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第62話 絶海の孤島

ー/ー



「......え? ここどこ??」
 のりこが辿り着いたのは、真夜中の海岸だった。眼前の遥か向こうに島が見えるが、その先は荒波に行く手を阻まれてしまっている。これはまさに絶体絶命。
「もしかしたら、近くに船があるかも?」
 のりこは思った、万が一にも渡る手段があるかもしれないと。だが、現実はそんなに甘くない。
「なんということなの......神は死んだか!? 正義は滅んだか!!?」
 のりこは哲学者にでもなったつもりだろうが、神は死んではいないし正義も滅んでいない。想像力が豊かな小学生は、戦国武将になったり哲学者になったり忙しい。
「そういえば、服部半蔵は水の上を走っていた気がする。あれさえできれば......」
 のりこ、哲学者の次は忍者になるようだ。いわゆる水走りとか水蜘蛛のことだろうが、あまりにファンタジックで一考の余地もないように思える。
『シュバババババッッッ!!!』
 その時、(なにがし)がのりこ脇を通り過ぎた。某は海面を踏みしめているように思えたが、あまりに速すぎて全容を捉えることは叶わなかった。
「もしかして忍者!?」
 のりこは、某を追うように海面へ飛び込む。当然だが、普通の小学生に水走りという高等な技術が再現出来るわけもなく、ただ単に全身を海水で濡らすだけだった。
「寒い......っ!!」
 真夜中の海水は、体温を奪う要因となる。遭難した際の知識の一つとして、読者諸君は肝に銘じるべし。
「そうだ、海を割れば道が出来るかも......!?」
 寒さでのりこは発狂したのか、どこかの教祖のようなことを言い出す。妄言であることは明確だが、そんな判断もままならないのりこは自らの拳(金剛玉砕拳)を大地にぶつける。
「いったぁーいっ!!!」
 海が割れることはなく、のりこの拳は犬死となった。もし拳一つで海が割れるなら、きっと津波は日常茶飯事となってしまうだろう。
 必死に脱出を試みるのりこだが、そのネタは尽きない模様。果たして、次はどのような試みが行われるのか?
「この板を使えば、波に乗れるに違いないっ!」
 のりこが手にしているのは、比較的大きい木の板。おそらく、サーフボードの要領で波乗りをするつもりなのだろう。
 のりこは、意気揚々とその板を海上へ浮かべる。その勢いで、のりこは思い切って板へ飛び移る。
「......よし! いけそう!?」
 着地成功......かに思えたが、悲劇は間もなく訪れる。
『バキッ!!!』
 残念ながら、板はのりこの体重を支え切れずに断裂! この作戦もあえなく失敗に終わる。
 板は漂流物、長年潮風に晒されて朽ち果ててしまったことに原因がある。これはのりこの選定ミスが痛恨。
「......どうしよう、溺れる......!!」
 足場を失ったのりこは、海中へ投げ出される。彼女は溺れまいと必死にもがくが、サメ類が獲物と認識して襲ってくることがあるので要注意。
 遭難した際の知識として、読者諸君は肝に銘じるべし。
 そんなのりこの背後に何者かが忍び寄る。のりこに危機迫る......!?
「あっ! カメだ!!」
 のりこの背後からやって来たのは、サメではなくウミガメ。その中でもアオウミガメといわれる割と大柄なカメである。
 羽馴島および近隣諸島に生息を確認しているが、近年は地球温暖化などの影響により減少傾向にあるとされる。
「もしかしたら、竜宮城へ行けるかもしれない!!」
 のりこは妄想を膨らませながら、優雅に泳ぐカメへしがみ付いた。何だか滑稽に見えるが、浦島太郎はこのようにウミガメへしがみついて竜宮城へ向かったという仮説が存在するのだ。気になる読者諸君は過去文献をあたってみるべし。
「リリー、私を導いてちょうだい......」
 母なる海を優雅に泳ぐカメは、リリーと命名された。何とも慎ましやかな淑女を想起させる名前だ。
 偶然にもこの試みは功を奏し、順調に対岸へ向かっていく。おそらく、このカメは産卵のために羽馴島近海へ接近してきたのだろう。
 とはいえ、カメにとってはのりこがしがみ付いてきたことは迷惑極まりないはずなのだが、ウミガメはそんな彼女を優しく対岸へ導いていく。のりこにとって、ある意味ではお母さんになってくれる存在なのかもしれない。
「......岸が見える!」
 陸地を眼前に臨み、のりこ生還の時が刻一刻と近づいてくる。奇跡は、いつだって諦めない人間の頭上にしか舞い降りないのである。


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「......え? ここどこ??」
 のりこが辿り着いたのは、真夜中の海岸だった。眼前の遥か向こうに島が見えるが、その先は荒波に行く手を阻まれてしまっている。これはまさに絶体絶命。
「もしかしたら、近くに船があるかも?」
 のりこは思った、万が一にも渡る手段があるかもしれないと。だが、現実はそんなに甘くない。
「なんということなの......神は死んだか!? 正義は滅んだか!!?」
 のりこは哲学者にでもなったつもりだろうが、神は死んではいないし正義も滅んでいない。想像力が豊かな小学生は、戦国武将になったり哲学者になったり忙しい。
「そういえば、服部半蔵は水の上を走っていた気がする。あれさえできれば......」
 のりこ、哲学者の次は忍者になるようだ。いわゆる水走りとか水蜘蛛のことだろうが、あまりにファンタジックで一考の余地もないように思える。
『シュバババババッッッ!!!』
 その時、|某《なにがし》がのりこ脇を通り過ぎた。某は海面を踏みしめているように思えたが、あまりに速すぎて全容を捉えることは叶わなかった。
「もしかして忍者!?」
 のりこは、某を追うように海面へ飛び込む。当然だが、普通の小学生に水走りという高等な技術が再現出来るわけもなく、ただ単に全身を海水で濡らすだけだった。
「寒い......っ!!」
 真夜中の海水は、体温を奪う要因となる。遭難した際の知識の一つとして、読者諸君は肝に銘じるべし。
「そうだ、海を割れば道が出来るかも......!?」
 寒さでのりこは発狂したのか、どこかの教祖のようなことを言い出す。妄言であることは明確だが、そんな判断もままならないのりこは|自らの拳《金剛玉砕拳》を大地にぶつける。
「いったぁーいっ!!!」
 海が割れることはなく、のりこの拳は犬死となった。もし拳一つで海が割れるなら、きっと津波は日常茶飯事となってしまうだろう。
 必死に脱出を試みるのりこだが、そのネタは尽きない模様。果たして、次はどのような試みが行われるのか?
「この板を使えば、波に乗れるに違いないっ!」
 のりこが手にしているのは、比較的大きい木の板。おそらく、サーフボードの要領で波乗りをするつもりなのだろう。
 のりこは、意気揚々とその板を海上へ浮かべる。その勢いで、のりこは思い切って板へ飛び移る。
「......よし! いけそう!?」
 着地成功......かに思えたが、悲劇は間もなく訪れる。
『バキッ!!!』
 残念ながら、板はのりこの体重を支え切れずに断裂! この作戦もあえなく失敗に終わる。
 板は漂流物、長年潮風に晒されて朽ち果ててしまったことに原因がある。これはのりこの選定ミスが痛恨。
「......どうしよう、溺れる......!!」
 足場を失ったのりこは、海中へ投げ出される。彼女は溺れまいと必死にもがくが、サメ類が獲物と認識して襲ってくることがあるので要注意。
 遭難した際の知識として、読者諸君は肝に銘じるべし。
 そんなのりこの背後に何者かが忍び寄る。のりこに危機迫る......!?
「あっ! カメだ!!」
 のりこの背後からやって来たのは、サメではなくウミガメ。その中でもアオウミガメといわれる割と大柄なカメである。
 羽馴島および近隣諸島に生息を確認しているが、近年は地球温暖化などの影響により減少傾向にあるとされる。
「もしかしたら、竜宮城へ行けるかもしれない!!」
 のりこは妄想を膨らませながら、優雅に泳ぐカメへしがみ付いた。何だか滑稽に見えるが、浦島太郎はこのようにウミガメへしがみついて竜宮城へ向かったという仮説が存在するのだ。気になる読者諸君は過去文献をあたってみるべし。
「リリー、私を導いてちょうだい......」
 母なる海を優雅に泳ぐカメは、リリーと命名された。何とも慎ましやかな淑女を想起させる名前だ。
 偶然にもこの試みは功を奏し、順調に対岸へ向かっていく。おそらく、このカメは産卵のために羽馴島近海へ接近してきたのだろう。
 とはいえ、カメにとってはのりこがしがみ付いてきたことは迷惑極まりないはずなのだが、ウミガメはそんな彼女を優しく対岸へ導いていく。のりこにとって、ある意味ではお母さんになってくれる存在なのかもしれない。
「......岸が見える!」
 陸地を眼前に臨み、のりこ生還の時が刻一刻と近づいてくる。奇跡は、いつだって諦めない人間の頭上にしか舞い降りないのである。