は戦慄してしまった。我が家の経緯、彼女は知る由もなかったのだから。
「……それで、義之さんはどうなったんですか?」
 良行は話の続きが気になるところだが、文恵はそれ以上を語ろうとしない。どことなく、昂りから言葉を堰き止められているようにも見える。
「ここからは私が話します。母は匠さんから新居を引き渡され、アニキの帰りを待ち続けました。何年も、何十年も......。けれど、アニキがここへ戻ることはありませんでした」
 文恵の言葉を続けた彼女もまた、苦悶の表情を浮かべている。兄のように慕った人物との別れは、秋子にとって何よりも耐え難い苦痛だったに違いない。
「私は上京してアニキを探し続けたけれど、再会することは叶いませんでした」
 やがて、秋子自身も項垂れてしまう。幼い彼女にとって、義之の存在はあまりにも大きかったのだ。
「母はアニキの帰りを長年待ち続たのですが、やがて店の維持すらままならなくなりました。そして、母は断腸の思いでログハウスを手放すことにしたのです」
 秋子の瞳が潤んでいる。その決断は、文恵にとって家族との死別に等しかった。
「その後、ログハウスはしばらく買い手が現れなかったのです。それは、母にとってある意味で救いだったのかもしれません」
 秋子はなおも言葉を続ける。手放したとはいえ、兄の形見が見ず知らずの人物の手に渡ることを、文恵は内心恐れていたのだろう。
「けれど、それもやがて終わりを告げました。ログハウスが人の手に渡ったと知り、母は失望していました」
 側から見れば、単にログハウスの売買が成立しただけ。けれど、そこには見えない感情が渦巻いていた。
「私も、内心はそれを恐れていました。けれど、良行さんの存在が事態を一変させました」
 先程とはうってかわって、秋子は言葉に力が入る。良行はぎょっとしてしまっているが、彼女は気にも留めず話を進める。
「良行さんの顔を見た時、私は驚きました。その風貌、まさにアニキの生き写しでした!」
 秋子は若き日の義之の写真を手に取り、良行と見比べる。すらっとした体型・面長な顔・精悍な切れ目、二人の特徴は限りなく似ていた。
「母の話を聞いて、私は耳を疑いました」
 この世には、自分にそっくりな人間が3人いるとされている。けれど、まさか義之に似た人物が引っ越してくるとは思うまい。
「良行さんのそっくりさん、私もびっくり!」
 京子も、秋子へ合わせるように相槌を打つ。傍目に見ても、二人のよしゆきは鏡写しのように似ている。
「......え? おとうさんがこの島に住んでいたの?」
 のりこが、うたた寝から目覚めたようだ。寝ぼけているのか、その返事はピントがずれている。
「義之の宝物を、この子たちが見つけたことも何か因縁めいているな」
 淡々と語るのは春奈。義之をよく知る人物の一言は、何よりも説得力がある。
「あぁ、これのことだね!」
 りょうたは、ポケットからメガロドンの歯を取り出す。義之の宝物は、今や別の意味を持ち始めたようだ。
『ワンワン! キューン! ピヤーッ!』
 やがて、のりこ探検隊の面々もやってきた。おそらく、この場に彼らを欠いてはならないだろう。
「……お帰り、よしゆき」
 文恵が長年堪えていた一言。彼女の脳裏で、良行(義之)が重なる。
「ただいまっ!」
 良行は、にこやかな表情で返した。
 人の縁は合縁奇縁、人は与り知らぬところで誰かと繋がっている。の縁は、まさに(あざな)える縄の如し。


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「このログハウスは、いわば兄さんの形見……」
 兄を懐古し、文恵の目頭は思わず熱くなる。これが、島長一家のログハウスに隠された真相だ。
「......」
 しかしながら、その話はあまりにも冗長。そのため、のりこはいつの間にかうたた寝してしまった。
「おおっと!」
 のりこの頭が、傍のりょうた傾いて来た。文恵の長話は、校長先生のそれに似ている。
「我が家に、そんな過去があったなんて......」
 文恵の話に、京子は戦慄してしまった。我が家の経緯、彼女は知る由もなかったのだから。
「……それで、義之さんはどうなったんですか?」
 良行は話の続きが気になるところだが、文恵はそれ以上を語ろうとしない。どことなく、昂りから言葉を堰き止められているようにも見える。
「ここからは私が話します。母は匠さんから新居を引き渡され、アニキの帰りを待ち続けました。何年も、何十年も......。けれど、アニキがここへ戻ることはありませんでした」
 文恵の言葉を続けた彼女もまた、苦悶の表情を浮かべている。兄のように慕った人物との別れは、秋子にとって何よりも耐え難い苦痛だったに違いない。
「私は上京してアニキを探し続けたけれど、再会することは叶いませんでした」
 やがて、秋子自身も項垂れてしまう。幼い彼女にとって、義之の存在はあまりにも大きかったのだ。
「母はアニキの帰りを長年待ち続たのですが、やがて店の維持すらままならなくなりました。そして、母は断腸の思いでログハウスを手放すことにしたのです」
 秋子の瞳が潤んでいる。その決断は、文恵にとって家族との死別に等しかった。
「その後、ログハウスはしばらく買い手が現れなかったのです。それは、母にとってある意味で救いだったのかもしれません」
 秋子はなおも言葉を続ける。手放したとはいえ、兄の形見が見ず知らずの人物の手に渡ることを、文恵は内心恐れていたのだろう。
「けれど、それもやがて終わりを告げました。ログハウスが人の手に渡ったと知り、母は失望していました」
 側から見れば、単にログハウスの売買が成立しただけ。けれど、そこには見えない感情が渦巻いていた。
「私も、内心はそれを恐れていました。けれど、良行さんの存在が事態を一変させました」
 先程とはうってかわって、秋子は言葉に力が入る。良行はぎょっとしてしまっているが、彼女は気にも留めず話を進める。
「良行さんの顔を見た時、私は驚きました。その風貌、まさにアニキの生き写しでした!」
 秋子は若き日の義之の写真を手に取り、良行と見比べる。すらっとした体型・面長な顔・精悍な切れ目、二人の特徴は限りなく似ていた。
「母の話を聞いて、私は耳を疑いました」
 この世には、自分にそっくりな人間が3人いるとされている。けれど、まさか義之に似た人物が引っ越してくるとは思うまい。
「良行さんのそっくりさん、私もびっくり!」
 京子も、秋子へ合わせるように相槌を打つ。傍目に見ても、二人のよしゆきは鏡写しのように似ている。
「......え? おとうさんがこの島に住んでいたの?」
 のりこが、うたた寝から目覚めたようだ。寝ぼけているのか、その返事はピントがずれている。
「義之の宝物を、この子たちが見つけたことも何か因縁めいているな」
 淡々と語るのは春奈。義之をよく知る人物の一言は、何よりも説得力がある。
「あぁ、これのことだね!」
 りょうたは、ポケットからメガロドンの歯を取り出す。義之の宝物は、今や別の意味を持ち始めたようだ。
『ワンワン! キューン! ピヤーッ!』
 やがて、のりこ探検隊の面々もやってきた。おそらく、この場に彼らを欠いてはならないだろう。
「……お帰り、よしゆき」
 文恵が長年堪えていた一言。彼女の脳裏で、|良行《義之》が重なる。
「ただいまっ!」
 良行は、にこやかな表情で返した。
 人の縁は合縁奇縁、人は与り知らぬところで誰かと繋がっている。《《よしゆき》》の縁は、まさに|糾《あざな》える縄の如し。