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第19話 お裾分け

ー/ー



 今宵の夕食で、家族は思い思いに話す。一家団欒のひととき。
「でさ? その子は模型が足りないって怒ってたの!」
 のりこはどもんとの戦いを語る。木鶏の意味、最後まで分からずじまいの彼女。
「模型かぁ。どもん君はプラモデルが好きなのかい?」
 のりこの話は的を射ていない。それ故に、良行には話がうまく伝わらない。
「うーん? 違うかなぁ?」
 のりこも、さすがにそれ以上は話を展開できない様子。しっかり来ない話は、ただ退屈なだけ。
「そういえばさ、おとうさんはどうだったの?」
 のりこは、良行の話が気になるようだ。良行も、待ってましたと言わんばかりの表情。
「喫茶店で、筋肉質なおじさんが鴛鴦茶って変なものを飲んでた」
 良行は、嬉々として亜細亜の話を語り出す。彼もまた、しっくりこない話を繰り広げる。
「なぁにそれ??」
 のりこには、鴛鴦茶など見当もつかない。そんな様子を顧みず、良行は話を続ける。
「つまり、コーヒーと紅茶を混ぜた飲み物さっ!」
 良行は、親指を突き立てて言う。ここぞと言わんばかり、ニカッっと笑顔と決めて。
「うげぇ! 考えただけで気持ち悪い」
 のりこは、思わず気分が悪くなる。さながら、臭いものでも見るかのように。
「そういえば、覇道って何だったんだろう?」
 良行は思い出したように呟く。その言葉、彼にとっては印象的だったのかもしれない。
「そういえば、ハローって何だったんだろう?」
 のりこも、同じように呟く。空耳っぽく聞こえるが、二人が思い浮かべている言葉はおそらく同じ。
「もしかして、その二人って親子とか?」
 話の脈絡から、どことなく背景を察した京子はにやける。そういうところ、親子なのだなぁと。
「何となくだけど、僕もそんな気がする」
 りょうたは相槌を打つ。博識な弟は、それを理解している。
「......そうだ、亜細亜さんから頂き物があった!」
 良行は、思い出したようにあるものを取りに行く。しばらくすると、良行が袋詰めにされたあるものを京子へ手渡す。
「これ、何だろ?」
 京子が袋を開封。その中には、何かの木片が大量に詰められていた。
「亜細亜さん、材木屋さんらしくて。間伐材が余ったから譲ってくれた」
 良行はあまり深く考えていなかったが、京子なら使い道を見出すだろうと当てにしていた様子。その態度に、どことなく京子は苛立ちを覚える。
「桜チップだから、アロマにでもなるんじゃないか?」
 良行は、アロマを煙か何かと勘違いしているようだ。両者は似て非なるものだ。
「アロマ? ......そうだっ!」
 京子は、あることを閃いて両手を合わせる。先日、のりこ達が捕獲してきたイワナが余り、塩漬けとして保存されている。京子は、それを燻製にすることを思い付いた。
「くせぇ? 何が臭いの?」
 のりこには、燻製が理解できない様子。それにしても、大雑把なボケだ。
「くせぇじゃなくて燻製(・・)! まぁ、煙で燻すから臭いことに間違いはないかぁ?」
 良行はのりこに指摘しながらも、どことなく納得してしまう。確かに、薫製は臭いと言われればそれまでだ。
「けど......燻製って時間かかるんだろう? 手間じゃないか?」
 良行の疑問は尤もだ。製法にもよるが、実際に燻製は数日を要することもある。それに、下準備から道具まで用意も手間がかかる。さて、京子はどうするのだろうか?
「最悪、燻製窯は煉瓦を組み合わせれば代用できる。それに、煉瓦なら万屋さんで調達できるだろうしね?」
 加えて、食材のイワナは塩漬け乾燥が既に終わっている。そこに桜チップがあれば、燻製においてこれ以上の好条件はない。渡りに船とは、まさにこのことだ。
「なるほど! そうなると、あと必要なのは時間だけか」
 良行は、京子の話にパチンと指を鳴らす。流石! と言わんばかりの表情。
「そういうこと。せっかくだから、週末は燻製やってみない?」
 京子はにこやかに語る。彼女は、早くも週末が楽しみな様子。
ーー
 翌日、京子は万事屋みなもとへ訪れる。そう、例の件で。
「いらっしゃいませ! 京子さん、今日のご要望はなんでしょうか!?」
 店主の秋子は、相変わらず活気に満ちている。むしろ、少々暑苦しいくらいに。
「えっとねぇ、煉瓦が大量に欲しいのだけれど?」
 大量の煉瓦とは言うものの、薫製は未経験。京子には規模など見当もつかない。
「煉瓦......竈でも作るんですか?」
 店主も、京子の要望を探ろうとする。分からないからこそ、ここは親身に。
「竈というか、燻製窯!」
 京子の瞳はきらきらとしている。彼女の燻製に対する期待は大きい。
「燻製窯かぁ。亜細亜さんなら詳しいかも?」
 そんな矢先、偶然にも亜細亜が店先に現れる。噂をすれば影といったところか。
「あっ、亜細亜さん! ちょうどいいところに!」
 秋子は、さっそく亜細亜に声を掛ける。亜細亜も、おや? という表情。
「なるほど、燻製窯を組むのに大量の煉瓦が必要。それなら、儂の工房に余りがあった筈。少しばかり融通しよう」
 偶然にも、京子は亜細亜から煉瓦を譲ってもらうことになった。これは渡りに船。
「ありがとうございます!」
 京子は亜細亜へ頭を下げた。煉瓦は、彼が営業周りのついでに運搬することとなった。
「亜細亜さん。バーベキューシーズン迫ってますから、木炭の納品頼みますよ」
 秋子は急かすような口ぶりで言う。亜細亜、これには少々苦い表情。
「......亜細亜さん? ああっ!!」
 京子は気付いた。亜細亜、その男は良行の会話に出ていた当人であることを!
「どうされた、ご婦人よ!?」
 京子の声に、亜細亜も驚いてしまう。彼が戸惑うのも無理はない。
「昨日は、主人が桜チップを頂戴したようで。ありがとうございます!」
 京子は重ねて亜細亜へ頭を下げる。彼は、脳裏で昨日の記憶を辿る。
「桜チップ? あぁ、ほむら喫茶の客人か!」
 亜細亜も漸く事情を理解した。自身の話を熱い眼差しで聞いていた、あの男だと。
「いやぁ、あれは心ばかりの礼に過ぎん。あの若造、店のコーヒーを旨そうに味わっていたからなぁ。」
 どうやら、良行の飲みっぷりは亜細亜のお気に召したようだ。彼にとって、良行は実に印象深い。
「では、また後程!」
 亜細亜は、颯爽と去っていった。その背中、何処となく嬉しそうだ。
「亜細亜さん、相変わらずお人好しだなぁ」
 秋子の言葉から、亜細亜の人物像を垣間見る。人は見かけによらぬものだと。
「煉瓦は良しとして、あと焼き網はあるかしら?」
 勿論、京子は他の買い物も忘れてはいない。燻製には、色々と準備が必要だ。
「網ですね! 今お持ちしますっ!」
 秋子も相変わらず暑苦しい。その後、京子は会計を済ませて帰宅した。


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 今宵の夕食で、家族は思い思いに話す。一家団欒のひととき。
「でさ? その子は模型が足りないって怒ってたの!」
 のりこはどもんとの戦いを語る。木鶏の意味、最後まで分からずじまいの彼女。
「模型かぁ。どもん君はプラモデルが好きなのかい?」
 のりこの話は的を射ていない。それ故に、良行には話がうまく伝わらない。
「うーん? 違うかなぁ?」
 のりこも、さすがにそれ以上は話を展開できない様子。しっかり来ない話は、ただ退屈なだけ。
「そういえばさ、おとうさんはどうだったの?」
 のりこは、良行の話が気になるようだ。良行も、待ってましたと言わんばかりの表情。
「喫茶店で、筋肉質なおじさんが鴛鴦茶って変なものを飲んでた」
 良行は、嬉々として亜細亜の話を語り出す。彼もまた、しっくりこない話を繰り広げる。
「なぁにそれ??」
 のりこには、鴛鴦茶など見当もつかない。そんな様子を顧みず、良行は話を続ける。
「つまり、コーヒーと紅茶を混ぜた飲み物さっ!」
 良行は、親指を突き立てて言う。ここぞと言わんばかり、ニカッっと笑顔と決めて。
「うげぇ! 考えただけで気持ち悪い」
 のりこは、思わず気分が悪くなる。さながら、臭いものでも見るかのように。
「そういえば、覇道って何だったんだろう?」
 良行は思い出したように呟く。その言葉、彼にとっては印象的だったのかもしれない。
「そういえば、ハローって何だったんだろう?」
 のりこも、同じように呟く。空耳っぽく聞こえるが、二人が思い浮かべている言葉はおそらく同じ。
「もしかして、その二人って親子とか?」
 話の脈絡から、どことなく背景を察した京子はにやける。そういうところ、親子なのだなぁと。
「何となくだけど、僕もそんな気がする」
 りょうたは相槌を打つ。博識な弟は、それを理解している。
「......そうだ、亜細亜さんから頂き物があった!」
 良行は、思い出したようにあるものを取りに行く。しばらくすると、良行が袋詰めにされたあるものを京子へ手渡す。
「これ、何だろ?」
 京子が袋を開封。その中には、何かの木片が大量に詰められていた。
「亜細亜さん、材木屋さんらしくて。間伐材が余ったから譲ってくれた」
 良行はあまり深く考えていなかったが、京子なら使い道を見出すだろうと当てにしていた様子。その態度に、どことなく京子は苛立ちを覚える。
「桜チップだから、アロマにでもなるんじゃないか?」
 良行は、アロマを煙か何かと勘違いしているようだ。両者は似て非なるものだ。
「アロマ? ......そうだっ!」
 京子は、あることを閃いて両手を合わせる。先日、のりこ達が捕獲してきたイワナが余り、塩漬けとして保存されている。京子は、それを燻製にすることを思い付いた。
「くせぇ? 何が臭いの?」
 のりこには、燻製が理解できない様子。それにしても、大雑把なボケだ。
「くせぇじゃなくて|燻製《・・》! まぁ、煙で燻すから臭いことに間違いはないかぁ?」
 良行はのりこに指摘しながらも、どことなく納得してしまう。確かに、薫製は臭いと言われればそれまでだ。
「けど......燻製って時間かかるんだろう? 手間じゃないか?」
 良行の疑問は尤もだ。製法にもよるが、実際に燻製は数日を要することもある。それに、下準備から道具まで用意も手間がかかる。さて、京子はどうするのだろうか?
「最悪、燻製窯は煉瓦を組み合わせれば代用できる。それに、煉瓦なら万屋さんで調達できるだろうしね?」
 加えて、食材のイワナは塩漬け乾燥が既に終わっている。そこに桜チップがあれば、燻製においてこれ以上の好条件はない。渡りに船とは、まさにこのことだ。
「なるほど! そうなると、あと必要なのは時間だけか」
 良行は、京子の話にパチンと指を鳴らす。流石! と言わんばかりの表情。
「そういうこと。せっかくだから、週末は燻製やってみない?」
 京子はにこやかに語る。彼女は、早くも週末が楽しみな様子。
ーー
 翌日、京子は万事屋みなもとへ訪れる。そう、例の件で。
「いらっしゃいませ! 京子さん、今日のご要望はなんでしょうか!?」
 店主の秋子は、相変わらず活気に満ちている。むしろ、少々暑苦しいくらいに。
「えっとねぇ、煉瓦が大量に欲しいのだけれど?」
 大量の煉瓦とは言うものの、薫製は未経験。京子には規模など見当もつかない。
「煉瓦......竈でも作るんですか?」
 店主も、京子の要望を探ろうとする。分からないからこそ、ここは親身に。
「竈というか、燻製窯!」
 京子の瞳はきらきらとしている。彼女の燻製に対する期待は大きい。
「燻製窯かぁ。亜細亜さんなら詳しいかも?」
 そんな矢先、偶然にも亜細亜が店先に現れる。噂をすれば影といったところか。
「あっ、亜細亜さん! ちょうどいいところに!」
 秋子は、さっそく亜細亜に声を掛ける。亜細亜も、おや? という表情。
「なるほど、燻製窯を組むのに大量の煉瓦が必要。それなら、儂の工房に余りがあった筈。少しばかり融通しよう」
 偶然にも、京子は亜細亜から煉瓦を譲ってもらうことになった。これは渡りに船。
「ありがとうございます!」
 京子は亜細亜へ頭を下げた。煉瓦は、彼が営業周りのついでに運搬することとなった。
「亜細亜さん。バーベキューシーズン迫ってますから、木炭の納品頼みますよ」
 秋子は急かすような口ぶりで言う。亜細亜、これには少々苦い表情。
「......亜細亜さん? ああっ!!」
 京子は気付いた。亜細亜、その男は良行の会話に出ていた当人であることを!
「どうされた、ご婦人よ!?」
 京子の声に、亜細亜も驚いてしまう。彼が戸惑うのも無理はない。
「昨日は、主人が桜チップを頂戴したようで。ありがとうございます!」
 京子は重ねて亜細亜へ頭を下げる。彼は、脳裏で昨日の記憶を辿る。
「桜チップ? あぁ、ほむら喫茶の客人か!」
 亜細亜も漸く事情を理解した。自身の話を熱い眼差しで聞いていた、あの男だと。
「いやぁ、あれは心ばかりの礼に過ぎん。あの若造、店のコーヒーを旨そうに味わっていたからなぁ。」
 どうやら、良行の飲みっぷりは亜細亜のお気に召したようだ。彼にとって、良行は実に印象深い。
「では、また後程!」
 亜細亜は、颯爽と去っていった。その背中、何処となく嬉しそうだ。
「亜細亜さん、相変わらずお人好しだなぁ」
 秋子の言葉から、亜細亜の人物像を垣間見る。人は見かけによらぬものだと。
「煉瓦は良しとして、あと焼き網はあるかしら?」
 勿論、京子は他の買い物も忘れてはいない。燻製には、色々と準備が必要だ。
「網ですね! 今お持ちしますっ!」
 秋子も相変わらず暑苦しい。その後、京子は会計を済ませて帰宅した。