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第4章〜㉔〜

ー/ー



自動車のクラクション、バイクのエンジン音、周囲の人々の話し声、そして、自転車のベルの音……。

「バカヤロー! 急に飛び出して来るな!!」

 二メートルほど手前で、自転車の急ブレーキを掛けた初老の男性の怒鳴り声がする。

「すいません!!」

 謝って、道を自転車に譲り、

(やっぱり、時間停止が解除される瞬間は、気をつけないと……)

と、考え直しながら、あらためて周囲を見渡す。
 すると、雑居ビルの一角に入った中華料理店の脇に、ドリンクの自動販売機が設置されているのが目に入った。
 スマホの時計を確認すると、時刻は、午前十一時四十六分ーーーーーー。
 狙い通り、ほとんど時間は進んでいない。
 ホッ、と安堵するとともに、十分弱の間、走りぱなしだったことで、喉が潤いを欲していることに気付き、悪友の好意にすがることにした。
 財布から、康之に手渡された百円玉と五十円玉を取り出し、自販機に投入する。
 ランプが点灯したスポーツドリンクのボタンを押して、ガシャンという落下音を確認し、取り出し口からペットボトルを取り出す。フタを開封し、喉を鳴らしながら、液体を一気に流し込むと、ようやく、ひと心地つくことができた。
 思わず、

「ふぅ〜」

と、息が漏れるが、まだ、ここで立ち止まる訳にはいかない。
 人通りの多い繁華街沿いの道から、少し離れるため、自販機から数メートル先にあるコインパーキングに身を隠すように移動したオレは、再度『時のコカリナ』に六本の指をあて、吹口から息を吹き込んだ。

==========Time Out==========

 再び、周囲の喧騒が止み、音の無い世界が広がったことを確認して、コインパーキングから繁華街沿いの道に戻り、目的地を目指す。
 学習塾や飲食店が軒を連ねる歩道を駆けながら、今度は、ドリンク代を手渡してくれた悪友をはじめ、放課後に集まってきた面々のことを思い返していた。
 いま、こうして、自分が駅前のバス停に向かっているのは、哲夫が自分たちの《想い》を託す、というカタチで、オレに役割を与えてくれたからだーーーーーー。
 もちろん、それが、自分に配慮してくれているモノだ、ということは、長年の付き合いで理解している。
 役目を与えつつ、自分から行動するようにヒトを動かす才能は、さすが、男子バレー部の次期キャプテン候補とウワサされるだけはある。
 大嶋裕美子には、夏休み前半から、ずい分と世話になったと思うーーーーーー。
 彼女の気配りがなければ、自分たちが、アミューズメント・プールに行くことさえなかったかも知れないし、図書館で小嶋夏海と気まずくなった時や、康之と中嶋の件を問題なく処理できていなけらば、先週末の花火観賞を全員で観覧できなかった可能性もある。
 その点で、小嶋が自分たちのもとを去ることを今日まで知らされていなかったことについて、申し訳なく感じるが、友人想いの大嶋なら、きっと、その理由も汲んでくれているだろう。
 康之についてはーーーーーー。
 …………いや、悪友と言えど、さすがに、スルーは失礼だ、と考えなおし、思わず笑みがこぼれる。
 先ほどの会話でもあらためて認識させられたとおり、ああ見えて、康之も、自分自身のことより、周りの人間を気遣うタイプだ。
 また、プールで小学生男子とハシャギ合い、カワタさんとも気負うことなく話すように、年齢の上下に関わらず、ヒトに受け入れられる魅力を持っている。
 中嶋とのことは……残念ではあるが、アイツの長所を理解してくれる女子が、きっと現れるハズだ。珍しく、このオレに打ち明けるようなことがあるみたいなので、学校に戻ったら、タップリと話しを聞かせてもらおう。
 さらに、中嶋由香についてーーーーーー。
 同性の友人である哲夫と康之、男子とも別け隔てなく話すタイプの大嶋と違って、夏休み前には、中嶋と、こんなにも語り合う仲になるとは予想もしていなかった。
 プールで、小嶋夏海とともに、撮影係をしていた時から、自分たちのことを気に掛けてくれていたようであはるが、花火観賞の日や、その翌日の通話アプリでの会話が無ければ、小嶋夏海とも、自分の想いとも、向き合おうという気持ちにはならなかったと思う。
 それだけに、彼女の小嶋夏海に対する想いが伝わってくる。
 ここまでのことを考えると、やはり、今の自分が背負っているモノは、()()()()()()()()()()()、ということに気付いた。

(こんな責任を背負わされることになるなんてな……)

と、考えながら、お節介な友人たちを想い、また、自然と笑みが漏れる。
 そして、最後に中嶋由香が耳打ちした言葉は、

(中嶋だけでなく、彼女を含めた四人の想いではないかーーーーーー)

そんな風にも感じられた。
 頼もしくも、世話を焼くのが好きなクラスメートたちに想いを馳せていると、シティホテルや郵便局が立ち並ぶ、市内で最も交通量の多い産業道路の交差点が見えてきた。
 運良く、青信号であることを確かめ、さらに、ピッチを早めて、一気に横断歩道を駆け抜ける。
 信号を渡りきったところで、さすがに呼吸が苦しくなり、両手を膝にあてながら、肩で息をしているとーーーーーー。

=========Time Out End=========


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「バカヤロー! 急に飛び出して来るな!!」
 二メートルほど手前で、自転車の急ブレーキを掛けた初老の男性の怒鳴り声がする。
「すいません!!」
 謝って、道を自転車に譲り、
(やっぱり、時間停止が解除される瞬間は、気をつけないと……)
と、考え直しながら、あらためて周囲を見渡す。
 すると、雑居ビルの一角に入った中華料理店の脇に、ドリンクの自動販売機が設置されているのが目に入った。
 スマホの時計を確認すると、時刻は、午前十一時四十六分ーーーーーー。
 狙い通り、ほとんど時間は進んでいない。
 ホッ、と安堵するとともに、十分弱の間、走りぱなしだったことで、喉が潤いを欲していることに気付き、悪友の好意にすがることにした。
 財布から、康之に手渡された百円玉と五十円玉を取り出し、自販機に投入する。
 ランプが点灯したスポーツドリンクのボタンを押して、ガシャンという落下音を確認し、取り出し口からペットボトルを取り出す。フタを開封し、喉を鳴らしながら、液体を一気に流し込むと、ようやく、ひと心地つくことができた。
 思わず、
「ふぅ〜」
と、息が漏れるが、まだ、ここで立ち止まる訳にはいかない。
 人通りの多い繁華街沿いの道から、少し離れるため、自販機から数メートル先にあるコインパーキングに身を隠すように移動したオレは、再度『時のコカリナ』に六本の指をあて、吹口から息を吹き込んだ。
==========Time Out==========
 再び、周囲の喧騒が止み、音の無い世界が広がったことを確認して、コインパーキングから繁華街沿いの道に戻り、目的地を目指す。
 学習塾や飲食店が軒を連ねる歩道を駆けながら、今度は、ドリンク代を手渡してくれた悪友をはじめ、放課後に集まってきた面々のことを思い返していた。
 いま、こうして、自分が駅前のバス停に向かっているのは、哲夫が自分たちの《想い》を託す、というカタチで、オレに役割を与えてくれたからだーーーーーー。
 もちろん、それが、自分に配慮してくれているモノだ、ということは、長年の付き合いで理解している。
 役目を与えつつ、自分から行動するようにヒトを動かす才能は、さすが、男子バレー部の次期キャプテン候補とウワサされるだけはある。
 大嶋裕美子には、夏休み前半から、ずい分と世話になったと思うーーーーーー。
 彼女の気配りがなければ、自分たちが、アミューズメント・プールに行くことさえなかったかも知れないし、図書館で小嶋夏海と気まずくなった時や、康之と中嶋の件を問題なく処理できていなけらば、先週末の花火観賞を全員で観覧できなかった可能性もある。
 その点で、小嶋が自分たちのもとを去ることを今日まで知らされていなかったことについて、申し訳なく感じるが、友人想いの大嶋なら、きっと、その理由も汲んでくれているだろう。
 康之についてはーーーーーー。
 …………いや、悪友と言えど、さすがに、スルーは失礼だ、と考えなおし、思わず笑みがこぼれる。
 先ほどの会話でもあらためて認識させられたとおり、ああ見えて、康之も、自分自身のことより、周りの人間を気遣うタイプだ。
 また、プールで小学生男子とハシャギ合い、カワタさんとも気負うことなく話すように、年齢の上下に関わらず、ヒトに受け入れられる魅力を持っている。
 中嶋とのことは……残念ではあるが、アイツの長所を理解してくれる女子が、きっと現れるハズだ。珍しく、このオレに打ち明けるようなことがあるみたいなので、学校に戻ったら、タップリと話しを聞かせてもらおう。
 さらに、中嶋由香についてーーーーーー。
 同性の友人である哲夫と康之、男子とも別け隔てなく話すタイプの大嶋と違って、夏休み前には、中嶋と、こんなにも語り合う仲になるとは予想もしていなかった。
 プールで、小嶋夏海とともに、撮影係をしていた時から、自分たちのことを気に掛けてくれていたようであはるが、花火観賞の日や、その翌日の通話アプリでの会話が無ければ、小嶋夏海とも、自分の想いとも、向き合おうという気持ちにはならなかったと思う。
 それだけに、彼女の小嶋夏海に対する想いが伝わってくる。
 ここまでのことを考えると、やはり、今の自分が背負っているモノは、|自《・》|身《・》|の《・》|想《・》|い《・》|だ《・》|け《・》|で《・》|は《・》|な《・》|い《・》、ということに気付いた。
(こんな責任を背負わされることになるなんてな……)
と、考えながら、お節介な友人たちを想い、また、自然と笑みが漏れる。
 そして、最後に中嶋由香が耳打ちした言葉は、
(中嶋だけでなく、彼女を含めた四人の想いではないかーーーーーー)
そんな風にも感じられた。
 頼もしくも、世話を焼くのが好きなクラスメートたちに想いを馳せていると、シティホテルや郵便局が立ち並ぶ、市内で最も交通量の多い産業道路の交差点が見えてきた。
 運良く、青信号であることを確かめ、さらに、ピッチを早めて、一気に横断歩道を駆け抜ける。
 信号を渡りきったところで、さすがに呼吸が苦しくなり、両手を膝にあてながら、肩で息をしているとーーーーーー。
=========Time Out End=========