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第25話 もえちゃん

ー/ー



「このベーコン美味しい!」
 のりこは朝からベーコンエッグにむしゃぶりついている。どうやら、自家製ベーコンがよほど気に入ったようだ。
「......」
 一方、りょうたは何やら物思いに耽っている。
「ベーコンいただきっ!」
 のりこにベーコンエッグを奪われても上の空だ。
「のりこ、横取りしないのっ!」
 その様子を見かねて、京子が止めに入る。だが、それでもりょうたは心ここにあらずといったところ。
「りょうた、具合でも悪いの?」
 心配のあまり、京子はりょうたへ声を掛ける。
「ううん、何でもない」
 りょうたはいたって平静を装う。
「珍しいこともあるもんだな」
 良行は呑気に構えている。少なくとも、りょうたが悩んでいる様子ではないと理解しているからこそだろう。
「いってきます!」
 登校の際もいたって平常。今のところ、心配はなさそうだと京子は思った。
「キューン!」
 ルナは、二人を見送るように犬小屋から鼻を鳴らしていた。
「......ルナ、ベーコン食べる?」
 京子はベーコンの端をルナへ餌付けした。自家製ベーコンはタヌキにも好評だ。
「へへっ......」
 のりこは、りょうたが上の空なのをいいことに何やら悪だくみをしている。登校中のいたずらは、のりこにとって楽しみの一つだ。
 彼女の手元には、既にエノコログサが握られている。さて、のりこはこれをどうするつもりなのか?
「こしょこしょ......」
 のりこは、エノコログサでりょうたの首筋をくすぐる。いつもなら、りょうたはびっくりして飛び跳ねるのだが......。
「......え? おねえちゃんどうかした??」
 りょうたは、のりこのいたずらを気にも留めていない様子。
「何か変ね......?」
 彼の様子から、のりこは違和感を覚えた。
「っ! もしかして、くせぇの煙のせいかしら!?」
 燻製の煙に薬物のような中毒性があってはたまったものではない。のりこの見解は的外れも甚だしい。そして、その真相は後に明らかとなる。
ーー
 時は昼休み、りょうたは校庭の片隅にいた。よくみると、そこには何やらスケッチをしている女の子がいた。
「もえちゃん、何してるの?」
 彼女はりょうたの声に気付きハッとする。彼女の名は花島もえ。りょうたのクラスメイトだ。
「えっとね......お花の絵を描いてたの」
 彼女は物静かな性格で、クラスでは影が薄い。基本的には一人でいることが多く、昼休みは専らこのように草木を描いている。
「そうなんだ......」
 自分から声を掛けておきながら、りょうたははにかんでしまい言葉が続かない。
「りょうたくんは、お絵かき好き......?」
 それを察したのか、もえは自ら話題を振る。だが、もえの方もはにかんでいるように見受けられる。二人の会話は、どこかぎこちない。
「お絵かき、まぁまぁかな......?」
 りょうたは彼女の会話に調子を合わせた。普段はのりこに振り回されることが多いりょうたにとって、自分の世界に没頭することなど無縁なのだが......。
「お絵かきって、楽しいよね......」
 もえの手元には、色鉛筆で描かれたツツジの絵があった。その絵は、小学生にしては繊細な色使いだ。
「もえちゃんの絵、とってもきれいだね......」
 りょうたは、もえの絵に魅せられてしまった。というより、彼女自身の可愛らしさにと言った方が正しいかもしれない。
「りょうたくんも、お絵かきする......?」
 もえは、りょうたの気持ちを精一杯受け止めようとしている。不器用な二人のやりとりは、何とも微笑ましい。
 だが、そんなひとときは瞬く間に過ぎていく。昼休みが終わりに近づくにつれ、児童たちは続々と教室へ戻っていく。
「あれ? りょうた??」
 のりこが教室へ戻る途中、校庭の片隅にいる二人を見かけた。傍から見ると、そこだけが優しさに包まれている。
「りょうたーっ! 授業始まるよーっ!!」
 のりこは遠くのりょうたに声を掛ける。
「げっ、おねえちゃん......」
 りょうたはバツの悪そうな顔をしている。姉にこの場面を見られては、後で何を言われるか分からない。りょうたは知らぬふりをした。
「姉を無視するなんて......一体何なのよ!」
 りょうたの対応に、のりこは不快感を覚えた。だが、それと同時に頭に疑問符も浮かんだ。
 りょうたが自分から友達へ声を掛けるのは珍しい。ましてや、それが女の子となると尚更。
 あの娘は、りょうたの一体何なのだろうか? そんな疑問を抱きながらのりこは教室へ戻る。
「今のは、りょうたくんのおねえさん......?」
 もえが不思議そうな顔でりょうたへ尋ねる。
「うん、一応ね。正直、男みたいだけど......」
 クラスメイトの男の子と決闘するような姉を、女の子として見る事が出来ないのは当然かもしれない。
「おねえさん、とっても頼りがいがありそう......!」
 その答えに、りょうたは一瞬目が点になる。まさか男のようにガサツな姉を、好意的にみる人物がいるとは!
「りょうたくん、私達も教室へ戻ろう!」
 もえはそう促し、りょうたの手を引いた。その時、りょうたは心が温かくなっていくのを感じた。
 うまく言葉に出来ないけれど、彼女の手から温もり以外の何かが伝わってくる。それだけは確かだった。


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「このベーコン美味しい!」
 のりこは朝からベーコンエッグにむしゃぶりついている。どうやら、自家製ベーコンがよほど気に入ったようだ。
「......」
 一方、りょうたは何やら物思いに耽っている。
「ベーコンいただきっ!」
 のりこにベーコンエッグを奪われても上の空だ。
「のりこ、横取りしないのっ!」
 その様子を見かねて、京子が止めに入る。だが、それでもりょうたは心ここにあらずといったところ。
「りょうた、具合でも悪いの?」
 心配のあまり、京子はりょうたへ声を掛ける。
「ううん、何でもない」
 りょうたはいたって平静を装う。
「珍しいこともあるもんだな」
 良行は呑気に構えている。少なくとも、りょうたが悩んでいる様子ではないと理解しているからこそだろう。
「いってきます!」
 登校の際もいたって平常。今のところ、心配はなさそうだと京子は思った。
「キューン!」
 ルナは、二人を見送るように犬小屋から鼻を鳴らしていた。
「......ルナ、ベーコン食べる?」
 京子はベーコンの端をルナへ餌付けした。自家製ベーコンはタヌキにも好評だ。
「へへっ......」
 のりこは、りょうたが上の空なのをいいことに何やら悪だくみをしている。登校中のいたずらは、のりこにとって楽しみの一つだ。
 彼女の手元には、既にエノコログサが握られている。さて、のりこはこれをどうするつもりなのか?
「こしょこしょ......」
 のりこは、エノコログサでりょうたの首筋をくすぐる。いつもなら、りょうたはびっくりして飛び跳ねるのだが......。
「......え? おねえちゃんどうかした??」
 りょうたは、のりこのいたずらを気にも留めていない様子。
「何か変ね......?」
 彼の様子から、のりこは違和感を覚えた。
「っ! もしかして、くせぇの煙のせいかしら!?」
 燻製の煙に薬物のような中毒性があってはたまったものではない。のりこの見解は的外れも甚だしい。そして、その真相は後に明らかとなる。
ーー
 時は昼休み、りょうたは校庭の片隅にいた。よくみると、そこには何やらスケッチをしている女の子がいた。
「もえちゃん、何してるの?」
 彼女はりょうたの声に気付きハッとする。彼女の名は花島もえ。りょうたのクラスメイトだ。
「えっとね......お花の絵を描いてたの」
 彼女は物静かな性格で、クラスでは影が薄い。基本的には一人でいることが多く、昼休みは専らこのように草木を描いている。
「そうなんだ......」
 自分から声を掛けておきながら、りょうたははにかんでしまい言葉が続かない。
「りょうたくんは、お絵かき好き......?」
 それを察したのか、もえは自ら話題を振る。だが、もえの方もはにかんでいるように見受けられる。二人の会話は、どこかぎこちない。
「お絵かき、まぁまぁかな......?」
 りょうたは彼女の会話に調子を合わせた。普段はのりこに振り回されることが多いりょうたにとって、自分の世界に没頭することなど無縁なのだが......。
「お絵かきって、楽しいよね......」
 もえの手元には、色鉛筆で描かれたツツジの絵があった。その絵は、小学生にしては繊細な色使いだ。
「もえちゃんの絵、とってもきれいだね......」
 りょうたは、もえの絵に魅せられてしまった。というより、彼女自身の可愛らしさにと言った方が正しいかもしれない。
「りょうたくんも、お絵かきする......?」
 もえは、りょうたの気持ちを精一杯受け止めようとしている。不器用な二人のやりとりは、何とも微笑ましい。
 だが、そんなひとときは瞬く間に過ぎていく。昼休みが終わりに近づくにつれ、児童たちは続々と教室へ戻っていく。
「あれ? りょうた??」
 のりこが教室へ戻る途中、校庭の片隅にいる二人を見かけた。傍から見ると、そこだけが優しさに包まれている。
「りょうたーっ! 授業始まるよーっ!!」
 のりこは遠くのりょうたに声を掛ける。
「げっ、おねえちゃん......」
 りょうたはバツの悪そうな顔をしている。姉にこの場面を見られては、後で何を言われるか分からない。りょうたは知らぬふりをした。
「姉を無視するなんて......一体何なのよ!」
 りょうたの対応に、のりこは不快感を覚えた。だが、それと同時に頭に疑問符も浮かんだ。
 りょうたが自分から友達へ声を掛けるのは珍しい。ましてや、それが女の子となると尚更。
 あの娘は、りょうたの一体何なのだろうか? そんな疑問を抱きながらのりこは教室へ戻る。
「今のは、りょうたくんのおねえさん......?」
 もえが不思議そうな顔でりょうたへ尋ねる。
「うん、一応ね。正直、男みたいだけど......」
 クラスメイトの男の子と決闘するような姉を、女の子として見る事が出来ないのは当然かもしれない。
「おねえさん、とっても頼りがいがありそう......!」
 その答えに、りょうたは一瞬目が点になる。まさか男のようにガサツな姉を、好意的にみる人物がいるとは!
「りょうたくん、私達も教室へ戻ろう!」
 もえはそう促し、りょうたの手を引いた。その時、りょうたは心が温かくなっていくのを感じた。
 うまく言葉に出来ないけれど、彼女の手から温もり以外の何かが伝わってくる。それだけは確かだった。