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14 名もなき山寺その5

ー/ー




「じゃあ、10数える間に隠れるんだぞー?いーち、にーい……」

 寺院の中でたくさんの庭木が茂る緑の庭の中、暖かな陽射しを受けて両手で目を隠す。数を数えだすと「きゃーっ」と歓声をあげた子たちが、いろんな方向に駆け出す足音が聞こえる。
 俺の背中にはそれをニコニコしながら見守る颯人と、うんうん唸ってる真さんが立ち並んでいた。
 

「昼の日なかに怨霊たちが駆け回れるとは……私が鬼軍曹を発揮する余地がありません」
「真幸が正しく力発揮して、結界を張ってやればそうなる。そもそもの話、既に子達は皆怨霊とは言えぬ。浄真が施した癒しの時が怨念を薄めているのだから、あの様に愛らしい姿を顕せるのだ」
 
「……夜中に倉庫で延々と話を聞くしかなかったのが、癒しになっているならばいいですが。こんな方法があるとは思いもしませんでした。芦屋さんは本当に規格外すぎて末恐ろしいですよ」



 二人がなんかこそっと話してるけど、気にしないぞ。俺は怨霊?の子達と遊ぶって約束したから、こっちに全振りするんだ。
 
「10!みんな隠れたかー?行くぞー!」

 一番小さな子を抱っこして、かくれんぼの鬼としてみんなを探しに行く。
 6歳以下の子ばかりだが、みんな上手に隠れてる。ちょびっと服の裾が出たり、丁髷の先が見えてたりするけど。
確かに結界は上手に出来たとは思う。だって、みんな可愛い子供の姿だったから全然怖くないし。

「あっ、めだまがおちてるよ」
「誰か落としたんだな。拾っておくか」
「うっかりさんだねぇ」
「ほんとだな」

 

 腕の中にいる子は3歳の男の子。右腕が丸ごとなくて、肋骨が透けて見えてるけどニコニコして可愛い男の子だ。
 この子は、十年に一度の習慣として大きな湖に生贄として捧げられていた一人。小太郎君と同じように神への遣いとしてその身を捧げられた。

 伏見さんみたいに細い目をしているけど、ほっぺが真っ赤でりんごみたいだ。
 小さな子って、どうしてこんなに可愛い頬をしてるんだろうな……。

  
 そうそう、山寺への参道が綺麗な訳がようやくわかった。
 先祖代々子供を生贄に捧げて来た子孫がそれを悼み、全てを預かってくれる真さんのために…いつでも綺麗にしてくれているそうだ。

 悲しい歴史の上に成り立つこの地の繁栄をちゃんと理解して、犠牲になった命に『何もしてあげられないから』とお寺の様々なお仕事を手伝ってくれている。
 日本の地方には様々な因習があるけれど、こんなに多くの命が捧げられたのは治水が及ばなかったからだ。
 
 颯人曰く、古代の神もまだ若かったしそれをよしとする風潮もあったらしい。人の力が及びきれない時代の落とし子……それが怨霊となり子孫の幸せを祈った人の意に反する現実となってしまった。
 怨霊は現世に引き止められるから生命の流転に戻れず、ずっと……この世で苦しんでいる。

 誰が悪い、誰が良いと言い切れないし、今更それを辿っても何の意味もない。それなら、自分のできる事をしてあげたいと思う。


 
「まさき、そこにタロウがいる。あっちにヤスケ、そのよこにサブロウ」
「あはは!ユウジロウは優秀な鬼さんだな。みーつけた!」

「見つかったー!」
「すごいね!すぐ見つかっちゃった!」

「んふふ。さーて、あとはどこにいるかなー?」


 子供たちはみんな、体のどこかが欠けている。亡くなる際の怪我がそのまま残っていて痛そうなんだが、これは真さんが長年の対話によって癒して無くしてくれている。
 本当にすごいのは、真さんだと思う。俺なんか足元にも及ばないよ。

 

 その後もユウジロウの助けでほとんどが見つかったけど、本当に上手に隠れてる最後の一人が見つからない。
 コトリバコの生贄の一人として加わったショウタロウだ。
 
 コトリバコ……と言うのは、都市伝説の一つ、ホラー界隈の有名な伝説だった。酷い迫害を受けていた集落の人たちが、それを覆す品物として外部からもたらされたもの。
 寄木細工の箱の中には無惨な方法によって殺された子たちの一部が入っていて、その折り重なった怨念によってコトリバコを手渡された人は凄惨な死を遂げると言われている。

 呪いを受けるのは子供を産むことができる女性、そして小さな子だけ。
 コトリバコにはランクがあり、外部からやって来た人が持ち込んだのは怨念の数が恐ろしいほど積み重なったもので……snsでは『相手を殺す武器』として使用されていた過去が明かされている。

 これが日本古来の物なのか、海外から持ち込まれた物なのかは分からないけれど、持ち込んだ人でさえ『二度と作ってはならない』と認識していたような呪物だ。
 当時の武器、と言うのが何を示すか。子供は人口そのもの、発展していく力であり宝だ。
 それを潰すためのコトリバコが武器。働き手を、人口そのものを減らして村自体を滅ぼすという事。要するに、他の集落を害するための道具だ。

 今では考えられないけれど、村で生まれた子たちはみんな村を守る戦士でもあった。お年寄りばかりになれば、攻め入る事も容易くなる。



 こんなに可愛い子達なのに、争いのために殺されたんだ。コトリバコを作る際は『出来るだけ恐ろしい殺し方』をしなければならないとされる。
 俺が拾った目玉を持っている子は、全身をもがれ、苦しみながら死んだ子だった。
 その恨みで人を殺してしまう力を持っていたけれど、それを無力化して怨念の元になっている子たちはみんな……成仏できる日を待っているだけの、可愛い可愛い少年少女だ。
 
 こんな風になれるまで、真さんがどれだけこの子達を思って相対して来たのか。
 真さんの話を受け入れられるようになるまで、犠牲者である子達がどれだけの悲しみを抱えて苦しんでいたのか。

 ……それを思うと、胸が痛い。

 

 命の形代、怨念を閉じ込めておくための呪物から姿を現した時にはもう、みんな優しい目をしていた。
 純朴で、汚れのない心を持っているのがわかった。
だからこそ神様への遣いとして殺されてしまったし、純粋な怨念を抱ける大きな力を持った。

 
 七五三のお祝いは、昔の子が病や栄養不足で亡くなる事例が多かったからこそできた物だ。三.五.七歳のお祝いすると同時に長生きできるよう神様に祈る行事だった。
『7つ前は神のうち』と言われていた通り、七歳になるまでは〝神様から預かった命〟と言われている。

 颯人曰く『世の汚れを知らぬうちの無垢な魂だからこそ、呪いの純度が高く、怨念が強い』……と言うことだった。


 
「そこにうでがおっこちてる。あっちにあしがある」
「ははぁ、ショウタロウは慌てて隠れたのかな?落とし物ばっかりだ」
 
「ううん。ショウタロウはねぇ、みつけてほしいの。これはめじるしなの。ずーっとずーっと、つちのしたにかくされてたから」
 
「……そうか」
「ボクたちはみんなそうだよ。みつけてもらえるまでずっと、ずっとまっていたの。」
「ごめんな、ずっと待たせて。みんな良い子で待っててくれたのにな。ユウジロウも、良く頑張ったな」
「えへへ……」


 ユウジロウ君の頭を撫でると、赤いほっぺがますます赤くなって、照れて微笑みが浮かぶ。胸の中の痛みはその笑みによって優しい気持ちに変わっていく。この子達に癒されてるのは、俺の方なんだ。

 
 目の前にある茂みがカサッと音を立てる。俺がユウジロウを抱っこしてるから、指を咥えてショウタロウが羨ましそうにしていた。
 ほとんど体が見えてるな…寂しくなっちゃったか。

 

「ショウタロウ、見ーつけた!」
「……み、見つかった!」
「ふふ、おいで。目玉やら腕やらおっことしてたぞ。ちゃんとくっつけて、今度は一緒に鬼やろっか」
「うん!」

 茂みから走り寄って来て、ショウタロウが足元に抱きついてくる。
ひざをついて抱きしめると、小さな子特有の可愛い笑い声が聞こえて…俺はその子の温かさに唇を噛み締めた。

 ━━━━━━

 

「これがタラの芽、あっちに蕗の薹があります。三つ葉に…そこの野蒜も取っていきましょうか」
「よし、じゃあみんなで食べられるように沢山収穫しましょう!」
「はいはい、忙しくなりますねぇ」

「タラの芽は我が取ってやろう。背の高い枝もある。棘が刺さっては痛いからな」
「ありがとう。颯人、頼むね」
「応」 

 颯人と真さんと三人…俺は背中にショウタロウを背負って、散々遊んでくたびれたお昼寝組をお寺に残して山菜採りにやって来た。
 
 冬の終わり、春の初めに生えてくる山菜たちがそれぞれ生えてる。本当に山菜が取り放題だな。


 俺は木の葉の間から目を出した蕗の薹に手を伸ばし、戸惑う。
 ……こんなにニョキっと生えてたら苦すぎるかな。これは雪の下からわずかに顔を出したくらいが食べごろなんだが、葉が開いて花が咲きニョキニョキ伸びてしまって居る。
 これは蕗の()だけど、可食部の蕗は別の場所から生えてくる。伸び切った蕗の薹は枯れてしまうから食べてしまいたいが、ここまでになると味が落ちて苦くなるとネットに書いてあった。


 
「あ、あのね。伸びてても、これは食べれるの」
「ん?そうなのか?花が開いて硬そうだけど……」
「違うの。くきの部分を食べるの。ふうきと違って二回ゆでなくて良いから、おっかあもよく食べてた」
「そうなのか!?知らなかったな…ショウタロウはすごいなぁ。教えてくれてありがとう」
「うん!うん!」


 普通のお花みたいに細めの茎がニョキっと伸びて、先端に見慣れた蕗の花が咲いてるんだが……そうか、茎を食べるのか。
 蕨みたいに根本からポキポキ折って収穫すると、蕗の匂いがしてくる。
 爽やかな香りなんだが、味を知ってるからかほろ苦いような気がする。独特の匂いだけど、大人としてはこれがたまらない。これをつまみにビールでも飲めたら最高だろうな。


  
「ショウタロウ、蕗の薹は好きか?」
「ううん。好きじゃない。苦いもん」
 
「あっはは、そうだよなぁ…俺も子供の時は苦手だった。でもね、天ぷらにマヨネーズつけて食べるとあんまり苦くないんだぞ」
「まよ…?なあにそれ。」

「油と、卵、お酢を使った調味料だよ。みんなも好きだと思う。」
「卵に油……凄いねぇ、贅沢だね」
「そうだな。すごく贅沢なんだ。しかも、めちゃくちゃ美味しいぞ」
「わぁぁ……!」



 目がキラキラしてる…かわいいな。当時の子達にとっては卵も油も完全に贅沢品だ。後で作りたてのマヨネーズを食べさせてあげよう。子供は味覚が敏感だから、苦味の強い山菜はもしかしたら苦手かもしれん。うっかりしてた。
 真さんと相談して、味付けを工夫するか…。

  
「あの、あの……」
「ん?どした?疲れたか?」 
「ちがうの、おいもお手伝いする」 
「わ、本当か?お願いします」
「はぁい!」

 
 ショウタロウは手慣れた仕草で蕗の薹をあっという間に山盛りに摘み出した。凄く早い……小さな頃から山に入っていたのだろう、俺より早く歩いてどさどさ蕗の薹をカゴに入れていく。

 
「あっ!さんしょうがあるよ」
「なんだって!?ど、どれ?」
「これ。こっちがめの木、こっちはおの木。実がなってる」
「山椒って雄雌があるのか??」 
「うん、実がなるのはめの木だけ」
 
「へええぇ……これもとっていこう。みんなにはちょっと辛いかな?」
「お味噌と一緒にお母ちゃんが焼いてた。おいは好きだよ」
「山椒味噌か。お砂糖入れたら食べれるかな……ショウタロウも食べるか?」
「うん」


 二人で山椒の木から新芽と実を摘む。指先から山椒のピリリと爽やかな香りがして、お腹が空いて来た。これは夏から秋にかけての分類だけど、天変地異の影響で新芽だらけで生き生きしてる。
 確かにこれは山に入る人にとっては僥倖だな。
 
 ショウタロウはひとしきり実を摘んで、山の下に広がる街を眺めていた。
――少し寂しそうな顔をして。

「ショウタロウ!隙あり!」
「きゃぁ!くすぐったい!!」
「んふふ、脇腹が弱点だな!こちょこちょ……」
「くふふ…んふ…………まさき……」



 ショウタロウをくすぐって、最初は笑っていたけどその顔がだんだん曇っていく。俺は何も言えなくなって、両手を繋いでおでこをくっつける。彼の大きな瞳から涙が溢れて頬に伝った。

「あそこに、沢山人がいるね」
「うん」 
「でも、でも……おいのおかあも、おとうも、いないんだ」
「……うん」

「おいは、人を殺したけどおかあたちに会える?いけないことをしたら地獄へ行くでしょう?おかあと、おとうはちがうと思うの。……だから、怖い」
 
「そんな事ない。ショウタロウはお母さんとお父さんに必ず会える。
 長い間、痛かったのに我慢して寂しかったのに頑張っていた。……その姿を見ていた神様が、地獄になんか送らないよ。俺がちゃーんと送る。大丈夫だからね」

 
 うん、と小さく呟いたショウタロウの濡れた頬を拭い、小さな彼を抱きしめる。
 人を殺したと言う自覚があるのが辛い。怨念になってからの事も記憶が残ってしまうんだな。

 人の命を弄び、武器としてコトリバコを作った人には怒りしかないけど……その分、ショウタロウに楽しい思い出を作って、美味しいものを食べてもらって笑顔で天上へと逝けるようにしてあげたい。
 俺には、それしかできないから。


 
「芦屋さーん!そろそろ戻りましょう!みんなお腹を空かせてますよ!」
「はーい!」

 自分の目からもこぼれた雫を拭って籠を背負い、ショウタロウを抱っこしたまま山寺へと登っていく。
 しがみついてくるショウタロウの体温が切なくて、悲しい。
それを胸の奥に押し込めて、可愛いショウタロウを強く抱きしめた。


 ━━━━━━


 
「味噌に味噌にマヨネーズですか!なるほど、苦味を抑えるんですな」
「そうです。ゴーヤとかもそうだけど、塩だけじゃ抜けきらない苦味は砂糖で緩和できます。小さい子もこれで食べれると思いますよ」
 
「まよ…なんとかは白いね!」
「そうそう。卵を四つも使ったから、めちゃくちゃ贅沢だぞ。」
 
「すごい…どんな味なの?お酢を入れたから、酸っぱいの?」
「少し酸っぱいけど、きっと好きな味だよ。さあ、できた。みんなを呼んできてくれるか?」
「うん!」


 くっつきっぱなしだったショウタロウが廊下をかけて、お昼寝してるみんなを起こしに行ってくれる。
 俺たちは本堂の脇の縁側に座布団を沢山敷いて、ご飯を並べていく。
真さんが出してくれた赤いお膳は一つ一つがしっかりした作りで、とっても綺麗だ。お昼の豪華さがマシマシだな。

 

「芦屋さん、子供が好きですか」
「そう……見えますか?実は俺、施設育ちなんですよ。小さい子は好きだし、慣れてます」
「そうでしたか。お子様がいるかと思いました。みんながよく懐いていますから。……私よりも」
 
「そ、そんな事ないでしょう?長い間傍に居てくれた真さんのことだって、ちゃんと好きだと思いますけど」

 
 目の前で拗ねたような顔をしてる真さんは、年上だと思ってはいたけど……まさか五十歳過ぎてるとは思わなかった。歳を聞いて冗談だと思えるくらいには若く見える。
 伏見さんと同期だから勝手に同年代だと思ったけど、陰陽師は年齢が関係ないみたいだ。熟練の術師として裏公務員をしていたみたいで、結界を作る時の教え方もとっても上手だったし。

 褒められてばっかりで鬼軍曹だったなんて思えないんだけどな。とても優しい人だ。


 
「あの子たちは夜の時間にしか姿を現しませんでした。子供達の表情を読み取れるようになるまでは時間がかかりましたし、言う事をなかなか聞いてくれないんですから」
「ふふ。小さい子にはちゃんと自我がありますからね。怨念だった頃なら難しいかもしれませんけど、ショウタロウなんかすぐに顔に出るでしょう?甘えん坊で、可愛い子ですよ」


 真さんが手を止めて、俺の手を握ってくる。……手のひらを撫でて、俺の目を覗き込んで来た。
 真さんには俺の過去も、見えてるみたいだ。



「芦屋さんの経験した人生が、子供達をそうさせて居るのですよ。本当の痛みをわかってくれる人だと理解して居るのです。
 私はまだ未熟者だ、と自覚させていただきました。芦屋さんを見習って、精進します」
「真さんに言われると困るんですが。俺こそ精進しなきゃですから。」

 二人して手を繋いで見つめ合ってると、颯人が俺のワキをガシッと掴んで持ち上げる。プラーンとぶら下がった体の横から顔を出して、真さんを睨んだ。


「これは我のばでぃだ。浄真にはやらぬ」
「そう言わず、半分ください」
「真さん!?半分はちょっと困りますけど!?」
 
「颯人様も芦屋さんもケチですね」
「いや、俺分裂できませんし……」

 頓珍漢なやり取りをして居ると、子供達がやって来た。大きな子が小さな子を抱いて、小さな子たちはみんな手を繋いでいる。


「子供は思って居るよりも大人だと言うことですね。子供扱いをしたいのは大人の方だったようです」
「そうですね。午後はみんなでお掃除でもして、体を動かしましょう。何となく、みんな動きたくてウズウズしてるみたいな感じがします」
 
「そのようですな。怨念もまた、人を動かす力になるのでしょう。芦屋さんにはいい事を沢山教わりました」


 満足げに頷かれてしまうけど、俺はただみんなと遊んだだけだ。でも、夜中に一人であの蔵のなかでじっとしてお話をするよりもこうして陽の下で動いた方が健康には良さそう。


 

「まさき!お腹すいた!」
「おなか、すいたー!」
「まさきのおひざにのる!」
「ぼくも、乗りたい」 

「んふ、順番にな。小さい子からだぞ?」


 お行儀よく子供達がお膳を持って縁側に座り、それぞれが手を合わせる。
 真さんの方を見て……可愛いな、ちゃんとお寺の主人である彼の合図を待ってるんだ。

「はいはい、では手を合わせて……いただきます!」

 みんな「いただきます」と声を揃えて、子供たちはマヨネーズに箸を突っ込む。一口舐めて、目を見開き……マヨネーズばっかり食べてる。


「マヨネーズに山菜をつけて食べるんだぞ。おかわりはあるけど、ショウタロウが一生懸命採ってくれたんだから他のものと一緒に美味しく食べてくれよ」
 
「まよ、おいしい!」
「ふーきはにがいでしょ?ボク、ちょっとすきじゃない」

「マヨネーズにつけて食べてごらん、美味しいよ。蕗は蕗の薹の茎だから、ちょびっと苦いだけだよ。甘く煮てあるからご飯と一緒に食べて」
 
「……あーん」

  
「ふふ、ヤスケは甘えん坊さんだな。食べさせて欲しいのか?」
「ん。」

 俺の膝の上に一番乗りしたヤスケは口を開けて、お茶碗を差し出してくる。
 蕗の薹を甘辛く煮付けたおかずを添えて口に入れてやると、まだ生えそろっていない歯を使って一生懸命もぐもぐしてる。
 何度か口に運んでやると、満足したのか次々に交代してみんながお茶碗を差し出して来た。


「これ、子供たち。それでは真幸が食べられぬ。我の膝にも来い」 
「……はやとに乗ってもいいの?」
「良いぞ。我の膝は真幸よりも大きい。皆まとめて乗るが良い」

 

 颯人があぐらをかいて、子供達を摘んで持ち上げ、膝に乗せる。
 子供達がみんなお茶碗を差し出して、颯人がはじから次々に口の中にご飯を入れて……。颯人こそ子供の扱いに慣れてる。

 
「颯人様が子供に慣れて居る……ですと!?」
「我には子がいたのだ。一度に面倒を見るなど容易いことよ。目を追えば食べたいものがわかる。経験せねばこれはわからぬだろう」
 
「はー、なるほど……では私も見習ってみましょう。さて、浄真の膝には誰か来ませんか?一人では寂しくて食べられないですねぇ」
「ぼく、おひざに乗ってもいい?」
「じゃあボクも」
「あたしも!」


 俺たち三人の元へ均等に分かれた子たちは天ぷらや煮物、真さんが作ってくれた挽肉のそぼろ炒めを食べて、目を細めてニコニコしてる。
 きっと……俺たちが居なくなって、真さんが一人になっても、寂しくないだろう。朝から晩までこんなふうに賑やかなら、彼も楽しく暮らせるのかもしれない。

 賑やかな食事に笑い声、優しいお昼の時間がゆったりと過ぎていく。
忙しくてささくれ立っていた心も、疲労が蓄積した体も軽くなるような気がした。
 

 
 
 
 

 


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「じゃあ、10数える間に隠れるんだぞー?いーち、にーい……」
 寺院の中でたくさんの庭木が茂る緑の庭の中、暖かな陽射しを受けて両手で目を隠す。数を数えだすと「きゃーっ」と歓声をあげた子たちが、いろんな方向に駆け出す足音が聞こえる。
 俺の背中にはそれをニコニコしながら見守る颯人と、うんうん唸ってる真さんが立ち並んでいた。
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 二人がなんかこそっと話してるけど、気にしないぞ。俺は怨霊?の子達と遊ぶって約束したから、こっちに全振りするんだ。
「10!みんな隠れたかー?行くぞー!」
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 6歳以下の子ばかりだが、みんな上手に隠れてる。ちょびっと服の裾が出たり、丁髷の先が見えてたりするけど。
確かに結界は上手に出来たとは思う。だって、みんな可愛い子供の姿だったから全然怖くないし。
「あっ、めだまがおちてるよ」
「誰か落としたんだな。拾っておくか」
「うっかりさんだねぇ」
「ほんとだな」
 腕の中にいる子は3歳の男の子。右腕が丸ごとなくて、肋骨が透けて見えてるけどニコニコして可愛い男の子だ。
 この子は、十年に一度の習慣として大きな湖に生贄として捧げられていた一人。小太郎君と同じように神への遣いとしてその身を捧げられた。
 伏見さんみたいに細い目をしているけど、ほっぺが真っ赤でりんごみたいだ。
 小さな子って、どうしてこんなに可愛い頬をしてるんだろうな……。
 そうそう、山寺への参道が綺麗な訳がようやくわかった。
 先祖代々子供を生贄に捧げて来た子孫がそれを悼み、全てを預かってくれる真さんのために…いつでも綺麗にしてくれているそうだ。
 悲しい歴史の上に成り立つこの地の繁栄をちゃんと理解して、犠牲になった命に『何もしてあげられないから』とお寺の様々なお仕事を手伝ってくれている。
 日本の地方には様々な因習があるけれど、こんなに多くの命が捧げられたのは治水が及ばなかったからだ。
 颯人曰く、古代の神もまだ若かったしそれをよしとする風潮もあったらしい。人の力が及びきれない時代の落とし子……それが怨霊となり子孫の幸せを祈った人の意に反する現実となってしまった。
 怨霊は現世に引き止められるから生命の流転に戻れず、ずっと……この世で苦しんでいる。
 誰が悪い、誰が良いと言い切れないし、今更それを辿っても何の意味もない。それなら、自分のできる事をしてあげたいと思う。
「まさき、そこにタロウがいる。あっちにヤスケ、そのよこにサブロウ」
「あはは!ユウジロウは優秀な鬼さんだな。みーつけた!」
「見つかったー!」
「すごいね!すぐ見つかっちゃった!」
「んふふ。さーて、あとはどこにいるかなー?」
 子供たちはみんな、体のどこかが欠けている。亡くなる際の怪我がそのまま残っていて痛そうなんだが、これは真さんが長年の対話によって癒して無くしてくれている。
 本当にすごいのは、真さんだと思う。俺なんか足元にも及ばないよ。
 その後もユウジロウの助けでほとんどが見つかったけど、本当に上手に隠れてる最後の一人が見つからない。
 コトリバコの生贄の一人として加わったショウタロウだ。
 コトリバコ……と言うのは、都市伝説の一つ、ホラー界隈の有名な伝説だった。酷い迫害を受けていた集落の人たちが、それを覆す品物として外部からもたらされたもの。
 寄木細工の箱の中には無惨な方法によって殺された子たちの一部が入っていて、その折り重なった怨念によってコトリバコを手渡された人は凄惨な死を遂げると言われている。
 呪いを受けるのは子供を産むことができる女性、そして小さな子だけ。
 コトリバコにはランクがあり、外部からやって来た人が持ち込んだのは怨念の数が恐ろしいほど積み重なったもので……snsでは『相手を殺す武器』として使用されていた過去が明かされている。
 これが日本古来の物なのか、海外から持ち込まれた物なのかは分からないけれど、持ち込んだ人でさえ『二度と作ってはならない』と認識していたような呪物だ。
 当時の武器、と言うのが何を示すか。子供は人口そのもの、発展していく力であり宝だ。
 それを潰すためのコトリバコが武器。働き手を、人口そのものを減らして村自体を滅ぼすという事。要するに、他の集落を害するための道具だ。
 今では考えられないけれど、村で生まれた子たちはみんな村を守る戦士でもあった。お年寄りばかりになれば、攻め入る事も容易くなる。
 こんなに可愛い子達なのに、争いのために殺されたんだ。コトリバコを作る際は『出来るだけ恐ろしい殺し方』をしなければならないとされる。
 俺が拾った目玉を持っている子は、全身をもがれ、苦しみながら死んだ子だった。
 その恨みで人を殺してしまう力を持っていたけれど、それを無力化して怨念の元になっている子たちはみんな……成仏できる日を待っているだけの、可愛い可愛い少年少女だ。
 こんな風になれるまで、真さんがどれだけこの子達を思って相対して来たのか。
 真さんの話を受け入れられるようになるまで、犠牲者である子達がどれだけの悲しみを抱えて苦しんでいたのか。
 ……それを思うと、胸が痛い。
 命の形代、怨念を閉じ込めておくための呪物から姿を現した時にはもう、みんな優しい目をしていた。
 純朴で、汚れのない心を持っているのがわかった。
だからこそ神様への遣いとして殺されてしまったし、純粋な怨念を抱ける大きな力を持った。
 七五三のお祝いは、昔の子が病や栄養不足で亡くなる事例が多かったからこそできた物だ。三.五.七歳のお祝いすると同時に長生きできるよう神様に祈る行事だった。
『7つ前は神のうち』と言われていた通り、七歳になるまでは〝神様から預かった命〟と言われている。
 颯人曰く『世の汚れを知らぬうちの無垢な魂だからこそ、呪いの純度が高く、怨念が強い』……と言うことだった。
「そこにうでがおっこちてる。あっちにあしがある」
「ははぁ、ショウタロウは慌てて隠れたのかな?落とし物ばっかりだ」
「ううん。ショウタロウはねぇ、みつけてほしいの。これはめじるしなの。ずーっとずーっと、つちのしたにかくされてたから」
「……そうか」
「ボクたちはみんなそうだよ。みつけてもらえるまでずっと、ずっとまっていたの。」
「ごめんな、ずっと待たせて。みんな良い子で待っててくれたのにな。ユウジロウも、良く頑張ったな」
「えへへ……」
 ユウジロウ君の頭を撫でると、赤いほっぺがますます赤くなって、照れて微笑みが浮かぶ。胸の中の痛みはその笑みによって優しい気持ちに変わっていく。この子達に癒されてるのは、俺の方なんだ。
 目の前にある茂みがカサッと音を立てる。俺がユウジロウを抱っこしてるから、指を咥えてショウタロウが羨ましそうにしていた。
 ほとんど体が見えてるな…寂しくなっちゃったか。
「ショウタロウ、見ーつけた!」
「……み、見つかった!」
「ふふ、おいで。目玉やら腕やらおっことしてたぞ。ちゃんとくっつけて、今度は一緒に鬼やろっか」
「うん!」
 茂みから走り寄って来て、ショウタロウが足元に抱きついてくる。
ひざをついて抱きしめると、小さな子特有の可愛い笑い声が聞こえて…俺はその子の温かさに唇を噛み締めた。
 ━━━━━━
「これがタラの芽、あっちに蕗の薹があります。三つ葉に…そこの野蒜も取っていきましょうか」
「よし、じゃあみんなで食べられるように沢山収穫しましょう!」
「はいはい、忙しくなりますねぇ」
「タラの芽は我が取ってやろう。背の高い枝もある。棘が刺さっては痛いからな」
「ありがとう。颯人、頼むね」
「応」 
 颯人と真さんと三人…俺は背中にショウタロウを背負って、散々遊んでくたびれたお昼寝組をお寺に残して山菜採りにやって来た。
 冬の終わり、春の初めに生えてくる山菜たちがそれぞれ生えてる。本当に山菜が取り放題だな。
 俺は木の葉の間から目を出した蕗の薹に手を伸ばし、戸惑う。
 ……こんなにニョキっと生えてたら苦すぎるかな。これは雪の下からわずかに顔を出したくらいが食べごろなんだが、葉が開いて花が咲きニョキニョキ伸びてしまって居る。
 これは蕗の|蕾《・》だけど、可食部の蕗は別の場所から生えてくる。伸び切った蕗の薹は枯れてしまうから食べてしまいたいが、ここまでになると味が落ちて苦くなるとネットに書いてあった。
「あ、あのね。伸びてても、これは食べれるの」
「ん?そうなのか?花が開いて硬そうだけど……」
「違うの。くきの部分を食べるの。ふうきと違って二回ゆでなくて良いから、おっかあもよく食べてた」
「そうなのか!?知らなかったな…ショウタロウはすごいなぁ。教えてくれてありがとう」
「うん!うん!」
 普通のお花みたいに細めの茎がニョキっと伸びて、先端に見慣れた蕗の花が咲いてるんだが……そうか、茎を食べるのか。
 蕨みたいに根本からポキポキ折って収穫すると、蕗の匂いがしてくる。
 爽やかな香りなんだが、味を知ってるからかほろ苦いような気がする。独特の匂いだけど、大人としてはこれがたまらない。これをつまみにビールでも飲めたら最高だろうな。
「ショウタロウ、蕗の薹は好きか?」
「ううん。好きじゃない。苦いもん」
「あっはは、そうだよなぁ…俺も子供の時は苦手だった。でもね、天ぷらにマヨネーズつけて食べるとあんまり苦くないんだぞ」
「まよ…?なあにそれ。」
「油と、卵、お酢を使った調味料だよ。みんなも好きだと思う。」
「卵に油……凄いねぇ、贅沢だね」
「そうだな。すごく贅沢なんだ。しかも、めちゃくちゃ美味しいぞ」
「わぁぁ……!」
 目がキラキラしてる…かわいいな。当時の子達にとっては卵も油も完全に贅沢品だ。後で作りたてのマヨネーズを食べさせてあげよう。子供は味覚が敏感だから、苦味の強い山菜はもしかしたら苦手かもしれん。うっかりしてた。
 真さんと相談して、味付けを工夫するか…。
「あの、あの……」
「ん?どした?疲れたか?」 
「ちがうの、おいもお手伝いする」 
「わ、本当か?お願いします」
「はぁい!」
 ショウタロウは手慣れた仕草で蕗の薹をあっという間に山盛りに摘み出した。凄く早い……小さな頃から山に入っていたのだろう、俺より早く歩いてどさどさ蕗の薹をカゴに入れていく。
「あっ!さんしょうがあるよ」
「なんだって!?ど、どれ?」
「これ。こっちがめの木、こっちはおの木。実がなってる」
「山椒って雄雌があるのか??」 
「うん、実がなるのはめの木だけ」
「へええぇ……これもとっていこう。みんなにはちょっと辛いかな?」
「お味噌と一緒にお母ちゃんが焼いてた。おいは好きだよ」
「山椒味噌か。お砂糖入れたら食べれるかな……ショウタロウも食べるか?」
「うん」
 二人で山椒の木から新芽と実を摘む。指先から山椒のピリリと爽やかな香りがして、お腹が空いて来た。これは夏から秋にかけての分類だけど、天変地異の影響で新芽だらけで生き生きしてる。
 確かにこれは山に入る人にとっては僥倖だな。
 ショウタロウはひとしきり実を摘んで、山の下に広がる街を眺めていた。
――少し寂しそうな顔をして。
「ショウタロウ!隙あり!」
「きゃぁ!くすぐったい!!」
「んふふ、脇腹が弱点だな!こちょこちょ……」
「くふふ…んふ…………まさき……」
 ショウタロウをくすぐって、最初は笑っていたけどその顔がだんだん曇っていく。俺は何も言えなくなって、両手を繋いでおでこをくっつける。彼の大きな瞳から涙が溢れて頬に伝った。
「あそこに、沢山人がいるね」
「うん」 
「でも、でも……おいのおかあも、おとうも、いないんだ」
「……うん」
「おいは、人を殺したけどおかあたちに会える?いけないことをしたら地獄へ行くでしょう?おかあと、おとうはちがうと思うの。……だから、怖い」
「そんな事ない。ショウタロウはお母さんとお父さんに必ず会える。
 長い間、痛かったのに我慢して寂しかったのに頑張っていた。……その姿を見ていた神様が、地獄になんか送らないよ。俺がちゃーんと送る。大丈夫だからね」
 うん、と小さく呟いたショウタロウの濡れた頬を拭い、小さな彼を抱きしめる。
 人を殺したと言う自覚があるのが辛い。怨念になってからの事も記憶が残ってしまうんだな。
 人の命を弄び、武器としてコトリバコを作った人には怒りしかないけど……その分、ショウタロウに楽しい思い出を作って、美味しいものを食べてもらって笑顔で天上へと逝けるようにしてあげたい。
 俺には、それしかできないから。
「芦屋さーん!そろそろ戻りましょう!みんなお腹を空かせてますよ!」
「はーい!」
 自分の目からもこぼれた雫を拭って籠を背負い、ショウタロウを抱っこしたまま山寺へと登っていく。
 しがみついてくるショウタロウの体温が切なくて、悲しい。
それを胸の奥に押し込めて、可愛いショウタロウを強く抱きしめた。
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「味噌に味噌にマヨネーズですか!なるほど、苦味を抑えるんですな」
「そうです。ゴーヤとかもそうだけど、塩だけじゃ抜けきらない苦味は砂糖で緩和できます。小さい子もこれで食べれると思いますよ」
「まよ…なんとかは白いね!」
「そうそう。卵を四つも使ったから、めちゃくちゃ贅沢だぞ。」
「すごい…どんな味なの?お酢を入れたから、酸っぱいの?」
「少し酸っぱいけど、きっと好きな味だよ。さあ、できた。みんなを呼んできてくれるか?」
「うん!」
 くっつきっぱなしだったショウタロウが廊下をかけて、お昼寝してるみんなを起こしに行ってくれる。
 俺たちは本堂の脇の縁側に座布団を沢山敷いて、ご飯を並べていく。
真さんが出してくれた赤いお膳は一つ一つがしっかりした作りで、とっても綺麗だ。お昼の豪華さがマシマシだな。
「芦屋さん、子供が好きですか」
「そう……見えますか?実は俺、施設育ちなんですよ。小さい子は好きだし、慣れてます」
「そうでしたか。お子様がいるかと思いました。みんながよく懐いていますから。……私よりも」
「そ、そんな事ないでしょう?長い間傍に居てくれた真さんのことだって、ちゃんと好きだと思いますけど」
 目の前で拗ねたような顔をしてる真さんは、年上だと思ってはいたけど……まさか五十歳過ぎてるとは思わなかった。歳を聞いて冗談だと思えるくらいには若く見える。
 伏見さんと同期だから勝手に同年代だと思ったけど、陰陽師は年齢が関係ないみたいだ。熟練の術師として裏公務員をしていたみたいで、結界を作る時の教え方もとっても上手だったし。
 褒められてばっかりで鬼軍曹だったなんて思えないんだけどな。とても優しい人だ。
「あの子たちは夜の時間にしか姿を現しませんでした。子供達の表情を読み取れるようになるまでは時間がかかりましたし、言う事をなかなか聞いてくれないんですから」
「ふふ。小さい子にはちゃんと自我がありますからね。怨念だった頃なら難しいかもしれませんけど、ショウタロウなんかすぐに顔に出るでしょう?甘えん坊で、可愛い子ですよ」
 真さんが手を止めて、俺の手を握ってくる。……手のひらを撫でて、俺の目を覗き込んで来た。
 真さんには俺の過去も、見えてるみたいだ。
「芦屋さんの経験した人生が、子供達をそうさせて居るのですよ。本当の痛みをわかってくれる人だと理解して居るのです。
 私はまだ未熟者だ、と自覚させていただきました。芦屋さんを見習って、精進します」
「真さんに言われると困るんですが。俺こそ精進しなきゃですから。」
 二人して手を繋いで見つめ合ってると、颯人が俺のワキをガシッと掴んで持ち上げる。プラーンとぶら下がった体の横から顔を出して、真さんを睨んだ。
「これは我のばでぃだ。浄真にはやらぬ」
「そう言わず、半分ください」
「真さん!?半分はちょっと困りますけど!?」
「颯人様も芦屋さんもケチですね」
「いや、俺分裂できませんし……」
 頓珍漢なやり取りをして居ると、子供達がやって来た。大きな子が小さな子を抱いて、小さな子たちはみんな手を繋いでいる。
「子供は思って居るよりも大人だと言うことですね。子供扱いをしたいのは大人の方だったようです」
「そうですね。午後はみんなでお掃除でもして、体を動かしましょう。何となく、みんな動きたくてウズウズしてるみたいな感じがします」
「そのようですな。怨念もまた、人を動かす力になるのでしょう。芦屋さんにはいい事を沢山教わりました」
 満足げに頷かれてしまうけど、俺はただみんなと遊んだだけだ。でも、夜中に一人であの蔵のなかでじっとしてお話をするよりもこうして陽の下で動いた方が健康には良さそう。
「まさき!お腹すいた!」
「おなか、すいたー!」
「まさきのおひざにのる!」
「ぼくも、乗りたい」 
「んふ、順番にな。小さい子からだぞ?」
 お行儀よく子供達がお膳を持って縁側に座り、それぞれが手を合わせる。
 真さんの方を見て……可愛いな、ちゃんとお寺の主人である彼の合図を待ってるんだ。
「はいはい、では手を合わせて……いただきます!」
 みんな「いただきます」と声を揃えて、子供たちはマヨネーズに箸を突っ込む。一口舐めて、目を見開き……マヨネーズばっかり食べてる。
「マヨネーズに山菜をつけて食べるんだぞ。おかわりはあるけど、ショウタロウが一生懸命採ってくれたんだから他のものと一緒に美味しく食べてくれよ」
「まよ、おいしい!」
「ふーきはにがいでしょ?ボク、ちょっとすきじゃない」
「マヨネーズにつけて食べてごらん、美味しいよ。蕗は蕗の薹の茎だから、ちょびっと苦いだけだよ。甘く煮てあるからご飯と一緒に食べて」
「……あーん」
「ふふ、ヤスケは甘えん坊さんだな。食べさせて欲しいのか?」
「ん。」
 俺の膝の上に一番乗りしたヤスケは口を開けて、お茶碗を差し出してくる。
 蕗の薹を甘辛く煮付けたおかずを添えて口に入れてやると、まだ生えそろっていない歯を使って一生懸命もぐもぐしてる。
 何度か口に運んでやると、満足したのか次々に交代してみんながお茶碗を差し出して来た。
「これ、子供たち。それでは真幸が食べられぬ。我の膝にも来い」 
「……はやとに乗ってもいいの?」
「良いぞ。我の膝は真幸よりも大きい。皆まとめて乗るが良い」
 颯人があぐらをかいて、子供達を摘んで持ち上げ、膝に乗せる。
 子供達がみんなお茶碗を差し出して、颯人がはじから次々に口の中にご飯を入れて……。颯人こそ子供の扱いに慣れてる。
「颯人様が子供に慣れて居る……ですと!?」
「我には子がいたのだ。一度に面倒を見るなど容易いことよ。目を追えば食べたいものがわかる。経験せねばこれはわからぬだろう」
「はー、なるほど……では私も見習ってみましょう。さて、浄真の膝には誰か来ませんか?一人では寂しくて食べられないですねぇ」
「ぼく、おひざに乗ってもいい?」
「じゃあボクも」
「あたしも!」
 俺たち三人の元へ均等に分かれた子たちは天ぷらや煮物、真さんが作ってくれた挽肉のそぼろ炒めを食べて、目を細めてニコニコしてる。
 きっと……俺たちが居なくなって、真さんが一人になっても、寂しくないだろう。朝から晩までこんなふうに賑やかなら、彼も楽しく暮らせるのかもしれない。
 賑やかな食事に笑い声、優しいお昼の時間がゆったりと過ぎていく。
忙しくてささくれ立っていた心も、疲労が蓄積した体も軽くなるような気がした。