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エリオット殿下とお忍びデート 中編

ー/ー



◆◆◆

 翌朝、扉がノックされる音で目覚めた。ガウンを羽織って、扉に近付く。

「カリスタ、きみの服を持ってきた」
「……! 殿下が自ら……?」

 扉越しに声が聞こえる。そっと扉を開き、隙間から服を受け取って「すぐに着替えます」と口にして扉を閉めた。

 平民の服なら、ひとりでも着替えられるだろう。そう思ってベッドの近くで着替える。

 ……『平民っぽい服』に偽りなく、肌触りはとても良いものだ。

 ロングスカートに長袖のシャツ。それからショールを身につけ、帽子をかぶる。

 靴も用意されていたから、それを履く。ぴったりだ。

 帽子と靴まで用意されていたとは……。姿見に映る姿を確認して、扉を開ける。

「……うん、ドレス姿ではないきみを見るのは、新鮮だね」
「……殿下の格好も新鮮ですわ」
「行こう。今なら抜け出せる」

 すっと手を差し出されて、その手を取った。……こんなにラフな格好のエリオット殿下を見るのは初めてだ。

 それでも、殿下から溢れ出す気品は隠しようがない。

 こんなに気品が溢れた平民がいるのかしら、と心の中でつぶやく。

 ――でも、こんなに明るい彼の表情、見たことがないわ。

 まだ早朝ということもあり、あまり人の気配がないような気がする。

 殿下は「ここ、抜け道なんだ」と抜け道を教えてくれた。

 外に出ると、そのまま市場に足を進める。

 王城から市場に向かうのにも近道があるようで、そこも教えてくれた。

 そして小一時間もかからず、市場について……

「わぁ……!」

 と、思わず声を上げてしまった。

「早朝でも賑わっているだろう?」
「はい、すごい活気ですね!」

 どんなものが売られているのかな、とか、美味しそうな匂いがするな、とか、実際にこの目で見て回る。

 すごく活気が溢れていて、みんな楽しそうに買い物をしていた。

「カリスタに見せたかったんだ。わたしたちが守るべきものを」
「……殿下」
「おっと、今は『殿下』呼びはやめてくれ」
「……エリオット?」

 ふわっとエリオット殿下が微笑む。そんなに嬉しそうに微笑まれると、なんだか気恥ずかしくなってしまうわ……!

「行こう」
「はい」

 手を繋いだまま市場を歩いていると、いろいろなものが売られていて目移りしてしまう。

 野菜やお肉はもちろんのこと、小物までも売られていて驚く。

 そして、市場に集まっている人々の活気にも。

 みんなはこうして日々の買い物を楽しんでいるのね……となんだか楽しくなってきた。

 お金を持ってきていないから、見ているだけなのだけど。

 そんなことを想っていたら、エリオット殿下が串焼きを売っているお店で串焼きを買い、わたくしに一本渡した。

 それから、ジュースを売っているお店でジュースも。手を離してジュースもしっかり持つ。

「ベンチで食べよう」
「え、と、はい」

 ベンチも人気のようで賑わっていたけれど、空いているスペースにふたりで座った。

「オレンジジュースで良かった?」
「ありがとうございます」
「こうやって、カリスタと一緒に食べたかったんだ」

 一緒に食事をすることはあるけれど、こんなふうに食べるのは初めてね。

 エリオット殿下に「いただきます」と頭を下げてから、串焼きを食べた。

 ジューシーなお肉に、ちょうど良い加減の塩味。一緒に焼かれている野菜は甘くて美味しい……!

「普段、わたしたちが食べているものとは違うけれど、美味しいよね」

 こくこくとうなずくと、エリオット殿下は嬉しそうに笑った。

 ……この人は、こんなふうに笑うのね、と改めて思った。そして、この国をとても愛しているんだわ、とも。

 だって、こんなに愛しそうに平民たちの暮らしを見ているんだもの。

「……愛しているんですね」
「え?」
「この国の人たちを」
「…………そうだね。うん、そうだ」

 串焼きを食べ終わり、オレンジジュースを飲む。……濃い! 美味しい!

 オレンジジュースも飲み干し、ゴミはゴミ箱に入れる。

 最初は少し不安もあったけれど、もうすでに楽しいわ……!

「それじゃ、腹ごしらえも済んだところで、デートを再開しようか」
「はい」

 もう一度手を繋いで、わたくしたちは市場から離れた。

 それから、エリオット殿下と王都をいろいろ見回った。子どもたちが楽しそうに遊んでいるところ、女性たちがカフェでお喋りしているところ、男性たちが商談をしているところ……みんな、とても生き生きとした顔をしているのを確認し、殿下は微笑む。

 いろんなところを見て回り、すっかり夕方になってしまった。

 こんなに歩いたのは初めてかもしれない。

「城の中だけでは、外の活気はわからないだろう?」

「……そうですね」

 王都の平和を守る。

 ……わたくしに、そんなことが可能なのかしら……?



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◆◆◆
 翌朝、扉がノックされる音で目覚めた。ガウンを羽織って、扉に近付く。
「カリスタ、きみの服を持ってきた」
「……! 殿下が自ら……?」
 扉越しに声が聞こえる。そっと扉を開き、隙間から服を受け取って「すぐに着替えます」と口にして扉を閉めた。
 平民の服なら、ひとりでも着替えられるだろう。そう思ってベッドの近くで着替える。
 ……『平民っぽい服』に偽りなく、肌触りはとても良いものだ。
 ロングスカートに長袖のシャツ。それからショールを身につけ、帽子をかぶる。
 靴も用意されていたから、それを履く。ぴったりだ。
 帽子と靴まで用意されていたとは……。姿見に映る姿を確認して、扉を開ける。
「……うん、ドレス姿ではないきみを見るのは、新鮮だね」
「……殿下の格好も新鮮ですわ」
「行こう。今なら抜け出せる」
 すっと手を差し出されて、その手を取った。……こんなにラフな格好のエリオット殿下を見るのは初めてだ。
 それでも、殿下から溢れ出す気品は隠しようがない。
 こんなに気品が溢れた平民がいるのかしら、と心の中でつぶやく。
 ――でも、こんなに明るい彼の表情、見たことがないわ。
 まだ早朝ということもあり、あまり人の気配がないような気がする。
 殿下は「ここ、抜け道なんだ」と抜け道を教えてくれた。
 外に出ると、そのまま市場に足を進める。
 王城から市場に向かうのにも近道があるようで、そこも教えてくれた。
 そして小一時間もかからず、市場について……
「わぁ……!」
 と、思わず声を上げてしまった。
「早朝でも賑わっているだろう?」
「はい、すごい活気ですね!」
 どんなものが売られているのかな、とか、美味しそうな匂いがするな、とか、実際にこの目で見て回る。
 すごく活気が溢れていて、みんな楽しそうに買い物をしていた。
「カリスタに見せたかったんだ。わたしたちが守るべきものを」
「……殿下」
「おっと、今は『殿下』呼びはやめてくれ」
「……エリオット?」
 ふわっとエリオット殿下が微笑む。そんなに嬉しそうに微笑まれると、なんだか気恥ずかしくなってしまうわ……!
「行こう」
「はい」
 手を繋いだまま市場を歩いていると、いろいろなものが売られていて目移りしてしまう。
 野菜やお肉はもちろんのこと、小物までも売られていて驚く。
 そして、市場に集まっている人々の活気にも。
 みんなはこうして日々の買い物を楽しんでいるのね……となんだか楽しくなってきた。
 お金を持ってきていないから、見ているだけなのだけど。
 そんなことを想っていたら、エリオット殿下が串焼きを売っているお店で串焼きを買い、わたくしに一本渡した。
 それから、ジュースを売っているお店でジュースも。手を離してジュースもしっかり持つ。
「ベンチで食べよう」
「え、と、はい」
 ベンチも人気のようで賑わっていたけれど、空いているスペースにふたりで座った。
「オレンジジュースで良かった?」
「ありがとうございます」
「こうやって、カリスタと一緒に食べたかったんだ」
 一緒に食事をすることはあるけれど、こんなふうに食べるのは初めてね。
 エリオット殿下に「いただきます」と頭を下げてから、串焼きを食べた。
 ジューシーなお肉に、ちょうど良い加減の塩味。一緒に焼かれている野菜は甘くて美味しい……!
「普段、わたしたちが食べているものとは違うけれど、美味しいよね」
 こくこくとうなずくと、エリオット殿下は嬉しそうに笑った。
 ……この人は、こんなふうに笑うのね、と改めて思った。そして、この国をとても愛しているんだわ、とも。
 だって、こんなに愛しそうに平民たちの暮らしを見ているんだもの。
「……愛しているんですね」
「え?」
「この国の人たちを」
「…………そうだね。うん、そうだ」
 串焼きを食べ終わり、オレンジジュースを飲む。……濃い! 美味しい!
 オレンジジュースも飲み干し、ゴミはゴミ箱に入れる。
 最初は少し不安もあったけれど、もうすでに楽しいわ……!
「それじゃ、腹ごしらえも済んだところで、デートを再開しようか」
「はい」
 もう一度手を繋いで、わたくしたちは市場から離れた。
 それから、エリオット殿下と王都をいろいろ見回った。子どもたちが楽しそうに遊んでいるところ、女性たちがカフェでお喋りしているところ、男性たちが商談をしているところ……みんな、とても生き生きとした顔をしているのを確認し、殿下は微笑む。
 いろんなところを見て回り、すっかり夕方になってしまった。
 こんなに歩いたのは初めてかもしれない。
「城の中だけでは、外の活気はわからないだろう?」
「……そうですね」
 王都の平和を守る。
 ……わたくしに、そんなことが可能なのかしら……?