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第20話 荷下ろし

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 ところ変わって、ここはのりこ達の通う小学校。下校時刻で、子供達は帰路を歩いている。
 その道を通過する1台の軽トラック。荷台には大量の煉瓦が積まれている。
 それを運転するのは、作務衣姿の亜細亜だ。彼は、誰かを探しているかのようにゆったりと道路を走行している。
「......お? いたいた!」
 道着姿の少年。どうやら彼が、亜細亜の探していた人物のようだ。
「師匠! 仕事ですか?」
 彼の名はどもん。のりこのクラスメイトだ。
「仕事というより、野暮用でな。せっかくだ、修行と思って付き合え!」
 どもんは不思議に思いながらも、亜細亜の軽トラックの見張りとして荷台へ乗り込む。こういう時、亜細亜は大方雑用を手伝わせる。どもんはそれを承知していた。
 軽トラックは、やがてある姉弟の脇を通り過ぎる。
「あっ、どもん! どこへ行くの?」
 のりことりょうただ。のりこは、どもんの姿に気付き声を掛ける。
「あぁ、師匠の雑用でな!」
 どもんは一言だけ答えると、二人に手を振って通り過ぎる。
「いってらっしゃい!」
 のりこも彼に手を振って見送る。そして、彼らの向かう先を見てりょうたはふと思う。
「気のせいかなぁ? どもんさん、僕達のウチへ向かってない?」
 りょうたの直感は鋭かった。
 そして、軽トラックは島長家へ到着する。
「件のもの、お持ちしましたぞ!」
 亜細亜が京子へ声を掛ける。
「亜細亜さん、ありがとうございます! これ、気持ちですけど」
 京子は、亜細亜へ差し入れのお茶を渡す。
「......あら! こちらは可愛いお客さんね? お子さんですか?」
 京子はどもんに気付いた。
「いえ、彼は知人のご子息でしてなぁ。訳あって、儂の下で修業しているのですよ」
 どうやら、彼らは師弟関係にあるようだ。
「......どもんと申します。師匠がいつもお世話になります!」
 彼は京子に一礼する。礼節を重んじる姿勢は、さすが武道経験者といったところ。京子は彼の姿勢に感心する。
「礼儀正しいお兄さんには、オレンジジュースね?」
 京子は、どもんに缶ジュースを手渡す。京子の柔和な雰囲気に、彼は少しばかり頬が赤くなる。少年にとって、大人の女性は実に魅力的だ。
 するとそこへ、あの二人が帰宅してきた。
「あぁっ! どもん!!」
 のりこは驚いた様子だが、りょうたは至極冷静だ。
「さては、こないだのリベンジね!?」
 のりこに変なスイッチが入った。どうも、彼女は決闘という響きが好きらしい。
「のりこ、喧嘩は駄目っ!」
 京子はすかさずのりこを制止する。こんなことで来客に怪我をされては、京子も気まずい。
「どもん君は、煉瓦運びを手伝ってくれるのよ?」
 京子はのりこを諭す。昨日の敵は今日の友? である。
「他ならぬ母上の頼みだ。仕方あるまい」
 のりこが、武士のような口調になっているのは何故だろうか?
「どもん! 褒めて遣わす!」
 おそらく、のりこは言葉の意味を分かっていない。
「――師匠、早いところ煉瓦を下ろしましょう」
当のどもんは、のりこの言葉など意に介していない。
「そうだな、呑気にしていると夕暮れになってしまう」
 亜細亜も、どもんに急かされるように荷下ろしへ移る。
「ご婦人、煉瓦はどこへ置きますかな?」
 亜細亜は京子へ問う。
「ベランダの脇にお願いします。あと、堅苦しいから京子でいいですよ?」
 京子はさりげなく訂正をかける。
「すまない、京子殿」
 亜細亜の堅苦しさは抜け切れない。荷下ろしは亜細亜・どもん・京子の3人で始められる。しかしながら積み荷は思った以上に多く、のりことりょうたが手伝いに入る。そうして、全ての積み荷を降ろした時には夕刻を迎えていた。
「今日はここまでか。燻製窯は日を改めて組むとするか」
 亜細亜の表情には少しばかり疲れが見えていた。そして、どもんはそれ以上に疲れ切った様子。
「どもん、まだまだだね?」
 のりこは得意げな顔で言う。どもんは作業の傍ら彼女に口出しされていたので、どちらかといえば気疲れした感じだ。
「お前は、いちいち(やかま)しいなぁ」
 どもんはうんざりしている表情。
「ごめんね、どもんさん」
 りょうたは、どもんに同情してしまう。
「――では、今日はこれにて失敬!」
 亜細亜の掛け声とともに、どもんは軽トラックに乗り込みその場を後にする。
「お気を付けて!」
 京子は彼らに手を振って見送った。
「......あれ?」
 その時、りょうたは軽トラックの違和感に気付いた。
「おかあさん、あれ」
 りょうたが軽トラックを指差す。よくみると、左側のブレーキランプが球切れしている。「あら、整備不良ね? 亜細亜さんに教えてあげないと」
 こういうのは、当人だと気付きにくい。たとえそれが、武道経験者であっても。


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 ところ変わって、ここはのりこ達の通う小学校。下校時刻で、子供達は帰路を歩いている。 その道を通過する1台の軽トラック。荷台には大量の煉瓦が積まれている。
 それを運転するのは、作務衣姿の亜細亜だ。彼は、誰かを探しているかのようにゆったりと道路を走行している。
「......お? いたいた!」
 道着姿の少年。どうやら彼が、亜細亜の探していた人物のようだ。
「師匠! 仕事ですか?」
 彼の名はどもん。のりこのクラスメイトだ。
「仕事というより、野暮用でな。せっかくだ、修行と思って付き合え!」
 どもんは不思議に思いながらも、亜細亜の軽トラックの見張りとして荷台へ乗り込む。こういう時、亜細亜は大方雑用を手伝わせる。どもんはそれを承知していた。
 軽トラックは、やがてある姉弟の脇を通り過ぎる。
「あっ、どもん! どこへ行くの?」
 のりことりょうただ。のりこは、どもんの姿に気付き声を掛ける。
「あぁ、師匠の雑用でな!」
 どもんは一言だけ答えると、二人に手を振って通り過ぎる。
「いってらっしゃい!」
 のりこも彼に手を振って見送る。そして、彼らの向かう先を見てりょうたはふと思う。
「気のせいかなぁ? どもんさん、僕達のウチへ向かってない?」
 りょうたの直感は鋭かった。
 そして、軽トラックは島長家へ到着する。
「件のもの、お持ちしましたぞ!」
 亜細亜が京子へ声を掛ける。
「亜細亜さん、ありがとうございます! これ、気持ちですけど」
 京子は、亜細亜へ差し入れのお茶を渡す。
「......あら! こちらは可愛いお客さんね? お子さんですか?」
 京子はどもんに気付いた。
「いえ、彼は知人のご子息でしてなぁ。訳あって、儂の下で修業しているのですよ」
 どうやら、彼らは師弟関係にあるようだ。
「......どもんと申します。師匠がいつもお世話になります!」
 彼は京子に一礼する。礼節を重んじる姿勢は、さすが武道経験者といったところ。京子は彼の姿勢に感心する。
「礼儀正しいお兄さんには、オレンジジュースね?」
 京子は、どもんに缶ジュースを手渡す。京子の柔和な雰囲気に、彼は少しばかり頬が赤くなる。少年にとって、大人の女性は実に魅力的だ。
 するとそこへ、あの二人が帰宅してきた。
「あぁっ! どもん!!」
 のりこは驚いた様子だが、りょうたは至極冷静だ。
「さては、こないだのリベンジね!?」
 のりこに変なスイッチが入った。どうも、彼女は決闘という響きが好きらしい。
「のりこ、喧嘩は駄目っ!」
 京子はすかさずのりこを制止する。こんなことで来客に怪我をされては、京子も気まずい。
「どもん君は、煉瓦運びを手伝ってくれるのよ?」
 京子はのりこを諭す。昨日の敵は今日の友? である。
「他ならぬ母上の頼みだ。仕方あるまい」
 のりこが、武士のような口調になっているのは何故だろうか?
「どもん! 褒めて遣わす!」
 おそらく、のりこは言葉の意味を分かっていない。
「――師匠、早いところ煉瓦を下ろしましょう」
当のどもんは、のりこの言葉など意に介していない。
「そうだな、呑気にしていると夕暮れになってしまう」
 亜細亜も、どもんに急かされるように荷下ろしへ移る。
「ご婦人、煉瓦はどこへ置きますかな?」
 亜細亜は京子へ問う。
「ベランダの脇にお願いします。あと、堅苦しいから京子でいいですよ?」
 京子はさりげなく訂正をかける。
「すまない、京子殿」
 亜細亜の堅苦しさは抜け切れない。荷下ろしは亜細亜・どもん・京子の3人で始められる。しかしながら積み荷は思った以上に多く、のりことりょうたが手伝いに入る。そうして、全ての積み荷を降ろした時には夕刻を迎えていた。
「今日はここまでか。燻製窯は日を改めて組むとするか」
 亜細亜の表情には少しばかり疲れが見えていた。そして、どもんはそれ以上に疲れ切った様子。
「どもん、まだまだだね?」
 のりこは得意げな顔で言う。どもんは作業の傍ら彼女に口出しされていたので、どちらかといえば気疲れした感じだ。
「お前は、いちいち|喧《やかま》しいなぁ」
 どもんはうんざりしている表情。
「ごめんね、どもんさん」
 りょうたは、どもんに同情してしまう。
「――では、今日はこれにて失敬!」
 亜細亜の掛け声とともに、どもんは軽トラックに乗り込みその場を後にする。
「お気を付けて!」
 京子は彼らに手を振って見送った。
「......あれ?」
 その時、りょうたは軽トラックの違和感に気付いた。
「おかあさん、あれ」
 りょうたが軽トラックを指差す。よくみると、左側のブレーキランプが球切れしている。「あら、整備不良ね? 亜細亜さんに教えてあげないと」
 こういうのは、当人だと気付きにくい。たとえそれが、武道経験者であっても。