田中悟はテレビを見ていた。
世の中は夏の真っ只中。
夜だからと窓を開けて室内を冷やそうとするが、ぬるい風しか入ってこない。
「あー、暑」
うちわで顔を冷やしながら、テーブルに置いたビールを持ち上げる。
ビールの缶を纏う水滴がやけに心地よい。
何を考えるでもなく、悟はなんとなくノートパソコンを開く。
SNSに目を通していると、ふとフォロワーの呟きが目に入った。
『今やってる心霊番組めちゃ怖いんだけど!』
そんな呟きを見た悟は、頭を掻く。
(心霊ねぇ……まあ、見てみるか)
少しでも気持ちが冷えることを祈り、テレビを点ける。
お笑い番組からチャンネルを切り替えると、すぐに心霊番組を発見した。
今は心霊写真の紹介をしている。
「この写真は、ご先祖さまからの警告ですね」
心霊写真鑑定のプロが、そう解説する。
悟はビールを二口飲み、画面にアップで映された写真を見た。
写真は子どもの足が歪んでおかしな形に曲がっているものだった。
正直、悟はそんなに怖くないなと思いつつ、心霊番組を見続ける。
次の心霊写真は、大きな家の前で家に住む一家の記念写真になっていた。
一家は三人暮らしのようで、父と母、そして小学生くらいの息子が写真の中で並んでいる。
それを見て、悟はふと思い出す。
悟も三人暮らしだった。
小学生までは田舎の一軒家に住んでいたが、中学に上がるタイミングで、都会のマンションに越したのだ。
父の仕事のために。
(引っ越しが決まった時は、オヤジにすごい反発したな)
そんなトラブルも、今となっては過去の話だ。
いざ引っ越したら、都会の凄さにわくわくして、学校ではひょうきんだけど真面目な友達ができたりして、昔のことは気にならなくなった。
ぼんやりと思い出していると、次のコーナーが始まる。
今回は幽霊屋敷に芸人と女性タレントが突撃するというコーナーだ。
少し楽しそうだと思った悟は、おつまみのスルメをかじり、テレビに集中する。
「ここが幽霊屋敷ですか? 見た目は普通の家ですが……」
芸人の一人が言う。
家の外観はモザイクがかけられていて、どんな家なのかはわからない。
芸人が進んで行き、玄関のドアの前に立つ。
「入っていいんですか?」
芸人が聞くとスタッフから「入ってください」と声が返された。
芸人は恐る恐るドアを開け、中に入る。
(……あれ?)
中に入った瞬間、何とも言えない感覚を抱いた。
(なんだ、ここ)
急に不安になる。
更に芸人は中に入っていく。
居間に入ると、室内は綺麗に清掃されているが、やけに不気味だ。
するとついて来ていた物件の持ち主が、芸人に近付く。
「奥の部屋がおかしいんですよ、ラップ音はもちろんのこと、女性の泣き声も聞こえたりするんです」
持ち主の言葉に、芸人の表情が不安そうになる。
その画面を見ながら、悟はごくりと喉を鳴らした。
(……知ってる……この幽霊屋敷を、オレは知ってる)
悟の手が震える。
今まで肝試しに行った経験も無いのに、幽霊屋敷を知っているはずが無いと、悟の頭は混乱した。
「ここは何ですか?」
女性タレントがひとつのドアの前で止まり、持ち主に聞いた。
(あそこは……トイレだ)
悟が心の中で呟くと、持ち主は「そこはトイレです」と返す。
「……やっぱり、オレ、この家を知ってる」
悟の肌が粟立つ。
更に芸人が奥のおかしい部屋へと向かう。
その、奥の部屋に入った瞬間、悟は確信した。
「ここ、オレが小学生まで住んでた家じゃないか! 何で幽霊屋敷になってんだよ!」
思わず突っ込む。
その部屋に入った芸人の懐中電灯がチカチカとなり、カメラには無数のオーブが映されている。
「いやいや! 幽霊屋敷なわけ無いだろう!」
悟はテレビに向かって言う。
芸人の隣で女性タレントは「なんだか寒いです」と呟く。
何かあった時のために着いてきていた霊能者が二人に近づいた。
「ここは危ないです、出ましょう」
霊能者が言う。
「はぁ?」
悟は納得いかない声を上げた。
自分が昔住んでた家が幽霊屋敷になり、テレビで使われるなど、モヤモヤして仕方ない。
思わず悟は、SNSにこの何とも表しがたい気持ちを吐き出そうとする。
しかし。
フォロワーの呟きが悟の手を止めた。
『あの家って、去年不法侵入した男女五人が集団自殺した家じゃん』
それを見た悟は固まる。
自分達が引っ越したあと、そんな事が起きていたなど、全く知らなかった。
(マジかよ……)
思い出の家が幽霊屋敷になってしまった悟は、苦笑いしながら、呟く。
『小学生時代を過ごした家が幽霊屋敷になってて草』
そう呟き、悟はまたテレビを見る。
家から避難した芸人やタレントがお祓いしてもらっていた。
その画面が少し乱れる。
(ん?)
と思ったが、すぐに画面は綺麗になったので、気にせずビールを飲む。
その時だった。
「こんこん」
耳元で声がした。
女の声だ。
「こんこん」
また、声がする。
悟の額に汗がにじむ。
勇気をだして振り向くが、そこには誰もいない。
(さっきのは? 女の声だったよな?)
悟の心臓がドクドクと音を立てる。
気味が悪くなった悟はテレビを消す。
すると、真っ暗になったテレビの画面に、ワンピース姿の女が映り込んだ。
「うわぁぁ!」
悟が叫ぶと、女の姿はすぅっと消える。
「な、なんだよ?」
警戒する悟だが、これ以降なにも起きることはなかった。
あの女が何だったのかは不明だが、悟は二ヶ月後、引っ越しをしたのだった。