「ただいま」
「玲ちゃん。おかえりなさい」
「お母さん。会いたかったです」
「俺もだよ。ずっと、ひなに会いたかったんだぞ」
「私もよ」
それからまもなくして、ひなのお腹の中に新しい命が芽生えた事が分かった。
「私、妊娠したみたいなの」
「ほんとか!?」
「うん。三ヶ月だって」
「玲。お前、お姉ちゃんになるんだぞ」
「おお。私が姉になるんですね。楽しみです。弟かな。妹かな。どっちでしょう」
そして、更に月は流れて良き、元気な男の子が生まれた。
その赤ん坊の顔を見て、ひなはとても驚いた様子だった。
「男の子だって。やったわね、優斗」
「ああ。嬉しいよ」
「玲、弟だぞ」
「可愛いです」
そう言って、玲は弟の手のところにやると、小さな赤ちゃんは、握り返してきた。
「わあ、今、私の手を握りましたよ」
「お姉ちゃん。こんにちはって挨拶してるんだよ」
「私、感動して涙が出そうです」
「ふふ、また賑やかになるな」
「そうね」
「今度は家族四人で楽しく暮らしていこうな」
「はい」
「ねえ。この子の名前どうしようか?」
「優紀なんてどうだろう」
「良い名前ですね」
「優紀。良い子に育ってね」
そうして、四人の生活が始まった。
そして、それからしばらく経ったある日の事……。
俺は、仕事を終えて家に帰ってきた。
家に入ると、いつものように、娘達が出迎えてくれる。
はずだったのだが、今日は違った。
玄関に娘の靴がなかったのだ。
俺は少し心配になった。
「おーい、帰ったよ。どこにいるんだ?」
俺はリビングに行くと、テーブルの上に紙切れがあった。
『お父さんへ』
そこには、こう書いてあった。
『少しお母さんと未来へ行ってきます。お母さんも未来を見たいって言うので、優紀と一緒に行ってきます。夕飯までには帰ります』
もうすぐ夕飯なんだけどな。
そう思っていたら、三人は帰って来た。
「ただいま」
「おかえり。ひな、玲。優紀。未来はどうだった?」
「ええ。順調でした。優紀は少年野球のチームに入るんですよ」
「そっか。野球少年か。そりゃ楽しみだな」
「でもスポーツが苦手でエラーばかりするんです。お父さん、出番です」
「優紀が大きくなったら野球の特訓してやるんだな。任せておけ」
「はい、よろしくお願いします」
「ところでひな。なんで急に未来を見に行きたいなんて言い出したんだ?」
「それは……、秘密」
「え?教えてくれてもいいじゃないか。気になるなぁ」
「ダメですよ。でも、いつか分かる時がきますから、それまで待っていてください」
「う~ん。仕方ないなあ」
「さ、ご飯にしましょう。お父さん」
「そうだな」
こうして、俺達家族の絆は深まったのであった。
更に月日が流れ、優紀は小学生になった。そして野球チームに入って練習する日々を過ごしていた。
ある日の休日。
俺はトイレに行った後、自分の部屋に戻る途中、二階にある自室の前に誰かが立っている事に気づいた。
その人は、背が低くて髪が長くて、まるで小学生のような見た目をしている女の子だった。年齢は多分小学六年生くらいだろうか。
「あの、君は誰だい?」
「私は未来と言います」
「初めまして」
「あなたが優紀君のお父さんですね」
「ああ、そうだよ」
「はじめまして。お会いできて嬉しいです」
「どうしたの?優紀を呼んでこようか?」
「私、優紀君とお付き合いさせて頂いているんです」
衝撃的だった。まさか小学生にして優紀の奴、彼女がいるだなんて。
「ええ!?そ、そうなの?」
「はい。だから、優紀君と会わせてください」
「わかった」
「ありがとうございます」
「じゃあ、入って」
「失礼しまーす」
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「どうぞ、座って」
「はい」
「飲み物は何がいいかな?」
「オレンジジュースが良いです」
「了解。ちょっと待っててね」
俺はコップに注いだオレンジジュースを持ってきて、彼女に渡した。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
彼女は嬉しそうにごくごくと飲み始めた。
「でも今日は、優紀君に用があるんじゃなくて、玲さんに用事があるんです」
「玲に?じゃあ呼んでくるよ」
そう言って俺は、部屋にこもって研究している玲を呼びに行った。
「何ですか?お父さん」
「優紀の彼女って子が玲に会いに来てるけど」
「ああ、未来ちゃんですか。どうぞ、私の部屋に連れて来てください」
そう言って玲の部屋に未来ちゃんを連れて行った。
すると、未来の方から話し掛けてきた。
「玲さん。私、決意しました。使います」
「そうですか。分かりました。成功する事を祈っていますよ」
「ん?一体何の話をしているんだ?」
「未来ちゃんに初恋サービスの改良版を使うんです」
「ええ?」
「最近、優紀君とマンネリ化しているみたいなんですよ」
「マンネリ化って……。小学生が使う言葉じゃないぞ……」
最近の子は成長が早いって言うけど、これは早すぎやしないか。
親である俺は、頭が痛くなってきた。
「大丈夫ですよ。未来ちゃんは、今年で中学生になりますから」
「いや、そういう問題では……」
俺は更に頭を抱えた。
「はい」
「玲。どうして優紀に彼女がいるって教えてくれなかったんだ?」
「聞かれませんでしたので」
「そうだけどさ。いや、そんなのまだ先の話だと思うだろ」
まあいい。過ぎた事は仕方がない。
それより、優紀が彼女とうまくいくように応援しよう。
それが親として俺が出来る事だ。
そして次の日の日曜日。
この日は、珍しく家族全員が休みだったので家でゴロゴロしていた。ちなみに優紀は朝早くから彼女の未来とデートに行っている。
「お父さん、お母さん。お願いがあります」
「どうしたんだ?玲」
「実は私、結婚を前提にお付き合いしている人がいるんです」
「へえ~、そうなんだ。おめでとう」
「それで、お父さんとお母さんにも紹介したくて」
「な、な、な、な、な、なるほど」
「お父さん、動揺しすぎですよ。優紀は小学六年生。私は優紀が生まれた時、十六歳ですから二十八歳。結婚の話があってもおかしくないですよ」
「ま、ま、まあそ、そ、そうだが……」
「優斗、うろたえすぎ」
ひなが呆れている。
「と、遠くに住んでる人か?」
「いえ、すぐ近くに住んでいます」
どんな人なのか。俺は愛娘が結婚したいという相手を連れてくる日をドキドキしながら、待っていた。