第94話 健造の遺志
ー/ー 更地となった羽成家の新築計画など、身内では誰も知りえない事実だった。それは実妹たる文恵とて例外ではない。
「兄さん、何を考えているの......」
文恵が困惑していることは、匠からも容易に見て取れた。代々継承してきた家を自身の手で解体したこと、この真意を彼女は理解しかねた。
「『この家は、俺にとって呪いみたいなもんだ』健造さんが、最期に遺した言葉です」
匠は、淡々と健造の本懐を語り始める。健造自身、内心は故郷を離れて自立したかったそうだ。
だが家督制度が柵となり、長兄たる健造は家を存続しなければならなかった。羽成家新築計画は、それに対する抵抗の意思だ。
皮肉なことに、その意思は健造自身がスケープゴートとなることで達成された。要するに、彼は確信犯ということになる。
「家が呪いだなんて! 馬鹿おっしゃいっ!!!」
家督制度を重んじる文恵からすれば、兄の行動は冒涜そのもの。革新的な思想は、常に伝統という壁に阻まれるのだ。
「文恵さんも、思うところがあるでしょう。けれど、義之君が生まれた時から、賽は投げられていたのだと思います。つまり、全ては健造さんの計略だったのです」
匠の言葉は熱を帯びていく。兄弟子たる健造の遺志を実現しなければならない、それが今の彼を突き動かしていた。
「僕は健造さんの弟弟子として、彼の遺志を実現するだけです」
匠の表情は真剣そのもの。だが、それでも文恵は不服の表情だ。
「もう勝手にしてください!!!」
激昂した文恵は、健造の遺言状を地面へ叩き付けた。その怒り、故人には向けようもない。
「好きにさせていただきます。それが僕の責務なのですから」
匠は、澄んだ瞳で天を仰いだ。胸中にあるのは、兄弟子たる健造の言葉だった。
――
健造の遺言の基づき、旧羽成家跡に住宅が新築されていくこととなる。匠は陣頭指揮を執り、彼の縁者達が主体となって建設は進められた。
そんな中、健造の遺言によってある人物がそこへ呼び出されていた。スーツ姿が初々しい、大学新卒の彼女。
それは、源三姉妹の長女・源春奈。彼女は、就職を機に羽馴島を離れていた。
「ログハウス? まさか、健造さんがこんなことを考えていたなんて......」
そこには、丸太をはじめとした資材が大量に搬入されている。ログハウスを建てているなど、当時の羽馴島民は誰も気付かなかった。
「春奈さん、この度はご足労をかけました」
慌ただしい中、ひょっこりと姿を現したのは彼女を呼び出した張本人である匠。彼の物腰は、現場責任者には似つかわしくないものだった。
「いえいえ。こちらこそ、伯父が迷惑をかけます。それで……話と言うのは何でしょうか?」
春奈は深々と頭を下げた。彼女もまた、匠の真摯な態度に敬意を表しているようだ。
「遺言に基づいて、新宅を建設中なのはご存知かと思います。それには、家具家電に対する文言がありまして……」
匠は、健造の遺言を淡々と語る。果たして、健造はどのような遺言を残したのだろうか?
「えっ……? ログハウスの家具家電を全部サンイン電器で!? しかも、最新ハイグレードって……!!?」
まさかの内容に、春奈は唖然としている。当時の春奈はサンイン電器の新入社員で、営業部に配属されていた。
だが、販路が見いだせずに苦戦を強いられていたところ。春奈にとって、これは思いがけない助け舟といえよう。
「これなら、営業成績は間違いなくトップ……!!!」
これまでの春奈が、まず見ることがなかったであろう成果。思わず卒倒しかけるが、彼女は今一度平静を保とうとする。
「これは健造さんの遺志。伯父さんからの祝儀だと思って、是非お願いしたい……!」
困惑を隠せない春奈に対し、匠は重ねて懇願する。それが健造の遺志ならば、匠にとって重大な責務であろう。
「......分かりました!」
健造の遺志を汲み取り、春奈はその依頼を快諾した。彼女の働きによって、新宅にサンイン電器の家具家電が揃えられていくこととなる。
「兄さん、何を考えているの......」
文恵が困惑していることは、匠からも容易に見て取れた。代々継承してきた家を自身の手で解体したこと、この真意を彼女は理解しかねた。
「『この家は、俺にとって呪いみたいなもんだ』健造さんが、最期に遺した言葉です」
匠は、淡々と健造の本懐を語り始める。健造自身、内心は故郷を離れて自立したかったそうだ。
だが家督制度が柵となり、長兄たる健造は家を存続しなければならなかった。羽成家新築計画は、それに対する抵抗の意思だ。
皮肉なことに、その意思は健造自身がスケープゴートとなることで達成された。要するに、彼は確信犯ということになる。
「家が呪いだなんて! 馬鹿おっしゃいっ!!!」
家督制度を重んじる文恵からすれば、兄の行動は冒涜そのもの。革新的な思想は、常に伝統という壁に阻まれるのだ。
「文恵さんも、思うところがあるでしょう。けれど、義之君が生まれた時から、賽は投げられていたのだと思います。つまり、全ては健造さんの計略だったのです」
匠の言葉は熱を帯びていく。兄弟子たる健造の遺志を実現しなければならない、それが今の彼を突き動かしていた。
「僕は健造さんの弟弟子として、彼の遺志を実現するだけです」
匠の表情は真剣そのもの。だが、それでも文恵は不服の表情だ。
「もう勝手にしてください!!!」
激昂した文恵は、健造の遺言状を地面へ叩き付けた。その怒り、故人には向けようもない。
「好きにさせていただきます。それが僕の責務なのですから」
匠は、澄んだ瞳で天を仰いだ。胸中にあるのは、兄弟子たる健造の言葉だった。
――
健造の遺言の基づき、旧羽成家跡に住宅が新築されていくこととなる。匠は陣頭指揮を執り、彼の縁者達が主体となって建設は進められた。
そんな中、健造の遺言によってある人物がそこへ呼び出されていた。スーツ姿が初々しい、大学新卒の彼女。
それは、源三姉妹の長女・源春奈。彼女は、就職を機に羽馴島を離れていた。
「ログハウス? まさか、健造さんがこんなことを考えていたなんて......」
そこには、丸太をはじめとした資材が大量に搬入されている。ログハウスを建てているなど、当時の羽馴島民は誰も気付かなかった。
「春奈さん、この度はご足労をかけました」
慌ただしい中、ひょっこりと姿を現したのは彼女を呼び出した張本人である匠。彼の物腰は、現場責任者には似つかわしくないものだった。
「いえいえ。こちらこそ、伯父が迷惑をかけます。それで……話と言うのは何でしょうか?」
春奈は深々と頭を下げた。彼女もまた、匠の真摯な態度に敬意を表しているようだ。
「遺言に基づいて、新宅を建設中なのはご存知かと思います。それには、家具家電に対する文言がありまして……」
匠は、健造の遺言を淡々と語る。果たして、健造はどのような遺言を残したのだろうか?
「えっ……? ログハウスの家具家電を全部サンイン電器で!? しかも、最新ハイグレードって……!!?」
まさかの内容に、春奈は唖然としている。当時の春奈はサンイン電器の新入社員で、営業部に配属されていた。
だが、販路が見いだせずに苦戦を強いられていたところ。春奈にとって、これは思いがけない助け舟といえよう。
「これなら、営業成績は間違いなくトップ……!!!」
これまでの春奈が、まず見ることがなかったであろう成果。思わず卒倒しかけるが、彼女は今一度平静を保とうとする。
「これは健造さんの遺志。伯父さんからの祝儀だと思って、是非お願いしたい……!」
困惑を隠せない春奈に対し、匠は重ねて懇願する。それが健造の遺志ならば、匠にとって重大な責務であろう。
「......分かりました!」
健造の遺志を汲み取り、春奈はその依頼を快諾した。彼女の働きによって、新宅にサンイン電器の家具家電が揃えられていくこととなる。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。