島長親子は、野鳥観察のため近隣を散策中。羽馴島の自然は多様な生物を培っており、野鳥観察にはうってつけの環境といえよう。
「あっ! あそこにメジロがいる!!」
りょうたが指差す先に、2羽のメジロとおぼしき小鳥たちが忙しなく跳ね回っている。しかし、それを見た良行は何か違和感を覚える。
「メジロかぁ? それにしては、さっきの鳥より体が大きく見える気がするよなぁ??」
良行の疑問は尤もだ。りょうたの見つけた鳥はメジロに変わりないのだが、これは羽馴島をはじめとした離島に生息する『シチトウメジロ』である。
本種はメジロが離島に適応して進化した個体、いわば亜種と呼ばれるものである。このように元は同個体の生物でも、環境に適応して違った進化をしていくのは実に興味深いものである。
『武勇譚! 武勇譚! 武勇タンタンタタンタン!! レッツゴー!』
りょうたがスマートフォンを構えて、F・Bで彼らのさえずりを翻訳した。どうやら、彼らは小粋なリズムで歌っていたようだ。
「聞きたいの!? 私の武勇譚! ならば特別、言ったげる!!」
メジロ達に乗せられてのりこもリズムを刻む。ここまで動物と調和できるのりこもある意味で実に興味深い。
「おねえちゃん、何やってるんだろう......?」
その小粋なリズム、とてもりょうたにはついていけそうもない。ここは傍観に徹する弟である。
「よく分からないけど、何だか楽しそうだな?」
若者のリズムは、大人の立場からは理解しにくかったりする。それが、ある意味では少年時代特有の空気ともいえる。
「恐怖の大王、筋肉先生ぶっ倒す!!」
のりこのいう武勇譚とは、どうやら筋肉先生もとい肥瑠との戦いのことを指すようである。あれ以来、木場嶋教頭に目をつけられてしまっている事実などどこ吹く風といったところののりこ。
『すごい! それはただの校内暴力!!』
メジロ達はのりこの言葉を理解しているのか、小粋なリズムでツッコミを入れる。それを聞くりょうたの視線はどことなく冷ややかである。
「おとうさん、行こう」
呆れたりょうたは、そそくさと先を急ぐ。武勇譚とは、器の小さい人間が粋がるために用いる常套句の一つだと察したゆえの行動。
「お、おう......?」
りょうたの心境を今一つ理解できていないが、しぶしぶ良行はそれに同調する。メジロ達が小粋なリズムを刻んでいただけに、後ろ髪引かれる思いの良行である。
『タンタンタタンタン! タンタンタタンタン! タンタンタタンタン……』
二人に置いて行かれたことなど気付かずに、なおものりこはメジロ達のリズムに乗っている。その挙句、ついにのりこは独特の踊りを始めてしまう。きっとその動きに特別な意味はないのだけれど。
『カッコー、カッコー』
メジロ達の小粋なリズムとは対照的に、雑木林の奥からどことなく物悲しいさえずりが聞こえてくる。さて、そこにいるのはどんな野鳥なのだろうか?
「おとうさん、向こうで別の鳥が鳴いているみたい」
そのさえずりに気付いたりょうたは、ここぞとばかりにスマートフォンを向けている。F・Bは、こういう時に実に便利である。
「あれはきっとカッコウだなぁ? あの声を聞くと、大自然を感じるよなぁ......」
良行はそのさえずりを聞いて感嘆している。そのさえずりを聞くだけで、多くの読者達は広大な森林を想起することだろう。
『カッコウです......。この間、メジロの巣に托卵したとです。けれど、メジロに気付かれて私の卵を落とされてしまいました。どうやら、卵の大きさが違ったようです。カッコウです......カッコウです......』
物悲しいのは、さえずりだけではなかった様子。カッコウは托卵という習性を持ち、他の野鳥に雛を育てさせることで有名だ。
本島ではホトトギスの巣に托卵することが多いが、この島のカッコウが托卵するのは専らウグイスやメジロの巣である模様。
「そうだったのか、カッコウ......」
それを知った良行の瞳が潤んでいる。我が子を失ったことの悲しみを共感できるのは、親の立場だからこそ。
「よく分からないけど、何となく悲しいね......」
状況がよく分かっていないものの、その悲しみはりょうたにも察するものがあるらしい。子供は、良くも悪くも親の背中をつぶさに見つめている。
『......ピーチクパーチク!!』
そんな矢先、突如としてムクドリの大群が雑木林へ押し寄せてきた。それはあまりにも数が多すぎて、一瞬にして青空を覆い尽くしてしまった。
「な、何だぁっ!!?」
良行は、その大群に恐れおののき腰を抜かしている。だが、りょうたはその大群に覚えがあった。
「もしかして、あの時のムクドリ!? けど、どうしてこんな所に......??」
以前F・Bでのりこがムクドリのさえずりを翻訳した際に、何やら物々しい雰囲気であったことはどことなく察していた。
だが、まさか彼らとこのような形で再会することになろうとは、当時の彼は想像だにしない。
『......立てよムクドリ! この森からカラスどもを追放し、今こそミソサザイの無念を晴らすのだ!!』
ムクドリ達は、カラスへの復讐に心を燃やしていた。