「くそっ! 俺の控えにはワーウルフに対抗できるビーストがいない。もはやここまでか......!?」
良行は半ば勝負を諦めている。しかし、ここで降参しては男が廃る。良行はかすかな望みを託して、新たなビーストを繰り出す。
「......寝猫、この勝負はお前に託すっ!」
良行が繰り出したのは、火属性の人型ビーストである寝猫。スレンダーな躯体に双剣を構える、長髪の女戦士だ。
E・Bにおけるレアリティの高さもさることながら、彼女のアクロバティックな剣技に魅了されてバトルで使用するプレイヤーも多い。だが、火属性は土属性に対し優位を取れない。
良行の形勢は依然不利なまま......。敢えて言うなら、みそささぎの特性でワーウルフの体力を1/3以下にまで削りきれたことくらいか。
だが、ワーウルフの様子がおかしい。
「え? 何これ......?」
りょうたはワーウルフの様子に困惑する。すると、りょうたのスマートフォンには親方の教えというテロップが流れる。
『......俺は、女を殴れねぇぇぇぇぇぇっっっ!!!』
ワーウルフは、悲哀に満ちた叫びを上げて消滅してしまった。これには、ある秘密がある。
E・Bにはいくつかの隠し要素が存在していて、それはキャラクターの出自や監督の交友関係など......要するに、超マニアックな要因で起きるイベントがあるのだ。
ワーウルフは、作中で親方なる人物に育てられている。その親方の教えに、女を殴ってはならないという内容が含まれているのだ。
つまり、ワーウルフはその要素によって消滅イベントが発生してしまったのだ。
『なんだ、ノンケか......』
寝猫の勝利演出が入る。双剣を納刀しながら、意味深な言葉を呟いた.....。
「なんか知らないけど、とにかく助かった」
当然、良行もワーウルフの消滅した要因など見当がつくはずもない。そして、りょうたは最後のビーストを繰り出す。
『すまないなルークス。披露宴は、こいつを倒してからだ!!』
最後に登場したのは、白羊の女傑ティアラ(ウェディングモデル)。彼女は羊の獣人型ビーストで、Rush!! ではワーウルフのライバルである。
純白のドレスに槍という実に不釣り合いな装いであるが、これには理由がある。
作中において、彼女の披露宴を敵襲によって妨害される場面がある。その際に伴侶であるルークスを差し置いて、聖槍マシューヴァルを駆使して敵を撃退する。その時の服装がウェディングドレスというわけだ。
なお、ティアラは金属性なので寝猫に対して優位を取ることができない。勝負は良行が優勢であるかに見えたが、両者の実力は拮抗して熾烈な戦いとなる。
『下がってください、ノンケに用はありません!!』
先に必殺技を発動したのは寝猫、つまり良行だ。叡智なる双剣を抜刀し、ティアラに襲いかかる!!
『ダイガンドラの名にかけて、貴様を倒すっ!!!』
りょうたもそれに遅れまいと、ティアラの必殺技を発動させる。勝負はほぼ互角、ついに雌雄を決する時が来た......!
『......え???』
島長親子は目を点にした。何故なら、この期に及んで隠しイベントが発生してしまったのである!
背景は、万華鏡を思わせるキラキラの海。そこは、時空さえも超越したどこかだ。
『それしか知らないのね......』
寝猫の意味深な涙。それは一体、何を意味するのだろうか……?
『知らぬさ、人は己の知る事しか知らぬ』
その傍らに、先程対峙していたはずのティアラが寄り添う。
『そんな理屈!!』
寝猫の涙は、やがて憤りを伴う。ティアラの無関心に思うところがあるのだろうか。
『これも運命! 知りながらも突き進んだ道でしょう!? 』
昂りのあまり、寝猫は壁ドンを仕掛けた。それに対しティアラは無言の抵抗。
『それでも、守りたい貞操があるんだ……!』
その抵抗も虚しく、ティアラは寝猫に抱かれた。寝猫が双剣使いである理由は、ジェンダーを超えた欲望にある。
実はこれ、プログラマーによって秘密裏に組み込まれた強制終了イベント。これ以外にも複数の隠しイベントが判明しており、製作サイドは対応に追われている。
ーー
『DRAW!』
スマートフォンの画面には、引き分けのテロップが大きく表示された。どうやら、バトルが強制終了となる隠しイベントだったようだ。
「百合しか勝たんっ......!」
イベントを鑑賞した良行は、気付くと目頭が熱くなっていた。
「えっと......何これ??」
一方、あまりの急展開に困惑から抜け出せないままのりょうたであった......。