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第69話 思い描く未来はどんな色?

ー/ー



「あっ! こんなところにイヌノフグリが咲いてる!」
 ある日の昼休み、もえは校庭の片隅に小さな花を見つけた。それはどうやらイヌノフグリというものらしい。彼女は絵を描くのが好きだが、こういった野草にも詳しい。
「よし、ここはお兄ちゃんからもらった色鉛筆を試してみよう!!」
 イヌノフグリを見つけて、早々に彼女はスケッチを始める。今回は、兄のお下がりであろう色鉛筆でスケッチを試みるようだ。
「お兄ちゃん、こんなにたくさんの色鉛筆を持ってたなんて......」
 さすがもえの兄である。彼女が色の選択を迷ってしまうほど、多彩な色鉛筆が用意されているようだ。
「もえちゃん、今日は何のスケッチ?」
 もえが色の選択を考えている背後から、りょうたがやってきた。りょうたはもえとスケッチや野草探しを共にする仲であり、そのためにわざわざ植物図鑑を借りてしまうほど。
 彼が片手に携えているのは、その好きが高じて母に買ってもらった植物図鑑だ。
「えぇと、これはイヌノフグリ??」
 りょうたが図鑑を見開いてその植物を確認する。もえと関わってきたこともあり、少しずつ植物の知識が増えてきているところだ。
「そう、これはイヌノフグリ。小さくて可愛らしい花なんだ」
 イヌノフグリを見つめながら、もえはにこやかに語る。小さくて青い花が見る人の心を和ませる。
「イヌノフグリ、僕も好きだな......」
 りょうたも、イヌノフグリの虜になっている。好きな人と好きなものを共有できること、それは幸せのひと時だ。
「ところでもえちゃん、その色鉛筆はどうしたの?」
 りょうたがその次に目についたのは、もえの足元に置かれた大量の色鉛筆。よく見ると、その配色は独特なものが多いように見受けられる。
「えぇ? この色、どこで使うんだろう......??」
 おもむろにりょうたが取り出したのは、一見茶色のように思えるもの。気のせいだろうか、どことなく人肌に似ている気もするが......??
「それは、だよ? 日焼けした時のお兄ちゃんを描くときに使いやすいかも?」
 もえの見立ては、あながち間違いでもない。何故なら、まつざきしげる色は日焼けした人の肌を再現するために作られた色なのである。
 実際、某バラエティ番組の企画をきっかけに生まれた経緯があり、それは黄色25%・朱色45%・緑14%・白16%の割合で再現できる。興味を持った読者は実践してみよう。
「あれ? これも茶色だけど、別の色??」
 りょうたはその色鉛筆にも興味を抱く。まつざきしげる色と同系にも思えるが、それはどことなく暗色を帯びている。
「それは国防色。軍人さんを描く時に使えそう」
 それは別名オリーブドラブとも呼ばれ、主に軍服や戦車・戦闘機といった軍事的なものに用いられる色である。
 色の割合は茶色と緑、もしくは黒と黄色を半々で再現できる。これも興味のある読者は実践してみるといい。
「これはこげ茶色......??」
 こうなると、りょうたの興味も際限がない。今度はこげ茶のような色だが、果たしてそれは何色なのだろうか??
「それは憲法色。その色はどんな時に使えばいいのか分からなくて......」
 もえが頭を抱えるその色は憲法色。一見法律を思わせる名前だが、実のところは剣豪『吉岡憲法』が由来の色であり、染め物で用いられるものである。  まつざきしげる色もそうだが、このように個人名を用いた色は少なからず存在している。興味のある読者は調べてみると、新たな発見があるかもしれない。
「茶色ってたくさんの色があるんだね。ところで、お茶って緑色だよね? 何でだろう??」
 りょうたの抱いた素朴な疑問。それは、読者諸君も同じではないだろうか? 
「多分、お茶って本当は茶色なんだと思う」
 もえの答えは、部分的に正解ともいえる。お茶は中国を起源としているが、日本に伝来した当時は天日干しで茶葉を乾燥させていた。
 そのため、お茶と言えば紅茶やウーロン茶のように発酵した茶葉が主流だったのだ。緑茶が生まれたのは江戸時代と言われており、茶葉を焙煎することで現代のような緑色のお茶を飲むことが出来るようになったのである。
「だから、私は紅茶が好き」
 小学生ながら彼女の感性は大人のそれに近い。しかしながら、実際にもえが好きなのは牛乳をたっぷり入れたミルクティーであることは内緒。
「......いけない! イヌノフグリを描けそうな色は......あった!」
 お茶で話が脱線してしまったが、もえの目的はイヌノフグリを描くこと。彼女が手にしたのは水色を思わせる勿忘草色(わすれなぐさ)。それはドイツの伝説に由来するもので、英名は『Forget me not』である。それに倣ってか、勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』である。
「もえちゃんの描く姿、とっても真剣な眼差しが好き......」
 一心不乱にイヌノフグリを描く姿に、りょうたは惚れ惚れしてしまう。好きな人の真剣になっている姿は、老若男女問わず魅力的に映るもの。
 余談だが、イヌノフグリの意味は『犬の睾丸』。名前の由来は、果実が雄犬のそれに似ていることから来ているそうだ。イヌノフグリ、その見た目に反し何とも不遇な名前を持つ花である。


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「あっ! こんなところにイヌノフグリが咲いてる!」
 ある日の昼休み、もえは校庭の片隅に小さな花を見つけた。それはどうやらイヌノフグリというものらしい。彼女は絵を描くのが好きだが、こういった野草にも詳しい。
「よし、ここはお兄ちゃんからもらった色鉛筆を試してみよう!!」
 イヌノフグリを見つけて、早々に彼女はスケッチを始める。今回は、兄のお下がりであろう色鉛筆でスケッチを試みるようだ。
「お兄ちゃん、こんなにたくさんの色鉛筆を持ってたなんて......」
 さすがもえの兄である。彼女が色の選択を迷ってしまうほど、多彩な色鉛筆が用意されているようだ。
「もえちゃん、今日は何のスケッチ?」
 もえが色の選択を考えている背後から、りょうたがやってきた。りょうたはもえとスケッチや野草探しを共にする仲であり、そのためにわざわざ植物図鑑を借りてしまうほど。
 彼が片手に携えているのは、その好きが高じて母に買ってもらった植物図鑑だ。
「えぇと、これはイヌノフグリ??」
 りょうたが図鑑を見開いてその植物を確認する。もえと関わってきたこともあり、少しずつ植物の知識が増えてきているところだ。
「そう、これはイヌノフグリ。小さくて可愛らしい花なんだ」
 イヌノフグリを見つめながら、もえはにこやかに語る。小さくて青い花が見る人の心を和ませる。
「イヌノフグリ、僕も好きだな......」
 りょうたも、イヌノフグリの虜になっている。好きな人と好きなものを共有できること、それは幸せのひと時だ。
「ところでもえちゃん、その色鉛筆はどうしたの?」
 りょうたがその次に目についたのは、もえの足元に置かれた大量の色鉛筆。よく見ると、その配色は独特なものが多いように見受けられる。
「えぇ? この色、どこで使うんだろう......??」
 おもむろにりょうたが取り出したのは、一見茶色のように思えるもの。気のせいだろうか、どことなく人肌に似ている気もするが......??
「それは、《《まつざきしげる色》》だよ? 日焼けした時のお兄ちゃんを描くときに使いやすいかも?」
 もえの見立ては、あながち間違いでもない。何故なら、まつざきしげる色は日焼けした人の肌を再現するために作られた色なのである。
 実際、某バラエティ番組の企画をきっかけに生まれた経緯があり、それは黄色25%・朱色45%・緑14%・白16%の割合で再現できる。興味を持った読者は実践してみよう。
「あれ? これも茶色だけど、別の色??」
 りょうたはその色鉛筆にも興味を抱く。まつざきしげる色と同系にも思えるが、それはどことなく暗色を帯びている。
「それは国防色。軍人さんを描く時に使えそう」
 それは別名オリーブドラブとも呼ばれ、主に軍服や戦車・戦闘機といった軍事的なものに用いられる色である。
 色の割合は茶色と緑、もしくは黒と黄色を半々で再現できる。これも興味のある読者は実践してみるといい。
「これはこげ茶色......??」
 こうなると、りょうたの興味も際限がない。今度はこげ茶のような色だが、果たしてそれは何色なのだろうか??
「それは憲法色。その色はどんな時に使えばいいのか分からなくて......」
 もえが頭を抱えるその色は憲法色。一見法律を思わせる名前だが、実のところは剣豪『吉岡憲法』が由来の色であり、染め物で用いられるものである。  まつざきしげる色もそうだが、このように個人名を用いた色は少なからず存在している。興味のある読者は調べてみると、新たな発見があるかもしれない。
「茶色ってたくさんの色があるんだね。ところで、お茶って緑色だよね? 何でだろう??」
 りょうたの抱いた素朴な疑問。それは、読者諸君も同じではないだろうか? 
「多分、お茶って本当は茶色なんだと思う」
 もえの答えは、部分的に正解ともいえる。お茶は中国を起源としているが、日本に伝来した当時は天日干しで茶葉を乾燥させていた。
 そのため、お茶と言えば紅茶やウーロン茶のように発酵した茶葉が主流だったのだ。緑茶が生まれたのは江戸時代と言われており、茶葉を焙煎することで現代のような緑色のお茶を飲むことが出来るようになったのである。
「だから、私は紅茶が好き」
 小学生ながら彼女の感性は大人のそれに近い。しかしながら、実際にもえが好きなのは牛乳をたっぷり入れたミルクティーであることは内緒。
「......いけない! イヌノフグリを描けそうな色は......あった!」
 お茶で話が脱線してしまったが、もえの目的はイヌノフグリを描くこと。彼女が手にしたのは水色を思わせる|勿忘草色《わすれなぐさ》。それはドイツの伝説に由来するもので、英名は『Forget me not』である。それに倣ってか、勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』である。
「もえちゃんの描く姿、とっても真剣な眼差しが好き......」
 一心不乱にイヌノフグリを描く姿に、りょうたは惚れ惚れしてしまう。好きな人の真剣になっている姿は、老若男女問わず魅力的に映るもの。
 余談だが、イヌノフグリの意味は『犬の睾丸』。名前の由来は、果実が雄犬のそれに似ていることから来ているそうだ。イヌノフグリ、その見た目に反し何とも不遇な名前を持つ花である。