「のりこじゃないか。ここへ何の用だ?」
突如、のりこ探検隊の背後から語りかけてきた声。その主はあの空手少年だった。
「どもん! あなたこそ、どうしてここへ!?」
のりこ隊長はわざとらしい驚きぶりで、まさかの状況を演出したい様子。
だが、冷静に考えてみればここはどもんの修行場。むしろ、来訪者はのりこ探検隊の方だ。
「俺は、ここ最近出没しているという鯖鬼を追っているんだ」
おそらく、鯖鬼とはサバッキーのことだろう。どもんの話に、のりこ隊長は震撼する。
「サバッキーを探しているですって!?」
のりこ隊長は、焦燥を隠せなかった。自分達と同じように、サバッキーを追う刺客が新たに現れたのだから!!
「それと、ハヤテは返してもらう。来いっ! ハヤテ!!」
どもんは、口笛を吹いてハヤテ隊員を呼び戻そうとしている。のりこ隊長の焦燥は増すばかり。
「ハヤテ! 行かないでっ......!!」
のりこ隊長は、ハヤテ隊員を連れ戻されまいと懇願する。当のハヤテ隊員はというと......?
「何っ……!? ハヤテが戻らないだと!!?」
動揺したのは、どもんの方だった。本来の飼い主はどもんなのだが、どういうわけかハヤテ隊員は微動だにしない。
どうやら、彼はのりこ隊長をえらく気に入っているようだ。
「信じていたわ! ハヤテ!!」
不動のハヤテ隊員を、のりこ隊長は称賛した。先程の動揺はどこへやら……?
「仕方あるまい、鯖鬼は俺一人で探すか......のりこ、覚えていろ!!」
どもんは恨み節で後退した。自身の相棒を取られたことは、屈辱以外の何物でもない。
「......極東流・潜泳着手!」
どもんは滝壺へ飛び込む。どうやら、極東流空手は漁法まで体得できるらしい。
「サバッキーを狙う輩が多いわね。のりこ探検隊、何としてもサバッキーを発見するわよ!」
のりこ隊長は、サバッキー捜索に躍起。しかし、彼女の焦燥を尻目にルナ隊員は入水し、気ままに泳いでいる。そしてケンは、なぜか水際の砂利を淡々と掘っている。
「のりこ隊長、ここの水はほんのり温かいです!」
りょうた隊員が、水際の湧水に触れた。羽馴島は源泉地が密集しており、河川を掘ると容易に温泉が湧出する。
そのため、手掘りの露天風呂を楽しむことも可能だ。
「みんな、真面目にやってちょうだい!!」
のりこ隊長が皆を叱咤するも、隊員達にやる気は見られない。その嘆きを、頭上のハヤテ隊員だけが共感していた。
「ハヤテ隊員、頼んだわよ!!」
のりこ隊長は、ハヤテ隊員を水面へ送り出す。彼だけが、サバッキー捜索を忠実に遂行していた。
――
その頃、あずみと渉は依然としてサバッキーを待ち続けていた。
「サバッキー、釣れないね?」
アタリさえこない状況に、あずみは飽き飽きしているようだった。釣りというのは、こういう待ちぼうけになることも珍しくない。
『〆ないで!』
あずみは、サバッキーマスコットのエラ部分を握りしめた。サバッキーマスコットからは、それに呼応したボイスが再生される。その声が反響するほどに周囲は静寂している。
「あずみさん……好きだよ?」
渉から不意に漏れた一言。あずみは、思わず赤面した。
「あずみも、好きだよ......?」
あずみは、照れ隠しに渉へ抱き着く。渉も呼応し、あずみを抱擁するが......。
「……あずみさん! 来てる来てる!!」
空気を読まず、あずみの竹竿が反応する。ウキは浮き沈みを繰り返し、何かが食い付いているようだった。
「もしかして、サバッキー!!?」
先程とは打って変わり、あずみは瞳を輝かせる。果たして、その先にいるのはサバッキーなのだろうか!?
――
のりこ隊長は、ハヤテ隊員とともにサバッキーを捜索中。だが、今のところ手応えはないようだ。
「さすがはサバッキー。雲隠れもお手の物ってわけね......」
のりこ隊長は尤もらしく呟くが、都市伝説というのはまことしやかに囁かれているものである。それゆえ、サバッキーの存在さえそもそも怪しい。
「のりこ隊長、温泉はとても快適であります!」
りょうた隊員は、ケン隊員が掘削した温泉で足湯を満喫している。野外の足湯は、何とも言えない開放感がある。
ケン隊員に至っては、全身でその極楽を満喫している。その表情、まさに至福の笑みである。
「二人は、森の主に心を惑わされているわね。あとはルナ隊員......あれ、ルナ隊員??」
先程まで犬掻きをしていたはずのルナ隊員が、忽然と消えてしまっている。一体、彼はどこへ行ってしまったのか?
「ルナ隊員! 応答して、ルナ隊員!!」
のりこ隊長は動揺した。必死にルナ隊員を呼び掛けるも、彼からの応答はない。果たして、ルナ隊員の安否や如何に......!?