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第82話 二人のよしゆき

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「うん。ありがとう、おばさん!」
 誇らしげな表情ののりこ。人の意思は、こうやって受け継がれていくのだ。
「のりこ、その思いは大切にしなきゃね!」
 託された思いを応援したいと、母は娘の肩にポンと手を遣る。その意思に応えるようにのりこも生き生きと頷く。
「あぁ~~、やっと見つけてきたわよ。昔のアルバム!」
 そんな一同の背後からやって来たのは、源姉妹の母である文恵。どこかで探し物をしていたのか、全身が埃まみれになっている。
「お母さんったら、倉庫でゴソゴソしてるかと思えば......それを探してたの?」
 母が何かを探していたことを、知っていた様子の秋子。しかしながら、なぜ文恵はアルバムを持ち出したのだろうか。
「京子さん達が引っ越して来て以来、私はどうしても気になることがあってねぇ。それで、このアルバムを倉庫から引っ張り出してきたわけ」
 文恵が手にしている一冊のアルバム。久しく開かれた様子はなく、全体的に埃を被ってしまっている。
「このアルバムを今更......?」
 一方、そのアルバムに春奈は見覚えがあるようだ。しかし、彼女もまた母の意図を掴めずにいる。
「え、何々っ!!?」
 事情など一切知らないのりこは、アルバムに興味津々。文恵からそれを渡されるや否や、さっそくページをめくっている。
「おねえちゃん、勝手に覗いたら駄目だ......え?」
 りょうたはのりこの行動を諫めようとしたものの、彼も意図せずアルバムの中身を目にする。それを見たりょうたは一瞬行動が止まってしまった。
「この人、もしかしておとうさん!?」
 のりこの言葉に、一瞬耳を疑う京子。その真相を確かめるべく、彼女もまたアルバムをめくった。
「嘘......どうしてこんなところに、良行さんがいるの!?」
 アルバムを見開いた京子は、驚きのあまり表情が強張る。そこには、自身の夫である良行とよく似た人物が映っていたのだ。
「やっぱり、おとうさんに似てるよね!?」
 母の抱いた感想に、りょうたも共感してしまう。島長親子が共感するほど、その人物は良行に酷似しているようだ。
「あれぇ? 何か聞こえると思ったら、こんなところでどうしたの京子さん??」
 京子達が驚愕している事実などつゆ知らず、当の本人が呑気にやって来た。スーツ姿であるあたり、おそらくは仕事の合間にここを通りかかったようだ。
「よ、よしゆき!!?」
 良行の登場に、なぜか春奈も目が点になっている。しかし、初対面であるはずの春奈がどうして良行の名前を知っているのだろうか。
「良行さん、羽馴島に住んでたなんて聞いてないわよ!」
 京子の言葉に心当たりがあるはずもなく、良行は不思議そうな顔で彼女を見つめている。そもそも、事情がまるっきり呑み込めていないのだ。
「京子さん、さっきから何を言って......え?」
 アルバムの中身を見た良行も、やはり一瞬固まる。刹那の沈黙の後、ようやく理解が追い付いたのか良行はおもむろに口を開く。
「これ、俺そっくりだ!! だけどこれは俺じゃない!! だって、写真が明らかに古いじゃないか!」
 自身に酷似した人物を目の当たりにするというのは、何とも言えない不思議な感覚になる。しかしながら、思い当たりのない良行は京子の言葉を真っ向から否定する。
「あとは良行さんの生き別れのお兄さんとか? 良行さん、心当たりはないの??」
 本人でなければ兄弟か。そうでなければここまでの酷似は腑に落ちない、そう言いたげな京子であった。
「いいや? そもそも俺に兄弟はいないはずだ。両親は俺が物心つく前に他界したからなぁ」
 良行は幼い頃に両親を亡くし、それ以来の彼は養父母の元で育っている。これは話を進めるほど謎が深まるばかりだ。
「そうだな。よしゆきは幼くして母を亡くして男手一つで育っている。あいつに兄弟がいるはずはないんだ」
 春奈も、よしゆきの生い立ちについて思い返す。ややこしい話だが、良行とは幼い頃に親を亡くしているという事実が共通しているようだ。
「それにしても、お前はよしゆきに瓜二つだな」
 春奈は、アルバムを手に取って良行と写真を見比べる。髪型といい、顔つきと言い、見比べるほど両者の違いが分からなくなる。
「驚いたでしょう? 私も一目見た時、二人があまりにも似すぎていてびっくりしたもの!」
 混乱する一同の話に、文恵が割って入る。思えば、島長一家が羽馴島へやって来た時に初対面の近隣住民は文恵だった。当然、その事実に気付かないはずがない。
「あの言葉、私はてっきりお母さんの認知症だとばっかり思ってた」
 秋子は思い出した。文恵が発した『よしゆきが帰って来た』という一言を。当時の彼女はあまりに突飛押しもない言葉だったため、それを話半分に聞き流していたのだ。
「教えて文恵さん、この人は一体誰なの??」
 理解が追い付かない京子は、単刀直入に文恵に尋ねた。周囲の話を静観していた文恵は、気を窺っていたかのように口を開いた。
「彼は羽馴義之(はなれよしゆき)。私のたった一人の甥っ子」


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「うん。ありがとう、おばさん!」
 誇らしげな表情ののりこ。人の意思は、こうやって受け継がれていくのだ。
「のりこ、その思いは大切にしなきゃね!」
 託された思いを応援したいと、母は娘の肩にポンと手を遣る。その意思に応えるようにのりこも生き生きと頷く。
「あぁ~~、やっと見つけてきたわよ。昔のアルバム!」
 そんな一同の背後からやって来たのは、源姉妹の母である文恵。どこかで探し物をしていたのか、全身が埃まみれになっている。
「お母さんったら、倉庫でゴソゴソしてるかと思えば......それを探してたの?」
 母が何かを探していたことを、知っていた様子の秋子。しかしながら、なぜ文恵はアルバムを持ち出したのだろうか。
「京子さん達が引っ越して来て以来、私はどうしても気になることがあってねぇ。それで、このアルバムを倉庫から引っ張り出してきたわけ」
 文恵が手にしている一冊のアルバム。久しく開かれた様子はなく、全体的に埃を被ってしまっている。
「このアルバムを今更......?」
 一方、そのアルバムに春奈は見覚えがあるようだ。しかし、彼女もまた母の意図を掴めずにいる。
「え、何々っ!!?」
 事情など一切知らないのりこは、アルバムに興味津々。文恵からそれを渡されるや否や、さっそくページをめくっている。
「おねえちゃん、勝手に覗いたら駄目だ......え?」
 りょうたはのりこの行動を諫めようとしたものの、彼も意図せずアルバムの中身を目にする。それを見たりょうたは一瞬行動が止まってしまった。
「この人、もしかしておとうさん!?」
 のりこの言葉に、一瞬耳を疑う京子。その真相を確かめるべく、彼女もまたアルバムをめくった。
「嘘......どうしてこんなところに、良行さんがいるの!?」
 アルバムを見開いた京子は、驚きのあまり表情が強張る。そこには、自身の夫である良行とよく似た人物が映っていたのだ。
「やっぱり、おとうさんに似てるよね!?」
 母の抱いた感想に、りょうたも共感してしまう。島長親子が共感するほど、その人物は良行に酷似しているようだ。
「あれぇ? 何か聞こえると思ったら、こんなところでどうしたの京子さん??」
 京子達が驚愕している事実などつゆ知らず、当の本人が呑気にやって来た。スーツ姿であるあたり、おそらくは仕事の合間にここを通りかかったようだ。
「よ、よしゆき!!?」
 良行の登場に、なぜか春奈も目が点になっている。しかし、初対面であるはずの春奈がどうして良行の名前を知っているのだろうか。
「良行さん、羽馴島に住んでたなんて聞いてないわよ!」
 京子の言葉に心当たりがあるはずもなく、良行は不思議そうな顔で彼女を見つめている。そもそも、事情がまるっきり呑み込めていないのだ。
「京子さん、さっきから何を言って......え?」
 アルバムの中身を見た良行も、やはり一瞬固まる。刹那の沈黙の後、ようやく理解が追い付いたのか良行はおもむろに口を開く。
「これ、俺そっくりだ!! だけどこれは俺じゃない!! だって、写真が明らかに古いじゃないか!」
 自身に酷似した人物を目の当たりにするというのは、何とも言えない不思議な感覚になる。しかしながら、思い当たりのない良行は京子の言葉を真っ向から否定する。
「あとは良行さんの生き別れのお兄さんとか? 良行さん、心当たりはないの??」
 本人でなければ兄弟か。そうでなければここまでの酷似は腑に落ちない、そう言いたげな京子であった。
「いいや? そもそも俺に兄弟はいないはずだ。両親は俺が物心つく前に他界したからなぁ」
 良行は幼い頃に両親を亡くし、それ以来の彼は養父母の元で育っている。これは話を進めるほど謎が深まるばかりだ。
「そうだな。よしゆきは幼くして母を亡くして男手一つで育っている。あいつに兄弟がいるはずはないんだ」
 春奈も、よしゆきの生い立ちについて思い返す。ややこしい話だが、良行と《《よしゆき》》は幼い頃に親を亡くしているという事実が共通しているようだ。
「それにしても、お前はよしゆきに瓜二つだな」
 春奈は、アルバムを手に取って良行と写真を見比べる。髪型といい、顔つきと言い、見比べるほど両者の違いが分からなくなる。
「驚いたでしょう? 私も一目見た時、二人があまりにも似すぎていてびっくりしたもの!」
 混乱する一同の話に、文恵が割って入る。思えば、島長一家が羽馴島へやって来た時に初対面の近隣住民は文恵だった。当然、その事実に気付かないはずがない。
「あの言葉、私はてっきりお母さんの認知症だとばっかり思ってた」
 秋子は思い出した。文恵が発した『よしゆきが帰って来た』という一言を。当時の彼女はあまりに突飛押しもない言葉だったため、それを話半分に聞き流していたのだ。
「教えて文恵さん、この人は一体誰なの??」
 理解が追い付かない京子は、単刀直入に文恵に尋ねた。周囲の話を静観していた文恵は、気を窺っていたかのように口を開いた。
「彼は|羽馴義之《はなれよしゆき》。私のたった一人の甥っ子」