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第79話 おかあさんは魔女?

ー/ー



「おかしいわね......この箱はびくともしない」
 のりこ達が持ち帰ったブリキの箱。長らく放置されていたのか、箱全体は錆だらけになっていて蓋を開けることが出来ない状態だった。
「おねえちゃん、それって本当に、はれのざいほうなの?」
 りょうたにとって、それは錆だらけのガラクタにしか見えなかった。第一、海賊の財宝がブリキの箱に入っていたとしたら、それは実に不可思議な話だ。
「何を言ってるの! オーシオはきっと、はなれのざいほうを守り続ける番人だったに違いわ!!」
 のりこの中で、いまだに大潮はオーシオという怪物のままだった。それどころか、財宝の番人にまで昇格してしまっている。そういう意味で彼女の想像力は我々の遥か上を行っている。
「この箱が開かないのも、きっとオーシオの呪いがかけられているからなのよ!!」
 だが、のりこの想像力は歯止めが掛からない。ただ単に錆びついているブリキの箱でさえ、彼女には呪いに思えてしまうのだ。
「本当にそうかなぁ?......」
 りょうたはのりこの答えにえらく懐疑的だ。呪いという割には、何だか身近な道具で解けてしまいそうな気もする。
「あらぁ......何だかひどい錆の箱ねぇ?」
 そんな二人が話しているところに、皿洗いを終えた京子がやって来た。京子はその箱を手に取り、不思議そうに眺めていた。
「おかあさん、それは呪いの箱なんだよ! 素手で触ったら命を取られちゃう!!」
 のりこはそういうが、先程から散々その箱をいじくり回しているのりこはとうの昔に呪い殺されているはずである。
「そうなんだぁ? だったら、その呪いを解いちゃおっか!?」
 京子は、ブリキの箱を手に取って嬉々としている。果たして、彼女は一体何を思い付いたのだろうか?
「おかあさん、そんなことできるの!?」
 その言葉を聞いたのりこは、目が点になっている。彼女からすれば、母がまるで魔法使いのように見えるだろう。

「だって、おかあさんは東京の魔女だったんだよ? 知らなかったでしょ?」
 もちろん、それは京子の口から出まかせである。彼女は言うまでもなく彼元銀行員。心なしか、娘との茶番を楽しんでいるように思える。
「えぇーーーっ!!? それは知らなかった......」
 のりこは、驚きのあまり大声を上げてしまう。一方、どことなく母の意図を察しているりょうたはそれを冷ややかに傍観している。
「けれど、今のおかあさんには魔力が足りないの。だから、秋子さんのお店で魔力を補給しなきゃ......!」
 どうやら、京子はみなもとで何かを買うつもりでいるらしい。それが雑貨屋で手に入るなら、何だか陳腐な呪いである。
――
 かくして、島長親子は万事屋みなもとへやってきた。
「秋子、冬樹は最近帰っているのか?」
 店内には、何やら見慣れないスーツ姿の中年女性の姿があった。秋子と親しげに話しているあたり、さしずめ身内と言ったところであろうか。
「先週くらいに帰って来たかなぁ? お母さんに鯨のたれを食べられたって、がっかりしてたけど」
 秋子は、その話をしながら笑いを必死に堪えている。鯨のたれは千葉県誕生町の名物で、どうやら冬樹なる人物はそれを楽しみにしていたらしい。
「あいつは相変わらずフラフラしているのか。全く、仕方のない奴だ」
 中年女性は呆れた表情。しかしながら、冬樹なる人物は定職につかずフラフラしているのか、それとも別の理由か。何かと謎の人物である。
「あっ、いらっしゃいませ! 京子さん、今日は何の用ですか?」
 島長親子に気付いた店長秋子は、即座に営業スマイルへと切り替わる。自営業の人間は、こういうところの切り替えが迅速だ。
「秋子さん、おかあさんの魔力を補給して下さい!!」
 二人の間に割って入るように、のりこが言い放つ。突飛押しのない彼女の発言に、秋子は困惑してしまう。
「お姉ちゃん、それは一体何だい?」
 中年女性が、のりこの手に持っているブリキの箱へ注目した。錆だらけになってしまったその箱に、何か気になることがあるのだろうか?
「これは呪いの箱! 迂闊に触ると呪われるよ!!」
 のりこはそう忠告するが、自身はその箱をべったり触ってしまっている。これがいわゆるちぐはぐというものである。
「ごめんなさいねぇ! ウチの子、この箱がとっても気になるみたいで。ところで、普段は見かけない顔ですね??」
 片手でのりこを制しつつ、秋子は中年女性のことが気になる様子。確かに、個人商店にスーツ姿の人物を見かけること自体が稀有のように思える。
「申し遅れた。私は源春奈、源三姉妹の長女だ!」
 中年女性は、声高らかに宣明した。風格ある姿勢に、京子は若干気圧されてしまう。
「おばさん、そんなことよりおかあさんは魔力を補給しないといけないの!」
 春奈の話を遮り、のりこはいち早くブリキの箱を開けたい様子。そして、そんな姉を相変わらず冷ややかな目で見る弟りょうたであった。


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「おかしいわね......この箱はびくともしない」
 のりこ達が持ち帰ったブリキの箱。長らく放置されていたのか、箱全体は錆だらけになっていて蓋を開けることが出来ない状態だった。
「おねえちゃん、それって本当に、はれのざいほうなの?」
 りょうたにとって、それは錆だらけのガラクタにしか見えなかった。第一、海賊の財宝がブリキの箱に入っていたとしたら、それは実に不可思議な話だ。
「何を言ってるの! オーシオはきっと、はなれのざいほうを守り続ける番人だったに違いわ!!」
 のりこの中で、いまだに大潮はオーシオという怪物のままだった。それどころか、財宝の番人にまで昇格してしまっている。そういう意味で彼女の想像力は我々の遥か上を行っている。
「この箱が開かないのも、きっとオーシオの呪いがかけられているからなのよ!!」
 だが、のりこの想像力は歯止めが掛からない。ただ単に錆びついているブリキの箱でさえ、彼女には呪いに思えてしまうのだ。
「本当にそうかなぁ?......」
 りょうたはのりこの答えにえらく懐疑的だ。呪いという割には、何だか身近な道具で解けてしまいそうな気もする。
「あらぁ......何だかひどい錆の箱ねぇ?」
 そんな二人が話しているところに、皿洗いを終えた京子がやって来た。京子はその箱を手に取り、不思議そうに眺めていた。
「おかあさん、それは呪いの箱なんだよ! 素手で触ったら命を取られちゃう!!」
 のりこはそういうが、先程から散々その箱をいじくり回しているのりこはとうの昔に呪い殺されているはずである。
「そうなんだぁ? だったら、その呪いを解いちゃおっか!?」
 京子は、ブリキの箱を手に取って嬉々としている。果たして、彼女は一体何を思い付いたのだろうか?
「おかあさん、そんなことできるの!?」
 その言葉を聞いたのりこは、目が点になっている。彼女からすれば、母がまるで魔法使いのように見えるだろう。
「だって、おかあさんは東京の魔女だったんだよ? 知らなかったでしょ?」
 もちろん、それは京子の口から出まかせである。彼女は言うまでもなく彼元銀行員。心なしか、娘との茶番を楽しんでいるように思える。
「えぇーーーっ!!? それは知らなかった......」
 のりこは、驚きのあまり大声を上げてしまう。一方、どことなく母の意図を察しているりょうたはそれを冷ややかに傍観している。
「けれど、今のおかあさんには魔力が足りないの。だから、秋子さんのお店で魔力を補給しなきゃ......!」
 どうやら、京子はみなもとで何かを買うつもりでいるらしい。それが雑貨屋で手に入るなら、何だか陳腐な呪いである。
――
 かくして、島長親子は万事屋みなもとへやってきた。
「秋子、冬樹は最近帰っているのか?」
 店内には、何やら見慣れないスーツ姿の中年女性の姿があった。秋子と親しげに話しているあたり、さしずめ身内と言ったところであろうか。
「先週くらいに帰って来たかなぁ? お母さんに鯨のたれを食べられたって、がっかりしてたけど」
 秋子は、その話をしながら笑いを必死に堪えている。鯨のたれは千葉県誕生町の名物で、どうやら冬樹なる人物はそれを楽しみにしていたらしい。
「あいつは相変わらずフラフラしているのか。全く、仕方のない奴だ」
 中年女性は呆れた表情。しかしながら、冬樹なる人物は定職につかずフラフラしているのか、それとも別の理由か。何かと謎の人物である。
「あっ、いらっしゃいませ! 京子さん、今日は何の用ですか?」
 島長親子に気付いた店長秋子は、即座に営業スマイルへと切り替わる。自営業の人間は、こういうところの切り替えが迅速だ。
「秋子さん、おかあさんの魔力を補給して下さい!!」
 二人の間に割って入るように、のりこが言い放つ。突飛押しのない彼女の発言に、秋子は困惑してしまう。
「お姉ちゃん、それは一体何だい?」
 中年女性が、のりこの手に持っているブリキの箱へ注目した。錆だらけになってしまったその箱に、何か気になることがあるのだろうか?
「これは呪いの箱! 迂闊に触ると呪われるよ!!」
 のりこはそう忠告するが、自身はその箱をべったり触ってしまっている。これがいわゆるちぐはぐというものである。
「ごめんなさいねぇ! ウチの子、この箱がとっても気になるみたいで。ところで、普段は見かけない顔ですね??」
 片手でのりこを制しつつ、秋子は中年女性のことが気になる様子。確かに、個人商店にスーツ姿の人物を見かけること自体が稀有のように思える。
「申し遅れた。私は源春奈、源三姉妹の長女だ!」
 中年女性は、声高らかに宣明した。風格ある姿勢に、京子は若干気圧されてしまう。
「おばさん、そんなことよりおかあさんは魔力を補給しないといけないの!」
 春奈の話を遮り、のりこはいち早くブリキの箱を開けたい様子。そして、そんな姉を相変わらず冷ややかな目で見る弟りょうたであった。