第80話 源羽成の財宝
ー/ー「おばさん、そんなことよりおかあさんは魔力を補給しないといけないの!」
是が非でもブリキの箱を開けたいのりこと、そんな姉をどことなく遠い目で見る弟りょうた。その二人の対比は、傍から見るとコントラストのように鮮明である。
「なるほど、京子さんの欲している魔力はこれですね!」
どこからか、秋子が京子の魔力となるものを持ってきた。それはスプレータイプの潤滑剤で『YUKI-R666』と書かれている。
「そう、これこれ!」
京子は待ってましたと言わんばかりに潤滑剤を受け取ると、それをさっそく錆び付いたブリキの箱へ吹き付ける。
「すごい、これがおかあさんの魔力!」
のりこは、食い入るようにそれを見ている。商品のネーミング的にも、彼女は母の魔力をひしひしと感じているに違いない。
「さて、どうでしょうか!?」
年季の入った箱からは、錆が流水の如く流れ落ちていた。だが、長年の錆はそう簡単に落とせるものではなく、まだまだブリキの箱は錆に覆われたままだ。
「これは手強いですねぇ」
京子は、尚も潤滑剤を箱へ吹き付ける。箱からはとめどなく錆が流れ出す。
「おかあさん、頑張れぇ!!」
のりこは、固唾を飲んで母の錆取りを見守る。少しずつだが、潤滑剤を吹き付けられた箱はかつての光沢を取り戻しつつある。
「もう少し、もう少し」
その間、京子は集中を切らすことなく錆取りを敢行していく。今の彼女にとって、錆取りはまさに戦いなのである。
『プシュー......』
やがて、スプレー缶からは力ないガス欠音が噴出した。それは、潤滑剤もとい京子の魔力が底をついた瞬間だった。ブリキの箱からは大量の錆が流れ出し、赤茶色のに染まった床がその壮絶さを物語っている。
「おかあさん、どう......?」
のりこが恐る恐る京子へ尋ねる。錆取りに集中した母の瞳は、職人のそれに引けを取らない気迫を放っていた。
「どうかなぁ......」
京子も、また恐る恐るブリキの箱に手を遣る。土色同然に錆び付いていた箱は、先程までの状態からは想像できないほどにかつての光沢を取り戻していた。しかし、それは内側まで及んでいるとは限らないのだ。
京子は、緊張の面持ちで箱の蓋を持ち上げる。
「......ガバッ!!」
京子の忍耐強さが勝ったのか、ブリキの箱はものの見事に開封された。果たして、そこに源羽成の財宝は隠されているのか......!?
「......え?」
箱の中身を見た京子は、一瞬固まる。それはまるで、想定外の何かを見てしまったかのような眼差しだ。
「まさか、オーシオの呪い!?」
表情が固まった母を見たのりこは身を乗り出し、箱の中身を取り出した。
「え? 何これ??」
のりこも、母と似たような反応を示す。ブリキの箱に隠されていたのは、表面が光沢を放つほどにつるつるな拳大の丸い石だった。財宝というにはあまりにも味気ないものだ。
「へぇ、何だか変わった石ですねぇ?」
一方、秋子は何だか物珍しいといった表情。羽馴の森のような渓流でも丸い石を見ることはあるが、それにしてもほぼ球体に近くて滑らかな手触りのする石はそうそうお目にかかれるものでない。
「こ、これは......! どうしてこんなものがここに!?」
その中で、春奈だけは知ったような反応を示す。どうやら、彼女はその石に見覚えがあるようだ。
「姉貴、この石を知ってるの!?」
動揺する姉の表情を見た秋子は、思わず春奈へ訪ねてしまう。その石について、彼女は一体何を知るのか?
「これはだな、よしゆき
が見つけた源羽成の財宝だ」
それもそのはず。その石は、かつてよしゆきがはなれのざいほうと話していたものだった。だが、当時の彼女はそれをガラクタだと相手にしなかったのだ。
『源羽成の財宝!!?』
それを聞いた一同は驚愕する。羽馴島の伝説に残る海賊・源羽成の財宝が、何の変哲もない石だとは信じがたかった。
「でも、海賊の宝って本当に石ころなのかなぁ?」
その中でだた一人、りょうたは懐疑的だった。周辺海域で船を襲っていた海賊が、果たしてそんな石に価値を見出すのか。彼の疑念はそこにあった。
「それでも、おばさんが羽馴の財宝って言ってるから間違いないの!」
りょうたの尤もな指摘を、のりこは却下した。目下の者の意見は、こうやって踏みにじられているものだ。
「だとしたら、これはおばさんの手から返してあげた方がいいと思う」
のりこは、その石を春奈に差し出そうとする。それは彼女なりの優しさなのだろうが、春奈はそれを頑なに拒む。
「あいつはもう、ここに戻ることはないだろう。それは無理な話だ」
春奈が苦い顔を浮かべる。それはきっと、彼の経緯を知ってのことだろう。
「失くした物は、きちんと持ち主のところに返さないといけない!」
やや強い口調で、のりこは彼女へ言い返す。やがて両者の間で石の押し付け合いが始まってしまい、醜い争いの様相を呈し始めていた。
『ポロッ』
その時、互いの手の隙間から丸い石が滑り落ちてしまった。
是が非でもブリキの箱を開けたいのりこと、そんな姉をどことなく遠い目で見る弟りょうた。その二人の対比は、傍から見るとコントラストのように鮮明である。
「なるほど、京子さんの欲している魔力はこれですね!」
どこからか、秋子が京子の魔力となるものを持ってきた。それはスプレータイプの潤滑剤で『YUKI-R666』と書かれている。
「そう、これこれ!」
京子は待ってましたと言わんばかりに潤滑剤を受け取ると、それをさっそく錆び付いたブリキの箱へ吹き付ける。
「すごい、これがおかあさんの魔力!」
のりこは、食い入るようにそれを見ている。商品のネーミング的にも、彼女は母の魔力をひしひしと感じているに違いない。
「さて、どうでしょうか!?」
年季の入った箱からは、錆が流水の如く流れ落ちていた。だが、長年の錆はそう簡単に落とせるものではなく、まだまだブリキの箱は錆に覆われたままだ。
「これは手強いですねぇ」
京子は、尚も潤滑剤を箱へ吹き付ける。箱からはとめどなく錆が流れ出す。
「おかあさん、頑張れぇ!!」
のりこは、固唾を飲んで母の錆取りを見守る。少しずつだが、潤滑剤を吹き付けられた箱はかつての光沢を取り戻しつつある。
「もう少し、もう少し」
その間、京子は集中を切らすことなく錆取りを敢行していく。今の彼女にとって、錆取りはまさに戦いなのである。
『プシュー......』
やがて、スプレー缶からは力ないガス欠音が噴出した。それは、潤滑剤もとい京子の魔力が底をついた瞬間だった。ブリキの箱からは大量の錆が流れ出し、赤茶色のに染まった床がその壮絶さを物語っている。
「おかあさん、どう......?」
のりこが恐る恐る京子へ尋ねる。錆取りに集中した母の瞳は、職人のそれに引けを取らない気迫を放っていた。
「どうかなぁ......」
京子も、また恐る恐るブリキの箱に手を遣る。土色同然に錆び付いていた箱は、先程までの状態からは想像できないほどにかつての光沢を取り戻していた。しかし、それは内側まで及んでいるとは限らないのだ。
京子は、緊張の面持ちで箱の蓋を持ち上げる。
「......ガバッ!!」
京子の忍耐強さが勝ったのか、ブリキの箱はものの見事に開封された。果たして、そこに源羽成の財宝は隠されているのか......!?
「......え?」
箱の中身を見た京子は、一瞬固まる。それはまるで、想定外の何かを見てしまったかのような眼差しだ。
「まさか、オーシオの呪い!?」
表情が固まった母を見たのりこは身を乗り出し、箱の中身を取り出した。
「え? 何これ??」
のりこも、母と似たような反応を示す。ブリキの箱に隠されていたのは、表面が光沢を放つほどにつるつるな拳大の丸い石だった。財宝というにはあまりにも味気ないものだ。
「へぇ、何だか変わった石ですねぇ?」
一方、秋子は何だか物珍しいといった表情。羽馴の森のような渓流でも丸い石を見ることはあるが、それにしてもほぼ球体に近くて滑らかな手触りのする石はそうそうお目にかかれるものでない。
「こ、これは......! どうしてこんなものがここに!?」
その中で、春奈だけは知ったような反応を示す。どうやら、彼女はその石に見覚えがあるようだ。
「姉貴、この石を知ってるの!?」
動揺する姉の表情を見た秋子は、思わず春奈へ訪ねてしまう。その石について、彼女は一体何を知るのか?
「これはだな、よしゆき
が見つけた源羽成の財宝だ」
それもそのはず。その石は、かつてよしゆきがはなれのざいほうと話していたものだった。だが、当時の彼女はそれをガラクタだと相手にしなかったのだ。
『源羽成の財宝!!?』
それを聞いた一同は驚愕する。羽馴島の伝説に残る海賊・源羽成の財宝が、何の変哲もない石だとは信じがたかった。
「でも、海賊の宝って本当に石ころなのかなぁ?」
その中でだた一人、りょうたは懐疑的だった。周辺海域で船を襲っていた海賊が、果たしてそんな石に価値を見出すのか。彼の疑念はそこにあった。
「それでも、おばさんが羽馴の財宝って言ってるから間違いないの!」
りょうたの尤もな指摘を、のりこは却下した。目下の者の意見は、こうやって踏みにじられているものだ。
「だとしたら、これはおばさんの手から返してあげた方がいいと思う」
のりこは、その石を春奈に差し出そうとする。それは彼女なりの優しさなのだろうが、春奈はそれを頑なに拒む。
「あいつはもう、ここに戻ることはないだろう。それは無理な話だ」
春奈が苦い顔を浮かべる。それはきっと、彼の経緯を知ってのことだろう。
「失くした物は、きちんと持ち主のところに返さないといけない!」
やや強い口調で、のりこは彼女へ言い返す。やがて両者の間で石の押し付け合いが始まってしまい、醜い争いの様相を呈し始めていた。
『ポロッ』
その時、互いの手の隙間から丸い石が滑り落ちてしまった。
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